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物語を始めようコミュの【文】永遠の抱擁が始まる

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 ジャンル・【フィクション】【永遠の抱擁シリーズ】【お笑いありホラーあり涙あり】【短編集のような長編】【死神エリー】【恋愛】【既に画像がアップされているのは気にしないで】

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 またかしこまった店を選んだものだなと、私はキャンドルの向こうに座っている彼を眺める。
 正装している彼は、なかなか様になっていた。

「たまには背伸びして、夜景の綺麗なレストランでデートってのも、良くないか?」

 そう誘われた時は「最近はずっとお金がないって言ってたクセに」と意外に思ったものだが、普段は2人で部屋でだらだらしながら借りてきたDVDを見るだけだったし、たまに外出しても居酒屋で飲むぐらいで、デートらしいデートをしなくなってもう長いから、たまにはこういうのも新鮮で良い。

「たまにするから、贅沢は贅沢に感じるんだ」

 恩着せがましく言って、彼はメニューをこちらに差し出す。

 食前酒で乾杯をし、私はふと、今朝のニュースを思い出した。

「ねえ。あのニュース、もう見た? 今度ので3組目だって」
「ああ、あの抱き合った遺骨ね。君は1組目が発見された時から興味深々だったな」

 最初の発見はイタリアでされた。
 まるで愛し合っている最中に亡くなったかのような体勢。
 互いを求めるように、愛でるように、抱き合った男女の遺骨。
 2人が果てた後、何者かにそのような体勢に寝かせられたのか、先立たれた方が後になって相方の遺体に寄り添ったのか、死を覚悟した2人が永遠の愛を誓い合って同時に人生を終えたのかは、今となってはもう知るよしもないが、とにかく白骨化した男女の遺体は発見された。

「すっごい素敵だよね」

 私としては、どうしてもロマンに溢れたドラマを空想してしまう。

 こういった抱き合った男女の遺骨は、日本ではいつしか「ロックペア」と呼ばれるようになっていた。

「岩のように白骨化したからロックなのか、互いが互いに鍵をかけるように守り合っているからロックなのか、いまいち語源が解らないな」
「骨のロックじゃない? 単純に考えると」
「そういう歌詞のロックミュージックが、どっかにあるからかも知れないだろう」
「想像力豊かなことで」

 談笑していると、前菜が届いた。
 私達は行儀よく手を合わせ、頂きますと軽く頭を下げる。

 ロックペアには、共通点があった。
 抱き合っている男女は3組とも、そこそこに若いらしい。
 どれも5000年から6000年前の住人だと推定されている。

 不可思議なのが、発見場所が様々で、散らばっていることだ。
 イタリア、アメリカ東部、エジプト。
 特定された地域での風習で遺体同士を抱き合わせたのではなく、たまたま偶然それぞれの理由によって、抱き合う形で白骨化したと解釈するべきだろうか。
 今世紀になって、初めて続々と発見されることも謎だ。

「それにしてもさあ、5000年も昔、どんなドラマがあったんだろうねえ」

 食事の合間にも、私はロックペアの話題に夢中だった。

「ホント素敵。永遠の愛って感じでさ」
「そうでもないかも知れないぞ」

 彼はゆっくりとフォークを置いた。

「彼らは、愛し合ったわけではないかも知れない」
「そりゃ、そうだけど」
「今から話すのは、とある1組の怖い話だ」
「急に何?」

 彼は前菜の続きを楽しむことなく、テーブルの上で両手の指を組み合わせ、肘をついて私を見つめる。

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<振り向かざる者>



「こんな遅くまで、ありがとうございました。馬車、手配しましょうか?」
「いえ結構。ここから遠くないので、歩いて帰りますよ」

 診察にずいぶんと時間がかかってしまった。
 患者の自宅を訪問した時にはもう既に日が暮れていたから、きっと今頃は酒場も閉まっているに違いない。

 玄関まで見送ってきた主人に、「奥さんをお大事に」と告げる。
 自分で放った言葉が、私の胸を絞めつけた。

 ランプに火を灯し、コートの襟を立て、闇に向かって歩き出す。

 街は眠り、空気は冷たく、霧は深い。
 街灯の松明やランプは、ほとんどが消えてしまっている。
 いくら進んでも細い路地から抜け出すことができず、やはり馬車を頼めばよかったと、私は若干の後悔をした。

