「雨のあとに虹」　コミュニティコミュの雨のあとに虹・Part２　その８３

「今夜も出かけているのか？」
増田は携帯電話の向こうにいる貴久枝に言った。
「友達に誘われて食事会に来ているのよ。」
貴久枝は言った。
「帰りは遅くなりそうだな。」
増田が言うと
「遅くなるから食事は適当に外で済ませてください。」
貴久枝は言った。
「解ったよ。」
増田は短く言った。
「電話を切るわよ。」
貴久枝は言った。貴久枝は増田の返事を待たずに電話を切った。
「俺に高村のような幸福が来る日はないな。」
増田は窓外の夜景を見てから言った。三友電機の社員はほとんどが帰宅しております増田はひとりで仕事をしていた。

「日本にも不況が来そうだね。」
堤下が言うと
「来週から再来週にかけて金融ショックがあるはずですよ。」
南雲は言った。
「私は席を外しましょうか？」
雅子が言うと
「ママにも聞いてもらおうよ。」
堤下が言うと
「それはママが私と付き合う役得だよ。」
南雲は雅子に言った。
「君たちはそういう付き合いなのか？」
堤下が言うと
「これからママを落とすから結果は同じですよ。」
南雲は言った。
「金融ショックが来ると多くの企業に大きなダメージがあるね？」
堤下が言うと
「特に自動車や電機業界はダメージが大きいはずです。」
南雲は冷静に言った。
「比較的影響が少ない業界はどこになるかね？」
堤下は言った。
「どこも大変でしょうがあえて言うなら公共事業でしょうか？」
南雲が言うと
「総武グループはどうかね？」
堤下は言った。
「総武は健全経営で財務体質がいいですから影響は少ないですよ。」
南雲が言うと
「あの若い社長がいる会社がそんなに優良企業なのか？」
堤下は言った。
「白仁正樹オーナーも高村俊之社長も優秀な人材ですから危機管理が行き届いています。」
南雲が言うと
「私は健全経営の会社を見ると潰したくなるよ。」
堤下は言った。
「ふたりとも恐いお話ばかりですね。」
それまで黙っていた雅子は言った。
「国家とはそういうものだよ。」
堤下は勝ち誇ったように言った。
「私には難しいことはよく解りませんわ。」
雅子は俊之のことが心配になって言った。

「こちらです。」
田中は明るい日差しが差すダムの横に社用車を止めから言った。
「この先に延長してくる総武鉄道の駅からここまでは総武バスが走る予定です。」
陽子は言った。
「内堀さんは逆らわないで素直に作業をしているようだね？」
俊之が言うと
「今のところはおとなしく仕事をしていますね。」
陽子は言った。
「このダムは大きいね。」
俊之はダムを見て言った。
「戦後にまもなくダムが建設されて首都圏の電力供給をまかなっています。」
陽子は言った。
「あそこにいる人は何をしているのでしょうね？」
田中は疑問に思いまがら言った。俊之と陽子は田中が指差す方向を見た。
「彼はずっと立ったまま動かないでいるね。」
俊之が言うと
「やはり高村社長も気づいていらっしゃいましたか？」
田中は言った。

「こんなところで見つけるとは縁があるな。」
国分は小さな声で言った。国分が赤信号で立ち止まった交差点の向こうに久美子が立っているのを見た。国分は陽子との復縁を願って陽子に付きまとっていたが矢島が現れたあとに俊之も現れた。さらに三田との関係で育子や桜田がまでが国分の前に現れた。北京では青い龍までもが運に見放されたように国分の野望を失敗させた。国分は悔しさでいっぱいである。信号が青に変わって国分が歩き出すと久美子は国分に気付かずに交差点を歩いて来た。すれ違う瞬間に国分は持っていたナイフで久美子を刺そうと考えていた。久美子の姿が国分に近づいて来ると国分はナイフを見えないように隠して持っていた。久美子の身体が国分とすれ違う時に国分はナイフを持った手を動かそうとしたが久美子は無事に交差点を渡り終えていた。瞬時に国分の身体は空中を回転したあとに腹部に激痛を感じていた。
「馬鹿なまねは止めなさい。」
見覚えがある男は国分に言った。久美子はその声に反応してすぐに振り返った。
「痛てえ！」
国分は悲鳴のような声で言った。国分が交差点でうずくまると。
「君は北京での出来事を反省していなかったのか？」
男は国分に言った。
「大輪さん！」
久美子は男の顔を見ると驚いて言った。
「もう一度久美子さんやミスター高村に会いたくなりました。」
大輪は笑顔で久美子に言った。
「痛てえ！」
国分は言った。
「北京ではお世話になりました。」
久美子は大輪に言った。
「私は日本人が嫌いでしたが訂正します。」
大輪が言うと
「どうかしたのですか？」
久美子は言った。
「一部の悪い日本人が嫌いなだけです。」
大輪は微笑みながら言った。