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エルシオール@ArvioNコミュのエルシオール通信 魔女・・・・後編

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第?話 魔女

――木は潰れ、
大地は荒れ果て、大量の血が、一帯を汚し、腐らせる。
地上の悲惨さを物語る光景とは裏腹に、空は実に皮肉と言わんばかりの快晴であった。

そんな天を仰ぐRucheさんは、にこやかに空を見上げ、微笑んだ。

皆と暮らした村での思い出を振り返り、逐一、思い出し笑いを浮かべては、また思い出を振り返る。
そんな繰り返しが数回、彼女の表情を綻ばせていた。

だが、もういない。
共に暮らし、共に戦ったかつての仲間達は、もういない。
彼女の視線に敵一人。
紅い鱗、紅い角、紅い血を垂らし、腹を紅く染めた、紅い龍。
視線をやった直後、レッドドラゴンのけたたましい咆哮が、一人残った彼女に向けられて放たれた。
だが、強く前を見据える彼女は、怯まなかった。
それに負けじと、ドラゴンは次に、自由になった前足を高々と上げ、
踏みつけるかのように振り下ろし、強い地響きを起こした。


怯まない。


まだまだ負けじと、ドラゴンは怒荒するかのように、
足を上げ、振り下ろしては、何度も、何度も、そうやって何度も、大地を揺るがした。


怯まない。


何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、大地を、揺るがし――


怯まない。





何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も





――怯まない。

それどころか、Rucheさんは鋭く睨みつけるように眼前、いや、ドラゴンを見据え、一枚のカードを勢い振り上げた。
その刹那。天より光の粒が、束となって集束し、ドラゴンの頭上に向かって、瞬く間に降り注ぐ。
サテライトレイ。
光の束がドラゴンの頭に着弾。と、同時に、爆発音のような轟音と、
ドラゴンの咆哮、否、悲鳴が鳴り響いた。

まだ終わらない。
左手に持つ、カードを、何度も振り上げ、
精神の続くまま、彼女はがむしゃらに攻撃を続けた。
せわしなく天から放たれた光の束が、ドラゴンに牙を向けては、何度も悲鳴を唸らせた。

何度も、何度も、何度も――





――やがて、
十六発目のサテライトレイを最後に、Rucheさんの左手の動きは、止まった。
息は荒く、立っていられるのもやっと。気力の限界に、彼女の身体が悲鳴をあげた。
それでも彼女は攻撃を止めようとはせず、杖を捨て、両手でカードを持ち、無理矢理振り上げようと、
震える両手、悲鳴をあげる身体、そんな危険信号に逆らって、Rucheさんは、からっきしの気力を振り絞って、
十七発目のサテライトレイが、発動された。
と、同時に――
完全に気力を失ったRucheさんは、ゆっくりと、地に伏せて倒れてしまった。

――もう、もはやこの目で、ドラゴンの様子を伺い知る事は出来ない。
Rucheさんは、言う事を聞いてくれない自分の身体を支配出来ぬまま、
うつ伏せの状態で、耳を研ぎ澄ました。

……最後に打ち込んだ、十七発目のサテライトレイの爆発音。
ドラゴンの悲鳴は、聞こえる。どうやら着弾には成功したらしい。
なのに、聞こえない。いくら待っても、どれだけ耳を研ぎ澄ましても、
Rucheさんの耳に、ドラゴンの巨体が地に伏せるような音は、そんな地響き音は、聞こえない。全く聞こえない。
生きている。
まだだ、ドラゴンはまだ、生きている。
その刹那。

ヴォォォォォォォォォォォォッ!!

