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街山荘・よしおの著作コミュの鳩

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はっ?
 鳩、ハトやん。何でこんな処に?

 買物から帰って店の階段を上りきる手前の薄暗い処。
 一羽の鳩がチョコンと居てオレが近づくと心なしか後ずさりした。
 シッと追っ払おうかなと思ったのも束の間、彼女(オスかメスか判然とせえ
へんが何となく可愛い感じがしたので)と目と目が合った。

 円くちっちゃな目が可愛い。
 しかも穏やかに見えた。細く突き出した口ばしが深遠な感じがして、お互い
 しばし見つめ合っていた。

「何してん、こんなトコで」
 もちろん、彼女は答える訳でもなくオレを見つめた。
 よく見ると左の羽がだらりと垂れている。

「は〜ん、怪我したんかいな」
 手当てと言うても近づくと逃げるやろうし、捕まえるには手荒な真似にもな
 る可能性がある。
 ま、エエか。その内何処かへ飛んでいくやろうとオレは店に入り買物を整理
 したり、片付け物をしたりでいつしか鳩のコトは忘れていた。

「あんなとこに鳩が居るやん」
 開店時の夕方、最初に来たお客の第一声。
 えっ、まだ居るんやと見にいく。
 場所を上に移して踊り場の端に悄然と立っている。

「どうした、よう飛ばんのか」と近寄る。
 彼女はっと肩を退くようにしてヨチヨチと横に動きオレから遠ざかろうとする。
 それがシナを作るように何となく色っぽい。

「オレはな、鳩なんて大キライなんや。鳩とカラスは駆除してもエエ思ってね
 んや。鳩はな群れて糞をそこらじゅうにして汚しまくるやろ。何が平和の
 使者やシンボルや。大嫌いやど。それが何でそんなトコに居るねん。怪我
 したらしたで何処か他に行くトコあるんちゃうん。選りによってなんでこ
 んな建物の奥に来るんかな。鳩は嫌いやけどメッチャ気になるやろう」

 チッチャイ円い目がオレの話を聞いているようで、ほんで、清楚で毅然とし
 ている。

 踊り場を挟んで向かえはダーツバー。
 この建物では先輩でもう何年も営んでいるから次々とお客が入って来る。
 それに比べたら開店未だ一ヶ月も経ってへんオレの店はポツリポツラとしか
 お客が来るだけ。どっちにしても両店に来るお客はこの日は迷い込んだ鳩
 の横を通るコトになる。

 お客と他愛のない話の中にもオレの頭は、あの鳩をどうしようと案じるウエ
 イトが大きくなるばっかりで気が気でないようになっていた。

 最後のお客が帰る。
 見送って店から出る。ツクネンと彼女は同じ場所にさも何事もないように立
 っている。
 何時間も目の前を人が通り過ぎて行くのに慣れてきたのか、チョッと近寄っ
 た位では身を退こうとせえへんようになっていた。

 ヨシッ、とオレは心の中で手を打った。
 帰るお客に彼女の気をひきつける陽動作戦にでた。
 先に出たお客に彼女の視線が向いた瞬間、オレの手は彼女の背中を掴んでいた。

 身悶えし抵抗をしようとしているが、オレの手は確りと彼女の小さい体を鷲
 掴みにして更に空いていた左手も彼女の腹部をそっと包み込んだ。


 テーブルの上に軽く押さえ込むようにして左の羽を広げさせプシュプシュと
 魔法の水を霧状に噴きかけた。
 それからそっと床に置き手を離し彼女を解放した。
 かなり慌ててオレから離れていく。店内は照明を落としていて薄暗い。
 もう彼女がこの店内の何処へ行こうが好きにすれば良い。
 
 オレとしてはやるだけのコトをやって彼女を無事保護したしたんや。
 後は気にもせず酒を喰らってそのままソファーで眠りに落ちた。


 何か家の中が大変なコトになっている。
 妻が居てその妻を絶対に救い出さねばと取り乱し慌てふためいていた。

 突然、98年の山荘の火事の中に居て逃げ場を失っていたオレ。
 燃え盛るログの隙間から何やら飛び込んできた。
 鳩や。そう思った瞬間、鳩に誘われ妻もオレも燃え盛る山荘の外に出ていた。

 おぉ、夢やったんかいな。
 久しぶりに山荘全焼のシーンが鮮明に浮かび上がってきた。

 鳩?
 そう言えば鳩は、既に広い窓からまぶしい程の明かりが店いっぱいに広がっ
 ていた。
 そうか、昨夜も店で寝てしもうたんや。それで鳩を保護したのを思い出した。
 広い店内の何処かに彼女は居るはずやと、テーブルや椅子の下を探るように
 見渡したが、見つかれへん。

 鳩を保護して良いコトをしたと思い込んでいたから多分あんな夢を見たんや。
 鳩の恩返し、いい気なもんやと自分を蔑むように振りかえる。

 その時、ステージのピアノが目に入った。
 腰を屈め音を立てないようにピアノの下を覗き込んだ。
 ピアノの下に置いてあるバスドラの向こうに斑で灰色の羽が見えた。そのま
 ま様子を窺うように観察する。

 待つコトしばし。
 尾羽を振り振りヨチヨチと彼女が姿を現した。
「ゆっくり休めたか、腹減ってんちゃうか。喉も渇いたやろう」
 首を少し向けやはり清楚なつぶらな瞳でオレをジーッと見つめながらオレの
 問いかけを聞いていた。

「チョッと待っとき」
 空いた灰皿二つを手にしてカウンターの中に入り、灰皿の一つに米粒を僅か
 に掴んで入れ、一方の灰皿に水を入れユックリ静かにピアノの方に引き返し
 た。