 闇のせいだ。
 完全に自分の位置を見失ってしまった。

 手に持ったランプを胸の辺りまで掲げ、周囲を巡らせる。
 せめて現在地だけでも把握したい。

 明かりが、私の近くにある様々な物を照らす。
 酒樽や木箱、レンガの壁。

 住宅とアパートの隙間に白い影が浮かび上がり、私は手を止める。
 濃霧の夜中とはいえ、白いワンピースは目を引いた。

 女の後ろ姿だ。
 長い黒髪が揺れることなく垂れ、背中を隠している。

 建物の陰に、女が黙って立っていた。
 足を組むでもなく、歩き始めるわけでもなく、ただ直立して、体の正面を奥に向けている。
 私が持つランプの明かりのせいで影ができているはずなのに、女は微動だにせず、無言のまま通りに背を向けていた。
 上着も着ずに。

 背筋に鳥肌が立つ。
 先月見た時と、全く同じ姿だ。
 そしてこの女は、やはり妻に似ている。

 妻が失踪したのは1ヶ月前だ。
 本屋で万引きと間違えられた時は、自分の潔白を証明した上で店員を責め返すような、気の強い女だった。

「確かな証拠もないのに先走って、人を決めつけることが不条理だと思うの。あたしにとって、これ以上ない侮辱よ」
「そう怒るなよ。その店員も、ちゃんと謝ったんだろう?」
「許すとか、許さないじゃないの」

 できることなら、あの明るい食卓をいつまでも体験し続けたい。
 あの頃に、戻りたい。
 私は、妻を心から愛していた。

 妻が行方不明になって3日目になると、私は深夜を待ち、人目を避けるようにして家を出た。
 従者と馬車を街の郊外に待機させ、大通りではなく、ひっそりとした裏路地を進む。
 迂回になっても構わない。
 誰かに見られるわけにはいかなかったのだ。
 したがってこの時は、暗がりにもかかわらずランプを点けていなかった。

 闇の中でも、白いワンピースは目を引く。
 積み上げられた木箱と物置の間に、女は立っていた。
 壁に前面を向け、ただ真っ直ぐに立っていた。
 私の足音に反応もせず、ただ立ち止まっていた。

 不気味に思いつつ、その場を足早に離れる。

 帰路につく頃はもう明け方で、私はやはり誰にも見られないよう、狭い道を急ぎ足で進んでいた。
 立ち尽くす女のことを思い出し、物置の陰に視線を投げる。

 女は、まだそこに立っていた。
 何も言わず、上着も着ずに、壁に向かっていた。
 妻に似ていると、そこで初めて思った。
 しかし私は声をかけず、長い黒髪の前をそそくさと通り過ぎる。

 あれから1ヶ月。
 今、目の前に、あの時と同じ後ろ姿がある。

 彼女は何故、振り向かないのだろう。
 寒空の夜分に薄着のまま、何もない方向に体を向け、何をしているのだろう。
 普通なら誰も通らないこんな路地に、どうしているのだろう。

 疑問が渦を巻き始める。

 この女は今、どんな顔をしているのだろう。

 女の背中にそっと近づき、明かりを向ける。
 後ろ姿はやはり妻とそっくりで、ワンピースの柄にも見覚えがあった。
 しかし、こいつが妻のはずがない。
 あの頃には、もう戻れないのだ。

 出所不明の恐怖心をこらえ、私は息を飲んでから、ついに女に声をかける。

「君、どうかしましたか?」

 彼女は、それでも振り向かなかった。
 私に背を向けたままで、返事だけをする。

「戻れないの」

 頭の片隅にあった不安通り、妻の声と同じに聞こえた。
 意図せずに、私の喉の奥から小さく悲鳴が上がる。

 こいつが妻のはずがない。
 いくら背格好や服装、声までもが同じであっても、この女が妻であるはずがないのだ。

「貴様、一体誰だ!」

 怒鳴りながら、先月の出来事を思い出す。
 人目を避け、街から出た夜更け。
 この女の後ろ姿を初めて目にしたあの日、私は街の郊外で馬車に乗ると、従者に告げた。

「夜分にすまんね。実は、妻は誘拐されたらしいんだ。今日になって、脅迫状が届いていた。指定する時刻に、ある場所まで来い、と」
「本当ですか」

 従者は目を大きくし、馬にムチを入れた。

「一体どうして誘拐なんか。あんなにいい奥様を」
「それは解らない。とにかく街を出て、私が言う場所で降ろしてくれないか」
「かしこまりました。ところで旦那様、どうして雨具を?」

