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眠れぬ夜の物語コミュの不思議と街と童歌の秘密

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ふしぎ
ふしぎ・・・・

夕暮れ
公園
はしゃぐ子供

聞こえる旋律

ワラベウタ

いつかは歌ったあの歌を
今は隣で聞いている

ふしぎ
ふしぎ・・・・

連なる旋律
それは"街"という名の童歌



******************************
  不思議と街と童歌の秘密
******************************



「くぁあ〜」

今日も今日とて暇、暇!暇!!
退屈至極!暇人リーデル、どこえゆくぅ〜。

「暇そうだなリーデル。」

授業も終わって、予定もなし。
部活をやってる奴は部活に精を出しグラウンドやら体育館やらには活気の満ちた掛け声が飛びかっているけれど、俺にはあまり関係ない。
なんせ帰宅部だからな!
そんな暇を持て余した俺の心の声を読み取ったのかアランが声をかけてきた。

「おうよ、暇だぞ、よくわかったな。」
「あのなぁ、アレだけ盛大にあくびしてりゃよほど暇だと思ったか寝不足か二つに一つだろう。」

ふむ、確かにそうかも知れないが・・・・・。

「なぜ寝不足の方を取らなかった!」

俺の鋭い指摘にアランは何言ってるんだこいつとでも言うようにこめかみを抑える。

「アレだけ授業中に居眠りしてる奴が寝不足なわけないだろう!!」
「シャラップ!」

ゴスッ!

図星をつかれたのでとりあえずボディーブローの一撃をお見舞い。
ちなみに、思いっきり本気で打った一撃はかなり重い音を立ててアランにクリーンヒットした。

「・・・・お・ま・え・は〜!今本気で打っただろう。」

若干体を前かがみにしつつアランが抗議してくる。

「まぁ、服の下に鞄装備してるのがわかったからな。」
「・・・・・チッ」

舌打ち一つするとアランは服の下から鞄を取り出す。
まぁ、仮にも優等生のアランが、手加減しているとはいえ、いつまでも素直にボディーブローくらい続けるとは思っていなかったが、こんな姑息な手に出るとは。

「なぁ、もうちょっと格好いい防ぎ方くらいいくらでもあるだろう、こう、打ってきた拳を手でつかまえるとかさぁ。」
「どこの漫画だよ!一般人の俺にそんな真似ができるか!」

えぇ〜、俺も一般人だけど、相手がボクサーとかでなければそれほど難しいとは思わないのだが・・・・。

「・・・・もしかしてお前・・・・できるのか?」

不満顔の俺にアランは半笑いできいてくる。

「さぁ、どうでしょう。」

にやりと笑いつつそう返してやる。
スポーツ万能、成績優秀、品行方正の万能超人として学園内で名をはせているアランとしては俺に負けたと思っているのだろう、なにやら悔しそうな顔をしている。

「しっかし、アラン、お前部活どうした?いつもは、なんかの部活に出てるだろ?」

ちなみに、スポーツ万能だけに色々な部活を掛け持ちしているのがこいつなのだ。

「今日は休みの日。
 というか、たまには休まないと本当に体壊すから。」

万能超人とはいえ人間的な限界は超えられないらしい。

「んじゃ、今日は直帰り?」
「うむ。」
「それなら、たまには一緒に帰るかぁ。」

アランが放課後暇というのは結構まれなのでたまにはいいかと思ったのだが。

「何が悲しゅうて男と帰らねばならんのだ?」

などとのたまう。
っていうか、何気にひどい物言いだ。

「なんだよ、この後デートの予定でもあるのか?」
「ない!欠片もない!」

・・・・・・・・・・・・力いっぱい否定するのはいいのだが。
何の予定も無しに俺の誘いを断るというのはどうゆうわけだろう。
かなり傷つくなぁ。

「だったら別に良いじゃんよ〜、途中でリーアも合流するんだからさぁ。
 ほら!女の子混ざって潤いが出るよ!」
「・・・・・・・余計にいやだ・・・・・・。
 リーア、俺とリーデルで態度明らかに違うんだもん・・・・・。」

あ・・・・・なんか掘ってはいけないトラウマを掘り起こしたのか教室の隅でアランがいじけだした。
クリスマスのこと未だに根に持っているとは・・・・・・・意外と器の小さい奴だな。

「まぁまぁ、そういわずにさ、ゲームでもして帰ろう、な?」
「うぅ・・・・・。」

未だにいじけぎみなアランを引きずりつつ、俺は教室を後にした。


††††


教室を後にして、途中、廊下でゴスロリ娘リーアと合流した俺とアランは夕暮れというには少し早い午後の道を歩いている。
アランに関してはゲームでもして帰ろうとか言って誘ったわけなのだが、結局のところそのためには街のショップストリートに出なければならないのではっきり言って面倒くさい。
これに関しては全員一致、俺たちは家が学校と同じ東区の近くにあるのでわざわざ街中まで出るのは正直面倒くさいのだ。
もっとも、CD買いたいとかそうゆう目的があると学校から直接ショッピングストリートに向かった方が早いので厄介なのだが、今日ばかりは三人とも特に用事もなくとりあえず帰るか、という流れになったのだ。
何をするでもなく、雑談をしながら三人で歩く。
アランはやはりリーアの反応にトラウマを増やしつつ、俺とリーアは石ころ談義に花を咲かせつつ、めげないアランは標的を俺に変え休み明けの実力テストがどうのこうのと俺を辟易させつつ。
なんだかんだでくだらない、けれどそれなりに楽しい。
日常という奴だ。

『い〜り〜ぐ〜ち〜には〜る
 み〜ず〜べ〜で〜あ〜そ〜び〜 』

そんな日常というものを楽しみながら、公園の前を通りかかったときだった。
耳に間延びした歌が聞こえてきた。

「あらら?懐かしいですね、この歌」

その歌に、リーアも気がついたのかそんな呟きをもらした。
リーアの言葉を聞いてアランも耳を澄まし歌を聴きつける。

「あ〜、そういえば小さい頃よく歌ってたな。」

公園から聞こえてきた歌はこの街では割と知られている童歌だ。
というより、大人、子供を問わずこの街にいるもののほとんどが一度は口にしたことがあるのではないだろうか?
手毬歌としての役割もさることながら、かくれんぼのカウント代わりや子守唄として歌われることも多い。
この歌はこの街特有のもので、教科書にこそ載らないが、親から子へ、子から孫へ、伝統のように歌い継がれている。
俺たち三人は足を止め公園の中を覗きこむ。
そこでは、4人の子供がタカオニをしているようだった。

「うわ・・・タカオニ懐かしいですね。」

タカオニとは簡単に言えば鬼ごっこだ。
但し、鬼は自分のいるところより高いところには上れないし、自分のいるところより高いところにいる子供を捕まえることができない。
逃げる側はそれを利用して鬼の手を逃れる代わりに高いところに上っていられるのは一回につき10秒だけ。
細かいところはそれぞれローカルルールが存在するのだが大まかに言えばそんなルールだ。

「私これ苦手だったんですよね・・・・全員捕まえる前に鎖切られて全然終わらないんですよ・・・」

・・・・・・"鎖"??