そんな轟音が、Rucheさんの耳を、鼓膜を刺激した。
……力強い咆哮だ。
どれほどこちらが攻撃を打ち出しても、ドラゴンにはまだ、余力があると言わんばかりに。
絶望する間もなく、今の事実に笑う間も無く、Rucheさんは無抵抗、無気力のまま、轟音によって吹き飛ばされ、
一本の大木に身体を打ち付けることで、彼女の身体は仰向けの状態で、ようやく静止してくれた。

――そこで、彼女が見たもの。
禍々しく、真っ直ぐにこちらを見下ろすように睨みつける、紅い巨龍の姿と、
満面に広がる、綺麗な青一色に染まった、美しい空。

「綺麗……」

掠れ声で、虚ろな目で、震える手で、
Rucheさんは、天に向けて、手を伸ばした。

「出来る、ことなら……もっと、皆で……平和だったあの日々を、過ごしたかったな」

誰に向けての言葉でも無い。強いて言うなら、独り言。本音。
彼女の、ただ唯一の、願望。

「ふふ……やっぱり、叶わないか」

晴天と紅龍。
相反する二つの光景を目に、死を覚悟した――否、死を受け入れたRucheさんは、
薄れ行く意識の中で、ゆっくりと目を閉じた。










「……ん」










「……る……ん」

……声。
ドラゴンの声じゃない。
人の声……いや、そんな訳無い。

これは、夢だ。





「……る……ん!」

……また声だ。うるさくて、耳障りな声。
聞き馴染みのある声。ある過ぎて、嫌になる、奴の声。

……そうか、あいつか。





「るーちゃんっ!!」

声に反応して、Rucheさんの目が開いた。
虚ろ……というより、呆れ気味に目を半開きにしているようにも伺える。
”彼”の声に反応して目を開けた事に、不覚を覚えたことも、
薄れる意識の中で、彼女ははっきりと、そう感じたのだ。

「……はぁ」

彼の姿に、Rucheさんはため息をついた。
夢では無いことを思い知らせんとばかりに、相変わらずの光景が広がっていた。
青の晴天。紅い巨龍。
そして……Rucheさんと同じ、翡翠色の長髪をした男性の姿。

シヴァ村長の姿だった。

「全く、今頃来てどうするんですか……」

「るーちゃん?」

「……」

「……??」

「……逃げてください」

「え?」

沈黙から唐突に口にした、Rucheさんの言葉に、シヴァさんが戸惑いの色を見せた。

「ドラゴンは、貴方一人でどうにかなる相手じゃない。
 私が足止めするから、今の内に貴方は逃げてください」

「で、でも……るーちゃんボロボロですよぉ。
 僕に任せて、るーちゃん休んだ方が……」

「いいんです……! 私の事は放っておいて。
 私はもう、死を……死を覚悟してるんです」

そんなことを言って、Rucheさんは傷ついた身体を奮い立たせ、ゆっくりと動き出す。

「……私が死んで、皆が生き延びるのなら、それで本望。
 村と共に滅びるのなら、これ以上の死に場所は無い。
 だから、私が――」

杖も、カードも持たずに、
Rucheさんは大木にしがみつきながら、立ち上がる姿勢に入った。
……だが、立ち上がれなかった。

身体が言う事を聞いてくれないからでは無い。
手だ。
シヴァさんの手が、Rucheさんの頭を押さえつけ、立ち上がらせんとばかりに、
強引に大木の傍に座らせた。

「……いいから、休め」

紛れも無い、シヴァさんの声だった。
いつもの口調とはかけ離れた、彼の言葉が、Rucheさんに戸惑いを与えた。

「副長ごときが、この俺に指図するんじゃねぇ。
 覚悟だの、本望だの、んなもんは戦いに勝って、平和ボケでもしてから言いやがれ」
 俺達の村を、家を……勝手に自分の死に場所にするなんて、俺が認めねぇ。
 死ぬなんて以ての外だ!」

言葉を失った。に尽きる。
それは、彼の口調が一変したからという理由だけでは無い。

……正論なのだ。
正論過ぎて、これまでの自分の行いに反吐が出る。
仲間を逃がす為とか言って、本当は諦めていたのかもしれない。
どれだけ攻撃を打っても、ドラゴンは倒れない。心のどこかで、それは初めから分かり切っていた。
死んでもいいと、それでもいいと、思ってしまったのだ。

