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街山荘・よしおの著作コミュの【連載小説】思春期・番長? 混迷

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 兄の修平達に連れられて九条に女を買いに度々行った。
 春を売る女は勝之より遥かに年増が多い。小柄で悪戯っぽいくクリッ
とした眼がいつでもどの年増にも可愛がられ、性戯の手練手管を教えら
れた。それを近所の不良少女相手にも実践して楽しむコトもあった。
 それは征生男にはない世界だった。硬派の征生男はそんな勝之をいつ
も諌めてきた。しかし、もう征生男と言えど仲間入りしてきた。
 自分は今、ミヨとキャキャと戯れている。征生男は隣の部屋で春子と
 アイツのコトだからセックスも真剣にやっているはず。
 真剣にならんと遊びにせんとアカンな、アイツが惚れてるのは照美ち
ゃんや、多分、真面目に悩むに決まってる。ミヨと溶け込みながら勝之
は征生男のコトが妙に気になった。



「そんな言い方ないやろう。何で俺が横溝先生の回し者やねん。そらな
横溝先生は尊敬している。先生もお前のコトが気になって俺に連れて来
いと言うてた時もあった。今は違うなお前を危険視している。それがな
俺には理解でけへんねんな。俺は俺でお前を見てんねん。先生等が思う
ように花田、お前をなタダの悪とは思えへんねん。そやから一回な花田
等がいつも学校終わって何処で何してるのかメッチャ興味があるねん。」
「菊池、俺もお前を買うてる。優等生だけとチャウとな。そやけどお前
は優等生でエエやんけ。わざわざオレ等のアホな遊びに付き合うコトも
ないやろう。」
「優等生、優等生って言うな。そう言う眼で俺を見んとってくれ。俺か
って普通の高校生やで。勉強だけと違うて色々遊びたい。」
「菊池、お前、彼女とかおるんか。」
「あっ、それ言われるのん一番辛いな。小学校の頃は好きな子も居った
けど、何て言うか女の子と付き合うなんてアカンな。そら、彼女なんか
欲しいとは思うてるけどな。」
「ほな、お前、童貞か。」
「当り前やんけ。」

「ウワーッ、伊川久しぶりやんけ。それに菊池、お前みたいな優等生が
なんでまた、こんなとこへ。今日のメンバーは異色やでぇ。」北村が大
げさに騒いだ。
 夕暮れにはまだ早い。道頓堀の玉突屋は相変わらずのメンバーが先に
来ていた。他に客はまだ来ていない。ローテーション5台、四つ玉3台、
スリークッション1台とそこそこの店だ。夕方7時までは学生割引があ
って半額で遊べる。学校が終わると皆はまずそこに行った。
「オッ、北村元気にしている。芝居の方はどうやねん。チョコチョコ映
画に出てんのか。」両手をズボンのポケットに入れ肩をすくめ左右に振
りながら伊川勝之がニコニコ人懐っこく北村に話す。
「ウン。こないだな勝信の映画にチンピラ役でチョイ出やった。台詞な
しの殴られ役だけやったけどな。」北村は何とか言う劇団に所属して将
来は俳優を目指していた。
「菊池、どや、やってみるか。」征生男。
「オオゥッ、やりたいやりたい。教えてくれるんやろう。」
「北村、菊池に教えたれや。」

「北村、おおきにな。オモロかったわ。これから俺もチョコチョコ寄し
てや。それにしても花田は抜群に上手いな。」
「そやろ、勝たれへん。おんなじようにやってんねんけどな、花田だけ
がグングン腕上げよんねん。何か天性のモンがあるんやろうな。」
 薄暗いコニーの地下で征生男等一行はいつも溜まる。
「菊池、まさかやろうけど俺等がここで溜まってるって先公等に言うな
よ。」
「北村、お前、俺のコトそんな風に見てるんか。ガッカリやな。」
「心配すな。優等生やけど菊池はそんな奴とチャウ。」
「そやな、花田の言う通りや。菊池は優等生やけど何かチョッと変わっ
てるな。俺もコイツ好きやねん。」瀬田。
「花田、チョッとエエかな。」村田が遠慮勝ちに声をかけて来た。
「あのな、俺、人にレコード貸してんねん。ほんで明日返してもらうね
んけど、付き合うてくれへんかな。」
「何で、返してもらうだけにオレが行かなアカンねん。」
「ウーン。たいした理由はないねん。一人で行くのがチョッとな。」
 村田は中学三年の時に転校してきた。
 家は何かの工場をしていて裕福な感じで、お坊ちゃん然としていきな
り周りを呑んで来た。征生男は一度それを強く諌めたコトがあった。
 以来、征生男の後をいつも付いて回るようになった。
「そうか、何か知らんけど一緒に行ったるわ。」
「征生男ちゃん、照美ちゃんトコへ行こうか。」勝之が耳元で囁いた。
「えっ、お前イヤとチャウンか。」
「エエねん。お前一人ではよう行かんねんやろ。」
「まぁな。」
「ほな、行こう。菊池も連れて行こうや。他のヤツ等はどうも冴えへん
けど菊池やったら何か話しが出来るやん。ほんでアイツなユキオちゃん
と何かもっと喋りたいらしいで、皆が居らんトコで。」