 雨も降っていないのに、私はこの夜、レインコートを纏っていた。

「森の中が目的地らしくてね、コートが汚れないよう、着込んできたんだ」

 数十分も走れば、道は木々に囲まれる。
 森を分断するように作られた道。
 このどこかに、目指す場所がある。
 目印は木に立てかけられた鉄の棒で、赤い布が巻きつけられているはずだ。
 従者にそのことを教えると、彼はほどなくして、目的の場所を見つけてくれた。
 馬車が減速し、やがて止まる。

「旦那様、ありました。赤い布付きの、鉄の棒です」
「ありがとう。君はここで待っていてくれたまえ」
「くれぐれもお気をつけて」

 馬車に背を向けたまま、従者には片手を上げて応え、森へと入る。
 私はしばらく、木の陰でじっと身を潜めた。
 静かに顔を出すと、木と木の間から、馬車の松明に照らされた従者の横顔が見える。
 見れば見るほど、彼は若く、整った顔立ちをしていて、そのことがさらに私の怒りを増幅させた。

「君!」

 私は息を切らせ、馬車の前に踊り出る。

「妻が…! 妻が…!」
「どうしました!?」
「妻が、殺されている」
「なんですって!?」
「一緒に来てくれ!」

 森の奥地に向かい、先導する。
 しばらく行くと、妻の亡骸が横たわっていた。

 私が殺したのだ。
 裏切り者の妻を、3日前に、この手で殺した。

「なんてこった…! 奥様が…」

 従者が遺体に駆け寄る。

 妻は、白いワンピースの上に何も羽織っておらず、確認するまでもなく死亡していることが判る程度に、顔を負傷していた。

「奥様が…」
 
 もう1度言って、従者はその場にしゃがみ込んだ。
 彼の低くなった頭を、私は見下す。

「おいお前」

 語気が荒いので、自分に向けられた言葉だとは思わなかったのだろう。
 従者が顔を上げるまで、しばらくの間があった。
 彼の目が、ようやく私を見る。
 そこには悪魔のように憤慨する、怒りに燃えた私の表情が映ったはずだ。

「お前、妻と寝ただろ」

 不思議そうな顔をした従者の顔を目掛け、私は一気に鉄の棒を振り下ろす。
 赤い布が素早く、宙に弧を描いた。

「私の女とそんなに寝たかったら、永遠に寝てろよ」

 気が済むまで殴って、彼の死体を妻と抱き合わせる。
 もしいつか、誰かに発見されるようなことがあっても、これなら心中だと思われるだろう。

 馬車を走らせ、湖に凶器と、返り血に染まった雨具を捨て、街に戻る。
 体は疲れていたが、興奮からなのか、なかなか寝つくことはできなかった。

 2人を殺しても、腹の虫が治まることはない。
 あいつらは、私を裏切っていた。
 浮気をしていたのだ。
 昔の患者が切り出した世間話が、発覚のきっかけになった。

「先生の奥様は、従者にも優しい、いい奥様ですね」
「と、いいますと?」
「いやね、こないだも、2人で買い物してまして、声をかけたんですよ」
「ほほう、そしたら?」
「いや、挨拶だけです」