「次、死ぬって言ったら、おやつ抜きな」

ベタリと、大木の傍に座り込むRucheさんに指を差し、シヴァさんが言った。

「……何ですか、それ」

そう言いながらも、ようやくシヴァさんの前で笑みをこぼすRucheさんに、
シヴァさんもまた、それに応えるかのように、笑ってみせた。

「……さぁ! よ〜くもうちの大切な仲間達をボコボコにしてくれましたね〜」

息を大きく吐いた後、元の口調でそう言うシヴァさんが、
徐に取り出した一枚の、黒いカードを掲げた。

「万倍返しにしてやりますよぉ〜〜〜」

言葉とは裏腹に、彼のカードから放たれる魔力をRucheさんは感じ取っていた。
見たことの無い紋章。この世のものとは思えない。規格外とも言える程の魔力。
次に放つであろうシヴァさんの攻撃が、万倍返しどころでは済まないことを。

故に、恐れていた。
シヴァさんが、どこでそのカードを手に入れたかなど、そんなことはどうでもいい。
ただ、Rucheさんは感じ取っていた。
この攻撃が、ドラゴンを一撃で倒すに匹敵し得る、この攻撃が、
シヴァさんの身にも、影響を及ぼすのではないかということを。

「くっ……」

彼の身を案じて、Rucheさんは立ち上がった。
だが、その刹那。
カードの膨大な魔力が、周辺の大地に影響を与えた。

「!」

大地が、割れた。
シヴァさんの攻撃は発動していない。まだ詠唱途中で微々たる魔力が放たれているだけ。
にも拘らず、ドラゴンの地響きでは、揺れるだけであった地盤が、いとも容易く裂かれたのだ。
尚も地が揺れ、軋み、割れ、Rucheさんとの距離はみるみる開き、
やがて、シヴァさんの周囲は裂かれた地に囲まれ、逃げ場も無いまま、完全に孤立した。

「シヴァさんっ!」

「動かないで、るーちゃん!」

ボロボロの身体を引きずって歩いて来るRucheさんを、シヴァさんは止めた。

「……いやです」

「駄目だっ! 来るな!」

「いやです!」

難くなにシヴァさんの言葉に首を横に振り、よれよれの状態で、シヴァさんの元へと歩き出し、
崖の上に立つと、彼のいる地に向かって飛び込んだ。

「……何で」

「貴方にもしものことがあったら、村の皆に何て言えばいいんですか。
 村の存亡をかけた戦いだからこそ、これは貴方一人の戦いじゃない」

「でも、るーちゃん……」

「もう私に魔力は残っていないけれど、
 大地の揺れから、貴方を支えてあげる事ぐらいは出来る。
 ……やりましょう。共に、ドラゴンを」

彼女の言葉の後、呆然とするシヴァさんの手を取った。

「るーちゃん……」

シヴァさんの言葉に、手を取ったRucheさんは、ゆっくりと頷いた。
そして、暫くの後、それに応えるかのように、シヴァさんも、頷いた。
もはや何も言う事は無い。共に最後の力を振り絞って、ドラゴンにぶつけるだけ。

孤立する大地の上で、シヴァさんは黒いカードを掲げ、再び詠唱に入る。
……揺れの強さが増す。
大地が崩れ落ち、足場が無くなっていく。
それでも、詠唱を止めることは無かった。

「うおおぁぁぁぁっ!!」

声に呼応して、ようやく魔法が発動した。
その刹那、
青の晴天は一気に暗くなり、辺りを黒一色に染め上げた。

……天候が変わった訳ではない。夜になった訳でもない。

腕だった。
ドラゴンを覆い尽くす程の、巨大で、黒い腕。
見上げる間もなく、その腕がドラゴンを呑みこみ、悲鳴をあげることもなく、姿を消してしまった。

……言うまでも無く、Rucheさんは呆然としてしまった。
あれほど苦労して、戦った相手なのに、
こうも容易く、呆気無く打ち倒してみせたのだから。

だが、問題はこれで終わりでは無い。
詠唱に掛かった時間は、およそ一分。
その間にも、大地は崩れ、二人の逃げ場を失わせていたのだ。
詠唱も発動も終わった。だが、大地の揺れは収まらない。

