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真夜中のお茶会コミュの「真冬の夜の薄桜鬼」(SSLパロ)

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(小説家になろうサイトが二次作品禁止になるかもしれないので急ぎ転載ですあせあせ(飛び散る汗)
今度はなんとシェークスピアに挑戦exclamation & question
新入生歓迎会で演劇『真夏の夜の夢』をすることになった薄桜(はくおう)学園の生徒たち。
ヒロイン千鶴の相手役を巡って配役から揉めてしまうが、果たして・・・?
沖斎設定ではあるのですが基本薄めでコメディ全開にできたらと思います。
おつきあいよろしくお願いしまするんるん


・・・しまったあ、平助は2年生だった!げっそり
近藤さんも、校長で良かったらしいたらーっ(汗)
でも私の中では島原女子校と数年前に合併したって設定にしたいな今度から・・・。

コメント(8)

プロローグ・1

「ねー、一体何なのさ、この集まりは。僕これから用事があるんだけど」

 三学期の始まった薄桜学園。逆向きにした椅子に腰掛けた二年生の沖田総司は、口を尖らせて明らかに不満げだった。理由はただ一つ、放課後に呼び止められて、教室に残されているからだ。

「待て総司。雪村の緊急提案なのだ」
「す、すみません沖田先輩、もう一人・・・が来たら始めますので」

 同級生斎藤一が総司を宥めに入ると、唯一女子学生である一年生の雪村千鶴も申し訳なさそうに頭を下げる。

「今日は始業式だけだから頑張って早く来たのに。もう眠いよ」

 総司は辺りを憚らず大欠伸を漏らす。その横で風紀委員長でもある一がやや顔を顰めた。

「当たり前だ、始業式でなくても遅刻してはダメに決まっている」
「でもさ、みんな昼飯もまだだし、早く話しよーぜ、千鶴」

 同じく一年生の藤堂平助が立ち上がる。同じく席についている他の1年生、千鶴の従兄・南雲薫と山崎烝も苦い面持ちだ。始業式の日には学食が閉まっていて、購買部のパンも早くしないと売り切れてしまうのだ。
 すると、廊下から甲高い靴音が近づいて来るのが聞こえた。足音は教室で止まり、入ってきたのは生徒会長・風間千景たちだった。千景は戸口に立っていた千鶴と、教室内の総司たちを見回した。

「ふん、我が妻のたっての頼みで来てみたが、この者たちは一体何だ」
「それはこっちの台詞だね。千鶴ちゃんが待ってたのってこいつらなワケ? 僕たちを待たせていいと思ってんの」
「重役が最後に来るのは当然の習いだろう、副会長」
「招かれざる客って気が大いにするんだけどね」

 睨み合った総司と千景の間に火花が走る。千景の後ろにいた会計の天霧が止めに入ろうとしたその間を縫って、千鶴がそそくさと教壇の前に立った。書記の不知火はにやにやしながら事の成り行きを見守っている。黒板にはいつの間にか山崎が文字列を書き始めていた。

「なになに・・・新入生歓迎会?」

 平助が怪訝そうな声を漏らした。途端に総司と千景も黒板に向き直る。

「・・・どういうことだ? 雪村。来年度の入学式はまだ先のことだが」

 一が気を取り直して質問する。

「はい。だからこそ、今のうちに始めたいと思ったんです。新入生歓迎会のために、有志による演劇をやってみたらと思って。ほら、うちの学校はまだ男女共学になったばかりですし、生徒全体の交流になると思うんです」千鶴が頬を紅潮させながら早口に答える。「どう・・・でしょうか」

 千景が着席しながら訊いた。

「しかし一体どうして今頃なのだ? 文化祭もあったではないか」
「気がついたらもう冬になってて、文化祭ネタは書けなかったんです!」
「雪村くん、何の話をしているんだ」
「全く計画性がないよねー」

 山崎がつっこみ、薫が誰ともなく言い放った。はい、すみません。

「ていうかなんで演劇なの? 千鶴、中学で演劇部だったっけ」
「平助くん・・・それはね・・・」

 彼らは千鶴の次の言葉を待った。

「それは・・・単にやってみたいんです!」
「そ、それだけかよ!!」
「だって、ここ演劇部なかったし・・・それに、やってみたい劇があるんです」
「もう決まってるのか」

