ゴルフの歴史コミュのゴルフ殿堂24　グレンナ・バレー

　彼女はグレンナ・バレーよりもグレナ・コレットとして有名である。バレーは結婚後の姓だ。ちなみに、英語ではGlenna・Collett・Vareとなるが、Vareはベアと読まれるのが普通である。そう、アメリカ女子ツアーの最小平均ストローク記録者に贈られる「ベア・トロフィー」のベアである。

　全米女子アマチュアを６回も制覇した彼女は、活躍時期が重なった事もあって「女性版ボビー・ジョーンズ」と呼ばれた。当時は女子プロなどいなかったので彼女も当然、生涯アマチュア選手だった。

　１９０３年、裕福な家庭に生まれたバレーは、小柄ながらスポーツ万能で、９歳で競泳とダイビングの競技に参加したという。１０歳には助手無しで自動車を運転し（おおらかな時代だった）、１４歳まで野球の選手だったという。

　父親がサイクリングの選手だったこともあり、母親共々女子がスポーツをやることに理解があったのである。当時は女性がスポーツをすること自体、眉をひそめる人が多かったような時代なのである。１４歳の頃に父親が打ったドライバーショットに魅せられてゴルフを始める。

　最初は、ロングヒッターではあったが大したプレーヤーでは無かったらしい。それが、ジェローム・トラバースの師匠でもあったアレックス・スミスのコーチを受けるようになってから才能が開花する。特に飛距離は３０７ヤードの全米女子記録を作ったほどに伸びた。ただ、ゴルフ内容は不安定で、１９２０年に最初の優勝を飾るまで長い時間が掛かっている。

　１９２１年、彼女はイギリスの女子王者、セシル・リーチと対決。これを破るという大金星を挙げる。リーチは全英女子アマチュアを４度も勝ち、男子アマチュア王者だったハロルド・ヒルトンとハンディ９をもらって対決し、勝ったというほどの女傑だった。そのリーチに勝ったことはバレーに大きな自信を与える。

　１９２２年、全米女子アマチュア選手権に最初の優勝。２５年に圧勝で二度目の優勝をして、文字通り全米の頂点に立った。そして、勇躍イギリスへ遠征するのである。当時のゴルフの本場はやはりイギリス。イギリスで勝たなければ世界最強の称号は手に入らなかった。アメリカでは彼女ならその称号を手に入れるだろうと期待した。

　しかし、そこに立ちはだかったのがイギリスの女傑、ジョイス・ウェザーレッドだった。バレーは素晴らしいゴルフを展開したにも関わらず、ウェザーレッドに一蹴されたのである。

　バレーのゴルフはこの後、いよいよ本格化し、１９２８年から全米女子アマチュアを三連勝する。しかも圧勝の連続。国内には敵がいないことは誰の目にも明らかだった。しかし、全英女子アマチュアには勝てなかった。１９２６年にはゼネストのため参加出来ず、２７年には伏兵に敗れていた。そして、１９２９年。バレーは今度こその決意と共に渡英する。

　この時、バレーは既に引退していたウェザーレッドに、セントアンドリュースで行われる全英女子アマチュアへの出場を促す手紙を書いたという。ウェザーレッドはこれを快諾。四年ぶりに全英女子アマチュアに出場した。両者は順調に勝ち進み、あまりにも筋書き通りに決勝で対決することになったのである。両者の対決を見ずにいられるものかと、セントアンドリュース市民はオールドコースに押し寄せ、市内から人が消えたと言われる。

　残念ながらバレーは敗れた。１９３０年にも遠征したのだが、彼女は遂に全英女子アマチュアに勝つことは出来なかった。

　１９３１年に結婚。その後も全米女子アマチュアに参加を続け、１９３５年に最後の、六度目の優勝をする。英米対抗戦のカーチス・カップには１９３２・３６・４８年の三度にわたって出場し活躍。３２年のマッチでは宿命のライバル、ウェザーレッドとシングルスで対決。これも敗れている。彼女は結局ウェザーレッドに勝つことは出来なかった。

　ハリウッドから再三スカウトされたという容姿。小気味良いプレー、勝って謙虚、負けては潔い。その魅力に対戦相手も魅了された。後に彼女と対戦した女子選手で子供に「グレンナ」と名付けた者が三人もいる。中には彼女を破った者も含まれていた。ジョイス・ウェザーレッドもバレーについてこう述べている「容姿も心も天使のような女性。勝って驕らず、負けても卑下せず。一緒にプレーすると周りの人全てまでもが大らかで楽しい気分に浸れた。本当にゴルファーのお手本のような人でした」

　女性版ボビー・ジョーンズとは、単に戦績だけで付けられた異名ではなかったということである。