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如意法師様にきいてみよう!コミュの神曲ペコ

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「ホントにこの目で見たんだよ!」

ネズミのゴルッチが皆を集めて力説する。

「なんだか、明日が特別な日らしくてサ。人間たちがお祭りやってるんだ」

ペコは「そんなの信じないね!人間たちは『トシコシ』で忙しい時期だって、長老が言ってたゾ!」と叫んだ。

何ならオイラが確かめて来てやる!

そう言ってペコは世界塔のテッペンに登り、胸のゴーグルを上げ、大きく深呼吸をした。

体が浮き上がる。

リドマイムの町が眼下に広がった。
この町には昼も夜もない。太陽がなければ闇もない。
薄暗いドーム状の空間だった。


◆◆◆


ボクは夢を見ていた。
鼻の頭からおでこにかけて濡れていたんだ。
時計を見ると8時をまわったところだと思った。
今日もママがお仕事から帰ってくるのは夜中だろう。
言われた通りにオムライスを電子レンジで温めて食べた。
ケチャップで「ヒロシ」と書いてあったが、ラップをとるときに字がぐちゃぐちゃになってしまった。
冷蔵庫にはケーキが入っている。
箱の上のセロファンから覗くと、クリームとイチゴとチョコレートの板が見えた。
ママが帰って来てから一緒に食べるんだ。

ドン!

窓を叩く音がした。

ドンドン!

今度は二回だ。

ボクはコタツから出て窓に向かった。

誰もいない。

すると「こっちだよ」と声が聞こえた。

振り向くと、緑の服を着た、それこそ手のひらに乗るような小さい男の子がコタツの上に立っていた。

「あなたは誰ですか?」

「オイラはペコさ!オマエの名前は?」

「ヒロシだよ。どうしてここにいるの?」

「オマエこそ、ここで何をしている?」

「ママの帰りを待っているんだよ」

「それは特別な祭りか?」
ペコはやたらと前髪を気にしていた。
よく見ると髪の毛がハネている。

「特別じゃあないよ。いつものこと」

「チッ」ペコは舌打ちした。
「ゴルッチの奴、またホラ吹きやがった」

「何の話?」

「オイラの友達がよ、人間たちが祭りをしていると言ってたから見に来たんだよ」

「クリスマスのことだね?だとしたらそのお友達の話はホントだよ」

「クリスマス?」

「クリスマス。昔、外国の神様が生まれた日だよ。今日はその前の日だからお祝いをしているんだ」

「オマエは寝ていたじゃないか?そしてママを待ってる」

「ボクは仕方なくて待ってるんだ。けどケーキも食べるし、サンタさんが来るんだ」

ペコの頭は混乱した。

そしてボクの頭も混乱した。

ボクは冷蔵庫からプロセスチーズを出して、ペコの前に置いた。

「何だ?これは」

「食べないの?」

「食べて良いのか?」

そう言うとペコは器用に千切って口に入れた。

「臭いなこれは…なかなかの珍味だ」

ボクは残りの欠片を口に入れた。

ゆっくりとチーズが溶けていく。
確かに臭いが、栄養のカタマリだとママから聞いていた。

「おい、ヒロシ。祭りの場所に案内しろ」

「場所って、どこでもやってるよ」

「じゃあその『どこか』を案内しろ」

「留守番しないとママが怒るよ」

「良いじゃないか?ママを待つならここでも『どこか』でも一緒サ」


ボクはジャンパーを着て、外に出た。
キンという寒さで体が震えた。

ペコを懐に入れ、アパートの階段を降りる時、足が滑って尻もちをつきそうになる。
階段の床がカチカチになっていた。

ボクたちは商店街の方へ向かった。
つい3日前にママと行ったばかりだから道は覚えている。
商店街の店は全てシャッターが下りていたが、ボクの目的はここじゃない。商店街を抜けて踏切を渡ると、お酒を飲んだりする店がたくさんある場所があるんだ。
ママの店もその中にあった。

