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たか☆ひ狼の書庫コミュのワラビーV 3話

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第3話《魅せられる》
「ね!ね!バトルって何バトルって?」ビャッコはしつこく問い詰める。
「何だお前、知らないのかよ?」
また、コロッセオから大きな歓声が響く、もはやこれは地響きに等しい。
「・・・仕方ないな、行ってみっか?」論より証拠、見せるのが一番と考えたコユキは、ビャッコの手を引っ張りコロッセオへと連れて行った。
しかし入り口を見つけるのも一苦労。

「さぁさぁ、今日のメインイベント!ブラックタイガーvsミスティッククロウの一戦だ!」
この街ではギャンブルも一つの収入源だ、闘技場の周りのあちこちで予想屋や受け付けの声が聞こえてくる。
「すごいね、みんなで賭けやってる」人ごみの中、ビャッコはなにやら嬉しそうだ。
だが・・・コユキは何やら不機嫌そうな面持ちだ。
「・・・・・・」
「どしたの?コユキ?」
「・・・いや、何でもない」
ビャッコには理解できなかった、彼女の面持ちの意味を。

コロッセオはのスタンドは観客で大賑わいだ、ようやくコユキらは外野席(だったであろう)最上段に空いた椅子を見つけることができた。
グラウンドの中、恐らく球場だったものを3つにロープで分け、それぞれ別のジャンルの戦いを繰り広げている。


人はいう、それは無敵の作業機と。
また別の人はいう、それは今の世の戦車だと。
身長約3〜10m、戦車や車に二本の腕と足を備え付けたような、その姿。
通称《MT》マニューバ・タンクと呼ばれているそのマシンが、名誉のため、そしてまた、ここに集う者たちのこころを満たすために、
この闘技場で日夜戦いを繰り広げているのだ。


「ビャッコ、見えるか?」
「うん、大丈夫」
ビャッコたちの近くのフィールドでは、格闘メインのバトルが行われていた。
「今やってるのは格闘戦だな、いちばんオーソドックスなやつだ」
ビャッコの耳元でコユキが説明する(聞こえてるかどうかは判らないが)
全高5m程度のミドルクラスのMT同士の戦いだ、方や卵のような丸っこいボディに砲丸のような拳を付けた純粋な格闘タイプ。
もう一方は人間と同じ指のマニピュレーターにパンチ力増強のメリケンサックを取り付け、角張ったボディの至る場所にスパイクを生やした族なタイプだ。
前の方で見物している連中の会話から察するに、丸いヤツが「オストリッチ・エッグ」スパイク野郎が「ヘッジホッグ」というらしい。
「《ダチョウの卵》と《ハリネズミ》か…」コユキは、そうつぶやいた。
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MT乗りの心得…と言っては何だが、MTの愛称には、動物など生き物の名前が使われているのがほとんどだ。
この世界、動物と言う存在は汚染や荒廃による砂漠化で、一部の爬虫類や鳥類を除いてほぼ絶滅に近い存在になってしまった。
犬や猫といった動物を飼っている者もいることにはいる、でもそれは一部の特権階級や大富豪くらいだ。

そう、MTを作った者たち…そしてそれらを駆るものたちは、戦争によって失われた種へのせめてもの罪滅ぼし…
もしくは、いつか夢見た大金持ちになろうと想う気持ちをMTの名に込めているに違いない。
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「トゲトゲの押されてるね!」ビャッコが歓声に負けじと大声でコユキに話し掛ける。
「そうだな…丸いボディは攻撃受け流せるみたいだからな」
背後にコユキとは違う男の太い声。
「ひゃっ!ハッサク」声の主は、燃料を買いに先に出かけていたハッサクだった。
驚くコユキ。
「メシ買出しに行ってるかと思ってたら、こいつを観てたとはな」
「そういうハッサクも、こんなトコで一体?」とコユキ。
すると、普段は無骨なハッサクが珍しく笑った。
「ぷっ、お互い様だな」
「全くだね、ハッサク」

卵とネズミの戦いはいつしか終わりへと差し掛かっていた。
1ラウンド10分、それを6回の、計1時間強がこの試合の基本だ。
ラウンド間の数分には、MTの簡単な修理と搭乗者の休憩が行われる。

フィールドの隅の方にあるラウンド板を眺めると、既に9ラウンドが経過していた。

基本的に移動手段でしかない「脚」はかなり短い、短足なのはMTの特徴だ。
だが、ここ最近の脚部の改良により、ミドルクラスのMTはちょっとした自動車並の歩行速度を手に入れた。
軽いフットワーク、そして接近しての乱打。
人間たちの行うボクシング以上に「重い」戦いがMTバトルの人気を支えているのだ。

《卵》がダッシュして、ハリネズミの鼻先に砲丸パンチを喰らわす。
ゴン!
パンチの重い衝撃音がビャッコの体中に響く。
負けじと、ハリネズミも太いスパイクの付いた腕を振り回し、何とか卵に一矢報いようとする。
しかし難なく卵は懐にはいり砲丸パンチを連打、次第にハリネズミの体中のスパイクは曲がり、辺りに刺が飛び散る。

「が…がんばれハリネズミ!」熱心に観戦していたビャッコが、あらん限りの大声で叫ぶ。
その直後、劣勢と思われていたハリネズミは、連打の隙を狙って卵の右腕を掴んだ。
ハリネズミは掴んだ腕を思い切り引っ張る。
ブチブチッ!オイルと火花を撒き散らし、卵の右腕が引きちぎられた。
「!!!」息をのむビャッコ。
直後、大きな歓声に包まれる。
バランスを失い、転倒する卵。
だが腕を失ったせいか起き上がれない。
倒れた卵の鼻先を掴むハリネズミ、渾身の力を振り絞り前部の装甲・・・卵の殻を両腕で引き剥がす。
バキッ!メキメキッ!
雷のような音がして、《卵の殻》が引き剥がされる。

そこには…戦意を喪失した卵の乗り手が、両手を挙げてがっくりと力なく座っていた。
そう、《降参》の意思表示だ。

割れんばかりの歓声がコロッセオを覆う。
そう、この歓声こそが、勝者の証。

「!!……!…!」コユキが何かしゃべっている、が、歓声にかき消されて聞こえない。
「す…ごい…」ビャッコの握り締めた小さな手のひらに汗がにじむ。
「すごいよ!コユキ!ハッサク!すごいよ!」
ビャッコの心は言葉にならなかった。言いたいことがたくさんありすぎて。


「ぼくも…」

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