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古銭屋つむじ同好会コミュの第十五話

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コミュ内全体

『萬願札と日本紙幣型米伝単の巻』

「益田君。君さぁ、この落とし前どうつけてくれるんだよ」
「へぇ、あっしとした事が少々迂闊でした。おっ...お龍さんの方には時期を見て何とか...」
「何とかっててめぇの高野豆腐みてぇなスカスカの脳みそで一体どうしようってんだ!お龍は夕べから一切口も聞かねえし、朝飯どころか昼飯までこしらえねぇつもりだぞ。働き盛りのいい大人が、二人してこんなちっぽけな店んなかで飢え死にしようもんなら、こりゃ末代までの恥じだぜ」
「今、飢え死にしたら末代までは続きませんね...」
「うるさいよ、君」
夕べの晩酌の際、少々いい気分になった益田は、東京でのつむじのひいきにしていた小料理屋の美人女将の話をついついお龍に喋ってしまったのである。

『いやぁ〜、ヒック、お龍さん聞いてくださいよ!この間、東京に行った時なんですがね、つむさんにそれはそれは美しい女将が一人で切り盛りしている小料理屋さんに連れて行ってもらって...』
『おい、益田君...』
『へぇ、それはよかったやおまへんの。で、どんな方ですの?』
『ヒック...それがお龍さんに負けず劣らず着物の似合う方で...』
『益田君...』
『今どき、お着物を召して小料理屋さんどすか。えらい高そうなお店やろうねぇ...』
『それがあっしも吃驚しやしたんですがね...ヒック、その女将、つむさんの顔を見た途端、店の中の客を皆、追い返してしまって...ヒック、暖簾をさっと片付けたと思ったら、ひょいとカウンターに座ったあっしらの間に腰掛けて...今夜は私のおごりですからお連れさんも沢山呑んで行ってくださいね!っとこうですよ...ヒック』
『益田君...いい加減に...』
『それで、その後どないなりましたん?』
『そこんなんですけど、その女将にドンドン酒を勧められて...ヒック』
『益田君...続けたまえ...』
『全く記憶がねぇんですよ...ヒック、あっしが酒にすっかり呑み込まれたって話しでさぁ...ヒック』
『よろしおましたなぁ』
『益田君...その後、直ぐに宿までおぶってあげたじゃないか!』
お龍はそのまま寝息を立て始めた益田に掛布をすっと掛け、何事も無かったかのように膳を片付け始めたのであった。

「しかし、腹が減ったな。おいっ、お龍!いつまでヘソ曲げてやがんだ、飯はまだかよ!」
梨の礫とはまさにこの事を意味する。ちなみに『梨』と『無し』を掛けた言葉であると補足する。
お龍に朝から戸襖の内側から閂を掛けられて中へも入れない状態である。