「リーア、それ、ローカルルール。」
「え!・・・・そうなんですか?
 私達の間ではそれが当たり前でしたよ?」

と、こんなふうにローカルルールがローカルルールと認識されていないことも少なくない。

「アランのところはどんなんだった?」
「俺のところは完璧だぞ!
 何せ俺が仕切ってたからな!」
「じゃぁ、聞くのやめた。」
「!!
 ・・・・・・それはあんまりじゃないか・・・・・」

最近、リーアの癖がうつってきたんじゃないかと自分でも思う。

「まぁ、でも一応言うならうちも"鎖"はあったなぁ。
 つかまった奴はみんなで手を繋いで街灯とかの棒に繋がってるの。
 で、誰かが鎖切ったら繋がってた奴は戦場復帰。」
「そう!やっぱり鎖があるほうが普通ですよね!
 リー君のほうがおかしいんです。」

・・・・・・リーアあっさり寝返りやがった。
ちくしょう。

「むぅ、俺たちのところは捕まるイコール即アウトだった。
 だってさ、鎖作ってみんな捕まえるまでって言ったら鬼が変わらなくてつまらないじゃん。」
「そうなんですよ・・・・・。」

と、俺の反論に哀しげに頷くリーア。
タカオニで延々と鬼をやらされたトラウマでもあるのだろうか?

「そうゆうときのためにローカルルールその二があるんじゃないか。」

俺たち二人の反応をよそに、リーデルが胸を張ってそう言い切る。

『ローカルルールその二?』

俺たちのそろった問いかけに『フフン♪』と鼻で笑うかのような表情でアランは説明を始める。

「鎖が切れたとき、鎖が切れたところから先の奴は戦場復帰。
 例えば、5人繋がってて、棒から3人目のところで鎖が切れたら、三番目・四番目・五番目に捕まった三人が戦場復帰。
 ただし!ただしだ、切れた鎖の先頭にいた奴、さっきの例だと三番目に捕まった奴だな、こいつが鬼になる。」

・・・・・・・・こいつ、本当に子供の頃からこんなしち面倒くさい性格だったんだな・・・・と思わず思ってしまう。
まぁ、確かに、そのルールなら鬼は入れ替わるし、鎖の側としても鬼になりたくないから自分のところで切られるのを避けるために"切られにくく"なる。
悪くないルールだとは思う。
だが・・・・・・。

「お前、そんな子供の頃から子供らしくない子供だったんだな。」
「!!」

どうやらこいつの場合ボディーブローよりも言葉のナイフで肺腑をえぐった方が効果がでかいらしい。
俺の一言でハートブレイク状態に陥ったのか膝と両手を地に付きうなだれている。
いや、だがこの場合、そう思われても仕方ないだろう?

「おにいちゃんたち〜」

と、タカオニ談義に花を咲かせていた俺たちに声がかかる。
見てみれば、さっきまでタカオニをしていた子供たちが集まってこっちをみていた。

・・・・・・・・よく考えたら、公園で遊んでる子供を眺めながら雑談してる学生って結構怪しい?

「お兄ちゃんたちもタカオニやるの〜?」

・・・・・・・・いや、うん、考えすぎ?
いや、でもさ、な〜んか、この街の子供って危機感薄いよね。
確かに治安はかなり良いんだけどさ。

「リー君タカオニのお誘いですよ♪」

リーアはリーアで危機感同レベルだし。
アランは未だにハートブレイク姿勢だし。

・・・・なんか、どうでも良くなってきたな。

「よし!俺鬼!!みんな逃げろ!!!!」

とか言いつつ早速リーアを捕まえる。

「あ〜!リー君ずるいです!」
「ふ、油断してる方が悪い。」

そうこうしている間に子供たちはキャーキャー言いながら逃げていき・・・・・・。
・・・・・おい、膝と両手ついてうなだれてたアランがいつのまにか滑り台の上に逃げ込んでいるのは一体どうゆうことだ?
しかも、妙にわくわくした顔でこっち見てやがる、なんかむかつく。

「お〜い、鎖はあり?」
『なし〜』

というわけでローカルルールの確認。
何気に子供の間ではローカルルールの交換が活発なのでこれで通じてしまうのがこの単純な遊びの良いところだろう。

「と、言うわけでリーア見学決定!」
「うぅ、もう少し遊びたかったよぅ。」
「大丈夫!お姉ちゃんの分まで俺たちが生き延びる!」

と叫んでいるのはタイヤの跳び箱の上にいる男の子。
他は女の子二人がブランコへ向かって疾走中。
もう一人男の子がジャングルジムに向かっている。
さすが子供、容赦も無くやりずらいものを選んでくる。
タイヤは上を飛び移っていけるので結構隙無しだ。
ジャングルシムは格子状に張り巡らされた鉄の棒の内側で脚をつけば延々と逃げつづけられるし、比較的組しやすそうに見えるブランコは・・・・。
凶器・・・・・なのである。
捕まえようと近付いてきた方向と反対の方へ飛ぶと、自動的にブランコ自体が牽制攻撃を仕掛けてくるというえげつない代物である。

この中で、一番遊び下手なのは・・・・・言わずもがなアランに決まっている。

「高いところにいられるのは?」
『10秒まで〜』

OK、OK、みんな賢くて話が通りやすくて助かる。
既に10秒を超過しようとしているアランは滑り台を降りて次の・・・トーテムポール?に向かっている。
アラン・・・・遊びのセンスだけは無いな。
スポーツ万能だからかろうじてゲームになるってところか。
だが、しか〜し!

