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「ナオキ」ドキュメンタリー映画コミュのショーンを見い出したNHK制作統括プロデューサーは語る

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ショーンと映画「ナオキ」を観る上で貴重なエッセイだと思います。



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2009年7月27日 山形新聞 文化欄 連載

「熱く面白く- 山形国際ドキュメンタリー映画祭 2009」〔8〕

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NHK
編成局 制作統括プロデューサー  小谷 亮太



 最後のシーン。山形市の賃貸アパート。ベッドにもたれた熟年のやせ

男が「俺は影でいたかった」とつぶやく。「でも君が影をこわしちゃっ

た」と。画面の外で「ソーリー」と監督が英語でひとこと。男は笑うで

もなく、はにかむでなく。

 この一瞬が僕はドキュメンタリー映画「ナオキ」のなかでもっとも好

きだ。あぁ辿りついたね、という感覚。砂時計の砂が落ち切った、とい

う感覚。英国人監督がナオキという男を抱きしめる感覚。大げさに言う

なら「山形のベッドの傍らに、やっと見つけた国際理解」。この瞬間の

ために109分見続け、この瞬間のため足かけ5年、この英国人監督と

ぼやきあったのだ、と。

 山形国際ドキュメンタリー映画祭2009のインターナショナル・コ

ンペティション部門で上映されることになった「ナオキ」のことだ。

 2005年アムステルダム、冬。運河に浮く舟のレストランで僕はシ

ョーン・マカリスター監督と出会った。舟に集まった各国制作者との英

語の議論に疲れ、舟の屋根にはい出し冷冷気に触れているとショーンも

はい出した。片手にビール、千鳥足で運河に落ちそうな男、ヨーロッパ

のインテリジェンスを感じない風貌。ショーンが独特の履歴を持つ男と

知るのは、後になってからだ。

 酔っぱらいのショーンはジーンズのポケットから紙束を出し僕に渡し

た。恥ずかしそうに言う。「企画書なんて初めて書いた。だからいい企

画のはずがない。でもBBCが書けって言うから書いた」。そのシャイな姿

に、人間としてのショーンが好きになった。そして帰国便で企画書を読

み、監督としてのショーンに夢中になった。「ナオキ」はNHKの実験を試

みる番組「ハイビジョン特集」のシリーズ「東京モダン」の一作。NHKの

制作統括として僕はかかわり始めた。

 最初の企画書の舞台は山形ではなく渋谷の英会話教室。スリリングな

企画だったが、監督来日と同時に英会話教室が倒産しショーンの格闘の

幕が開いた。別の英会話教室を探す日々、交渉相手は英語が通じず、取

材意図を寝掘り葉掘り聞かれ彼の望む「自由」は皆無だった。やがてシ

ョーンはブログに「日本が憎い」と書き始める。英語で胸を開き話せる

相手を探し、作品の舞台も主題も転々とした。英会話教室からサラリー

マン社会...。だがぶれないことがあった。それは日本に対する「な

ぜ?」だ。

 なぜ人々は胸を開いて話さない?なぜ日本社会は見えない壁ばかりつ

くる?なぜサラリーマンは自己犠牲を払いつつむんrの内を吐かない?

「日本より、すべてが独裁者に管理された国の方が取材しやすい。コン

トロールされているように見えるのに、その正体が見えない」

 こうした疑問を外国人から問われる日本人は多いと思う。そして必ず

や答えに窮する。ショーンは答えを足かけ5年探し続けた。宿泊費節約

のため東京のラブホテルに身を寄せ...。僕も菜食主義者の彼と野菜を食

べ、出口のない議論を繰り返した。

 山形が舞台の「東京モダン」は、今年1月放送された。ナオキさんは

ショーンと付き合い、僕らが答えに窮した質問に少しずつ答えていく。

ある時は言葉で、ある時は態度で。その過程を、山形映画祭でもぜひ堪

能して欲しい。本作の素敵な点は、ショーンが5年も憎んだ日本を抱き

しめている点だ。5年憎んで芽生えた深い情け。表層的文化論ではな

い。本作は一人の人間が、包まれ生きたとき、どうなっていくのかを映

し出している。国際理解、文化交流と言われて何年も経つが、ほとんど

が「好奇の目」に終わる。「そんな時代は終わったはず」と本作は問い

かける。

 撮ることが、撮る側にも撮られる側にも闘いであり、撮る英国と撮ら

れる日本の闘いだ、と感じさせる本作。もちろんショーンも制作費を返

し、闘いからの撤退を言い出す時があった。美人の調査助手を紹介し思

いとどまらせたかった。でも真に思いとどまった理由は、闘いに応じた

ナオキさん、協力してくださった郵便局ほか山形の人々の存在だ。深く

感謝したい。

 こうして英国から来た男に丸裸にされ、生きる意味を問うはめになる

ナオキさん。鎖国していた男の開国の瞬間が109分描かれる。本作が

山形で撮影されたこと、山形映画祭で上映されることは、国境を越えた

理解とは何かを知る上で、深い意味があると信じている。

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