 照美は居なかった。
「あのぅ、山本さんは?」勝之がお絞りと水を持ってきたウエイトレス
に尋ねた。
「へぇ、君、照美ちゃんのコト好きなん。あの子、綺麗しな毎日そない
して誰かが訊いてくるわ。」
「そうそう、俺も大フアンやねん。出前でも行ってんのかな。」
「チャウねん。今日な突然、家の事情で休ませてと連絡あったらしい。」
 どんな事情と思わず尋ねそうになったが、そんなコト訊いてもムダと
征生男は覚った。
 終電が通り過ぎてやがてコツコツと闇に響く靴音。
 その時間、耳はそれのみを捉えようと緊張していた。
 窓を開ける。照美らしい姿が街灯のシルエットで浮かぶ。
 手を振っている。素早く、そして音も立てないように階下に降りそぉっ
と玄関の戸を開け外に飛び出した。
「ユキオちゃん。」
「お帰り。疲れた?」
「うん。今日はチョッとキツかってん。」
「そうか、ほな、早よ帰って寝なアカンで。」
「そやな、そやけど折角待ってくれててんから、チョッと位話ししよう。」
 嬉しい。と、思う。が、何処かであとづさりしてまう。
 春子とのコトは照美が知る由も無い。なのに呵責だけが心の位置を占め
て気が引けていく。
「今日な、メッチャ忙しかってん。ほんでな通しやったからもうクタクタ。
そんなトキな、ユキオちゃんがけえへんかなぁ、なんて思ったりして。う
うん、そんな言うてムリして来たらアカンで。店に来んでも帰りにこうし
て会えるもんな。」
「そんな、オレなんかと会えて嬉しい?」
「ふふふん。どうやろう。ユキオちゃんは?」
「う〜ん、、、、。」
「嬉しないのん。ふ〜ん。」
「そんなコトない。」
「ほな、嬉しい?」
征生男にとってそのひと時が蕩けそうなそれでいて切ない、あれから2
度程あった。で、今日、家の事情って何か引っかかる。

「オレなこないだ、聞いてん。花田、お前条件付進級やてな。」
「それっ、どう云うコトやねん。」勝之。
「伊川くんは知らへんかったん。横溝先生に呼ばれて花田が二年には進級
できるけど何かチョッとでも間違いがあったら即退学の条件付きになった
からオレに花田といつも一緒に居って間違いないようにせえチュウねん。
それ聞いて俺もなほっとかれへんやん。花田がショウムないコトでもし退
学にでもなったらアカンやん。」
「お前、横溝とつるんでんのんチャウか。」
「やっぱりか。花田も俺にそう言うたな。俺はな花田が好きやねん。悪や
って皆が言うけどワルとチャウ。ただケンカだけしてるねん。そのケンカ
も卑怯なトコなんかあれへんやん。中学校の時は首席みたいや言うし、や
っばりな、高校に入って環境が異常やん。俺な、そんな環境に負けんと花
田がホンマの自分を取り戻して欲しいねん。」
「菊池。お前、それは皆、横溝の受け売りやろう。オレに変に構うな。オレ
はやりたいようにやる。お前等の指図は受けへんで。お前が俺等とチョッと
一緒に遊びたい言うから付き合うてるだけや。要らんお節介するねんやった
ら今日で終わりやな。」
「何言うとんねん。ケンカばっかり強いのが何ぼのモンじゃい。ほんだら何
か、このまま行って、また何かでケンカして結局は退学になってもエエちゅ
んかい。そんな意味の無いコトってあるか?」
「何でオレだけがケンカしたらアカンねん。オレかってケンカは好きとチャ
ウ。自分ではせえへん。そやけどそうなってしまうんや。男はな逃げたらア
カンねん。負けても逃げたらアカンねん。」
「そうチャウねん。いつもなそんな風に構えてるからケンカが向こうからや
って来るねん。逃げたらアカン言うんやったら、俺等高校生やろ、一番逃げ
たらアカンのは勉強チャウンか。お前はただなカッコつけてんねん。弱いの
を見せたらアカンってな。そやけど、高校生が勉強から逃げるのが一番弱い
のんチャウか。」
「お前、どつかれたいんか。オレが弱い?屁理屈ぬかすな。」
「ユキオちゃん、怒ったらアカン。俺は菊池に始めて会うけど。コイツは腹
くくってお前に言うてるで。難しいコトは分かれへんし学校なんかどうでも
エエと俺は思う。そやったら学校止めたらエエねん。そやけどお前学校行っ
てるやろ。ほんだら菊池の言うのも、そうやなあと思う。」
「、、、、、。」
「横溝先生とお前は対立しているけど、俺はそんなコトどうでもエエねん。
花田がやっぱり退学なんかになって欲しいない。そらな中学校から上がった
仲間を守るのはエエと思うで、そやけど一年がもう経つねん。学校はそれだ
けか。俺は他の中学校からココへ来た。殆んどそうやんけ、1600の50なんて
一部やろう。それも20人程が未だに付属中出を鼻にかけてるな、そんな俺ら
の眼から見たら、ハッキリ言わしもうたら変やで。逆に反発するモンもイッ
パイ居るんやで。皆、花田が怖いから表面は黙ってるけど、影では色々言う
とる。影で言うヤツなんかはどうでもエエけど、な、これからはチョッと考
て行こうや。」