「ほい!!」

滑り台から飛び降りトーテムポールへ向かおうとしていたアランに向かって足払いぎみの回し蹴りをお見舞い。
だが、さすがにこんな子供だましの攻撃は通用せず、あっさりとジャンプしてかわされる。
・・・・・もっとも、これが狙いなんだからそうでなくてはこまる。
何のために"回し"蹴りなのか。
蹴り足を振りぬいて回転力をつければ次に"上半身での速攻"が可能だからだ。
アランがジャンプしてから地に足がつく前にモーションに入れる。
それだけで十分。
後はアランの襟首を捕まえて。

「アランたい〜ほ!」
「俺は犯罪者か!!」

ふ、なんとでも言うがいい。
勝てば官軍、敗者に語れる言葉は無いのです!
まぁ、後ろで俺の発言の撤回を求めているアランは置き去りにするとして、次に目指すべきは、ジャングルジム!!
アレは一見鉄壁に見えて大穴があるのだ。
俺はジャングルジムに突貫し外で待機。
十秒ごとにジャングルジムの中で降りたり上ったりを繰り返している男の子を暫く眺め、三回目に降りた瞬間、ジャングルジムの外側から中に手を突っ込み男の子を捕まえる。

「つ〜かま〜えた〜。」
「げげ・・・・それはないんじゃ・・・・」

ジャングルジムの中。
"子供だったら"手を伸ばしたところで届かないだろうが。
基本スペックが違うのだよキミィ〜。

次に狙うはブランコ、これの攻略法は至ってシンプル。
正面突破。
ジャングルジムから反転ブランコに向かって突進すると焦り始める二人の女の子。
俺がブランコに到着する直前、片方の女の子が動いた。
この時点で女の子組みは負けたも同然。
タイミングが早すぎる、この状態ならこちらに迫るブランコを掴むのも容易なことだ。
振子の要領でこちらに向かってくるブランコの板を掴み取り、もう一人の女の子がいる方向のガードに利用する。
案の定、俺が横を通過すると同時にもう一人の女の子がブランコを飛び降りこちらに向かってブランコを発射。
だがしかし、そのブランコは俺の構えたブランコに当たり、カツンと軽い音を立てて反対側へと戻っていく。
俺はその様子をみて固まっていた女の子に歩み寄り肩を抑える。

「ハイ、アウト〜」

続いてすばやい状況判断でシーソーの方へ逃げ始めた女の子に手を伸ばしてタッチ。

「続けてアウト!」

ブランコ組み二人を一網打尽にする。

「あちゃぁ、タイミング早かったかなぁ。」
「大正解!」
「・・・・・でも、普通あの状態でブランコ使って私の攻撃防ごうなんて思いつかないわよ。」

とかなんとか、援護射撃を打ってきた女の子はなにやら不満顔。

「まぁ、亀の甲より年の功って事で。」
「うぅ〜〜!」

意外と負けず嫌いな女の子の相手をしているといつまでも終わりそうに無いので、とりあえずここで切り上げる。
最後に残されたのはタイヤの跳び箱の上に居座っている男の子。
どうやら、ローカルルールの設定は10秒以上"同じ物の上にいてはいけない"というものなのだろう。
10秒ごとに幾つか並んでるタイヤの上を移動している。
この攻略が一番面倒だ。
だが、頭とは使うためにあるものなのだ。
俺はタイヤとタイヤの間に入り待機する、十秒たつと男の子は俺がいる方とは逆のタイヤへ飛び移っていく。
今はいい、"今は"ね。
俺は男の子を追って一個タイヤを飛び越す。
それを6回ほど続けると飛び移れるタイヤがなくなる。

「ぬ・・・ぬぬぬ・・・・・」

後がなくなった男の子は『こうなりゃやけだ〜』みたいに目をつぶってタイヤから飛び降り走り出す。
だが。
そりゃぁ、リーチの差が違いすぎる、本気で追いかければ大抵はどうにかなってしまうもので、今回も然り。
男の子はあっさりと俺に捕まりましたとさ。


††††

一ゲーム終わって再び大集合。
今度は俺たち高等部生組みとおこちゃま組みごちゃ混ぜで円陣を組んでいる。

「お前大人気ないぞ〜〜〜!」

と、タイヤの上にいた子が指摘してくる。

「ふ、負け犬の遠吠えかね。」
「・・・・リー君、ますます大人気ないよ。」

俺のナイスでクリティカルな反論にリーアが笑顔で更にクリティカルな切り返しをはなってきたので、ここはおとなしく引くことにする。

「んじゃぁ、次、誰が鬼やる?」
「ん〜、お兄ちゃんたちに鬼やらせるとすぐ終わっちゃうからつまらないしなぁ。」
「じゃぁ、私やる〜。」

なにやら子供たちの間だけで話がまとまりそうな勢いだ。
鬼に立候補したのは・・・・さっきの負けず嫌いの女の子。
その口元にはにやりと笑みを浮かべ俺のほうを見ている。
・・・・・・というか、完全にねらいが俺だけじゃないですかおぜうさん・・・・。

「ふっふっふ〜、一回分だけ時間を上げるわ、早くお逃げなさ〜い。」

と、のたまいあの歌を歌い始める。
子供たちの間で一回分といえば、あの童歌一回分を意味する。
女の子が歌う声をよそに各々好きに逃げ始める。
俺は俺で、近くの回転塔に取り付き、そこで女の子の歌に耳を傾ける。


いりぐちにはる(入り口に春)
みずべであそび(水辺で遊び)

ゆめまどろむ(夢まどろむ)
うさぎをおこせ(ウサギを起こせ)

われぬよふねや(割れぬ夜船や)
えほんなつけし(絵本懐けし)
たからもの(宝物)


この歌、本当の意味を知らないと本当に意味のわからない歌だよなぁ。
心からそう思う。

・・・・・・・あれ?

そこではたと気付く。
この子達はこの歌の意味を知っているのだろうかと。

「なぁ。」

俺の声に歌がやみ俺以外の全員の視線がこちらを向く。

「君ら童歌の宝捜しはもうしたの?」

俺の問いかけにアランとリーアは顔を見合わせてからうなずき、子供たちは互いの顔を見回した後、頭の上にはてなマークを飛ばしている。

「童歌の宝捜し?」
「そう、宝捜し。」
「なに?それ???」

あ、やっぱり知らないのか。
とすると、このこ達の代は俺たちが一番乗りかな。

「いつも歌ってる童歌があるでしょ?」
「うん。」
「アレはたからもののありかを示した暗号なのですよ。」
『おぉ〜〜〜!』

なにやら子供たちは顔を見合わせて感嘆の声を上げている。

「ねぇ、ねぇ!それで?どこにあるの???」

いやいやいや、待て待て、待ちなさい。
君達は自分で考えるとかしないのですか?

