まずは俺のことを。思春期真っ盛り十七才の健康的な男子。
毎日決まった時間に起きて、遅刻しないように学校に行く。
登下校は徒歩で一キロ弱の道程を毎日往復していた。
いつもの砂利道に見慣れた田園風景。民家の塀から道路へと覆いかぶさるようなポンカンの木。
水の量はさほど多くなく、きれいとも汚いとも言えない小川。
校門に立っている生活指導の体育教師に挨拶して、一階の隅っこにある下駄箱にて、上履きに履きかえる。
俺の教室は二階の階段を上がって左に曲がってすぐ左にあった。
自分の性格上ギリギリの時間に登校するというのは嫌だった。何かから圧迫されるというのが嫌いだった。
さて、俺が来たときはいつも女の子が一人いた。
その女の子は窓ぎわの席でいつも外を見ていた。
俺がガラガラと扉を開けたら毎度のごとくちらりとこちらを見る。
『あ、おは・・・』
そぅ言おうとするとふいとまた元のポジションに顔を戻す。
ちなみに奴に挨拶を交わすという偉業を残すのが、一学期の些細な目標だったが、それは達成できずにはかなく散った。
八時をすぎるとちらほら仲の良い友達も登校してきた。
俺は日々二人の友達とつるんでいたが、それは後々。
最時限のチャイムがなり、当番である黒板のそうじをして、俺が所属している合唱部の練習に加わるべく音楽室へ行く。
音楽室は三階の一番奥にある教室だ。
少々自慢になるかもしれないが、この部活の女声部の人々、つまり女子部員はかなり可愛い子の集まりだった。
ていうか、わが高校のオールスターと言っても過言ではない。うん。間違いない。
そりゃたしかに、いわゆるギャルと呼ばれている、女の子達のグループの子たちは一人もいないが、清純派の女の子達は粒揃いで、本当にそのために合唱をしてるといっ・・・。
それも後々。。。
この部は混声四部合唱として活動をしており、九州大会の常連としても名を馳せている。いや、「た」
というのも今年、つまり俺の代である五十六期生の合唱部の部員が二人しかいないのだ。
男性諸君でここで大きな疑問が浮かんだ人も多いと思う。
なぜそんな可愛い子がいる部活に思春期真っ盛りの男どもが入らないものか。
冷静に考えてほしい。
朝早く登校し校舎の中で行われている部活を終え暗い夜道を帰る真っ白なイカ野郎と肌は健康的な小麦色に焼け、ガッチリとした体格の運動部の奴らどちらがモテるのか。
俺がほのかに恋心を抱いていた、マナちゃんが皮肉にも野球部の男ヒデと付き合い始めたのだ。その時初めて思った。俺も中学の時にやっていたバスケ部に素直に入れば良かった。
それが一年の冬休み前。時すでに遅し。
まぁそれはおいといて、そんなこんなで男性各パート一人ずつ、常にソロという状況で九州なんていけるわきゃないよとしょぼんでいた。そう、俺が三年になっての夏最後の大会までに部員を入れなくてはならない。美女達とのドキドキワクワク九州旅行に行くために。
そんな感じで夏休み明けの初の登校の日、新入部員勧誘という季節外れの目標を掲げ登校していた。
その日からとんでもない日々を送ることになることも知らずに。。。。
そういや、今日も高宮（挨拶無しシカト女）いるんだろぅな。今日こそはお早ようて言わせてやるゼ。ヒャッホゥ！
そんな事を思いながら自分の教室に向かった。
ガラガラ。
いない？
あれ？一学期の時はいないことなんて無かったのにな。どうしたんだろ？
とりあえず自分の席について今日1日のスケジュールを確認していると、いつもつるんでいるトシがきた。
『悟おっはよう！今日も白いな、このイカ野郎！！』
『うっせぇ、ハゲ。髭剃りで髪そってんじゃねぇぞタコ。』
『ふん、イカにはこの坊主という完全無欠ヘアスタイルの良さが分かるまい。』トシは野球部でキャッチャーをしており、すらりとした体格に８頭身はあるのではないかというぐらいの小顔。その小さな顔は端正に整われており、肌はきれいな小麦色。いわゆるスポーツマンと言われてる部類の奴だ。
『そういえば、今日高宮きてないよな？どうしたんだろ？』
『お前、彼女いないからってついに高宮に手をだそうとしてんのか？あの隠れ美女を狙ってきた男共の二の舞になんぜ？』
