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如意法師様にきいてみよう!コミュの幸福なる殺人2

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◆◆◆

「一応俺達が持っている数少ない情報はお前の自宅の住所だ。それ以外は何も覚えていない、と。考えられるのは『古河要』に同姓同名がいるのか?それとも…お前の後に誰か住んでいるということじゃないか?」
勝己は腕組みをしながら整理した。

「僕も何となくそんな気もしてたんですよ。部屋の記憶はないんですが、どうも女の子っぽい部屋だったような」
「なぜ早くそれを言わない!」
「ちょっと確認してきます」そう言って要…いや、青年は消えた。
 勝己がトイレで大便をしていると、彼が戻ってきた。
「あー、やっぱり女の子でしたわ」
「見てきたの?」
「はい。お風呂に入ってましたね」
「え?見た?」
「はい。バッチリ」

 勝己はこの能力を何か有効なこと(金儲け)に活かせないか?と思った。
 しかしその前にこの捜査についてである。もし、古河要が青年の次の入居者であればまだ線は繋がっているということだ。
(古河要に接触してみるか?女の子だし)勝己は思った。

「ところでここに来て、僕自身、霊体であることのメリットとデメリットが分かってきました」
「何?」
「まずメリットは人に見られない、壁を通り抜けられる、移動が簡単、そしてもうひとつ…人の心が読めるということ。デメリットは人と話せない、物を触れないです」
「……?!人の心が読めるの?いつから?」
「勝己さんと出会ったときくらいに気付いてましたよ」
「今、俺が考えてること分かる?」
「金儲けとエロいことでしょう?」
 勝己はずっこけた。
 
「何とかして古河要に接触出来ないかな?いや、エロいこと抜きでさ」
「出来ると思いますよ。2つばかり手段があります」

 話を聞くと意外と現実的かも知れなかった。
彼女の電話番号に間違い電話をかける。そこでナンパをするという手だった。
 どうやら青年は上のメリットを応用して、知っている場所の遠隔透視や対勝己限定のテレパシーのようなことも出来るらしい。つまり彼女の考えていることをつぶさに勝己に伝えることが出来れば、電話ナンパの確率が一気に高まるという算段である。
 早速、青年にあの部屋に飛んでもらい、彼女の風呂上がりのタイミングを教えてもらうことにした。

 数分後、青年の(今着替え終わったんでチャンスですよ)という声が聞こえてきたので、(お前は役得だぜ)と返しながら古河要の電話を鳴らしてみた。
15コールほど鳴らしても彼女は出ない。

(どういうことだよ!)
(さあ、携帯は見てましたけど、知らない番号だったから出ないんじゃないですかね〜。そういえば昼間もかけたでしょう?不信がってるみたいです)
(最初で躓いてるじゃねーか!どうするんだよ?!)
(一旦切ってみてください。僕も考えてみます)

 勝己が煙草に火を点けるとすぐに電話が鳴った。古河要の番号である。

(おいおい、どうしたんだよ?!)
(彼女の耳元で『電話をかけろ!』と二十回くらい呟いてみたんです)
(彼女、お前の声が聞こえるのか?)
(いや、そういうワケじゃないと思うんですけど、潜在意識に訴えることは出来たのかもしれませんね)
(じゃあ電話に出て良いんだな?出るぞ)

「もしもし」
「もしもし。あのー、さっきお電話が入ってたみたいなんですが…」
「あ、西牧さんの電話じゃなかったですかね?」
「違いますよ」
「そうですか?参ったなぁ」

(おい!どう話せばいいんだ?!何か共通の話題とかないのか?)
(彼女、結構彼氏いなくて飢えてる感じですね。何か適当に話してみてください)
(適当ってお前)

「電話間違っちゃったみたいです。昔の彼女の番号だったんです。もうだいぶ前ですけど。番号変わっちゃったんだなぁ」
「どれくらい前なんですか?」
「もう十年くらいになるなら変わってて当然なんですけどね」
「それなら難しいですよね〜」

(何か良い話題ないか?)
(いきなりデートに誘ってみてくださいよ)
(無茶言うなよ!)
(大丈夫ですよ。また僕が耳元で呟きますから)

「実は僕、O県の方からお電話してるのですが、失礼ですけどどちらにお住まいなんですか?」
「私もO県なんですよ。Y市です」
「じゃあお隣の町ですね!何か運命感じちゃうな〜。いきなりこんなこと言うのはアレですけど、差し支えなければメル友になりませんか?」