「う〜ん、俺たちもそれは知らないんだなぁ、ただ、童歌の中にヒントがあるらしいぞ。」
「えぇ〜、なんだよ・・・・使えねぇなぁ。」

・・・・・・我慢・・・・我慢だリーデル。

「君らが探してみたらどうだね?」
「よし!探してみるか!!」
『お〜!』

掛け声一つ、ちびっこ達は駆け出し公園を出て行く。
というか、ヒントは童歌にあるって言ったのに少しは考えるとかないのだろうか?
・・・・・・いや、俺もあれくらいの時はあんな感じだったかも。

「あ〜あ、行っちゃいましたねぇ。」
「これからどうするよ?」

子供たちを見送り、少し手持ち無沙汰になった俺たちは三人集まり作戦会議。
というか、あの子達の行く末が気になる気がしなくもない。

「あれ?リー君どうしました?」

そわそわと落ち着かない俺の様子に気がついたのかリーアが微笑みつつそんなことをきいてくる。
色々と抜けているように見えて何気にリーアは鋭い。
俺の様子をみただけで何を考えてるかを見通しのようだった。

「だめですよ、後つけるとか無粋な真似しちゃ。」

絶句。
とだけ言っておけば俺の今の心境を語るに十分ではなかろうか。
鋭いのも大概にして欲しい。
でも、気になるものは仕方ないじゃないか。

「う〜、追いかけたいなぁ。」
「それはだめですよ〜、リー君はそんなことしたら絶対答え教えちゃいますから。」
「いや、いくらなんでもそれは・・・・」

・・・・ない、と、言い切れない自分が悲しい・・・・・。

「あのさ。」

そのとき、珍しくアランに神が舞い降りた。

「後つけるのがダメならゴールで待ってたら?」

確かに、それならむやみに答えをばらすことも無いだろうし、久しぶりにトキじいにも会いたいしなぁ。
リーアも少し考えたものの妥協案としては悪くないと思ったらしい、小さく溜息一つ漏らすとにっこりと微笑む。

「ナイスアイディア!
 で、ナイスアイディアついでに他のポイントも回ってみない?」

調子に乗ってそんな提案をしてみる。
昔のように、もう一度、巡ってみたかったのだ。

「う゛、ブッキングしませんか?
 ・・・・って言ってもどうせ聞かないでしょうし。」
「反論するだけ無駄だろう。」

溜息とともに同意の声。
まぁ、このあたり、良く俺のことをわかっていると感謝しておくべきなのだろう。

「それなら、目指すは"入り口"に春」
『大聖堂』

三人同時に行き場所を口にして走り出す。
そう、まるで、幼い頃の。

俺が。
リーアが。
アランが。

仲間達とそうしたときのように。


††††


『泉と滝の間にある季節はな〜んだ』

そんななぞなぞがある。
泉とはつまり『スプリング』。
滝とはつまり『フォール』。

春と秋の間。

夏という季節。


『入り口に春』

つまりそれは・・・・。

『入り口に泉』

この街において、"泉"と呼ばれるものは大聖堂にある洗礼の泉より他に無いのである。
これはこの街に住むものならば子供でも知っている常識だったりする。
そして、この"童歌の宝捜し"はこの大聖堂の洗礼の泉から始まるのだ。

「ふあぁ〜、洗礼の泉にくるのも久しぶりですねぇ。」

まぁ、リーアの言うことももっともだ。
普通なら記憶にも残らない子供の頃に一回、後は子供ができたときくらいしか訪れない場所だ。
大聖堂に来ることはあってもほとんどは中核たる礼拝堂だけで済んでしまうのである。
礼拝堂とは別棟に作られているこの泉にはまず立ち寄らない。
もっとも、出入り自体は自由にできるようにはなっているのだけれど。

いりぐちにはる(入り口に春)
みずべであそび(水辺で遊び)

童歌の一行目の秘密を暴き洗礼の泉にくるとここで子供たちは一度行き詰まる。
要するに、この泉のどこを探せば良いのかということである。
かく言う俺も、ここにきて散々探し回った挙句、飽きた頃に隠し収納を見つけた口なのだけど。

「ん〜、っと確かこの辺だったよねぇ。」

洗礼の泉の端の辺りを丹念に調べて回る。
要するに"水辺で遊び"というのはそのままの意味ということだ。
水辺のどこかに隠し収納があったりするのである。

「お!リーデルあったぞ〜。」

アランの掛け声に俺たちはアランの周りに集まる。
手の中には宝箱。
ふたを開けるとそこには紙切れ一枚。

本当に、昔のままだった。

紙切れにはいくつか文字が書き記されている。

一つは『時』

もう一つは新しいヒント『裏側の塀、叩いてみれば軽いおかしな音がする。』

最後の一つは注意事項とでも言うのだろうか?
この大聖堂が一番最初の場所として書かれてる理由でもある。

曰く

『歌に隠された三つの場所を探し出せ。』
『三つの言葉が導く先に宝がある。』
『三つの言葉は紙にかかれているとは限らない。』

子供向けとはいえ親切極まりない注意事項だ。

「これ、今にして考えればすごく簡単なんだけどさ、昔はすげぇ悩んだよなぁ。」
「確かに、みんなであ〜でもないこ〜でもないっていろんなところにいきましたねぇ。」

俺の言葉にリーアは同意の言葉を、アランは無言でうむと頷く。
それからほんの一時その懐かしい紙切れを眺めて、それを宝箱へ戻し、再び隠すと俺たちは大聖堂を後にした。

「さて、次は」
「居眠りウサギさんのところですね。」
『不思議の国公園!』


††††


商店公園というものがこの町には存在する。
主にガラス細工や石工、銅像の製作などの工房が軒を連ねる区画に存在するのだが、商店が公園の周囲を取り囲んでいて、公園の中にはそれぞれの商店から何品かずつ作品を出し置かれている。
公園に置かれている作品が、その工房の力を示すバロメーターになるというわけだ。
工房区画はこの街にいくつか点在しているが、その全てがこの商店公園をあつらえている。
最近では飲食店区画でも一部この商店公園を作っているところがある。
こうゆうところに力を注ぐことを惜しまないのはこの街のいいところの一つなのだろう。
今、俺たちがいる『不思議の国公園』もそんな商店公園の一つだ。
不思議の国公園は商店から作品を出すときに一つのテーマの基に作られている。
すなわち。

『不思議の国のアリス』

それぞれの商店は不思議の国のアリスのキャラクタたちをモチーフに作品を作り出展している。
その中でも異彩を放っているものが一つ。
公園のど真ん中に設置されたテーブルとベンチ。
ベンチの片側にはマッドハッターとマーチヘアが座っている。
タイトルをつけるなら『マッドティーパーティーへようこそ』といったところだろうか?
精緻に作られたマッドハッターとマーチヘアの目の前に座って雑談したり、お茶お飲んでみたり、そんなコンセプトなのだろう。