 一同が呆気に取られた。総司はまだむっつりとしている。千景は少し興味を持ったようだ。

「で、何の劇がやってみたいのだ? お前がヒロインで俺がヒーローならば、何も反対することはせん」
「はい、やってみたいのはコメディなんです。演劇っていうとやっぱりシェークスピアかなと思ったんですけど、その中でもストーリーがわかりやすくて面白いものと思って、これです」

 千鶴が出して見せたのは『真夏の夜の夢』だった。

「真夏の夜の夢、ね・・・。入学式は春だけど?」薫がまた嘲笑混じりに呟く。「しかも、登場人物の男女比は一対一。うちには女子が1人しかいないってのに、一体どうするのさ」
「そこなんですけど、」千鶴は軽く息を吸って吐き出した。「男女逆転にしたら、もっと面白くなるんじゃないかなって。で、私はパックがやってみたいんです」
「はあ?!」

 その場に居た千鶴以外が頓狂な声を上げた。
「パックというのはヒロインなのか? 我が妻よ」
「いいえ、ヒロインというよりは妖精役です」
「では俺は何の役をやればいいのだ」
「・・・一番強い役とかはどうでしょう?」
「それで、妖精とやらと愛し合う役なのだな」
「いえ、その・・・」
「僕、パス」

 席を立ったのは総司だった。「別に演劇なんて僕やりたくないし。やりたい人が勝手にやったらいいよ」
「沖田先輩・・・!」

 明らかにショックを受けている千鶴を残して、総司は教室を出ようとした。ところが、

「なるほど、素晴らしいじゃないか!」

 快活に笑いながら入って来たのは、薄桜学園理事長の近藤勇と、教頭の土方歳三だった。

「若人が自発的に企画を立てて実行する、いいお手本じゃないかね。このような先輩たちの姿を見れば、新入生たちもきっと学園を盛り立てていくやる気が出ることだろう。ん? どうしたんだ、総司」
「えっ、い、いやあ、そうですよね近藤さん! 僕、ちょっと原作を買いに行こうと思って。どんな役でも頑張りますよ」

 足止めを食らった総司は、慌てて笑顔で取り繕った。

「そうか、それは楽しみだなあ! じゃ、君たち、必要な物が有ったらなんでも言いなさい。私のポケットマネーでなんとかしよう。気をつけて帰るんだぞ〜」

 近藤は上機嫌で去って行く。総司は笑顔を解くと、溜息をついて席に戻った。

「おい、俺は別に義理立てなぞせんぞ。我が妻と恋人役を演じるのでなければつまらん」
「そうはいかねえよ、万年生徒会長」

 残っていた土方が千景に睨みを利かせた。「お前の失点はもうこれ以上つけると即退学だ。それは困るっていうなら、学園の運営に協力するこったな」
「教師の分際で生徒を脅す気か?!」
「土方先生、流石にそれは・・・」

 他の生徒たちもざわめいたが、千景は思案したのち答えた。

「・・・では、千鶴がヒロインをやるというのなら乗ってやる」
「うん、うん、そうだよな! やっぱ千鶴がヒロインじゃなきゃ俺たちもやる気出ねえって」平助も頷いた。「じゃあ早速、配役決めよーぜ」
「待て」制したのは一だった。「雪村・・・それでいいのか?」
「はい、皆さんが協力してくださるんだったら、私もその役で頑張ります」
「そうか。あんたがそれで良いと言うなら、俺は何も言うまい」
「ヒロイン・ハーミアは雪村君ということで決定ですね? それでは、残りの配役を決めていきましょう。」

 山崎はそう言うと、黒板に配役を書き始めた。周りからは全員一致の拍手が起こった。
 
 ハーミア:雪村千鶴

 満足げに立ち去ろうとする土方に、千鶴はそっと耳打ちをした。

「もしかして、先生、風間先輩に劇をやらせるためにあんな事を?」
「まあ、憎まれ役は俺の得意な役どころだ。じゃあな、頑張れよ雪村。お前の晴れ舞台、楽しみにしてるぞ」

 土方は微笑んで、教室を後にした。

「では、ヒロインの相手役を決めたいと思います」
「はいはいはいはい!」平助が勢い良く手を挙げた。「俺やりたい! ってことで決まりだよな」
「何を言う、我が妻の相手役なのだから俺に決まっているだろう」
「はー? 俺だって幼馴染なんだからな! ていうか、お前勝手に結婚とか決めてんじゃねえよ」