 古河要はあっさりOKした。とりあえず自分たちの自己紹介を終えて電話を切った。
 しばらくすると青年が戻ってきた。

「何か上手くいったぞ」
「僕が結構良いパス出しましたからね」
「やっぱりそうなの?」
「はい。耳元でタイタニックの歌を歌ってたんです」
「彼女、運命感じたかな?」
「多分」

 こうやって勝己と古河要はメル友になった。メル友としてはかなりのスピードで親身度を増していく。もちろんメール中には青年に彼女の耳元で「タイタニック」や「久保田利伸」や「小田和正」あたりを熱唱してもらった。
 そして僅か3日で会う約束まで漕ぎ着けた。 古河要の好きなタイプの男性を事前に調査して、勝己はそれを演じていたのだ。勝己も心無しか古河要に惹かれつつあった。どうやら青年の情報では古河要は巨乳らしい。(この役得覗き野郎め!)と勝己は思った。

◆◆◆

 デート当日。古河要は待ち合わせ場所である駅前に現れた。

(デブじゃねーか!)
(体型や顔までは聞かなかったでしょ?)

 2人(3人)でパスタ屋に入り、そこで適当な話をした。
その頃には勝己のやましい気持ちなど吹き飛んでいた。そしてようやく本題を切り出した。

「ところで僕は霊媒師のような仕事をしてるんだけど、古河さんの部屋に何か妙な霊がいますね。最近妙なことはありませんか?」

 古河要はカルボナーラとピザを食べながら「ないと言えばないし、あると言えばあるかな?」と答えた。

「あるって?」
「勝己さんと出会ったことかな?」と言ってピザにタバスコをかけて悪戯っぽく笑った。

◆◆◆

 そんなワケでデート初日で古河要の部屋に上がり込むことになった勝己。 とりあえず霊媒的なことをしてみせないといけない。

「この部屋には住んでどれくらい経ってますか?」
「半年くらいですね。シャワー浴びます」
「いや、結構。うーん感じるなぁ。この部屋に前住んでた人のことって何か知りません?多分前の入居者の霊がそのまま居着いてますね」
「ええっ?!そうなんですか!勝己さん、どうにかしてくだちゃい」猫がニャンと鳴くように上目使いで腕に絡んできた。青年を見ると、微笑ましいものを見るかのような遠い目で頷いている。

(お前もやりすぎだよ)
(完全に惚れさせないと、早く部屋に上がれないでしょ?ところでこの部屋って何か感じます?)
(違う意味で寒気がするな。霊感的にはお前以外ゼロだよ)

「あのさ、要ちゃん。この部屋の前の入居者のこと、管理人さんに聞いてもらえるかな?」
「電話で聞いたら良いんですか?なんて言えば?」
「出来れば直接会って聞いて欲しいんだ。例えば…そうだな。押し入れにゲームソフトを忘れているから本人に送りたいとか言って」

 その日は初デート「らしく」紳士的に部屋を後にした。
こういう妙なお願いをするとき、青年のマインドコントロールは有効だった。

◆◆◆

 翌日、彼女の仕事終わりを待って適当な古いゲームソフトを手渡しし、大家のところに行ってもらった。
しばらくして彼女が部屋に戻ってきた。それにしても恋人でもないのに部屋で独りで待たされるのもどうかと思うが。

「大家さんにいろいろ教えてもらいました。前の方は若い男性で、もう一年以上前に出ていったらしいです。連絡先は教えてもらえませんでした。大家さんが実家に送ってくれるみたいで、ゲームソフトを渡したんですが良かったですか?」
「渡したの?」まあ、仕方がない。必要経費だ。

 見ると、青年は沈鬱な表情をしている。
(もう帰りましょう)そう送ってきたので、「もう心配ないよ。払っておいたから」と適当なことを言って、古河要の頭を撫でて上げ部屋を後にした。

 勝己の部屋に戻ると「だいたいのことは分かったかもしれません。大家は教えてくれませんでしたが、心を読んだので」と青年は言った。どことなく元気がない。確かにそうだ。彼は数日前に誰かに殺されたのだ。どんな結果になろうと、面白い話ではない。

「どうやら僕の名前は福田幸平と言います。会社員だったようですが、一年くらい前にある病気で…病名は大家も知りませんでしたが、入院してたみたいですね。部屋は僕の家族が引き払ったみたいです。一応実家の住所までは分かりましたよ」
「そうか。とりあえず実家を訪ねてみるか?お前にはその覚悟があるか?」
「はい」 勝己は青年の覚悟を聞いて悲しい気持ちになった。