ただし。

このティーパーティーは不完全なのだ。
なぜなら。

マーチヘアはいつも居眠りしているから。

この公園のマーチヘアはいつもテーブルに突っ伏して居眠りをしている。
だから、このテーブルにいる兎のことを『居眠りウサギ』と呼ぶことも少なくない。


ゆめまどろむ(夢まどろむ)
うさぎをおこせ(ウサギを起こせ)


「いつみても良くできてるよなぁ、この木像」
「うむ、彫りの精緻さもさることながらこの居眠りウサギのギミック。
 確か木彫り歯車使ってるって話だったけど、これだけ長く置いておいて摩滅してないってのがすごいよなぁ。」
「居眠りウサギさんこんにちわ♪」

改めてこの作品のよさを実感している俺とアランをよそに、リーアだけはのんきにマーチヘアの頭を撫でている。
まぁ、この際、このお嬢さんの行動は深く追求すまい。

「さて、居眠りウサギをたたき起こしてお宝を拝ませてもらいませう。」

そう言って俺はウサギの背に回る。
木彫りのタキシードの中に手を突っ込み背中を探る。
数度、マーチヘアの背中を撫でると指の先にコツリと当たる突起の感触。

「お、あった。」

俺はその突起を迷わずに押す。
すると、指の先にカチリという感触。

「よし、起こすよ〜。」

俺の掛け声に、なにやら執拗にマーチヘアの頭を撫でていたリーアは名残惜しそうにマーチヘアの頭から手を離す。
それを横目に眺めつつ、マーチヘアのタキシードの下から腕を引き抜きゆっくりとマーチヘアの体を起こす。
普段は居眠りをしているマーチヘアは背中にあるスイッチを押すと起き上がらせることができる。
体を起き上がらせると、体の中に組み込まれている歯車がかみ合い、枕代わりにしていた手が下に下り、瞼が開く仕組みになっていて、完全に起き上がるとティーパーティーに参加しているという具合だ。

「いつみても良くできてるよなぁ、この木像」
「うむ、彫りの精緻さもさることながらこの居眠りウサギのギミック。
 確か木彫り歯車使ってるって話だったけど、これだけ長く置いておいて摩滅してないってのがすごいよなぁ。」
「居眠りウサギさんおはようございます♪」

ここについたときとほぼ同じ内容。
リーアに関しては・・・・・・・まぁ、突っ込むべきではないだろう。
疲れるから。

「さて、ここでのヒントは・・・・。」

と、マーチヘアの手元を覗き込む。
そこにはお茶会のティーカップが置かれている。
大理石製の白い肌に焼鉄の青い線で模様が入れ込まれている。
その模様の中、同じく焼鉄の青い線で描かれたカップの縁取り。
その一部が文字になっている。

「っていうかさ、焼鉄でこの青色出すのってかなり難しいんだよね。」
「え!そうなんですか?」
「うん、どうしても普通にやってるとくすんだ色しか出ない。」
「リーデル・・・・お前・・・・・試したのか?」
「おうよ!一時期は時計職人を目指した男だぜ!俺は!!」

そう、これが良く使われるのは時計なんかが有名だろう。
ブルースチール針、高温で鉄を焼くことで起こる酸化現象で色を変化させ、低温で焼き戻しをするという、まぁ、こうゆう言い方だとものすごい簡単な技術に聞こえるが。
鮮やかな青色をムラ無く出すのは職人芸だ。
ほんの少し火にかけすぎれば良い色は出ないし、そもそもムラを作らないというのがなかなかできる芸当ではない。

「まぁ、リーデルの微妙な挑戦はさておき、このティーカップそんな代物だったのか・・・・」

と、改めてまじまじとカップを見下ろすアラン。
子供の頃はどうってこと無いものに見えていたが、こうしてみると実はすごいものなのかもしれない。
もっとも。

「別にそんなたいしたもんじゃないでしょ、公園の片隅・・・・というにはど真ん中だけど。
 片隅に置いてあるんだから。
 それを欲している人が見ればわかる、それでいいんじゃない。
 もともと、そのための商店公園でしょ。」

そう、公園においてある以上、これは商店の実力を示すバロメータ、或いは、子供のおもちゃ。
それ以上でも、以下でもない。
それがわかっていてなおこのクオリティー。

この街に住む人間はそうゆう人たちなのだ。

そんな感慨を持ちながらティーカップを見下ろす。
そこにかかれている文字は最初の紙切れと比べたらとても少ない。

一つは文字が一文字『計』
もう一つは『ライオンの口は臆病者を噛み砕く、勇気あるものよ鍵を取れ。』

この使い古されたような煽り文句に子供の頃は胸を躍らせていた記憶がある。

「さぁて、子供たちが追いつく前に次のポイントに行きますか。」

そう言いながら俺はマーチヘアの背中のボタンを押し今度は前に倒していく。
一度起きたマーチヘアは再びティーパーティーのテーブルで居眠りを始める。

「次のポイントは?」
「割れぬ夜船や絵本懐けし」
「船と絵本の宝庫」

『スリーピング・フォレスト』


††††


ボトルシップというものがある。
ビンの中に船の模型がくみ上げられている代物だ。
この街では比較的人気のある嗜好品だが、この街でボトルシップを店頭に置いている店は少ない。

われぬよふねや(割れぬ夜船や)

『割れぬ夜船』は割れない船ではなくて。
割ってはいけない船。
つまりこのボトルシップをさす。

えほんなつけし(絵本懐けし)

そして、数少ないボトルシップを展示しているお店の中で"古本屋"はこの街で一軒しかない。

『スリーピング・フォレスト』

眠り姫の眠る眠りの森。

けれどここに眠るのはお姫様ではなく、新たな主人の訪れを待ちわびる本達だ。


カランカラン


入り口のベルが落ち着いた音を鳴らす。
店の主人は本でも読んでいるのか、ベルの音にこちらに一瞥をくれると、また視線を下へと落とす。
子供の頃はこの無口な店主がやたら恐かった気がするのだが、こうやって訪れると、何気に面白い人だったりする。
口数こそ少ないけれど、少なくとも、店の中にある本の内容がすべて頭の中に入っているようで、探し物をしたりしていると、声をかけてくれ、探している本のありかと、その本にまつわる話や、一緒に読むといいと言って別の本も紹介してくれたりする。
俺たちは店主の読書の邪魔をしないようにそっと扉を閉めて奥へと向かう。
そこに、目的のボトルシップが飾られている。

ボトルシップの空に当たるところに星が配され、それは夜の海に漂う船の如く。

だがしかし、実のところこれは・・・・・

「あれ????私が昔見たのと違いますよ、これ。」

・・・・・・・・・・・。

「えぇ??昔のことだから何かと間違えてるんじゃないの?
 俺が見たのはこれだったが・・・・・・」

・・・・・・・・・・・。

二人が、俺の意見を求める視線を送ってくる。

「あぁ、えぇっとだな。」
「リーデル君には触らせるなよ。」

俺がどういおうか必至で考えていると、それをぶち壊すように一言、そんな声が聞こえる。
店主は相変わらず本に視線を落としたまま。
けれど、あの声は確かに、店主だ。

「ふえぇ、どうゆうこと?」
「・・・・・・おまえ、まさか・・・・・・・」

店主の一言で、アランには大体の事情がばれてしまったようだ。
というか、まだ覚えてたのか・・・・・・・・

「あの年は大変だったぞ、お前が割っちまうもんだから急遽ワシのコレクションに落書きせにゃならなくなるし。
 おまけに星の取り付けやらヒントの書付やらで結局、徹夜仕事だ。」

あぁ〜、もう!

