ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

如意法師様にきいてみよう!コミュのアンチ3

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
◆◆◆

この物語は大学とホームの往復によって成り立っている。【報復?】そして場面はホームへと移る。いつもと同じ食卓。そこで僕は母さんから驚くべきことを聞いた。
「母さん、手術をすることになったんだよ」母さんは僕の反応を探るような目で言った。
「ふうん」わざと素っ気ない調子で応える。僕は時計を見た。七時四十分。「どうして?」僕は久々に魚を口に運ぶ。三年振りか。ぎこちない。ぎこちない。
「心臓のね、手術をするんだよ」そして母さんは今日、ホスピタルに行ったことを告げた。
「……で、いつなの?それ」
「五日後」木曜日?そんなに急がなくてはなりませんか?
「で、どうって?」
「何が?」
「いや、成功率とかさ」【本当はそれが聞きたかったんだろう、マザコン坊や】
「半々だって」生きるも死ぬも半々、二人とも、何が言いたいのか、分かりやしない。本当のところ会話になんかなってやしないんだ。
母さんはブラウスのボタンを外していった。母さんの貧しき肌が見えた。そして彼女はブラジャーも外した。裸。裸だ。
「ここをね」母さんは胸の中心部分を指で、縦にさばいた。母さんの胸からは血が流れた。指で開くと母さんの中身が見えた。嘘のない世界。
【ジッタの顔、心臓の音、呼吸の音、血小板の固まる、エンドルフィンの流れ出る音、まばたきの音】気が付いたら僕は母さんの乳首を口に含んでいた。口を離すとチュバッという音が二人の鼓膜を弾いた。僕は祈った。何を祈ったというのだろう。青く冷たい夜。


木曜日、僕は学校を休んだ。母さんの手術には肉親が一人、つかなくてはいけないそうだ。いけないそうだ、にかこつけているのかい?K医大のホスピタルの門をくぐった時に、背筋がシャンとなった気がした。看護婦さんがいる。一人、二人、三人、四人、五人、―六人、―――七人廊下を曲がると第二外科病棟と書かれてあり矢印が母さんの居場所を知らせた。入り口から入って階段の横の廊下を左折したら第二外科病棟の方向が書いてある。そこの403号室。
教えられた通りに進めば簡単に着くはずだったのだが……と言いたいところだが本当に簡単に着いてしまった。こんなに簡単に見つかってしまって一体、僕はどういう表情をすれば良いのだろう。心の準備も出来ちゃあいない。朝の九時に手術がはじまるため、八時に来るように言われていた。時計を見た。四分前だ。どう入って良いのか分からず三十秒くらいその場に立ち尽くしていた。そこに看護婦さんが一人、病室から出てきた。髪は肩のところできれいに切り揃えてあり、何か、こう、利発そうな感じのする女だった。年は二十三、四くらいだった。目が合うと、
「あら、兼子さんのところのお子さん?お母さん待ってるわよ」そう言って僕の肩を叩いて歩いていった。今になって思い出した。僕は一般の方から見れば小学生に見えてしまうのだ。僕は病室を覗き込んだ。二人の女性がこちらに目を向けた。二人とも年は四十中頃、まあ、母さんと同じくらいか。兼子さんのお子さんよ、大きいわねえ、ほらお母さんずっとあなたのこと待ってたわよ。
見れば一番奥のベッドに寝ている女性がいる。僕が近付いていくと彼女は目だけ僕の方にやって「今来たの?」と言った。当たり前じゃないかと思った。思ったけど口に出さなかった。いや、待てよ、僕が入り口のところで入るのをためらっていたことを指して言っているのかい?以前母さんは言った。
「親はね、子供の考えていることは全部分かるものなの」今考えればそれは宣戦布告か【勝利宣言か】、そんなことを思い出した。
「母さんね、腋から何から体中の毛を剃ったの。下の毛もよ。何でか分かる?ばい菌が手術中に入ったらいけないからよ。体の毛ってばい菌がつきやすいのよ」そう言って「九時から手術」と続けてから目を瞑った。
ホスピタルというところは今でも蛍光灯を使用している。ここも例外ではない。僕の目の前にも紐が垂れ下がっていてそれにはこういうカードがついてあった。
――手術、頑張ってください【入院着を着た女性の笑顔の絵】――
手術したって、頑張ったって、死ぬ奴は死ぬんだよ。お前、いつの間にかわざとひねくれ人間になろうとしてないかい?今日初めて母さんの顔をまともに見た。入院前よりも少し痩せたか。きれい好きなはずの母さんの顔は油ピカピカに照かっていて醜く見える。髪はボサボサで小便も一人じゃろくに出来ない母さんはやはりみっともない。けれどもいつもより優しい顔だ。しかし騙されちゃいけない。ただ弱っているだけの顔なんだと。見てらんなくなっちゃったから外を見た。
川の横を小学生が一人、走っていくのが見える。十年経てば普通の大人になれる小学生を見た。他の病棟はなんとなくひっそりとしている。太陽はどうやらこちらの窓からは見えないらしい。そして下には木がたくさん植えてあり、その付属としてベンチなどが散在していた。どこかで見たことある風景だ。