「逃げるよ、るーちゃん」

そう言ってシヴァさんは、休む間もなく、
Rucheさんを両手で抱きかかえると、全速力で走り、助走をつけて割れた大地を飛び越した。

「……シヴァさん」

抱きかかえられたまま、Rucheさんは言った。
目と目があった瞬間。Rucheさんは暫くは何も言わず、
ただシヴァさんの目を見て、笑顔を送った。





――お疲れ様。

























「――……あーぁ、やられちゃった」

「……」

「全く、おたくの怪物もっとマシなのいない訳?
 ちっとも役に立ちゃしないじゃないのよ」

「うるさい、ドラゴンは私が飼っている中で、最も屈強で凶暴だ。
 ……認めたくは無いが、それが倒されたということは……」

「はん! お前が操る”ゲテモノ集団”なんかよりも、
 あんなちっぽけな村のが強かったってことかい?」

「そうではない、あれは、アクシデントだ。
 ”奴”さえいなければ、計画は順調に進んで――」

「負け犬の言い訳なんざ、聞く耳持たないよ。
 あーみじめみじめ」

「……何だと?」

……お、お二人とも、喧嘩は――

「黙りなっ! 新参者の分際が生意気な口叩いてんじゃないよ!」

っ……も、申し訳、御座いません……

「ちっ……まぁいいさ。
 認めたか無いが、あんたの言うとおり、奴さえいなけりゃ、
 あんな村、とうに灰と化していただろうにねぇ」

「あぁ……奴の力は強大だ。
 放っておけば、我々に害を及ぼす可能性が――」





「……違う」

「?」

「あの男の力は”強大”なんて言葉で推し量れるもんじゃない。
 奴は、人間じゃないんだ」

「? どういう意味だ。何を、言って――」

「分かんないかい!? ……シヴァ・トランス!
 どこかで聞いた名だろう?」

「シヴァ…………
 !! まさかっ、いや、そんな筈――」

「戦いの結末に見た、あの”黒いカード”
 この世のものとは思えない、凄まじい魔力が込められていた。あれは、人間が扱える代物じゃあない」

「……」

「”シヴァは破壊を司る神”――
 古来より伝わる文献にはそうある。
 つまり……奴は、破壊神さね」

「破壊神……」

「そう……だが、それよりももっと恐れるべき事があるんじゃないかい?」

「……?」

「今回の一件で、エルシオールの名は確実に上がる。
 村民という駒を見殺しにすることもせず、戦死者を出すことも無く、最後まで戦い抜いた指揮官、Ruche。
 そして、ドラゴンを倒した英雄、シヴァ・トランス……
 っていう語り具合で、各地の国や街に、二人の名が広まるだろう。
 そんなことになったら、どうなると思う?」

「?……どうなるというのだ」

「まず……シヴァ・トランスの力が各地に広まり、国々が奴の力を欲しようと血眼になるだろう。
 村民志願者は急増。国の援助も加わり、エルシオールは村でなく、確固たる軍事機関となる。
 これからは常駐傭兵では無く、国から精錬に訓練された兵士が派遣され、
 村と国の勢力が組み合わさった、”マルチフォース”(連合勢力)が結成。
 国との友好を築き、シヴァ・トランスを筆頭とした、軍隊が出来上がる。
 その名を聞き付け、力を持つ者、持たぬ者を問わず、居場所と名声欲しさに村民志願者は更に増加。
 ”軍隊”の力は拡大、大型モンスターを駆逐する為の、新たな力が誕生する。
 そんなことになったら……私達のような、”古い力”を頼って来る者はいなくなる」





「つまり、我々は……”ギルド”は、衰退の一途を辿る事になる?」

「その通りだよ。察しがいいじゃないか、”オーフィス”
 今のはただの推察に過ぎないが、近い将来、そうなる可能性は高いと考えていい」

「……」

「……まぁだが、焦る事は無い。あの男に対する策は考えてある」

「! 本当か?」

「……シヴァは、古の神。故に、説も多い。
 嘘か誠かはさておき、奴に関する説の一つには、”破壊神シヴァは一人の魔道師によって封じられた”とある」

「魔道師?」

「あぁ……そこで、だ」

――っ!?