そこへ一人の女性が店の扉をガラガラと開けて入って来た。
「おっ、梅じゃねぇか!随分だな、務めは終わったのかい?」
「お陰様で...」
「ほう、そうかい。そりゃ目出てぇが、放免祝いをくれてやるほど改心はしてねぇ面してやがる。どちらかと言うと一仕事終えて来たってぇ面構えだな」
「つむさんにはかなわんね、すっかりお見通しや。ついさっき腕が落ちてへんか心配やったから腕試しして来たんよ」
「巾着切りかい?」
「ふっ、掏摸(スリ)じゃ腕試しも糞もあらへんよ。天斬りして来た」
「何だい、物騒だな。こんなお天道様が勤労に精をお出しになっている時間にかい?これじゃぁオチオチ昼寝も出来ねぇじゃないか。で、幾らかにはなったのかい?」
「腕試しさせて頂いて、金品取る程落ちぶれてないけど...ちょっとおもしろい物が...」
「ちょっと、つむさん待って下さいよ。さっきから放免とか巾着とか...あっ、梅さんって名前でしたね。あっしはここでつむさんのお手伝いをさせて貰っている益田と申します!」
「梅と申します。何や、つむさん。手広うやってるんやね」
「手は広くなってないが、こいつに足は引っ張って貰っているぜ。足は臭いが、ただ飯もよく食うナイス害だ。宜しくしてやってくれ。」
「つむさん、勘弁してくださいよ、まだ根に持っているんですか...」
「まだって...あれから俺は何も食ってねぇし、何も事態は好転してないじゃないか...。ひとまずまぁいいや。こちらの梅はただの梅じゃねぇぜ。浪花のネズミ小僧...いやネズミ娘か、『天斬り梅』だ」
「天斬りって...一体何の事ですか?」
「大工さんが一生懸命建てた家の屋根を大工道具を使って丁寧にぶち壊す職人の技だ」
「益田さんでしたね、誤解せんといてよ。屋敷に忍び込むためにちょっと屋根に穴を開けて...私の場合は帰る時には綺麗に戻して行くんよ」
「好きな時に何度でも入れるようにな...」
「つむさん、意地悪言わんといてよ。その天井裏で面白いもん見つけたから今日、持って来たのに」
「何だい、やっぱり仕事してるんじゃないか。で、何を見つけたんだい?」
「これは天井裏にあったから家主も知らんはずよ。どっから入って来たか分からんけど、えらい大きな三毛猫が得意げに教えてくれたんよ」
つむじと益田は互いの目を見合わせてプっと吹き出した。
それから梅は懐から大事そうにそっと一枚の古い紙幣を取り出して二人の前に掲げた。
「あぁ、『い拾圓』ですね..ずいぶん.綺麗な状態でやすな。3〜4.000円位でさばけそうですね...」

ここで益田の言う『い拾圓』とは昭和5年から昭和21年まで発行された『兌換券10円』の事であり、お馴染みの和気清麿と護王神社がデザインされているが以前に登場した『左和気』よりは随分稀少価値が低い。

「待ちたまえ益田君...。姫が絡んでいるとならば...」
「姫って...?」
「ここの従業員です」
つむじは梅の掲げる『い拾圓』をじっと見つめ、腕組をした。

「仰山放免祝い出したなったんちゃう?」
「そうだなぁ...しかし生憎、今は非常事態が発生していて、まとまった金はおろか我々の兵糧すら準備する事が出来ないんだよ...」
「えっ、野口英世さんなら5〜6人はレジで眠ってましたよ!大丈夫ですよ、引きましょう」
「そんな簡単には行かないと思うぜ、益田君。う〜ん...1124組で450941か...あっ、そうだ。こいつは梅に一本取られたぜ。伝単か...」
「おみごとっ!さすがつむさん。読み上げるよ!」
「へ?何の話です?裏は日本銀行兌換券ってしか書いて無い筈ですよ!」
「まぁ、益田君。聞いていたまえ」
梅は大きく息を吸って、背筋をピンと延ばしながら『い拾圓』の裏側に書かれた文字を大きな声で読み上げた。
「職工!諸君は、今までに澤山のお金を儲けて居ます。然し、それは何の役に立ちますか。この十円札と購買力は余り変わりません。武器の生産に全力を尽している者は軍人同様です。しかも諸君は生産の軍人です。然し、軍人叉はその家族が買へる様な特別配給品を諸君も買ふ事が出来ますか。」
益田はポカンとして梅を見つめている。
「あらら...一番珍しいのが出てきやがったな。こいつは増々困ったね」
梅は下をペロりと出し、『い拾圓』をひッくり返しガラスケースの上に置いた。
「そう言う事でしたか...あっしは梅さんに何か悪い霊でも憑依したのかと...」

ここでつむじの言う『伝単』とは、中国語で宣伝のビラと言う意味であり、戦争時には世界各国で用いられる軍事作戦の一つである。この『い拾圓型伝単』は大平洋戦争時、米軍の飛行機から日本にまかれた『心理的爆弾』の事を指す。紙幣型と言う事も有り、民衆は誰とも無くそれを拾い上げ、その効果は絶大であったが、所持しているだけでもおとがめを受ける世の中であったため大抵はその場で焼却叉は破棄され現存数は極めて少ない。勿論、紙幣では無いのだがこれらを扱うのは貨幣商である。