そぅ、何を隠そうあの挨拶無しシカト女高宮は普通に美人なのだ。サラサラして腰まである黒髪。身長も170はあり、女子としてはかなりの長身だった。
鼻はスッと通っており、キリッとしたこゆく細い眉。少し彫りも深くくっきりとした二重の目の中にある存在感のある大きな黒い瞳。
ルックスだけ見たらそこら辺の雑誌で見かける女性よりは美人だったのだ。
しかぁし、とにかくセンスがゼロだった。カバンにはシールや落書きはもちろんなく、安全祈願と書いてあるお守りが一つ付けてあった。制服も買った時のまま、スカートはきちんと膝下まであった。セーラー服の上から見えるシャツのボタンも一番上までとめられており、真っ白な靴下は膝下まであり、前髪は几帳面に地面と平行にそろえられていた。それに人々は言った。奴が休み時間に女子にすら話しているのを見たことが無いと。
そんな訳で宝の持ち腐れ地味度ナンバーワンの彼女を俺は二年で一緒のクラスになるまで存在すら知らなかった。
しかし、一年の時に高宮と一緒のクラスだった奴らが高宮の美貌に気付き、なんと十数人が告白するという事件が起こった。しかも、その勇者達は全て惨敗と結果に終わったという噂を、トシネットワークという我が校最高の情報網をもっているタコ野郎から聞いたことがあった。
『狙うわけないだろ！俺は清純派好みだが、勇者ではない。いやさ、いつもあいつ一番に来てたのにどうしたのかと思ってさ』
『なんだ、おまえ本当に知らないのか。あいつ親の都合で転校したぜ』
それを聞いた時、初めて自分があの朝の二人きりの時間を楽しみにしていたことに気付いた。
話したこともないのに、好きだったのかな？
『やっぱ、好きだったんじゃねぇの？』
『ちげぇよ！俺はマナちゃん一筋さ。』
そんなやりとりを繰り返してると予鈴がなり、ホームルームが始まる時間になった。
ガラガラとドアがあいて先生が入ってきた。
ざわざわとした雰囲気になったので何かなと思い、読んでいたマンガから目を上げると見知らぬ男子生徒が先生に連れられていた。
『みんなもぅ知っているように高宮は親の都合により転校になりました。でも、今日からまた新しい仲間が増えたおかげで四十人のまま新学期が迎えられます。じゃ、自己紹介して下さい』
『北海道から転校してきた渡名喜神地（となきせんじ）です。よろしくお願いします。』
せんじと名乗ったその男は小柄で少し長いくらいのサラサラした黒髪。あっさりとしたきれいな顔立ちでスッとした切れ長の右目が特徴的だった。
単に転校生という立場に立てば誰でも目立つがそいつはその中でもさらに目立っていた。
左目に真っ黒な眼帯をしていたのだ。
俺がせんじを見たときからせんじも俺のことをじっと見ていた。
なんだ、こいつ。ぜってぇ、俺は反らさねぇぞ。
せんじもかなりがんこなのかずっと俺の方を見ていた。
するとせんじは左目の眼帯に手をあてとろうとした。
『それじゃ渡名喜くん、今日はとりあえずそこの高宮さんのせ・・・』
ふと、先生の言葉が途切れた。
ざわめいていた音もスッと消えた。
音が全く無いという無音の世界。
そんな異様な空気に気付くのに少し遅れたのは、せんじの左目を見たせいだ。
左目だけとってつけたようなものなのだ。スッとした切れ長な右目とは全く違う、くっきりとした二重で存在感のある大きな瞳。そぅ、それは高宮の目に似ていた。というかそこの部分だけ高宮だった。あのきれいな、落ち着いた瞳。
その後、まわりの音が無くなったのではなく、時がとまってしまったのではないかという推測に至った。
自分と、おそらくせんじ以外の生物が固まっていたのだ。
先生も生徒達もすべて。窓の外を飛んでいる鳥さえも固まっている。
すると、スタスタとせんじが自分の目の前まで歩いてきた。
またじっとおれの顔を見る。
『お早よう。』
『え？』
『あれ？僕に挨拶するのが一学期の目標だったんでしょ？』
『は？』
『あ、僕元高宮。よろしくね。』
『いや、あの・・・・・・・・・・・・・・・。は？？？？？はぁぁぁぁぁぁ！！！？？』