 疑わしく思い、急患だと偽って外出し、私は密かに妻を見張った。
 私が見たのは、市内で評判の良い高級宿に入っていく、妻と従者の楽しげな笑顔だ。

 結婚して5年。
 あれだけ愛していたのに。
 あれだけ愛してくれていたのに。

 強く噛み締めたせいで、奥歯がかけた。

 帰ってきた妻に「おかえり」とも言わず、今日は何をしていたのかを問う。

「特に何もしてないわ。夕食の買い出しに行っただけよ」

 妻の無邪気な口調が、余計に勘に触った。
 楽しそうに笑いやがって。
 私以外の男にも、その顔を見せたのか。

「嘘をつけ嘘を!」

 一声で喉が枯れそうになるほど、私は取り乱し、拳を握った。
 そこからは、あまり覚えていない。
 気がつけば血にまみれた妻が横たわっていた。

 森まで死体を運び、私はあの忌々しい従者への報復を巡らせる。

 心中と見せかけて、死体を野ざらしにしてやろう。

 思いつき、実行してはみたものの、気分は最悪だった。

 周囲には「妻に蒸発されてしまった男」としての毎日を送る。
 後日になって、妻の妹が訪ねて来た。

「姉は、あなたを見捨てたわけではないと思うんです」

 彼女は、最初にそう切り出した。

「姉とは、いつも手紙のやり取りをしていたんです」
「手紙…?」
「ええ。『もうすぐ結婚5周年だから、主人に内緒でプレゼントを買った』と」

 結婚記念日を、そういえば私は忘れていた。
 唖然とする私の姿は、彼女には妻の身を案じているように映っているのだろう。
 義理の妹は続けた。

「ちょっと奮発して、評判のいい宿も下調べするつもりだと、それは楽しそうに書いていました」
「それは、いつの手紙です?」
「姉がいなくなる直前の物です」

 彼女は言って、私に封筒を差し出してきた。

 妻の部屋を調べると、引き出しからは小さな包みが見つかる。
 開封するとネクタイピンで、「親愛なる貴方へ」とカードが添えられていた。

 今まで、私はここまでの後悔をしたことがあっただろうか。
 妻は浮気などしてはいなかった。
 それなのに、私は妻を、最愛の女性を手にかけてしまった。

「姉は、あなたを見捨てたわけではないと思うんです」

 妻の妹は、もう1度同じことを言った。

 私は、とんでもないことを仕出かしていたのだ。
 悔やんでも悔やみきれず、仕事に明け暮れることでしか、理性を保てなかった。
 仕事に熱中することで、現実を忘れたかった。
 昼夜を問わず、どこにでも駆けつけ、今夜のように、真夜中に帰ることも珍しくなくなった。

 あの頃に、妻と平穏に暮していた、あの頃に戻りたい。

「戻れないのに」

 あれから1ヶ月。
 私は今、聞けるはずのない声を、こうして耳にしている。

 間違いなく、1ヶ月前に殺した妻と同じ声だ。
 今目の前にあるこの背中の持ち主は、やはり妻なのだろうか。
 いや、そんなはずはない。
 死者は絶対に帰らない。
 それは、医者でなくとも知っている前提だ。

 もう1度、私は震えた大声を出す。

「お前は誰なんだ!」

 肩を掴み、乱暴に引き寄せる。
 冷たく堅い感触がして、慌てて手を離した。

 途端、意識が遠のく。

 女の顔がこちらを向いた。
 血だらけの顔面は腫れ上がり、怒りの形相凄まじく、焦点の合わない瞳で私を睨みつける、それは間違いなく妻の顔だ。
 妻の、死に顔だった。
 錯覚などではない。
 薄れつつある意識でも判別ができる。
 やはり妻だった。

 大きく見開いた妻の目から視線を外せない。
 私は声を振り絞った。

「許してくれ」

 妻の腫れた口元が、ゆっくりと動く。

「許すとか、許さないじゃないの」

 そうだよな。
 そう返したかったが、私にはもはや喋ることさえできなかった。
 視界が白く染まり、足の力が抜ける。

 妻が、私を許すはずがないのだ。
 それを私は、最初から知っていた。

「確かな証拠もないのに先走って、人を決めつけることが不条理だと思うの。あたしにとって、これ以上ない侮辱よ」

 回想の中から届いた声なのか、今目の前にいる亡霊の言葉なのか、朦朧としている私には区別ができない。
 私は膝をつき、倒れ込む。
 石の地面に頬が触れたが、冷気をも感じ取れない。
 地面に打ちつけた際には痛みもなかった。
 まだ目蓋を閉じていないが、真っ白で何も見えない。

 このまま死ぬのなら、せめて私が妻と抱き合って果てたい。

 最後の願いが叶わないことも、私には判っていた。
 妻の遺体は今も、従順で罪のない従者と共に、森の中にいる。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「永遠の抱擁2」に続く。
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=26260753&comm_id=2906103

コメント(3)

このシリーズ、大好きなんですよ。

やっぱり、めささんには才能がありますね。ウッシッシ

きっと、本とかにしてもベストセラー間違い無しですOKOK
うわうわうわぁ…

背中がぞくりときました泣き顔
すごく面白かったですexclamation ×2exclamation ×2exclamation ×2exclamation ×2


こんなに凄い物語をつくれるなんてスゴイですねぴかぴか(新しい)ぴかぴか(新しい)ぴかぴか(新しい)ぴかぴか(新しい)

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