「そうか...これは使える...」
つむじはレジから『日本銀行券E号1.000円』を一枚取り出し、カラーコピー機に入れた。
「つむさんっ!一体なにしているんですか!紙幣の偽造は重罪ですよ!」
「ふん、通貨偽造と模造は違うんだ。なぁに...ほれ見てみろ、カラーコピーしてもパールインキがそれを許さねえ...何も裏までコピーしようと言うんじゃない。伝単だよ、伝単」
「そんな屁理屈がお上に通る道理はありやせんぜ...」
益田の呆れた様子などお構い無しでつむじはコピーした『日本銀行券E号1.000円』を丁寧にハサミで切り取っている。

ここでつむじの言う『パールインキ』とは『深凹版印刷』『マイクロ文字』『すき入れ』『超細密画線』『潜像模様』『識別マーク』『ホログラム』等と並び、日本の国立印刷局が世界に誇る最新偽造防止技術の一つであり、普通にコピーしても全く違った色になる。さらにつむじの言う『模造』所謂『まぎらわしいもの』とは
実際には客観的基準が無いので、『行使』があって初めて警察が動く事になる。しかしながらこの印刷物が何らかの形で世に出回ってしまう事があれば、刑法148条の『通貨偽造罪』によって無期叉は三年以上の懲役を課せられる事になるので軽はずみにコピー等の複製は止めておく方がよい。

そこへまた一人、店の扉をガラガラと開ける者がいる。煙草屋の鶴である。

「ほう...今日はまた珍しい、可愛いネズミっ子がおるな...」
「あっ、鶴姉さん!息災でしたか?今日、また娑婆に帰って来ました!」
「さよか...。今度は大人しゅうしとったみたいやの。それよりつむの字よ、さっき変わったお札見つけたから見てもらおうと思てな...」
「なんだよ、今取り込んでるんだ...あっ、そいつは...伝説の『萬願札』じゃねぇか」
「えっ、あの『萬願事件』の『萬願札』ですかぃ?どれっ、あっしも拝見」
つむじは鶴の持ち込んだ『萬願札』より自作の伝単、つまりお龍への嘆願文書の内容を模索している。

ここでつむじの言う『萬願札』とは紙幣では無く単なる印刷物に過ぎない事を始めに記しておこう。昭和58年に神戸で催された『ポートピア81』の会場付近で販売されていた、「商売繁昌 萬願成就」、「金運開運   萬願札」等の文字の書かれた所謂、縁起札である。大阪市西成区の贈答品取扱い業者が岐阜にある『萬願神社』に許可を願い製造したこの縁起札が刑法148条に当る訳ではないのだが、実際に当時、この『萬願札』で煙草を購入した者が居たのである。『日本銀行券C号10.000円』所謂『聖徳太子10.000円』にほぼ同じの寸法で彩紋もこれから取っており、客観的基準を満たした『模造』に該当するとして、その贈答品業者のが略式ではあるが起訴されている。所謂『萬願事件』である。