「ペコ、あれ見て。あの緑の木」

「ミドリの木?」

「ペコが着ている服と同じ色の木だよ。飾りがたくさんついてるだろう?」

「ああ、キラキラしたのや、綿がついてやがる」

「あれが『クリスマスツリー』だよ」

「何だ?それ」

「クリスマスツリー…」

「だから何だよ、クリスマスツリーって?」

「分からないけど、クリスマスの時にはあの木を置くんだよ」

「どこに?」

「どこってわけじゃないけど……目に付くとこにだよ」

「ふうん。とりあえずクリスマスツリーを置くんだな」

公園に差し掛かると、大学生くらいの人が騒いでいた。

「わ!祭りだ、あれは!」

ペコが身を乗り出して来た。

「祭りだけど、普段でもやってるよ」

「普段やることを祭りでもするのか?」

「うまく説明出来ないけど。今日はクリスマスだからいるんだよ」

「オマエの解説はわかりづらいな」

ボクはポケットに手を入れた。
雪が降ってきた。

「雪だね」

「オマエは何で雪が降るか知ってるか?」

「知らないよ」

「あれはエバンズの婆さんがクリスタルを撒いてるんだぜ」

「何で?」

「寒くないとクリスタルが採れないからサ」

「だから何でそういうことをするの?」

「決まりだからサ。他に理由はないよ。オイラたちは決まりの通りにやってるだけだ」

「ペコは頭良いね」

踏切を渡ると、そこは妖しい大人の世界だった。
男と女が腕を組み、ふらふらになって歩いている。野良猫が走って裏道に入る。
店からは大きなカラオケの歌声が洩れている。

雨は夜更け過ぎに〜
雪へと変わるだろう〜オオオ〜
サイレンナイ〜
ホーリーナイ〜

「おい、みんな何を持ってるんだ?」

「ん?あの綺麗な箱?あれはプレゼントだよ」

「クリスマスにはプレゼントがあるのか?オマエもか?」

「ボクにはサンタさんが持ってくるよ」

「さっきも言ってたな。サンタさんって誰だ?」

「夜中、トナカイのソリに乗って来るおじさんさ。子供たちの枕元にプレゼントを置いていくんだよ」

「なぜだ?」

「多分、そういう決まりなんだよ」

ペコにいろいろと教えていたボクだったが、ボク自身も本当は目にするのが初めてだった夜の街・・・・。

一面の雪景色。
小さな暖炉のある家で、七面鳥を焼き、ケーキを食べて、街にはクリスマスキャロルが流れ、空にはサンタクロースが流れ星のように飛んでいる。

そんなクリスマスとはだいぶん違って見えた。
雪は降っているが、アスファルトが冷たく濡れている。

ボクは自動販売機の前に止まった。
ポケットから、以前ママがくれた100円硬貨を2枚取り出して、1番低い位置にある「コーンスープ」のボタンを押した。

持っている鍵で缶のふたを開けて、ゆっくりと傾ける。

「ペコ、寒いだろう?これを飲んだら温まるよ・・・」

「何だ?お湯と食い物が一緒になったような感じだな。珍味だ」

ペコはそういうと喉を鳴らした。

「どう?わかったかい?これがクリスマスだよ」

「寒くて、暖かいのがクリスマスだな」

「そうだよ」

ボクはペコにわかってもらえたのが嬉しかった。しかしクリスマスはそんなに暖かいものじゃないんだ・・・。

「お疲れ様でしたぁ」
すぐ後ろで声が聞こえたので、ボクは顔を上げた。
そして振り返った。

ママだった。

「ヒロシ!!こんなところで何をしてるの?!」

「ママ・・・・・」

ボクの視界が急に滲んできた。涙があふれてくる。

「ママ、迎えに来たよ・・・・・」

ママはボクを強く抱きしめた。
お酒のにおいがママの香りなんだ。

気がつくと、ペコはいなくなっていた。
それからママと手をつないで帰った。


今年は大きいほうのケーキをママにあげよう。



◆◆◆


ペコは世界塔の上に立っていた。
「サンタさん」というのをこの目で確かめてやろうと思ったが、途中で飽きてしまった。

リドマイムの町が少しだけ明るくなった。

「寒くて、暖かいのがクリスマスだ」

さっきネズミのゴルッチに伝えると「そんな奇妙なことがあるだろうか?」と町中に噂が広まっていったのだ。

それぞれの家で暖炉に灯がともる。






それから100年が経って・・・





「ペコの夢が叶った」

町にまたひとつ、『決まり』ができたのだ。



(了)

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