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如意法師様にきいてみよう!コミュの奏

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あなたは「人生をやり直したい」と思ったことはないだろうか?
そこに深い後悔が伴わなくとも、「もしこういう選択をしていたのならば、もっと素敵な人生を歩いていたのかも知れない」という想像くらいはあるのではないだろうか。
今回の物語には神が存在する。その神は一度だけ人生のやり直しをさせてくれる神である。
だからきっとあなたは幸せになれるはずだ…。


【sideA〜上條浩司】

おれは幸せかも知れない。少なくとも不幸せではない。しかし人生において後悔がない、と言えば嘘になる。
事実、あまり努力というものをしてこなかった。
学力に応じた地元の三流大学を卒業し、今は地場の食品会社の営業をしているが、この会社に至るまではいくつか職を転々としてきた。待遇面などもあるが、やはり「自分には他に向いていることがあるのではないか?」という疑念が常につきまとっていたからだ。

「経済学部」という専門性の無い、極めて「つぶしオンリー」なところを卒業したおれにとって、営業という仕事は順当というよりかは消去法で選んだ職性だった。
大学時代から付き合っていた彼女と三年前に結婚し、今では息子が1人いる。おれに似て、大人しく可愛い子供だ。
まだまともに言葉も話せない筈なのに、テレビ番組を見せてやると食い入るように見ている。
そういえばおれにもそういうところがあったらしい。
とにかくテレビが大好きで、漠然とながら「いつかはテレビ番組を作りたいなぁ」と思っていた。

ある日、朝起きると、おれは高校生に戻っていた。高校一年生だった。
本来はちょっと奥手で、初体験は22歳だったが、おれはすぐに彼女を作ることにした。
そこそこの恋愛経験を積めば自分がどんなタイプの女性を得意とするか分かっていたし、当時好きだったマリ子ではなく、淳子となら付き合うことが出来るのではないか?と計算した。
そして計算は概ね的中した。少し妥協さえすれば、高校生を落とすことくらいそんなに難しいことではない。
おれは久しぶりに若い肌を堪能した。淳子からは後日「手が早い」と揶揄されたが。

学生の頃は漠然と「早く働きたいな」と思っていた。仕事が大変なのは分かるが、勉強が嫌いだったし金も自由になる。
しかし現実は厳しい。勉強なんて今考えると何てことはない。

おれは少し勉強するようになった。
どうせならある程度有名な大学くらいには行っておいた方が良い。
その為に必要な学力と勉強時間を逆算し、それ以外の時間は淳子と遊んだり、適度に悪いこともした。
何かあって先生に怒られたとしても所詮教師だ。彼らは職員室を社会だと勘違いしている。
一般的な大人と比べてかなりズレているし甘えている。時におれは教師を見下し、余裕を持って論破することも出来た。

とりあえず、早稲田の政経に合格したおれは高校を卒業すると上京した。淳子とは半年ほど遠距離恋愛をしてそして別れた。
大学ではかつてと同じように遊び回った。大学のレベルは上がっても在籍する学生のレベルは大して変わらないような気がする。
コンパで先輩に「一気」させられそうになったのでぶん殴った。
適当に単位を取り、適当に遊んでおれは大学を卒業した。
就職氷河期ではあったので、おれは地元のテレビ局に就職を決めた。
地元にさえ帰れば、銀行だろうがどこだろうがかなり有利に就職活動を進めることが出来た。
時代性は同じはずなのに、かつての大学とは全く企業の反応が違う。

数年間は総務の方にまわされ思うような仕事は出来なかったが、とりあえず親戚や友人に自慢することは出来た。どこかのバーなんかでも「RSBの社員」というだけで聞こえは良かった。
しばらくしてようやく深夜のバラエティー番組制作に携わることになった。
地元のいろんな飲食店やイベントを特集し続ける日々。ローカル局は非常に保守的で意外と退屈な仕事ばかりだった。
それでもモデルや地方タレントと仕事する機会が多く、気がつけばラジオのパーソナリティの女と付き合うことになった。
正直自分のルックスを考えるとかなり高嶺の花かも知れない。

30が目前となり、おれは「やり直し」した時くらいの年齢に達していた。そろそろ身を固めても良い頃だ。

ある日、おれは喫茶店での打ち合わせが終え、資料を求めるために本屋まで歩いていた。
スクランブル交差点は赤から青に変わる。
ふと、前から見覚えのある女性が歩いている。

