「雨のあとに虹」　コミュニティコミュの雨のあとに虹・Ｐａｒｔ４　その３９

「長い獄中生活だったわ。」
斉藤弘子は携帯電話を耳に当てて言った。
「出所して来たのね？」
きみ子は言った。
「やっと出られたわ。」
弘子が言うと
「これからは連絡をないでほしいわ。」
きみ子は言った。
「少しだけ力を貸してくれれば終わりにする。」
弘子が言うと
「解かったわ。」
きみ子は言った。
「その年で堅気になるつもりなの？」
弘子が言うと
「今まで人を騙してきたけれど卒業するわ。」
きみ子は言った。
「そんなに冷たいことを言わないでひとつだけ頼むわよ。」
弘子は優しい口調で言った。
「１度だけよ。」
きみ子が言うと
「１度で充分よ。」
弘子は言った。駅前広場は行き交う人が多かった。弘子はきみ子との通話を終えて携帯電話を鞄にしまった。懲役１年６ヶ月の実刑判決が確定して服役した弘子にとって外の空気は心地よかった。

「ここでいいですか？」
小松は言った。
「ありがとうございます。」
直子が言うと
「お疲れ様でした。」
小松は言った。直子は笑顔で頷くと乗用車のドアを開けた。小松は直子が外に出たことを確認すると軽く１度だけクラクションを鳴らした。
「早く帰らないと黒岩監督に叱られるわよ。」
直子は笑顔で言った。黒岩が運転する乗用車は交差点を右折すると直子は駅の改札口に向かって歩き出した。駅前広場には多くの人が歩いていたがその中に弘子の姿もあった。直子が足早に歩き出すと前から歩いてきた弘子とすれ違った。弘子は直子に気づかなかったが直子は弘子を見て違和感を覚えた。その違和感はすぐに消えたが直子は大きな不安感に襲われていた。

「あなたが高村さんの婚約者なのですか？」
きみ子は言った。
「はい。」
久美子が言うと
「トレンドカフェの店員さんが婚約者とは高村さんも頑張ったわね？」
きみ子は言った。
「あまりはっきり言わないでくださいよ。」
俊之は照れた表情で言った。
「本当のことでしょう？」
きみ子が言うと
「本当のことですよ。」
久美子は言った。
「久美ちゃんまではっきり言うね？」
俊之が言うと
「男はそのくらい元気がないとダメよ。」
きみ子は言った。
「栗山さんも言う時は言いますね？」
久美子が言うと
「私の息子も生きていれば高村さんと同じくらいなのよ。」
きみ子は言った。
「息子さんは亡くなられたのですか？」
久美子が言うと
「突然の腎臓癌だったわ。」
きみ子は言った。

「直子さん。」
泰子は言った。直子は泰子を振り返えると安心したような表情をした。泰子が視線を合わせると
「ちょうどよかったわ。」
直子は大きな声で言った。
「何かあったのですか？」
泰子が言うと
「斉藤弘子が出所して来たわ。」
直子は言った。
「斉藤弘子とはどなたですか？」
泰子が言うと
「塚原さんがまだお手伝いしてくれる前の出来事だったわ。」
直子言った。
「何があったのですか？」
泰子が言うと
「斉藤弘子は栗山きみ子と組んで詐欺をしていたこともあります。」
桜田は泰子の後ろで言った。泰子は後ろを振り返ると視線を合わせた。直子も桜田を見ると横には菊池も立っていた。
「桜田警部！」
泰子は言った。
「斉藤弘子は２年ほど前に逮捕されて服役していました。」
桜田が言うと
「話が複雑になってきましたね？」
菊池は言った。
「我々は捜査二課の担当から情報を聞きだします。」
桜田が言うと
「私は笹川さんに報告します。」
泰子は言った。

「ふたりとも幸せになるのよ。」
きみ子は言った。久美子が頷くと俊之は微笑んできみ子を見た。公園のベンチに３人が座る姿は家族のように見えた。
「ありがとうございます。」
俊之が言うと
「私は俊さんを幸せにします。」
久美子は言った。
「そこで宣言をしなくていいよ。」
俊之が言うと
「亡くなられた息子さんのためにもお約束します。」
久美子は言った。
「あなたも幸せにならなければいけないわよ。」
きみ子が言うと
「はい。」
久美子は言った。
「きみ子さんは僕の母親みたいですよ。」
俊之が言うと
「私が母親代わりになるって言ったはずよ。」
きみ子は言った。
「ありがとうございます。」
俊之が言うと
「あなたは私の息子だと思っているわ。」
きみ子は言った。俊之が小さく頷くと久美子は瞳に少しだけ涙を浮かべていた。