 母が泣いて諭してきた。
 平川先生が「このケンカに負けたらアカン」と言う。
 菊池が必死で訴えてきた。勝之も考え込んでいた。
 だから何をどうせえと言うのか。勉強さえしてたらエエのか。
 勉強しててもケンカ一つしたらアカン。が、逃げるのは絶対許せない。
 にしても照美のコトで何故こう胸が苦しくなるのか。春子の哀しいような
眼差しと愛撫が忘れられない。
 家に帰りたくない。それでは母が哀しむ。母が哀しむコトはしたくない。

「村田、何処まで行くねん。」
「うん、もっチョッとや。ゴメンな花田。」
 良からぬ何かを本能的に感じていた。学校から地下鉄をナンバで降りたの
はいつもと変わりが無い。千日前を抜け千日前通りを東に日本一の交差点の
堺筋を渡った。千日前、戎橋筋、道頓堀、心斎橋筋が言わば征生男達の生息
する地域だが、堺筋を越えるのは初めてだった。
 堺筋を渡り二つ目の辻を左に折れた。小さな喫茶店があった。
「ここやねん。」村田は何故か極度に緊張した感じで声が弱弱しい。
 店内は暗い。明るい戸外から入って直ぐにしばらく様子が掴めない。
「おう、遅かったな、村田。」奥の方でドスの効いた声が飛んできた。
 征生男の体に電気が走る殺気。
 奥のボックスに5人ほどが居る。二人は女。
 背広にネクタイ。しかも派手な色の背広。
 全員リーゼントの頭髪。男2人は女の肩に手を回し足を鷹揚に組んでいる。
 一人は黒いサングラス。
「ほんで、カネ持って来たんかい。」サングラスの男。
「ハイッ。一万円。」
「ようしよし。エエやんけ。ほなレコードこれや。」
 征生男は警戒し、うつ伏せに目立たないようにしていた。
「ありがとうございす。ほな、帰らしてもらいます」村田の消え入るような
声。
「おお、またな。チョッと待て。ソイツは何や。」
「ええっ、ボクのクラスの友達です。」
「そうか、ほな、早よいに。」
 征生男の額には冷たい汗が浮く。
 征生男は先に店を出た。村田が続いた。
 外に出ても緊張がまだ解けない。
「悪かったな花田。」村田の声が終わると同時に喫茶店のドアがバーンと開
いた。
「おい、お前、チョと待たんかい。」バネ仕掛けのように村田は引いた。
「何か生意気なガキやのう。」サングラスの男が征生男の正面に立った。
 後の2人は左右に征生男を囲んだ。
 村田は輪の外の遠くに居るような、俯き加減の征生男の視界にはない。
「ワレー、挨拶ちゅうもん知らんのかい。」
 高校生の悪ガキとは違う、大人の修羅場を積み重ねた凄みで威圧される殺
気。
「高校生のガキが返りしなに頭一つよう下げんのかい、ワレッ。」右のヤツ。
「学生証出せ。それをな村田みたいに一万円で買い戻しに来い」左のヤツ
「返事もようでけんみたいやな。痛い目に会いたいらしいな。」前のヤツ
 恐怖とはこんなモノか。言葉一つ出てこない。体がガチガチで身動き一
つ出来ないどころか一呼吸が苦しい。
 やられると思った。
 初めて逃げたいと思った。今なら確実に逃げられる。
 兄の正紀に一方的な暴力を受け続け、小学校低学年の頃に数人に囲まれ
小突き回されたコトはあって以来、やられると言うコトはなかった。
 やられる。やられるってどんなんなのか。
 全身の血の気は引き手足の尖端が冷たく固まる。
「どないやワレッ。聞かれへんねんやったら高校生でも手加減せんど。」
 正面のヤツのエナメルの革靴がスーッと尖っている。
 オレは逃げへんねん。怯える自分の全霊に激しく熱い玉を投げかけ大き
く首を左右に振った。
 一瞬、エナメル靴の尖端が視界から消えた。
 次の瞬間、顔面に激しい衝撃と熱い火花が散った。

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