〜続く〜
毎日決まった時間に起きて、遅刻しないように学校に行く。
登下校は徒歩で一キロ弱の道程を毎日往復していた。
いつもの砂利道に見慣れた田園風景。民家の塀から道路へと覆いかぶさるようなポンカンの木。
水の量はさほど多くなく、きれいとも汚いとも言えない小川。
校門に立っている生活指導の体育教師に挨拶して、一階の隅っこにある下駄箱にて、上履きに履きかえる。
俺の教室は二階の階段を上がって左に曲がってすぐ左にあった。
自分の性格上ギリギリの時間に登校するというのは嫌だった。何かから圧迫されるというのが嫌いだった。
さて、俺が来たときはいつも女の子が一人いた。
その女の子は窓ぎわの席でいつも外を見ていた。
俺がガラガラと扉を開けたら毎度のごとくちらりとこちらを見る。
『あ、おは・・・』
そぅ言おうとするとふいとまた元のポジションに顔を戻す。
ちなみに奴に挨拶を交わすという偉業を残すのが、一学期の些細な目標だったが、それは達成できずにはかなく散った。
八時をすぎるとちらほら仲の良い友達も登校してきた。
俺は日々二人の友達とつるんでいたが、それは後々。
最時限のチャイムがなり、当番である黒板のそうじをして、俺が所属している合唱部の練習に加わるべく音楽室へ行く。
音楽室は三階の一番奥にある教室だ。
少々自慢になるかもしれないが、この部活の女声部の人々、つまり女子部員はかなり可愛い子の集まりだった。
ていうか、わが高校のオールスターと言っても過言ではない。うん。間違いない。
そりゃたしかに、いわゆるギャルと呼ばれている、女の子達のグループの子たちは一人もいないが、清純派の女の子達は粒揃いで、本当にそのために合唱をしてるといっ・・・。
それも後々。。。
この部は混声四部合唱として活動をしており、九州大会の常連としても名を馳せている。いや、「た」
というのも今年、つまり俺の代である五十六期生の合唱部の部員が二人しかいないのだ。
男性諸君でここで大きな疑問が浮かんだ人も多いと思う。
なぜそんな可愛い子がいる部活に思春期真っ盛りの男どもが入らないものか。
冷静に考えてほしい。
朝早く登校し校舎の中で行われている部活を終え暗い夜道を帰る真っ白なイカ野郎と肌は健康的な小麦色に焼け、ガッチリとした体格の運動部の奴らどちらがモテるのか。
俺がほのかに恋心を抱いていた、マナちゃんが皮肉にも野球部の男ヒデと付き合い始めたのだ。その時初めて思った。俺も中学の時にやっていたバスケ部に素直に入れば良かった。
それが一年の冬休み前。時すでに遅し。
まぁそれはおいといて、そんなこんなで男性各パート一人ずつ、常にソロという状況で九州なんていけるわきゃないよとしょぼんでいた。そう、俺が三年になっての夏最後の大会までに部員を入れなくてはならない。美女達とのドキドキワクワク九州旅行に行くために。
そんな感じで夏休み明けの初の登校の日、新入部員勧誘という季節外れの目標を掲げ登校していた。
その日からとんでもない日々を送ることになることも知らずに。。。。
そういや、今日も高宮（挨拶無しシカト女）いるんだろぅな。今日こそはお早ようて言わせてやるゼ。ヒャッホゥ！
そんな事を思いながら自分の教室に向かった。
ガラガラ。
いない？
あれ？一学期の時はいないことなんて無かったのにな。どうしたんだろ？
とりあえず自分の席について今日1日のスケジュールを確認していると、いつもつるんでいるトシがきた。
『悟おっはよう！今日も白いな、このイカ野郎！！』
『うっせぇ、ハゲ。髭剃りで髪そってんじゃねぇぞタコ。』
『ふん、イカにはこの坊主という完全無欠ヘアスタイルの良さが分かるまい。』トシは野球部でキャッチャーをしており、すらりとした体格に８頭身はあるのではないかというぐらいの小顔。その小さな顔は端正に整われており、肌はきれいな小麦色。いわゆるスポーツマンと言われてる部類の奴だ。
『そういえば、今日高宮きてないよな？どうしたんだろ？』
『お前、彼女いないからってついに高宮に手をだそうとしてんのか？あの隠れ美女を狙ってきた男共の二の舞になんぜ？』