 そこに参戦したのは薫だ。

「ちょっと待てよ、俺だって従兄なんだから結婚だってできる。相手役にはぴったりだろ」
「そういう問題か?!」
「では他にヒーローをやりたい人は?」

 さりげなく自分も手を挙げている山崎が訊ねると、なんと天霧も手を挙げた。

「なっ、天霧! 貴様、この俺を裏切るのか?」
「いえ、しかし、こんな機会は滅多にあるものでは・・・」
「あっはっは、おもしれえな〜、確かに主役張れる機会なんて滅多にねえもんな。じゃあオレも立候補っと」

 不知火までもが手を挙げた。

「!!」
「ヒーロー6人てどうすんだよ、これじゃ白雪姫でもやった方がいいんじゃねえか」
「おい、天霧、辞退しろ」
「嫌です」

 再び騒然となった教室で、千鶴はオロオロしている。
 先刻からなかなか事が運ばないのにイライラしていた総司は、ついに仕方なく発言した。

「こんなにやりたい人が多いんなら、くじ引きとかにするしかないよね。ジャンケンとか」
「うむ、ジャンケンではややこしくなりそうだから、あみだくじなどが公平でいいだろう。雪村に作ってもらおう」
「そ、そうですね! 私もそれがいいと思います」

 一も助け舟を出してくれたので、千鶴は山崎と協力して、黒板に配役のついたあみだくじを書いた。

「僕のは余ったのでいいからね」

 総司はそう言うと机に突っ伏した。山崎が役の説明を始める。

「ライサンダーがハーミアの恋人、そのライバルがデミトリアス、その元カノがヘレナ。この関係をかき回すのが妖精のパックと妖精王オベロン。他にオベロンの妻ティタニアとハーミアの父、それから町の領主シーシアスがいます・・・」
(大体さー。ヒロインが千鶴ちゃんなんて当たり前すぎるんだよねー・・・)

 山崎の声が、次第に子守唄となって、総司は意識が遠のいていった。
第1幕 第1場

「んん・・・」

 総司が目覚めてみると、辺りは夕暮れも近くなっていた。目に入ったのは机に突っ伏したまま隣ですやすやと寝息を立てる一の長い睫毛。

(あーもう、無防備なんだから・・・)

 総司は自分の心臓が少し強めに鳴り始めるのを感じた。一の柔らかな紫紺の髪に触れようとして、はっと気づいて周りを見回すと、教室の中では総司以外の全員が眠っていた。

「え、一体どういうこと・・・?」
「おっかしいなー、1人だけ魔法にかからなかったのかな」

 突然背後からかけられた可愛らしい声に驚いて、総司は振り返った。そしてさらに驚くことになる。

「き、君は一体だ、れ・・・」
「あれ、僕が見えるの? まだこんな人間がいたなんて、珍しいなー」

 そこには、掌サイズの、チョウチョのような羽根が生えた、子どもが浮かんでいた。
 普段は何事にも動じることのない総司も、これには流石に目を疑って何度も何度も瞬きをした。

「何これ、人形? SFX? どういうドッキリなの?」

 教室のどこかにビデオカメラがないか確かめると、思わず総司は目の前の生物・・・に手を触れてみる。少しひんやりしているが、人間の子どもと同じような柔らかさだ。頬をつついてみたり、髪の毛を軽く引っ張ってみたりした。


「おい、止めろよ!」

 生き物は嫌がっているが、総司はだんだん楽しくなってきた。子猫のように襟首を掴んでみる。

「これって・・・もしかして妖精ってやつかな?」
「そうだよ、俺様はパックって妖精だよ! 離せってば!」
「・・・パック? パックって」

 総司は黒板を見直した。書かれたあみだくじを辿ると・・・パックという名前を見つけ、それが自分の名前につながっていることを発見する。

 パック:沖田総司

「あ、あははは・・・。まさか、あの『真夏の夜の夢』のパック、なんかじゃないよね」
「そうだよ! そのパックだよ!」

 その自称「妖精パック」は、暴れて総司の手から逃げ出してぼやいている。「全く、こんな意地の悪い腹黒そうな人間が、なんで妖精見えるんだか・・・」

「うーん、よくわからないけど、僕が君の役をやるからなのかな。で、何の用でここに来たの」
「あ、そうそうそれだ。妖精王オベロンさまの使いの帰り、お前たちがどうも困ってたように見えたからな。あの娘を巡って男たちが争ってたんだろう? 可哀想にな」

 パックは教壇の上で眠っている千鶴を指した。

「ん? あー、そうだったかもね。僕は関係ないけど」
「じゃあ・・・俺様はもうオベロン様の所に帰らないといけないからな、お前に俺様の代わりをやってもらおう」
「何だって?」