「そうです、一号は俺が割っちゃいました!
 リーアがみたのも、アランが見たのも本物。
 二人がみたものが違うのは俺が割ったせいで入れ替わったからですよ!」

ははははは、ぜ〜んぶばらしてやったぜ!
あぁ、俺を見る二人の視線が痛い・・・・・。

「全く、ボトルシップ割っちまったのはお前さんが最初で最後だぞ。」

そう言ってあきれたように溜息をつき、本を閉じる。

「もっとも、足しげくこの店に通うのもお前さんくらいのもんだがな。」

閉じた本を片手に持ち変え、店主は立ち上がりこちらを見る。

「まぁ、おっちゃんの素の顔知ってるのもこの中じゃ俺くらいのもんだからな。」
「ふん、勝手に言っておれ。」

それだけ言い残し店主は奥へ引っ込んでいく。
まぁ、なんだかんだでいい人なのだここのおっちゃんは。

初めてこの宝捜しをしたときに、ボトルシップを割ってしまったのだ。
今でこそ、こんな軽口が叩けるが、あの当時はほとんど何も言葉を発しない、そのくせ時々こっちを監視するようににらんでるおっちゃんが恐くて仕方なかったのだ。
ボトルシップを割ってしまって、おっちゃんがこっちに向かってきて『怒られる!』そう考えて思わず泣き出した。
ところがおっちゃんは泣き出した俺の頭をポンポンと叩いて言ったのだ。

『まぁ、こんなもんはまた作ればいい、それより、怪我しなかったか。』

その時のおっちゃんは優しく笑っていた。

まぁ、普段はどうしようもないくらい偏屈だけどな。

店主のいなくなった店の中。
改めてボトルシップを眺める。

一号は確か船体に文字が彫られていたのだったと思う。
今は、それこそ急場しのぎだったのか、船の帆にこまごまと文字が書かれている。

一つは『塔』の文字。
もう一つは『狂った時計は鐘が鳴る、時間じゃ無いのに鐘が鳴る。』

そう書かれている。
なんか、帆に文字を書いてせっかくの落ち着いた雰囲気を台無しにしちゃうところとか。
それでもあきらめきれずに帆の端っこに小さく書かれた几帳面な字とか。
なんだか、そう、なんだか『おっちゃん』って感じがした。

「さて、ようやくチェックポイント全部まわったわけだが。」
「いよいよゴールですね!」
「んじゃ、行きますか。」

『時計塔に!!』


††††

今まで集めたヒントたち。

一番最初が『時』
次が   『計』
最後に  『塔』

まぁ、実に単純な話だ。
そのまま読んでやればいい。

時計塔。

この町の中央に位置する馬鹿でかい塔なのだ。
塔になってるからどうということは無く、その中身のほとんどは時計機構と、時刻を知らせるパイプオルガンの機構、自動演奏機構が組み込まれているのみ。
後はひたすら螺旋階段がそれぞれの機構中枢に向かうために用意されているだけ。

ただし、注意しなくてはならないのは正面から行ってもこの塔の中には入れないのだ。

正面には警備員が常駐していて入ろうとしようものならすぐに捕まってしまう。
・・・・・・もっとも、この表の警備自体はほとんどお飾りなのだけれど。
なにせ、この街の人間は誰もが裏口を知っているのだから。
この人たちの本当の仕事内容は定時巡回と異常時の通報が主なお仕事なのだ。

俺たち三人は当然そのことを知っているので、正門をあっさりとスルーすると裏に回る。
一見すると、塔の周りをぐるりと背の高い塀が取り囲んでいて入れなさそうに見えるのだが、壁をコツコツと叩いて回ると一部だけ軽い音がする場所があるのだ。
そこが隠し扉。
一個目のヒントに書かれていたのはこれ。
見た目は他の石壁と変わらないのに実は木製の回転ドアというある意味すごいトリックアートなのだ。
隠し扉を探し当て、するりと中に入るとすぐ近くに鉄扉がある。
そのすぐ横にはライオンの像があり、その口の中に鍵がある。
二つ目のヒントにかかれていたのはこれのことだ。
その鍵を使って扉を開ける。
後からくる子供たちのことを考えてかぎをライオンの口の中に戻し、中へと入る。
扉を閉めて、内側から鍵をかけた後、螺旋階段をひたすら上に上っていく。
130メートルというなが〜い階段をひたすら上りつづけるとゴールの鉄の扉が見えてくる。
その鉄の扉を開いて表へでる。
一瞬、太陽の光で塔の中の薄暗い景色になれていた目がくらむ。

次第に光に目が慣れてくると、そこには、地上百メートルから見下ろす夕暮れの街が横たわっていた。

「ぬぉぉ〜〜〜、やっぱり高いなぁここ。」
「当たり前だろ、それだけ上ってきたんだから。」
「うわぁ、フェンスが結構低いですね、初めてここにきたときは背丈よりも高いと思ってたのに。」
「そりゃ、子供の頃と比べたらそうだろうよ。」

そんなつまらない会話をしつつも、心はどこか上の空。
夕日に照らし出された白を基調とした町並みは朱に染まり、さっきまで巡ってきた大聖堂や不思議の国公園、スリーピング・フォレストも視界に入る。

あのころ、初めてここを訪れたときも、今みたいな感じだった。

いや、もっと、純粋に"何か"を感じていたかもしれない。
それがなんなのかと聞かれると、説明にこまるのだけれど。
いつも遊んでいる公園が、今まで巡ってきた場所が、歩き回っていた街が、ヒントをくれた人たちが、この視界の中にいてそれなのに見えなくて。