そぅ、何を隠そうあの挨拶無しシカト女高宮は普通に美人なのだ。サラサラして腰まである黒髪。身長も170はあり、女子としてはかなりの長身だった。
鼻はスッと通っており、キリッとしたこゆく細い眉。少し彫りも深くくっきりとした二重の目の中にある存在感のある大きな黒い瞳。
ルックスだけ見たらそこら辺の雑誌で見かける女性よりは美人だったのだ。
しかぁし、とにかくセンスがゼロだった。カバンにはシールや落書きはもちろんなく、安全祈願と書いてあるお守りが一つ付けてあった。制服も買った時のまま、スカートはきちんと膝下まであった。セーラー服の上から見えるシャツのボタンも一番上までとめられており、真っ白な靴下は膝下まであり、前髪は几帳面に地面と平行にそろえられていた。それに人々は言った。奴が休み時間に女子にすら話しているのを見たことが無いと。
そんな訳で宝の持ち腐れ地味度ナンバーワンの彼女を俺は二年で一緒のクラスになるまで存在すら知らなかった。
しかし、一年の時に高宮と一緒のクラスだった奴らが高宮の美貌に気付き、なんと十数人が告白するという事件が起こった。しかも、その勇者達は全て惨敗と結果に終わったという噂を、トシネットワークという我が校最高の情報網をもっているタコ野郎から聞いたことがあった。
『狙うわけないだろ！俺は清純派好みだが、勇者ではない。いやさ、いつもあいつ一番に来てたのにどうしたのかと思ってさ』
『なんだ、おまえ本当に知らないのか。あいつ親の都合で転校したぜ』
それを聞いた時、初めて自分があの朝の二人きりの時間を楽しみにしていたことに気付いた。
話したこともないのに、好きだったのかな？
『やっぱ、好きだったんじゃねぇの？』
『ちげぇよ！俺はマナちゃん一筋さ。』
そんなやりとりを繰り返してると予鈴がなり、ホームルームが始まる時間になった。
ガラガラとドアがあいて先生が入ってきた。
ざわざわとした雰囲気になったので何かなと思い、読んでいたマンガから目を上げると見知らぬ男子生徒が先生に連れられていた。
『みんなもぅ知っているように高宮は親の都合により転校になりました。でも、今日からまた新しい仲間が増えたおかげで四十人のまま新学期が迎えられます。じゃ、自己紹介して下さい』
『北海道から転校してきた渡名喜神地（となきせんじ）です。よろしくお願いします。』
せんじと名乗ったその男は小柄で少し長いくらいのサラサラした黒髪。あっさりとしたきれいな顔立ちでスッとした切れ長の右目が特徴的だった。
単に転校生という立場に立てば誰でも目立つがそいつはその中でもさらに目立っていた。
左目に真っ黒な眼帯をしていたのだ。
俺がせんじを見たときからせんじも俺のことをじっと見ていた。
なんだ、こいつ。ぜってぇ、俺は反らさねぇぞ。
せんじもかなりがんこなのかずっと俺の方を見ていた。
するとせんじは左目の眼帯に手をあてとろうとした。
『それじゃ渡名喜くん、今日はとりあえずそこの高宮さんのせ・・・』
ふと、先生の言葉が途切れた。
ざわめいていた音もスッと消えた。
音が全く無いという無音の世界。
そんな異様な空気に気付くのに少し遅れたのは、せんじの左目を見たせいだ。
左目だけとってつけたようなものなのだ。スッとした切れ長な右目とは全く違う、くっきりとした二重で存在感のある大きな瞳。そぅ、それは高宮の目に似ていた。というかそこの部分だけ高宮だった。あのきれいな、落ち着いた瞳。
その後、まわりの音が無くなったのではなく、時がとまってしまったのではないかという推測に至った。
自分と、おそらくせんじ以外の生物が固まっていたのだ。
先生も生徒達もすべて。窓の外を飛んでいる鳥さえも固まっている。
すると、スタスタとせんじが自分の目の前まで歩いてきた。
またじっとおれの顔を見る。
『お早よう。』
『え？』
『あれ？僕に挨拶するのが一学期の目標だったんでしょ？』
『は？』
『あ、僕元高宮。よろしくね。』
『いや、あの・・・・・・・・・・・・・・・。は？？？？？はぁぁぁぁぁぁ！！！？？』
〜続く〜
|
|
|
|
|
|
|
|
