史跡コミュの桜塚古墳群

　大阪府豊中市

　1956年05月15日、指定。
　1998年12月08日、小石塚古墳の墳端から周濠そして外堤にかかる一画を追加指定。

　豊中台地の中央、標高約20～25ｍの低位段丘上に立地する古墳群。大阪府豊中市の中央部、岡町駅を中心に東西1.2㎞・南北1㎞の範囲に分布する。
　４世紀と６世紀の二時期に亙って形成されたと推定されており、明治７(1874)年・明治12(1879)年・明治14(1881)年に大規模な調査が行われ、「壱日三捨六墳全図」「三十六墳所在総図」「諸墳略図面書上」等の絵図が編集・保存されている。
　昭和10年代に実施された土地区画整理事業により、狐塚古墳・北天平塚古墳・南天平塚古墳等の発掘調査が進み、北摂最大の中期古墳群として周知されるようになった。
　絵図の36基に、近年の調査によって発見された桜塚第37号墳から第44号墳までの八基を加えた合計44基の古墳が確認されたが、宅地開発に伴い39基は破壊され、現存する五基が史跡指定されている。
　大まかに次の四群に区分される。
・西群　大石塚・小石塚古墳を中心とするグループ
・中央群　荒神塚古墳・桜塚古墳
・東群　大塚・御獅子塚古墳を中心とするグループ
・南群　阪急曽根駅の北東部を中心とした近年確認されたグループ

＊大石塚(ｵｵｲｼﾂﾞｶ)古墳　岡町北１-６
　桜塚古墳群中の西端に位置し、南面する前方後円墳。北側に位置する小石塚古墳と南北方向にほぼ主軸を揃えるなど、計画的に築造された事が窺われる。小石塚古墳と共に、昭和54(1979)年の史跡整備事業に伴って墳丘・規模などの確認調査が実施された。三段築成で、東西長45.4ｍ・南北長87.2ｍ・高さ5.0ｍ・後円部径約48ｍで、桜塚古墳群で最も大きな古墳。
　墳丘には河原石が葺石として、各テラス面には玉砂利がそれぞれ敷き詰められており、「石塚」の名の由来となったと言われる。曾て墳丘の平坦面には円筒形埴輪と朝顔形埴輪が各々三体一組で配されていた。調査発掘後、それらは豊中市立伝統芸能館に展示されている。この古墳は古くから原田神社の所領に属し、聖域内に存在する事から守られて来た。出土した埴輪類から４世紀に築造された古墳とみられ、桜塚古墳群出現時期を位置づける古墳として重要である。
　また、４世紀中葉以降の政権中枢部や周辺地域との関係を推察する上においても貴重な資料を提供している古墳である。

＊小石塚(ｺｲｼﾂﾞｶ)古墳　岡町北１-６
　大石塚古墳の北側に位置し南面する前方後円墳。東西長29.0ｍ・南北長49.0ｍ・高さ3.6ｍ。大石塚古墳との間には浅い谷地形が入り込むが、主軸はほぼ揃えられている。昭和54(1979)年の史跡整備事業に伴って墳丘・規模などの確認調査が実施された。その結果、後円部が二段築成、前方部が一段構成と判明し、大石塚古墳同様に東側のみに周溝を有する。葺石は用いないが、埴輪は使用している。
　埴輪には壷形・朝顔形・円筒形などが認められているが、墳丘の損壊が激しいため、すべて遊離しており、原位置と配置は不明である。後円部墳頂には主軸に沿って粘土槨の埋葬施設が確認されている。
　棺は形状から割竹形木棺で、北頭位で埋葬されていたと想定できる。棺は黄白色の良質の粘土で包まれ、周囲には赤黄褐色の砂礫土が充填され、下部には砂利が敷かれていた。