そう、一言で言うなら。

『すごい』

そんな感じだった。

「あ、そうだ、トキじい元気かな?」
「おぉ、懐かしいなその名前も。」

アランの呟きに俺も反応し、最後のヒント、『時間の狂った鐘』を探す。
鐘は、今、俺たちが出てきた扉のところから外を通る通路のかなり奥の方、パイプ室の扉の前に未だに居座っていた。

「おぉ、ちゃんとあるじゃん。」

俺はその鐘から伸びている紐を掴み二三度ふってみる。

グワングワン

『おぉ〜、ちょっとそこで待っててなぁ。』

そんな声がすぐ横にある扉中から響いてくる。
どうやらトキじいは今も健在らしい。

「なんか、懐かしいですね、この声。」
「そうだなぁ。」

声がしてから暫くして、声の張本人が鉄の扉を開いて出てくる。

「いやぁ〜、わりぃね、ちょうど仕事中だったもんでさ。」

そこまで言ったところで俺たちを見て目を丸くする。

「ありゃま、お前さんリーデルか?」
「はいな!お久しぶりっす。」

ここにこなくなってからもう何年もたつというのに、すぐにわかってしまったらしい。

「んで、リーアちゃんにアランだったかな?」
「あ、ちゃんと覚えててもらえたんですねぇ。」
「ご無沙汰してます。」
「いやぁ、みんなでっかくなったなぁ、そっかそっか、元気にしとるかね?」

トキじいは顔をしわしわにして笑いながらそんなことを聞いてくる。

トキじいはこの塔の調律師なのである。
パイプオルガンの調律が主な役目だが、調子の悪いときは時計機構の面倒もみている。
そして、子供たちにとっては塔に住んでる宝物の番人という設定らしい。
俺たちが子供の頃からおじいさんの域に達していたのだが、今になってみると、こんなに小さかったかなぁと、こっちの方が心配になる。

「トキじいこそ、体こわしたりしてない?」
「馬鹿言え、まだまだ、若い奴には負けん。」

そう言ってかかかと笑う。
こうゆうところは、昔と変わってない。

「それにしたって、トキじいもそろそろ代替わりしないといつまでも続けられるもんでもないでしょ?」
「まぁな、今、後釜を育ててはいるんだがなぁ、まだまだひよっこだ。
 それに、ここで番人ができなくなると寂しくなるからなぁ。」

そう言って本当に寂しそうにトキじいは笑う。

「本当に、この時計塔ができたときから見てきているからなぁ。
 ここを訪れる子供たちも、この街並みもな。」

懐かしそうに、トキじいは街並みを見下ろし言葉を続ける。

「しっとるか?
 あの童歌はな、この塔ができるときに一緒に生まれたものだ。」

くるりと街並みに背を向けフェンスに背を預け、胸ポケットからタバコを取り出す。
タバコを一本抜き取り、使い古されたオイルライターで火をつけ大きく一つ煙を吐く。

「あの頃の街の連中はなぁ、そりゃぁ、もう、お祭好きの連中ばかりだった。
 それがこんな馬鹿でかい塔をおったてるって言うんだ、騒がないわけが無いだろう。」

時計塔の上のほうを見上げ懐かしむようにそれを眺める。
またタバコを口に運び煙を一息。

「そんな折だ、どっかの馬鹿が童歌を作りおった。
 この街の一部を織り込んだ童歌だ。
 さらにどっかの馬鹿がその童歌を聞きつけて宝捜しを始めようと言い出した。
 それを聞きつけたどこかの馬鹿がそれに乗った。
 どうせならゴールは時計塔にしようってなもんだ。
 童話に歌いこまれた場所にはヒントを置くことにした。
 当時の司祭様も、不思議の国公園の周りの工房も、古本屋の坊主も馬鹿ばっかだ。
 洗礼の泉には宝箱が隠され、マーチヘアは居眠りするようになり、古本屋にはボトルシップが一本増えた。」

当時のことを思い出したのか、トキじいがひそかに笑いをかみ殺している様子が見て取れる。

「まぁ、街並みこそ変わったが、60年経った今でも全く変わらんな。
 ここを訪れる子供達も。
 相変わらずお祭好きな街の連中も。
 この街の空気は、今でも確かに受け継がれとる。
 あの童歌とともにな。」

トキじいはぽか〜んと話を聞いていた俺たちをちらりと見て、タバコの火を消す。

「ふふ、ただの昔話だ、忘れたければ忘れても構わん。」

トキじいはフェンスから背を離し、大きく背伸びをする。
俺はそんなトキじいに聞いてみた。

「街一つ巻き込んだ壮大な遊びは楽しかったっすか?」

今度はトキじいが目を丸くする番だった。

「バカ、リーデル、遊びとはあまりに失礼だろ・・・。」

俺の発言にアランは慌てて突っ込みを入れる。
トキじいはしばし呆然と俺を見た後かかかと笑い出した。

「遊び!遊びかぁ、いや、確かにそうだな!
 まぁ、あれだ、楽しくなけりゃ、60年も続かんだろう。」

ガタン

「あ〜〜〜〜〜〜〜!!」

突然背後で扉の開く音と子供の声がする。
振り返ってみればそこにはあの公園にいた子供達がいた。

「なんだよ!場所知らないって言ったくせに!!!」

とか文句を言いつつ近寄ってくる。
ここは・・・フォローした方が良いのか??

「いや〜、俺たちもあの後偶然ここがわかってなぁ。」
「え〜、うっそだぁ。」

・・・・・・・なんでこうゆうところだけ疑り深いんだね君達は・・・・・。

「いやいや、本当本当、しかも、今、宝の番人にお前達にはやらんって言われたばっかりなんだ。」

俺がそう言うと子供達はトキじいの方を見る。
そしてもう一度俺のほうを見て『あれがですか?』といった感じでトキじいを指差す。

「わははは、お前達に宝はやらんぞ!
 宝が欲しければあの鐘を鳴らしてみろ!!」

そう言ってトキじいの後ろにある鐘を指差す。
なにやらめちゃくちゃ乗り気だなトキじい。
どうやら、今の子供と俺のやり取りだけで大体の事情を察してくれたらしい。

「と、言う訳だ、いって来い。」
「お、おう。」

そう言って子供達はトキじいの攻略にかかる。
その様子をみてトキじいは俺たちに向かって早く帰れと合図を出してくれる。
俺たちは一度顔を見合わせた後、トキじいに一礼してその場を後にした。