妻だった。厳密には「やり直し」する前の妻「小百合」だった。
小百合は知らない男と手を繋いで楽しそうに歩いている。
つい声をかけそうになってしまった自分を抑えた。彼女は一瞬こちらを一瞥し、おれは幸せそうな背中を眺めていた。

もしかしたらおれはすごくかけがえの無いものを失ったのではないだろうか?
そして本来生まれている筈の息子のことを思って、涙が零れ落ちた。


【side―B〜新開悦子】

平凡な生活。平凡な日々。
家事と育児の繰り返し。この不況のさなか、専業主婦でいることができる私は幸せなのかも知れない。
しかし私には夢があった。普通は結婚や自分の限界を痛感することで夢は失われていく。
小さい時に観た「東京ラブストーリー」の赤名リカに憧れて女優を目指した時もあった。私にもう少し頭脳やコネがあれば、テレビ局の女子アナになりたい気持ちもあった。
具体的な夢はよく分からない。とにかく有名になりたかった。

ある朝、母に叩き起こされた。
なんと短大の入学式の朝だった。
慣れるのに数日かかったが、私は「やり直し」を活かすことにした。

高校時代、演劇部でならした私は短大在学中に福岡にあるタレント事務所に所属するようになった。
とは言っても、短大卒業後はそれだけで生活出来るわけもなく、夜の仕事と掛け持ちしていた。

たまに結婚式場のモデルや地元企業のCMに出演するようになったが、それでも街でサインをねだられるような事などはない。
しばらくしてラジオ番組を持たせてもらうことになった。日曜の午後二時からの一時間、うちの事務所が枠を持っていたのだが、前任である先輩が結婚を機にタレント業をやめることになったのだ。

番組の内容としては、リスナーからのお便りを読み上げ、リクエスト曲を流すというシンプルな内容だったが、人間にはいろんな人生や悩みや出来事がある―――リスナーからのお便りは人生の縮図だ。人生の様々な場面で音楽は奏でられる。 そういう想いもあって、番組のエンディングには必ずスキマスイッチの「奏」を流した。

「・・・・さて、お送りしました曲は斉藤由貴の『卒業』でした。私は中学の卒業式の時、結局好きだった人からボタンを貰うことが出来ませんでした。私が勇気を持って彼の元に行った時は既にボタンがなくなってたんですよ。スポーツマンでモテてたんですね。そんな彼も今では私の友達と結婚して、先日赤ちゃんが出来ました。さて続いてのお便り――」

さすがに中学時代までやり直したい、とは思わない。好きだった彼は大人になってみると、どこか冴えない感じになっていた。
こういう仕事をしていると、多少はチヤホヤされていく。私は敢えて男を遠ざけるような雰囲気を出すようにしていた。
男が私にくれる安らぎなんて長い目で見れば刹那的なものだ。

そんな私の生活に入り込んだのが彼だった。
最初は深夜番組のリポーターをしたのがきっかけだった。彼はその番組のサブディレクターだった。仕事を通して彼を好きになった。

付き合って1年が過ぎた。お互いが不規則な生活をしていたので会える時間は限られている。
しかし漠然と彼との結婚をイメージしてもそれは朧気だった。灰色の夢はひたすらに今を生きることだけを指していた。

ある日、彼と映画を観た。つまらなかったが、仕事柄、話題作をチェックしなければならない。
その後、彼と食事をした。しかし彼の様子は違っていた。この感覚は何度となく経験したことがある「別れの予感」。

しばらくして彼から別れを告げられて、私はそれを承諾した。
彼もきっと私と同じ未来を描けなかったのだと思う。
考えてみたら、私は男に手料理を作ったことがない。

彼とは別れたが、仕事をおろされることはなかった。それは彼の贖罪の気持ちだったのかも知れない。

「ただ今、お送りしたのはマルティカの『トイソルジャー』でした。深夜、あなたの夢を守ってくれるおもちゃの兵隊。彼は現実からあなたを守ってくれてるんでしょうか?」

最後のスキマスイッチの「奏」がやさしく心に沁みた。


数年後、私はタレントの山科良平と結婚した。福岡で仕事があった時になんとなく見初められ、東京に呼ばれることになった。
今ではタレントの妻としてテレビに出演させてもらっている。
たまの浮気にさえ我慢すれば私は幸せだと思う。
タレントにとって、女は芸の肥やし。
我慢はするが、発覚した時にはキツいお灸を据えなければならない。
それが女としてのつとめでもあるのだから。
その代わり、彼の帰りが何時になろうと、私は毎晩手料理を作って待ってあげることにしている。


【side―Z〜中田小百合】

結婚を前にして、私は悩んでいた。
隆弘は充分に優しかったが、誰にでも優しかった。
彼は二度、浮気をした。その時は泣いて謝られたが、私の心は確実に傷ついていた。
結納も済ませて、式場もおさえている。
誰から見ても幸せの絶頂。私も客観的にはそうだと思う。

だけどこの後戻り出来ない不安感は何だろう?