 パックは腰についていた袋から、小瓶を取り出した。

「これは南の島からオベロン様が取り寄せた、“ラブラブポーションNo.1”という媚薬なんだ。これを眠っている人の瞼に塗ると、目を覚ました時に最初に目に入った相手がライオンだろうがクマだろうが恋してしまう。これを1つ、お前にやるよ」
「つまり、どういうことさ?」

 めんどくさそうに総司は訊いた。

「今、ここの人間全員には眠りの魔法をかけてある。そこにこの“ラブラブポーションNo.1”を使って、この娘が本当に想っている男の他は、適当に他の者を好きになるようにすればいいだろう。この教室以外の空間は時間を止めておくから、その間になんとかしろよ」
「他の者って?」
「お前の隣で寝ている娘とか」

 パックが指したのは、確かにこの中では女性と見紛う体型の一だった。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 一くんは・・・」

 総司は言いかけて慌てて止め、訊き直した。「僕が・・・君の代わりにそれをやっていいってことなんだね?」

「ああ、そうだよ。頼まれてくれるか?」
「勿論!」

 さっきまでとは打って変わってにこやかな笑顔で快諾した総司に、パックは疑いもなくその小瓶を渡した。

「じゃあ、あとは僕がうまくやっておくから、君は急いで王様のとこに帰りなよ」
「あ、ああ、わかったよ」

 パックは力んで羽根をフル稼働させると、「ぐるり地球を40分でひとまわり! じゃ、頑張れよー!」という声を残して弾丸のように飛び去っていった。


「・・・・・・争ってた配役の方は、とっくに決まっちゃったみたいじゃない。あの妖精も、とんだマヌケだなあ」

 1人残された総司は、黒板のあみだくじをもう一度見て、貼り付けていた笑顔の口元をさらに引き上げた。

「それに僕は、千鶴ちゃんがモテているのは別に困ったことだとは思わないんだよね、残念ながら」

 総司が向き直った視線の先には、依然として眠り続けている一の姿。

「一くんが僕のことを好きでいてくれれば、それでいいんだから・・・」

 まだ一度もちゃんと想いを告げてはいない、でもこの薬を使えば、一の心を手に入れることができる・・・。総司は喉をゴクリと鳴らして、小瓶の中身を一の目に塗った―――。
 とその途端、

「くしゅん!」

とまた可愛らしいくしゃみをした者があった。
第1幕 第2場

振り向くと、千鶴が目を覚ましていた。

「あれ? 私、いつの間に眠っちゃったのかな。ええと、配役は全部決まったんでしたっけ?」
「あー・・・そうじゃない、かなー・・・、ねえ一くん」

 総司は誤魔化すように頭を掻いて、向き直った。そして、目に入ったものに硬直してしまった。
 そこには、顔を上げたばかりで、千鶴の方を向いたまま、息を詰めたように耳まで赤く染まってしまっている一の姿があった。

(ええっ、一くん、もしかして・・・)
「あっ、斎藤先輩も寝てたんですか・・・。っていうか、なんで他のみんなも寝ちゃってるんでしょう?!」

 そう言いながら近づいてくる千鶴に、一は跳ね上がるように上半身を起こした。その視界に、総司は全くと言っていいほど入ってはいなかった。


「そ、そ、そうだな、ではみんなを起こして、早速劇の練習を始めよう」

 一は立ち上がると千鶴の手を取った。

(もしかして、千鶴ちゃんを最初に見ちゃったの――?!)
「ええ?! でも今日はとりあえず配役だけ決めるということだったんじゃ・・・」

 あたふたする千鶴に、
「しかし、普段は俺たちも部活や委員会がある。時間があまりあるとは思えない。有志なのだから、時間がある時に集中して練習をするべきだ」と至極真っ当な返事をする一。

 そこに、

「・・・ん? 俺とした事が、こんなところで寝入ってしまうとは・・・。おい斎藤、わが妻に触れるな! 俺の居る所でわが妻に言い寄るとは、お前、なかなかいい度胸をしているな」

 声の主は千景だった。剣呑な表情をして立ち上がる。

(・・・よりにもよって、次はこいつか・・・)

 狼狽する総司をよそに、一は淡々と言い放った。

「劇の練習だ。俺はこいつの恋人役だからな」
「なに?」

 一は黒板を指差した。確かにそこには、

ライサンダー:斎藤一
ディミトリアス:風間千景

と書かれてあった。総司は落胆した。

(あああ、やっぱり・・・)
「練習なら、これから我が家ですればいい。さあ、行くぞ千鶴」

 むっとした千景が総司たち3人のところまで近寄って来る。

(ええと、ややこしくなる前になんとかしなきゃ!)