「お前に仕事をやろう、”新参者”」

ぁ……わ、私に、ですか?

「そうさ、今の話を聞いていたろう?
 これよりお前は魔道師となって…………いや、違うね」



「これより、お前は……”魔女”として、エルシオールの村に潜入してもらう。
 村民に成りすまし、シヴァと接触し、親交を深め、
 最後は、殺す」

殺――!?
ま、待って下さいっ、私は……

「破壊神とて、所詮は男。
 お前のような女なら、すぐに村に迎えてくれるだろう」

!? あっ……や、やめ――

「ふむ……見た所、外見も申し分無い。こりゃ好都合だ。
 口説くも、落すも、やり方はお前の自由にすればいい」

……わ、私は。

「何だ? 何か不満でもあると言うのかい?」

不満などめっそうも……! 
ただ……ひ、人殺しは、その――

「あっははははは!」

!?

「滑稽だよ……お前、本当に話を聞いていたのかい?
 シヴァは人間じゃない。破壊神だよ」

……で、ですが。

「……ふむ、じゃあこうしよう。
 シヴァのことは”悪”だと考えるんだ」

悪……?

「シヴァはドラゴンを倒すことによって、自らの力を国中に示し、
 世界のパワーバランスを壊そうとする悪だ。
 我々ギルドの志は、”正義”
 正義は悪を斃し、悪を裁く」

「シヴァは悪。破壊神は悪」

悪……シヴァは、悪……

「そう、いい子だ。
 身寄りも、金も、名前すらも無かったお前を拾ってやった恩を、まだ忘れてなかったようだね。
 だが、喜びな、今からお前に名を……”魔女の名”を与えてやるんだから、
 シヴァの暗殺に成功した暁には、その名を広めることも出来るよ」

「名が広まり、ギルドが存続すれば、君に豊かな生活を約束しよう。
 人並みの、自由な日々を送ることが出来るんだ。

自由……

「そうだ、君がこれまで味わってきた悲惨な過去を思い出してみろ、自由な日々を過ごせたか?
 いいや、違う。少なくとも、私は知っている。
 ……今まで、辛かったろう?」
 
オーフィス様……





――やります。
やらせてください、その仕事。

「そうかい、良い返事だよ。
 お前がそう言うと思って、既に出発の支度は整えてある。
 仕事は早い内にこなすのがプロってもんだ。分かったらさっさと行きな」

はい! それでは……

「……」

「……」

「……言葉というのは、残酷だな」

「それをお前が言うかい? オーフィス。
 何が”今まで辛かったろう?”だよ」

「……シヴァ暗殺に成功した所で、待っているのは、国に追われる毎日。或いは死か。
 どのみち、もうあの者に人並みの生活など送れはしない……永遠にな」

「ま、純真さ故の不幸だね。あの子はまだ無垢で、か弱い。
 ……故に、魔女として開花させてやることも容易い」

「魔女がシヴァを殺せば、我らを阻害する”新たな力”は消える。
 その後、我々の手で魔女を始末すれば、国はギルドを改めて認め、名声は更に上がる。
 後はいつものように、大型モンスターを適当な村に差し向け、
 ギルドに頼らざるを得ない環境を作り出す」

「ドラゴンという貴重なモンスターを失ったのは痛手たが、
 まだ屈強なモンスターは数多くいる。
 あ・と・は――」

「……魔女次第、か」

「……ギルドの命運を、存亡をかけた大仕事だ。
 さぁ頼んだよ、魔女。…………いや――」










――ウィッカ。

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