◆◆◆

 翌日、2人は青年の実家に向かった。計算では彼の死後から一週間近く経っている。彼の実家はF県の田舎にあった。たしか近くに勝己も社会科見学で来た遺跡がある。
 実家の前に辿り着いた。インターフォンを鳴らすと、青年の母親らしき人が出た。
「あの〜。幸平君の友人の遠藤と申しますが」

 玄関のドアが開いた。
 幸平の母親は憔悴しきったかのような表情をしていた。勝己が(何て切り出そうか?)そう思っていると、幸平が背中を押した。
 母親は何も言わずに勝己を案内した。一番奥の部屋に仏間があり、祭壇と幸平の位牌があった。

(もう、死んだことは分かってたみたいだな)

 勝己と幸平が並んで幸平の遺影に手を合わせた。
 それは奇妙な光景だった。

(これ、大学を卒業した時の写真です…)
(思い出したのか?)
(部分的にですけど…)

「遠藤さんとおっしゃいましたね?うちの幸平とはどのようなお友達だったんですか?」
「向こうで近所でして。友人の友人といった感じでよく遊んでたんですよ。今回のことも人づてに聞きまして…その…」
「そうですか?まだ内々なもんですから…あちらの方にも友達が出来て良かったと思いますよ」

(どうだ?何か分かったか?)
(お母さん、痩せたなぁ)
(そういうことじゃなくてさ)
(いや、本当に痩せましたよ。僕の看病疲れだったんでしょうね。僕はずっと寝ていて何も知りませんでした)
(寝ていた?)
(はい。いわゆる植物人間になってました)
(病気…だったのか?)
(脳の病気です。一年前に発病しました)
(死因はその病気か?殺されたっていうのは?)


(そうです。安楽死です…)
 そう言って幸平は泣き崩れた。
 幸平の母親もまたハンカチで目頭を押さえた。
「幸平が笑ってますよ」

「え?」勝己は顔を上げた。「ほら、蝋燭があんなに火柱を上げて…。きっと遠藤さんが来てくれて嬉しかったんですね」

(幸平!お前に何かしてやれることはないのか?このまんまじゃ親不孝モンだろが!)勝己の頬に熱いものが零れた。
 それから幸平の父親と妹が丁寧な挨拶をしに来た。

(おい!幸平!このままお別れするんか?)

 幸平はただ無言で俯いている。

◆◆◆

 僕は勝己さんの体を借りた。そしてたくさんのお礼を言いたかった。

「お父さん、お母さん、そして恭子。今まで迷惑かけてごめんな。俺は友達も見つかったんで、しばらくこっちでブラブラしてみるよ。生きていたときよりも楽しく過ごすよ。みんなの事は遠くで見守ってるから…だから、みんな…お元気で…。お達者で…。お父さん、お酒を飲みすぎないよう。お母さん、気を落とさないでね。恭子、俺には叶わなかったけど幸せな結婚をしろよ。バイバイ。みんな。バイバイ、僕の人生ー」

「お兄ちゃん?」恭子が泣き出した。
「お兄ちゃんがそこにいるよ!泣きながら笑ってる!」
僕は恭子の頬を撫でて…そして、消えた。


◆◆◆

「あれで良かったのか?家族のところに残っててもいいんだぞ」

 帰り道、勝己が幸平に尋ねた。

「良いんですよ。家族と一緒に過ごしたら未練ばかりが残ります。だからお迎えが来るまでは勝己さんのとこにいさせてください」

「だって約束があったでしょう?勝己さんの元カノさんのとこに化けて出るって。寄りを戻すことだって僕がいれば可能ですよ」

「仕方ないな。お迎えが来るまでな。それと一番最初に頼みたいことがあるんだよ」

「俺を今度の就職試験に合格させてくれないか?」


 これが僕たちの奇妙な出会いだった。
 幸平は俺の仕事中はたまに実家の様子を見に行っているらしい。今の問題はというと、妹の恭子に変な男がつきまとっていることみたいで、兄としては心配なのだ。

 この家族は幸福なる殺人者と言えるだろうか?そんなことは誰にも分からない。きっと彼が見守ってくれるだろう。しかし守ってくれる人が若いというのはちょっと悲しい話だ。


(了)

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