――どこかで見たことある風景だ――

そうだ、あれだ、―――――ケンだ。ケンが死ぬ前に入院していた病室だ。ケンが「痛い」と言って死んじゃった病室だ。だったのかよう。
僕は母さんの顔を見た。母さん、あんたもケンと一緒で死んじまうのかよう。死ぬのかい。ケンが「痛い」と言ったベッドでよう、死ぬのかい。母さんの顔とケンの顔と、ケンの父さんの顔とが入り混じった。入り混じっても決して一つにはならなかった。
ドカスタ。医者らしき男と看護婦が一人入ってきた。母さんは目を開けた。やあ、お加減はいかがですか?と男は言った。
「はい、大丈夫です」と母さん。医者男は眼鏡を掛けていて大そう人が良さそうな男だった。男の胸のバッジには「R・TERAI」と書かれてあった。「この人がねえ…」母さんが口を開く。
「今日、手術をして下さる先生よ」
「あ、はい、どうもよろしくおねがいします」僕は礼儀正しい小学生を真似た。
「夜には麻酔が切れますんで」自称テライは母さんを見た。「あ、はい」「明日から少しずつ食べ物も食べましょう」「あ、はい」「点滴はどうですか?」「あ、いいえ、大丈夫です」
次は母さんが針に指されちゃう番だ。
「全力を尽くしますんで」テライは僕のほうを見て言った。
「はい、宜しくお願いします」僕と母さんは同時に発声した。もういいよう、母さんはしゃべらなくても。テライはゴミ箱の中を一応確認した。お前よう、お前よう、毛ぇ剃られちまったよう、母さんのおまんこを、見るんかよう。そして母さんの胸を口に含むんかよう。いつか、俺や、父さんがやったように。俺や、父さん…するんかよう?
「手術の痕、残りますかねえ」
「うーん、時間が経てば多少は薄くなると思いますけど」気になりますか?と医者男は聞いた。ええそしたら…「そしたら?」
「胸が開いた感じの服が着れなくなります」


母さんの変に高揚した声を思い出す。
「半々かなあ」
ジッタを思い出す。ジッタを思い出す。たった一人、ひとりぼっちで逃亡した彼の声を思い出す。

――俺よう、あの子とセックスがしたいよう――

「では手術の方は十二時半過ぎくらいに終わりますんで。それまでは待合室のほうで待っていてください。学校、大丈夫ですか?」
母さんが運ばれていく。とうとう十字架にかけられた母さんはベッドにはりつけの刑。そして医者男におまんこを見られて、体を開かれて僕がのぞいた母さんを形成する遺伝子の正体が見られるんだ。母さんが口をパクパク開いている。母さんが何か言おうとしている。僕も何か、何か言わなきゃ。
「痛い」と言って死んでしまったケン。ばいばいも言わずに逃亡したジッタ。気がつくと午前九時三十二分の待合室にいた。そこを出て階段を降りて行った。目の前に広がっちゃってる青空が僕の鼻を抜ける。老人患者とすれ違う。お前は死ね、もう生きたろう。今日はすこぶる天気がいい。新しい人生を始めるには最適だ。今になってやっと分かった。母さんが口をパクパクさせて裁判の前に言おうとした言葉。あの時僕はあんたにこう言うべきだったのだ。ごめんよう、ごめんよう、どうしてあの時、この一言が出えへんかったんやろうか。ごめんよう、ごめんよう、








――すまんが母さん、死んでくれ――




(了)

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

如意法師様にきいてみよう! 更新情報

如意法師様にきいてみよう!のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング