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極短編・携帯小説を書くコミュの空き缶に満たされる君への想い〜極断片小説〜

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 香貫花は黒い式服をまとっていた。
誰の声も聞こえず、ただ海から聴こえる波の音が実際は聴こえるはずもないのにまるでCDのエンドレスリピートのように香貫花の頭の中で流れ続けていた。

 自分と同じように黒い服を着た人たちが大勢集まっていた。実際には他人のすすり泣く声も聞こえていた。しかし香貫花の耳には一切の雑音は届かなかった。青く洗練された夏の海の音がただ響いているだけだった。

 香貫花が通っている学校と提携しているホテルの一つのスペースを貸しきってここで追悼式が行われていた。普段なら団体客の宴会場として使っているこの場所はいつものそれとは異なり重く凄然とした雰囲気があたりを包んでいる。
 その中でも香貫花は見慣れた宴会場の風景が映し出されていた。このホテルは香貫花は見慣れていた。別にこのホテルで働いていた訳でもなかった。このホテルによく忍び込んでいたのだ。

 ここで恋人が働いていた。地下のバーに行けばいつも賢治がカウンター越しで無料でカクテルを出してくれた。オリジナルカクテルだと言ってとんでもないような味のカクテルも飲まされたこともあった。賢治の作るメロンフィズは最高においしかった。バーテンダーとして働いている賢治をみているといつも心がときめいた。なんだか憧れにも近い感じで賢治を見ていたような気がする。時折誰もいない事を確認して二人でホテルの温泉に入ったこともある。そんな真新しい記憶の中で香貫花は一つずつ丁寧に思い出を開放していった。

 そして今、自分の恋人の追悼式が行われていた。
 追悼式は時間の感覚がなくなる程の長い間続けられた。

 追悼式が終わると香貫花は誰よりも早く外に出て行った。
 灰色の空を見上げる。なにやら白い粉が舞い落ちてきた。

 最初香貫花は自分の妄想の中に閉じ込められてしまったような錯覚に陥った。香貫花にとってこの現象は言葉では知っていたが体験するのは初めてだったのだ。
 後から続いてホテルから出てきた人間が口を揃えていう。

        「わぁ雪だぁ。」

沖縄からやってきて生まれて初めてみる雪だった。

香貫花「・・・雪だよう・・・。」
空を見上げている香貫花の頬には涙がつたっていた。

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