††††


俺たちが帰路についた頃、辺りはすっかり夕方の様相を呈していて街並みは夕日の朱に彩られていた。
夕暮れの道を俺たち三人は歩いている。

「何気に長い寄り道になったな。」

俺の言葉にみんな頷きつつそれでもどこか楽しそうだった。

「それにしても、リーデル。」
「ん??なんだ?」
「あれだよ、あれ、トキじいに聞いたやつ。
 いくらなんでも、"遊び"はないんじゃないか?
 これもれっきとした地域の親睦を深めるという・・・・・。」

あぁ、あの話か。
っていうか、こいつは本当にどうでもいいこと気にするよなぁ。

「ないよ。
 そんな気はさらさら無いはずだよ。
 結果的にそうなった、ただそれだけだよ。」
「なんでだよ。」
「それは・・・・」

そうでなければ・・・・。
そうでなければ、あんなに楽しそうに、この60年を振り返れはしないだろう。

「自分で考えてみたら?」
「な!」

でもまぁ、ヒントくらい出した方がいいのかな。

「童歌、覚えてるか?」
「あ?」

答えをはぐらかしたせいかかなり不機嫌なアランがものすっごい態度悪い。

「リーア、手帳か何か持ってない?」
「ありますよ〜。」

そう言ってリーアは俺に手帳とシャーペンを渡してくれる。
俺はそこに『あ』〜『ん』の50音を書き並べていく。

「はい、アラン、第一ヒントの歌詞歌ってみな。」
「なんだよ、急に。」
「いいから。」

俺の指示に不満顔をしながらアランは童歌を歌い始める。

「い〜り〜ぐ〜ち〜には〜る〜。
 み〜ず〜べ〜で〜あ〜そ〜び〜。」

俺はアランの目の前で手帳に書いた50音の中から歌われた音を一つずつ消していく。

「次、リーアお願い。」

俺の言葉に一つ頷くと今度はリーアが歌い出す。

「ゆ〜め〜ま〜どろ〜む〜。
 う〜さ〜ぎ〜を〜お〜こ〜せ〜。」

この歌詞もひとつずつ音を消していく。
そして、最後は俺。

「わ〜れぬ〜よ〜ふ〜ね〜や〜。
 え〜ほんなつけし〜。
 た〜か〜ら〜も〜の〜。」

そうして手帳に残ったのは、一度も重なることなく、全てを消された50音の表。
これにはアランも、リーアも目から鱗だったらしい。

「いろは歌の一種だな。
 旧字体は入ってないけど。」
「へぇ、面白いな。」
「こんな仕掛けがあったんですねぇ。」

俺が持っていた手帳をリーアに返すと、リーアとアランはしきりにその手帳を見て感心している。

「多分、この童歌は街のことを歌うよりもそっちがメインの目的だったのではないかと。」
「へぇ、じゃぁ、なんでこの街のことを歌いこんだんだ?」

そう、アランが聞いてくる。

「わからないか?」
「??何がだよ?」

本当の理由それは多分本人にしかわからない。
けれど、俺は思うのだ。

「この街が、好きだったからだろう。」
「・・・・・・。」
「童歌の宝捜しだって、お祭騒ぎに乗じた遊びだったのさ。
 ただ、それが結果的にこの街のためになっているというのなら。
 それは多分、みんな、この街が好きだからなんだよ。
 このお祭好きの、遊び好きの街がさ。」

夕暮れの中、三人で歩く帰り道。
俺は一度、時計塔を振り返り、今日巡ってきた場所を・・・・・幼い頃巡り歩いた場所を思い返す。
アランたちも、同じ事を考えたのか、俺たち三人はそろって時計塔を見上げていた。
夕暮れの光とは不思議なもので、こうやって三人で並んで時計塔を見上げていると、不意に"懐かしい"そう感じてしまう自分がいる。
アランもリーアも、高等部に入って初めて同じ学校になったわけで、それまであったこともない。
なのに、なぜだろう、いつかどこかで、こうして三人でいたような、そんな気がしてしまうのは。

俺たちは、見上げた時計塔を背にして再び歩き出す。

「なぁ。」

一緒に帰り道を歩いていたアランがぼんやりと口を開く。
その声に俺とリーアはアランの方へと顔を向けた。

「なんでだろうな、なんかさ、こうやって三人で歩くの・・・・・なんか、懐かしい感じがする。」

その台詞に、俺とリーアはしばしぽか〜んとしてしまった。
やがて、お互いの間抜けな反応に俺とリーアが気付き知ることになる。

「アランさんと気が合うのは珍しいですね。」

リーアは苦笑しながらそう答える。

そう、俺達は知る。
"懐かしい"そう思ったのは自分だけではなかったのだと。

「案外、どこかで会ってたのかもな。」

あながち間違いでもないだろう。
広いようでいて狭い街だ。

同じ童歌が歌い継がれていく程度には。

「そうですねぇ。」
「そう・・・かもな。」

出会い、別れて、やがてまた別の子供に歌い継がれて・・・・。
そうして、この街は繋がっていく。

街の人々の連なりから生まれた童歌が。
新しい連なりを生み出していく。

ふしぎ。
ふしぎ・・・・。

だから、ポケットに入れておこう。

"街"という名の童歌を。

俺の唯一の収集品。
不思議という宝物に。

コメント(6)

素敵でした!
心がぽっかりあったかくなりました☆彡
ありがとぅございます(*^_^*)
コメントありがとうございますm(_ _)m

無駄に長い文章にもかかわらず最後まで読んでもらえたようで、恐縮でっす(;´_)

maoさん>
人とでもそう言ってもらえるとありがたいです!
よろしければ今後もご贔屓にどうぞ\(´ワ`)ノ

なっちゃん さん>
何がどうというわけではないけれど、こう、懐かしいような、前向きなようなそれでいて後ろ向きなような、よくわからないけど、なんか幸せかも?
そんな感じの文章になるように書いてみたのですがいかがだったでしょうか?
無駄に長くてすみません(-。-;)
気に入っていただけたなら幸いです。
とってもホンワカした気持ちです。
街の風景が浮かんでくるようで…また読みたくなります(*^^*)
コメントありがとうございます!

バンビさん>
街に関してはノートに地図作ってみたりして頑張ってはいるのですが、そう言ってもらえるととてもありがたいです!

まだまだ稚拙な文章で(本屋とか、トキじいの部分の展開が早いとかねqw)発展途上ではありますが、ほんの一時でもあなたの心の中に居座らせていただけたなら幸いです♪
コメントへのお返事ありがとうございます(*^_^*)
作者さんのおっしゃっていることが読み手に伝わってきました(^-^)
情景が、目をつぶったときに見えるようでなんだか私までわくわくしました!大人になっても忘れたくないものを感じました☆彡
…こんな感想すごく偉そうで…気分を害してしまいましたらすみません。

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