 とりあえず総司は千景をに足をひっかけた。ものの見事にすっころぶ千景。

「めんどくさいから、君には別の人を追いかけてもらうよ」

 総司は気絶した千景の瞼に薬を塗った。

「総司、一体何をしているのだ?」

 一が訝しげに尋ねる。
 総司は焦りを隠すようににっこりと笑ってみせた。

「ちょっとね、魔法を使ってるのさ。・・・僕は、パックだからね」
(・・・とりあえず事態を収拾に向かわせるためには、一くんと千鶴ちゃんを引き離す方がいいかな)

 総司はそう考えて、ひとまず二人を廊下に連れ出し、薬の説明をした。もちろん、最初一に薬を塗ったことは秘密にして。

「・・・というわけで妖精からもらった薬を、一番しつこい風間に塗ってやったわけ」
「妖精からもらった惚れ薬・・・俄には信じがたいが・・・」
「本当に利くんでしょうか? そのお薬・・・」

 一は難しい顔をしていた。やはり普段から冷静沈着なだけあって、千鶴のこと以外ではきちんと話をしてくれるものらしい。
 千鶴はまだ不思議そうに、でも切実な瞳を総司に向けた。

(これまでの被害を考えると、風間に薬を塗ったことは正しい選択だったのかもね)
「しかし、このままでは風間・・・先輩が目を覚ましてまた雪村を始めに見てしまうとも限らん。俺たちは、ここから離れた方がいいだろう」
(うーん、二人を引き離すのは、ここじゃあ無理か〜・・・)
「そうだね。じゃあ今のうちに、みんなの分のお昼でも買いに行こうよ。実は僕、もうお腹ぺこぺこなんだよ」
「うむ、そうだな」

 総司の提案に一も素直に賛成した。しかし千鶴はまた別の心配をしていた。

「でも、風間先輩が目を覚ましたら、始めに見た人を好きになってしまうんですよね? 大丈夫でしょうか? その人がかわいそう・・・」
「何を言ってるの千鶴ちゃん、これは君を守るための緊急措置なんだよ?」
「そうだ。風間先輩に惚れられた者には訳を説明して納得してもらえば良い。こうなってしまった以上、これからのことはゆっくり考えよう」

 千鶴目線の一は、少し強引な意見になっているようだ。
 後ろ髪を引かれる千鶴を促すように、総司と一は教室を後にした。
第2幕 第1場

 3人が食売から戻って来ると、予想通り教室は大騒ぎとなっていた。
 廊下には平助と山崎が出て来ていた。平助は3人の姿を認めると、慌てて駆け寄って来た。

「3人とも何処行ってたんだよ、大変なことになって、今探しに行こうと思ってたところだぜ?!」
「大丈夫、平助君? 何があったの?」
「いやー、目が覚めたら風間が薫に迫っててさ・・・」

 平助がそう言い終わるか終わらないうちに、机が倒れるような音がした。

「やめろ、来るなヘンタイ!」
「!!」

 薫の声が聞こえて、千鶴は慌てて教室に戻ろうとした。それを制止したのは山崎だった。 

「待て雪村くん、ここは誰か先生を呼びに行った方がいいかもしれないぞ」
「でも・・・!」
「いや山崎見ろよ! 薫のやつ、教室の隅に追い詰められちゃってんだぞ!」
「しかし、他の者はどうしたのだ?」

 一が教室を覗くと、風間に倒されたらしく床にのびてしまった天霧と、ニヤニヤしながら成り行きを見ている不知火の姿があった。
 同じく教室を覗いた総司の目に、教室の黒板が再び映った。

ヘレナ:南雲薫

(・・・あー、ちょうど配役通り・・・)

 総司は思わず苦笑した。

「誰だ今笑ったのは?! おい不知火、見てないで助けろよ!」

 薫が叫んだ。

「あーん? こんな面白いもの、邪魔する方が野暮ってもんだぜ?」
「面白くなんかねえよ、この野郎!」

 いきり立った形相で不知火を睨みつけた薫に、千景はじりじりと距離を縮めていく。

「さあ、いい加減諦めて俺の腕の中に飛び込んだらどうだ、我が妻よ」
「言う相手が間違ってるだろ! それに俺は男だ!」
「何、医学が発達したこの現代、身体はどうとでもなる」
「なるわけないだろ!」
「俺、やっぱり先生呼んできます!」