＊大塚古墳　中桜塚４-15
　桜塚古墳群の東群を代表する古墳。昭和10年代に周辺一帯に施された土地区画整理事業により北と西の裾部を一部削除された。昭和50年代に入り、墳頂部より副葬遺物の露出を見るようになり、昭和58(1983)年に緊急性を重んじ発掘調査が実施された。高さ約18ｍの三段築成の円墳であり、東西長56.0ｍ・南北長46.9ｍで、幅12～13ｍの周濠を含めると直径約80ｍに達する。
　造成は５世紀初め頃と推定され、墳頂部には南北方向に主軸を採る並列された三体の主体部が存在した。主体部は大きく分けて東槨（ﾄｳｶｸ）と西槨と呼ばれ、東槨は拳大の石で棺の両端を取り巻くように充填させる特異な構造であるが、その殆どが既に流失していた。西槨は盗掘により既に大きく損壊していたが、長さ7.1ｍにも達する長大な割竹形木棺が二つ南北に並べられていたという。
　東槨木棺内部からは、鏡・鉄製甲冑・鉄製剣・盾などの副葬品が出土し、調査発掘後、これらは国の重要文化財考古資料に指定され、豊中市教育委員会に保管されている。
　大塚古墳は平成２(1990)に史跡公園として整備された。

＊御獅子塚(ｵｼｼﾂﾞｶ)古墳　南桜塚２-２
　南面する前方後円墳で大塚古墳の50ｍ南に位置し、桜塚古墳群東群を代表する古墳の一つで、東西長21.9ｍ・南北長49.0ｍ・高さ3.6ｍと大塚古墳に次ぐ規模を有する。周濠を含めた全長は70ｍである。この古墳も昭和10年代の土地区画整理事業で後円部東側の一部は削除されたものの幸運な事に大部分は保存された。
　その後、南桜塚小学校体育館とプール建設に際し、後円部西側の一部と前方部周濠部が破壊された。自然崩壊も激しかったので、昭和60(1985)年と平成２(1990)年に史跡整備事業と共に発掘調査が実施された。墳丘は二段築成で二段目斜面のみ葺石を施すという特異な外観を呈する。円筒形埴輪が密に樹立しており、中には須恵質のものも含まれる。形象埴輪片が数多く出土しており、種類は家・蓋・靱・盾・動物等が存在し、初期須恵器の高杯片も出土している。後円部墳頂では主体部が上下で直行する二体検出されている。
　第一主体部では、鋲留め技術導入期の試行製品と思われる三角板鋲留短甲や小札鋲留衝角付冑など歴史的に貴重な遺物の外、農耕具や馬具類・漆塗り革製盾が良好な状態で出土するほか、勾玉などの玉類も約400点出土した。
　第二主体部では、甲冑と頸及び肩甲の付属物を伴う一組・大刀一口・槍三口・鉾余四口・鉄鏃（ﾃﾂﾔｼﾞﾘ）184本・鎹（ｶｽｶﾞｲ）・盾等が出土した。これらの鉄製武器・武具類は、大陸系技術導入期の様相を如実に表している貴重な資料である。また、革製盾の全貌が明らかにされた稀有な例で、取り上げ保存された唯一のものである。これらの資料は５世紀という時代を考える上で欠かす事の出来ない一級資料である。

＊南天平塚(ﾐﾅﾐﾃﾝﾋﾞﾝﾂﾞｶ)古墳　南桜塚３-８
　昭和10年代の土地区画整理事業に伴う道路計画によって、四分の三が破壊されることとなったため、昭和12(1937)年に発掘調査が実施された。その結果、円筒埴輪列を伴う二段築成、東西長27.2ｍ・南北長18.0ｍ・高さ5.5ｍの円墳である事が明らかになった。
　南東部では、円筒埴輪列で囲まれた突出部が検出され、方形区画の作り出しが付設していることも判明した。四分の三が道路によって破壊された後、平成３(1991)年に四分の一の残りの部分を豊中市教育委員会が再調査を実施した。その結果、一段目のテラスの埴輪列の上に幅７～８ｍの周壕を有する事が明らかになった。そして、墳頂の下2.5ｍから二個の割竹形木棺が発見された。それとともに、彷製六獣鏡・鉄刀・鉄剣・短甲・衝角付冑が副葬され、棺蓋の上には革盾をのせた形跡が認められた。また、木棺の両端外側には鞍・鐙（ｱﾌﾞﾐ）・轡（ｸﾂﾜ）・杏葉（ｷﾞｮｳﾖｳ）等の馬具一具を置き、北側外側には鉄槍一筋を横たえ、赤・黒とりどりに彩られた弓数張を添えてあった。槍は木質部が腐朽すたにも関わらず、柄の表面の糸巻きが漆で固められた被膜となって遺存していたため、槍先から石突まで3.3ｍにおよぶ全形を確認出来た。