ある日、隆弘と式場での打ち合わせを済ませて、天神の街を歩いていた。そして4時に再びイムズ前で待ち合わせすることにして、彼は本屋、私は友達が勤めている雑貨屋に向かった。
途中の赤信号。立ち止まって考え事をしていると、後ろから声をかけられた。
振り返ると優しそうな男性が立っていた。

「あの〜。少しだけで良いのでお時間貰えませんか?」

路上でナンパなんてされたのは5年振りだった。しかしそれは普通のナンパとは違っていた。
彼は名刺を差し出した。
そこには「RSB大毎放送番組制作部上條浩司」と書かれてある。テレビ局の人が何で私に?

「あの、今、天神の女性の方に…アンケートしてるんですよ」

「何のアンケートですか?」

「福岡のテレビ番組についての…意識調査みたいな…ものです」
彼はどこかしどろもどろで目が泳いでいた。
一言でいうとちょっと怪しい感じがしたが、妙に気になる男性だった。
少しだけならというのを条件に2人は喫茶店に入った。

「では、夏にはご結婚されるのですね?」

「はい。今日も式場で打ち合わせをしてきたところなんです」

テレビ番組の意識調査とやらはかなりおざなりで、私達は普通の会話を楽しんだ。彼がなぜか私のプライベートな事を聞いてくるのだ。
やはり半分ナンパみたいなものだろうか?
しかし不思議と抵抗感はなかった。むしろ居心地の良さを感じていた。
あっという間に4時になった。

別れ間際、彼は「今日は本当にありがとうございました。お話出来て非常に楽しかったです。あの…お幸せに…」と言ってくれた。なぜか目に涙を溜めて名残惜しそうだった。
男の人のあんな表情は初めて見た気がする。

それから数日が過ぎた。私は彼から貰った名刺を見つめていた。
気がついたら、私は彼の職場に電話していた。
口実なんて何でも良い。結局「先日のアンケートはお役に立てましたか?」というひどくわざとらしいものになってしまい、私の耳が真っ赤になったのを感じた。

その電話をきっかけに私達は「友達」になった。何でも話せるような友達。
私は結婚に対する漠然とした不安を彼にぶちまけた。深夜の電話であっても「うん、うん」と辛抱強く聞いてくれた。

何度か食事もした。
カラオケに行くと、彼はスキマスイッチの「奏」を歌ってくれた。
一生懸命、目に涙を溜めて歌ってくれた。
私はその姿を見て気付いてしまった。
私は浩司と結婚がしたい。運命というものがあるのならば、私はきっと浩司との間に赤い糸で結ばれているのだ。

しかし、結婚話は周囲を巻き込んで進んでいく。その全てを捨てて私は浩志を選ぶことが出来るのだろうか?

夜、床につくとき、浩司が歌ってくれた「奏」が頭の中でリフレインした。


改札の前 つなぐ手と手
いつものざわめき 新しい風
明るく見送る筈だったのに うまく笑えずに君を見ていた

君が大人になってくその季節が
悲しい歌で溢れないように
最後に何か君に伝えたくて
「サヨナラ」に代わる言葉を僕は探してた

君の手を引くその役目が僕の使命だなんて そう思ってた
だけど今分かったんだ 僕らならもう 重ねた日々がほら 導いてくれる

君が大人になってくその時間が
降り積もる間に僕も変わってく
例えばそこにこんな歌があれば
ふたりはいつもどんな時もつながっていける

突然ふいに鳴り響くベルの音
焦る僕 ほどける手 離れてく君
夢中で呼び止めて 抱きしめたんだ
君がどこに行ったって僕の声で守るよ

君が僕の前に現れた日から
何もかもが違く見えたんだ
朝も光も涙も歌う声も
君が輝きをくれたんだ

抑えきれない思いをこの声に乗せて
遠く君の街へ届けよう
例えばそれがこんな歌だったら

僕らは何処にいたとしてもつながっていける



手をかざすと影が揺れた。私は枕元の間接照明を消した。
そして「神様、もし人生をやり直せるなら……」と祈って眠りについた。


(了)

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