「こんな紙切れぶら下げて、鶴婆さんもすっかり耄碌しちまったんじゃねえか?まさか『萬願事件』さながら、こいつで煙草買いに来たボンクラにタンマリ釣り銭くれてやったんじゃねぇだろうな?」
「あら、そうかいな。これは仲西一家の若い者に一本取られたわ。まぁ、縁起物っちゅう事で店に飾っとこうかいな...。あっ、今日はお龍はん見えへんけど、どないしたんや?」
「お龍は朝からこの後ろで篭城してる。そんな事より...」
「そうや、そう言うたらお龍さん居てへんね。篭城って...さっきもつむさん兵糧がどうのこうの言うてたし」
「そうなんですよ、今回はあっしの不手際で...いや、実はかくかくしかじかでしてね...」
益田は小料理屋から伝単作成までの事の詳細を鶴と梅に話した。
「するとその後ろの戸襖は差し詰め『天の岩戸』ちゅうこっちゃな...ひっひっひ」
「ほんならお龍さんは天照大御神(アマテラスオオミカミ)になるねぇ...」
「って事は、つむさんが天宇受売命(アメノウズメノミコト)って事になりやすね....」
「俺は神楽舞なんざ出来ねえよ...。伝単が世の平和に繋がるんだ。益田君、君が責任取って女装でもして舞ってくれたまえ」
「この話、益田さんには関係ないよ。全部つむさんの責任やよ」
「なんでだよ。」
「なら聞くけど、その伝単になんて書いてるん?」
つむじは困った顔をして頭をかいた。益田はさっとつむじの書いた伝単を梅に手渡した。
「おいっ、待て益田君!」
梅と鶴はつむじの書き記した文を読み、やはり男は駄目だと言う顔をしながら互いに顔を見合わし吹き出した。そこには小料理屋を馴染みにした経緯や泥酔した益田を負ぶり宿まで帰った経緯が事細かく記載されていた。
『つむさん、女はそんな事で納得するとでも思っているの?』
『じゃぁ、どうすりゃ納得するんだよ。俺は事実を書いているだけだ』
『事実かどうかなんてこの場合、問題じゃないんよ』
『どう言う事だよ』
『つむさんじゃなく、益田さんの口から聞いたお龍さんの気持ち...察するわ』
『つまり...?』
『単純にゴメンなさいでいいんやないの?』
『そんな物かね...』
『そんな物よ...』
益田は鶴に耳打ちする。
「ねぇ煙草屋の婆さん、こんなに露骨に話しをしたら全部お龍さんに筒抜けじゃないですか...。伝単の意味もへったくれも無いんじゃないですか?」
梅も益田に耳打ちする。
「益田のおにいちゃん、今の二人の声の感じ...いつもと違うて聞こえへんかったか?あれは『闇がたり』言うて、六尺四方より外は聞こえへん職人の技の一つや」
益田は感心した様子で二人を見つめた。
つむじはさっと伝単を書き上げると、戸襖の隙間からそっとそれを中に投げ込んだ。

「さて、私事は熟成期間に入った。話を戻そう。その鶴婆さんの所で模造紙幣を使った奴は仲西一家の若い者って事だ。話は早い。今頃、向こう通りの遊戯場で遊んでいる筈だ」
「こんなか弱い婆さんから金を巻き上げるなんざぁ、人として許す訳にはいかねえです!早速、あっしが行って締め上げて来ます...」
「益田のおにいちゃん、そうキバらんでもよろし。ワテもこの年になって勉強出来たんやし、現にこうして珍しい者の顔も見る事が出来たし、さっきも言うた通り、この縁起札は店に飾っとくさかいかまへんねん」
「そうもいかないぜ、鶴婆さん。こいつは仮にも事件札だ、持っているだけではお咎めは無さそうだが、見つかったら押収される代物だ...。そうだな、こいつは...鶴婆さんから梅への放免祝いにしなよ」
「うん、私もそれ欲しい。放免された日に商売繁昌のお札が飛んで来るって最高やよ」
「よし、これで鶴婆さんも了見しなよ。梅、俺からの放免祝いはこいつだ。『中抜き』はまだ試してねえんだろ?」

ここでつむじの言う『中抜き』とは懐から抜いた財布の中身だけを抜いてまた懐に戻すと言う、その世界の中では神業とされている技の一つである。

つむじは先程、何枚かコピーした『日本銀行券E号1.000円』の内、裏が白紙のままの一枚と筆を梅に手渡した。
「おもしろいやん。さっきの『天斬り』だけやったらちょっと物足りない思てたんよ」
そこへガラっと勢いよく後ろのと襖が開いた。
「鶴さんいらっしゃい。梅さんも元気そうで!...あんた、『日本銀行券E号1.000円』なんやったら話の筋が見えへんどすえ...。益田さん、この福沢さんをコピーして貰えますか。後、そんなボロボロの筆使うたら『天斬り梅』の名が泣きますやろ。梅さん、これ使うてやってくれへんか」
お龍は自前の筆と硯を梅に手渡した。
「おおきに...」
梅はさらりとその伝単に『天斬り梅見参』と書き記し懐にしまうと、そのまま何も言わず店を後にした。彼女の目は既に異彩を放っていた。

