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●文芸.com@mixi●コミュの私の秘密基地 私の書斎/ユキウミ

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私の秘密基地 私の書斎

ユキウミ






実は私、自宅から1キロほど離れた所に、秘密の基地を持っています。

そこは偶然に見つけた場所で、こんな所に こんな物が!と思えるほどの異質な空間です。

住宅地を抜けて路地をいくつか曲がり、行き止まりになるのではないかと思える程の細い道を歩き、繁った木と木の間を抜けると、瓦礫や採石を置いている、以前は明らかに採石関係の作業場と思われる広場に出ます。
事実、辺りには大きな石や 砕いて形を作り始めたばかりの石、 どこかのビルを壊した時に出たと思われる大きな欠片が小山を造っていたりします。

そして、それらが不思議な現代美術のオブジェを思わせる雰囲気をかもし出していて、決して不法投棄的なさびれた感じがしないのです。

ぐるりと何十にもケヤキや知らない雑木に囲まれた広場の端っこには、トタンで出来た小屋があります。

古い木枠がはめ込まれた窓もあって、入り口は木の引き戸。
意外と滑りも良くて、戸はいつでもすっと開きます。

中には埃を被ったトラクターが一台。
壁側には使わなくなったタイヤがきれいに積まれています。
床はなくて、直接土です。
油と埃の混じった匂いがします。

そしてトラクターの陰には藁が積まれてビニールシートが掛かっています。
その前には以前休憩に使ったと思われる錆びた折り畳みのパイプ椅子が6脚、畳んでたて掛けてあり、錆びて持ち手の折れたスコップがひとつ。

それだけです。





昨年の春、この基地へ繋がる路地の近くで、その生物を見ました。
赤茶に近い黒い色をして、首に白い紙を巻いたような柄のある痩せた生き物。

「針金細工に薄い幕を張った」という形容がぴったりの生き物が歩いていました。
どこかの小さな子供が指さして
「なんだあれ!」って声をあげた程でした。

それがこの秘密の基地の番人である、黒い猫、くうちゃんと私の出会いでした。

普通だったら動ける痩せ方ではありません。
猫生活の長い私ですが、あそこまで悲惨に痩せた猫を初めて見ました。

子供の頃から、狭い路地や、あまり人の入らない所を歩く事を得意としていた私は後を追いました。
幸いにそれ程急いで逃げるわけでもなく、私はこの基地を発見、「案内」されたのです。

トタン小屋の西側面下は地面との隙間があって、くうちゃんは、そこから小屋へ入って行きました。
私は小屋の周りを一周して、広場を探索し、 一旦自宅に引き返しました。

猫缶、餌入れになりそうな器2個、軍手、マスク、パン(自分用)、水、懐中電灯、の7つ道具をトートバックに入れて、私は再度出かけました。

決して走ったりしません。

慎重にトレースを辿って 再び秘密基地に到達した時は、叫びたいほど嬉しかった。

わかっていただけたでしょうか。
私の喜び。

ここまでの作業を淡々とこなして、平静を装い、決してはしゃがず、引き返して来たのです。

声に出したりしたら消えてしまいそうな場所。

「やっぱりもう行き着けなかった!、何だったんだろね、あの場所」で、終わってしまいがちな不思議なスペースです。
私は再び戻れたんです。

やったー三 (/ ^^)/
私の秘密基地。

木の引き戸をそーと開けるとトラクターの運転席にくうちゃんが座っていました。
目をまんまるにしてこっちを見ています。

そーと入り口付近に猫缶を置いて、また そーと戸を締めました。

その日はもうトタン小屋には近付かないで、広場をゆっくり散策しました。

平たい石の上に座って、持ってきたパンを食べて水を飲みました。

静かです。

春の穏やかに晴れた日、鳥の声と、風の音だけします。
木々にぐるりと囲まれた空間に浮かぶ空は、やっぱりそこだけくり抜いたように見えました。
20年位前に戻ってしまったような空間。
まるでそこだけ 時間が止まっているかのようでした。



それから私はほぼ毎日そこに通いました。
1キロ程度という距離は ウォーキングには調度良く、また微妙に面倒くさい距離です。
が、あの子が待ってると思えば重い腰も上がると言うものです。
実際に、あの至福の時を待っていたのは私の方であった事はお分かりだとは思いますが、くうちゃんは少しずつ太っていきました。 そしてまた少しずつ私を認めてくれるようになりました。

私が行かれない時のために不本意ながら、2名の友人に基地の場所を教え、(また訳のわからない事を始めたと呆れつつも良くやってくれています)くうちゃんを紹介しましたが、くうちゃんは私以外の人間にはなつかない。
嬉しくもありましたが、突然入院の要素を抱えている私は不安でもあります。
が、それがくうちゃんです。

秋になる頃、くうちゃんは避妊手術も済ませました。
その頃になると、私に抱っこさせてくれたり、甘えるようにもなりました。
しかし普段はきちんとトラクターの運転席に乗っかって、秘密基地の番人らしく、凜とした日々を送っています。