 山崎は職員室まで駆け出していった。

「とりあえず、みんなで風間を取り押さえた方がいいかな?」
「む・・・そうだな。想像以上に常規を逸されては、校内の風紀にも影響してしまう」
「大体、なんでこんな事になっちゃったんだろな・・・」
「平助君、それはね・・・」

 千鶴が成り行きを説明している間、総司と一は千景に向かって行った。
第2幕 第2場

 数分後、上背のある総司が背後から千景を羽交い締めにし、一が鳩尾に的確な当て身を入れ気絶させたことで、とりあえず薫の貞操は守られた形となった。

「い、一体何だってこんなことになったんだよ?!」

 まだ怒りの収まらない薫に、千鶴は駆け寄って行った。

「薫、大丈夫だった?」
「全く、風間のやつ、目を覚ました途端に俺に抱きつきやがって・・・寝ぼけて千鶴と見間違えたんならまだしも、とんだ色情狂だよ」
(この様子だと、南雲に薬の話をするのはちょっと待った方がいいかな・・・)

 しかし総司の計画はうっかり平助によって一瞬にして潰されてしまった。

「妖精がくれたんだって、惚れ薬みたいなのを。だよな、総司・・・先輩」
「はあ?! 何が惚れ薬だ。僕は信じないぞ、そんな作り話。千鶴、僕は帰るぞ、こんな茶番につきあってられない。それに、また風間が目を覚ます前に帰りたいよ・・・千鶴も一緒に帰ってよ」
 
 薫が瞳を潤ませて千鶴に懇願する。千鶴は断りきれないようだった。

「そうね、やっぱり今日はもう帰った方がいいかな・・・」

 と、そこへ、山崎が戻って来た。

「お、山崎くん。先生連れて来てくれたんだな、って・・・。学園長先生じゃねえか!」

 なんと山崎の後からにこにことやって来たのは、近藤学園長だったのだ。

「す、すまない・・・他の先生方は職員会議中で、職員室に入れなかったんだ」
「やあ、一体どうしたんだ? みんな」
「え、えっと・・・」
(まずいな、まさか妖精の薬なんて話、信じてもらえるわけないし・・・)

 総司たちが顔を見合わせて説明に困っていると、一が進み出て話し始めた。

「学園長、わざわざご足労ありがとうございます。実は劇の配役を決めていたところ、風間先輩が乱心されまして」
「おお、さすが説明上手!」
「何、乱心だって?! ははは、時代劇じゃあるまいし」

 一同はほっとして一に喝采した。近藤は愉快そうに笑った。

「配役に不満があったようです。まず止めに入った天霧先輩がのされ、先ほど俺と総司で当て身を入れたところです」
「そうか、ご苦労さんだったな〜。ん?」

 近藤は総司たちが買って来ていたコンビニの袋を見て驚いたようだった。「君たち、昼ご飯も食べずに劇の話をしていたのかね? もう教室の暖房も切れてしまっているだろう。よければ、私の部屋で暖まってから帰りなさい。お茶でも淹れよう」
「あ、学園長、ご配慮は嬉しいのですが・・・」
「わーい、学園長の部屋、広くてあったかいんだよなあ!」
「藤堂君、弁えたまえ!」
「えー、ほんとにいいんですか近藤さん、悪いなあ。ねえ一くん、もう暗くなって来てるし、このまま帰ると風邪ひいちゃうよ? 千鶴ちゃんも、南雲くんも」
「しかし・・・」
「うーん、そうですね。でも、風間先輩は・・・」
「心配は要らんよ、雪村くん。彼が起きたら、暴れる前に私が話を聞いてみよう」
「あ、ありがとうございます、学園長・・・ね、薫、近藤先生もそうおっしゃってるから」
「ちぇっ、仕方ないな」
「うーん、いたたた・・・おや、私は一体・・・」

 後ろで人の起き上がる気配がした。

「あ、天霧先輩も目が覚めたみたいです」
「山崎くん気をつけろ、風間みたいに抱きついてくるかもしれないぜ?」
「大丈夫だよ平助、僕は天霧には塗ってない」
「ん? 何のことだね、総司」
「え、何でもないですよ、近藤さん。さ、じゃあみんなで先生の部屋に行ってお昼食べよう!」

 こうして総司たちは、近藤学園長の部屋に向かったのだった・・・。

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