ものの十数分程で梅は額に汗を拭いつつ、店へ戻って来た。

「んっ、どうした...下手でも打ったのかい?」
商いも程々にし、店の奥で獨酒と肴を突きながらつむじが顔をひょいと出した。
「そんな訳ないよ。帰り道にトンビに油揚げをさらわれたような目つきで睨む猫見つけて話し掛けたら、何も言わずに背中に飛び乗って来て...重たい...助けて」
姫はパタリとうつ伏せに倒れた梅の頭を通り過ぎて、何事も無かったかのように、つむじの膝の上に落ち着いた。
「よう、お帰り。今日は梅に持っていかれたらしいな」
姫は何も言わず目を閉じて尻尾をパタパタと振って見せた。
「つむさん...姫さんは何て言ってるんですか?」
「ちゃうちゃう、私は紙幣やのうて貨幣専門やさかい、手柄をあげただけや...。私はネズミに優しい猫やねん...って言ってるな」
「はははっ、まさか!姫さんは関西弁じゃないですよ!」
「そこが突っ込むところなん?」
梅は吃驚した表情でゆっくり起き出した。
「梅さん、おそらくホンマの話しやで。まぁ、そんな所にいつまでもおらんと、こっちきてパァっと放免祝いしまひょ」
「ささっ、こちらへどうぞ梅さん!ここは一つ『天斬り梅』の武勇伝なんて聞かせて下さいよ!」
「武勇伝なんてそんな...つむさんの前で語ったら笑われるわよ」
「またぁ、謙遜しちゃって!ならその『天斬り梅』って粋な二つ名、一体誰に頂戴したんですか?」
「あれ、言うて無かったかな?そこに居るつむさんに頂戴したんよ」
「へぇ...まさか、冗談でしょ?」
「つむさんがこの町にやって来て間無しの頃、この界隈ではごっつい宝物を持ってるって話で持ち切りで...」
「確かに。ここにはあっしもまだ見ぬ国宝級のお宝が沢山ありそうですからね」
「『天斬り』して忍び込んだまではよかったんやけど...」
「忍び込んだんだけど...?」
益田は身を乗り出して梅の話を聞いている。
「肝心の『息合わせ』がつむさんに通用せえへんかった...」
「『息合わせ』って...」
「眠っている人の呼吸に合わせて息をして、頃合を見計らった時に軽い衝撃を与えて起こすねん。ほんならその人はもっと深い眠りについて仕事がやり易くなるねんよ。」
「でっ、どうなりやした?」
「『折角の眠りを覚まさせた事には感心出来ねぇな。しかし、ここまで来れた事は誉めてやる。店にある物から好きなの持って行きな。ただし今夜は一つだけだぞ』って...」
「うわっ、そいつは凄い!で、梅さんは一体何を頂戴したんですか?」
益田は目を皿のように開いて固唾を飲んだ。
「そこなんよ。このお店、並べられた商品に全然値が付いて無いと言うよりも、何や奥深いもん感じて、結局何も取れずに帰ろうとしたんよ」
「えぇっ、あっしだったら...うぅ...一つと言われると...あぁ...分からない...でその後は?」
「私は観念して、寝床に居るつむさんに何もかも話してお縄を頂戴しようかと思ったら、『梅か...天斬り梅...雨漏りしねぇ程度に瓦は元に戻しておけよ...』ってそのままつむさんはイビキかき始めたんよ」
「いよいよチャンス到来ですね!」
「いいや、私はその時点で勝ったんや...何よりも凄い二つ名を誰よりも素敵な人から頂戴したんやから...」
先程まで黙って二人のやり取りを懐かしく聞いていたお龍は急に咳き込んだ。
「あっ、そうだお龍さん!つむさんから伝単には一体何が書かれていたんですか?」
益田は慌ててお龍に話しかけた。
「伝単は直ぐにやぶり捨てる物ですからなぁ...」
顔を真っ赤にして台所に消えて行ったお龍に、梅は首をかしげながらつむじの顔を見た。
つむじは何も語らずただ、微笑んでいた。

一風変わった紙幣達に囲まれた一円にも満たない本日の商いではあったが、それは明日への道しるべ。
今宵も様々な宝が集まった良き日であること間違いは無さそうである。

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