1日一回伺うだけの私も、彼女が愛おしく、心配で、なるたけそばにいてやりたいと思うようになりました。
あんなにやせ細るまでの間に何があったのか、沢山の疑問もあるのですが、今は幸せそうにしていてくれるくうちゃんといられる事が、私なりに嬉しくてなりません。

秋も深まり、少々肌寒く感じ始めた頃、戸外で長時間いる事を辛く感じ始め、私はこの頃からトタン小屋に侵入するようになりました。


パイプ椅子をひとつお借りして座りました。
膝掛けも持ち込み トランジスターラジオを持ち込みました。
最初は膝の上にくうちゃんを載せて時間を過ごしていましたが、この場所の心地良さに取り憑かれ始めた私は、今度は小さなテーブルを持ち込みました。
文庫本も幾つか。


文章を書く事が仕事の一つである私は、自宅ではパソコンで書きますが、外では携帯で書きます。
それをパソコンに送って編集する方法をとっていますが、この、電気の通ってない新しい書斎を持ってからは、このパターンが役立ちました。

バイトのない日は秘密基地にお弁当持参で出掛けるようになりました。
偉そうな表現で申し訳ないのですが、筆が進むのです。
自宅で書くより数倍の速さで書ける。
偉い作家さんがホテルに缶詰めにされて書くと 聞きますが、少しわかる気がしました。

もちろん、くうちゃんの暖かい寝床も持ち込みました。

冬は湯たんぽです。
膝の上に湯たんぽを置いて、毛布を掛け、くうちゃんを抱いて書きました。

Gree日記のほとんどは秘密基地書斎で書きました。


年が明けて、また春になりました。
風が強い日はトタン屋根の剥がれたところがバタバタいって、かなりうるさく、紐で結んだり ネジでとめたり、私なりに修理もしました。

ただ雨の日だけはどうにもなりません。
ブリキのバケツを頭から被って、何かで叩かれているようです。
しかし、それもまた悪くはない。
音というバリアに包まれて、本当に異空間です。




そんなある時、私は藁とタイヤの隙間に古い学習ノートを見つけました。

小学校4年生
〇〇〇〇〇
男の子のものです。かなり古い。
10年以上、いや、20年前、本当にそれ位古い国語のノートです。

きちんとした字。
だけど後ろの方に
大きく「バカ」って書いてありました。

異空間にいるせいか、私は思わずホロリとしてしまいました。

この空間だけじゃなくて、街のほうまでこのケヤキが続いていた頃に、学校帰りの少年が、やっぱりそっと、この小屋の引き戸を引いたのでしょうか。
それとも、家出を計画した少年がこの小屋で泣いていたのかと。
だとしたらかなり真面目な少年です。
家出にもノートを持って来るのですから。
20年前だとしたらもう30歳前後になっている少年は、元気にやっているのでしょうか。
家出にノートを持ち込むくらいだから、きっとどこかのカテゴリーで超エリートになってる事でしょう。
タイムマシンと、どこでもドアを使って、少年のもとへ行けたなら、「頑張ってるね」って声をかけてあげたかった(逃げるだろうな。トラウマになったりして)

私の空想は果てしなく、いくら素敵な小屋だからといっても、忍び込むのは少年や少女であるから物語になるのであって、30過ぎた怪しい大人がやってる事のギャップに気付きません。

街に続く今はないケヤキ並木の先から、いろんな声が、いろんな思いが聞こえてくるようです。

もしかしたら私の書斎は何十年もの間、沢山の人たちに使われてきたのかもしれません。
そうだとしたら、いつか明け渡さなければいけないな。


くうちゃんはというと、いつでも変わらず、私の膝が飽きると、トラクターの運転席にひらりと乗り込み鳴いてみせます。

友人達に不法侵入だと脅されていますが、私は一度もここでくうちゃん以外、会った事がありません。
もう通い始めて一年以上経ちましたが、ただの一度もです。


しかし、しかしです。
やっぱり、私の感は当たっていました。
時を超えて、この書斎を使っていたのは私だけではなかったようです。
ここを書斎とした売れない作家や、1日だけの勉強部屋、学校帰りの隠れ家にした子供の為に
管理人さんはいらっしゃったんです。




いつものようにへらへらと秘密基地、私の書斎へ訪れた私は心臓が止まりそうになり、その場にしゃがみ込んでしまいました。

トタン小屋やの引き戸の前に立て札があったんです。
先週の事です。


「小屋を使ったらきちんと閉めてください。
夜は早めに帰りましょう」



写真アップします。





そして相変わらず、この日記も私は基地で書いてます。

コメント(5)

独特の柔らかい空気感がいいなあ。

また読みに行ってみよっかな。

引き込まれまくりました。


ユキウミさんの文章は 伸びやかで猫っぽいなぁ

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