 彼女との距離2mほどの処で止まりゆっくりしゃがみこんで、そうっと両手
 を伸ばし二つの灰皿を彼女の1m程手前に音を立てないように置いた。
 慌てる風でもないが警戒は怠らないというように彼女は二三歩後ずさりして
 やっぱりオレをジッと見つめている。
「ほな、ここへ置いとくで。気が向いたら食べ、飲み」
 オレはカウンターに戻り頬杖をついて対極にあるピアノの下の彼女の動きを
 注意深く眺める。

 10分ほどが経っても彼女は水にも米粒にも何の興味も抱いていないようや。
 むしろ時々首を捻りキョトキョトと辺りを見回している。
 その内窓のほうに視線を移しジーッと見つめだした。彼女の下からの位置だ
 と空が見える。そのの空を見つめているのか。

 自由に大空を羽ばたいていた昨日までの日々を思い起こしているのか。或い
 はあの空に戻るコトを真剣に考えているのか。
 どう見ても今の彼女の羽の状態では飛び立つことはでけへんやろう。
 そんな彼女を見ていると切なくなってきた。
 何とか元の状態に戻してやりたいものやと切に思う。

 と、その時、彼女に動きが出た。
 二つの灰皿を横切ってヨチヨチと移動始めた。
 スピーカーの前で止まってまた動かへん。首は時々上下してスピーカーと窓
 を見ている。
 
 オレはカウンターからもう一方の窓辺に置いているソファーに移動した。
 先ほどまで眠りに落ちていたソファー。ソファーの端とスピーカーの間は1
 m程。オレがソファーに寄りかかると彼女はキッとオレに視線を向けてきた。

 表情も眼差しにも変化が見えない単純に出来た鳥類の顔は、何を感じ何を思
 案してるのか窺い知る由もないけれど、明らかなのは彼女の思案を動いたオ
 レが邪魔をしたのや。

 構うコトなくオレは足を投げ出してソファーに横になって彼女を見続けた。
 彼女の視線もオレから離れない。つぶらな清楚な瞳がジーッとオレを見つめ
 る。表情のないのがむしろ深遠な表情を滲ませるかのように彼女の瞳は無垢
 な信念を誰はばかるコトなくオレの心の奥まで見つめているような。

 小さな感動がオレの中で生まれている。
「分かった。飛べるようになるよな。そのタメにはオレも最大限の協力をする
 しそれには君も滋養を採らんとアカンやろう。先ずは水を飲むコトやな。そ
 の水には少し魔法の水も入れてるし回復のお手伝いになるよ」

 聞き分けたのか、彼女はツト身を翻し元の位置に戻って、そこでまたオレを
 見つめなおして次に又窓の方に視線を移しそれからやっぱりスピーカーを見
 つめ何かを懸命に探しているようだ。

 また、スピーカーの方にヨチヨチ歩いてきた。
 立ち止まり、スピーカーの下から上へとゆっくり視線を何度も送っている。
 
 オレに睡魔がさしうつらうつらとしだして間もなく、バタバタドサッという
 音がして我に返って彼女の方を見た。
 バタバタと羽を懸命に動かしスピーカーに下に飛び乗ろうとしている。
 そしてスピーカーの斜面をよじ登ろうするが力尽きてドサッと落ちた。

「そうか、スピーカーから窓辺に行きたいんや。そやけど今は無理やで。もう
 チョッと力を蓄えてから挑戦した方がエエで。それにしても窓辺に辿りつい
 たとしてもまだまだ飛ばれへんし、危険やし、とに角無理したらアカン」

 睡魔から開放されたオレはそのまま買物に出かけた。


 天神橋商店街、実に活気のある商店街や。
 天神西から天六までの約2kmのアーケード、その長さが日本一長いというの
 も充分頷ける。

 中学校は私立で大正区の大運橋から地下鉄の昭和町まで通ったから、当時の
 市電から地下鉄に乗り換えるのはナンバやった。
 そんな少年の頃からナンバに馴染みミナミで群れてヤンチャの限りを尽くし
 てたから、キタという所には殆ど縁がなかった。

 縁がないというより敵視敬遠していた。
 大阪の心情はミナミやでとガキの頃から一徹して思い込んでいた。

 何ちゅうか、大阪と東京を対比する感じでのミナミとキタやった。
 そやからキタちゅうのは梅田界隈だけでその他はまるで異国、いやもっと酷
 く僻地くらいに思っていたのに、堂山に店を出し天六で住み始めてオレの無
 知さ加減が毎日のように顕かになり、で、毎日が発見のサプライズになった。

 天神橋商店街の賑わいと長さに驚嘆し、梅田を少し外れた中崎町界隈の静か
 なセンスの良い賑わいに好感を抱き、いつしかこの界隈が大好きになってい
 た。

 特に天六、天満の賑わいはミナミや堂山町辺りのギラついた夜の膿のような
 禍々しさから縁遠く、明るい庶民的な活気が親しみを持てる。
 チャリで少し行けば大川の畔の清閑な緑と水面も愉しめて、昼のオレの孤独
 を癒してくれる。

 生玉公園に叶うような公園のないのが残念やけど、今度の天満の店は天井が
 高く広々しているので逆上がりが出来る鉄棒も設置したので体はいつでも鍛
 えられる。

 脊骨がずれて歩くのも困難やった工事中にも逆上がりをしてそのまま数分ぶ
 ら下がっていたら多少は楽になった重宝な鉄棒。

 先日は若者三人相手に逆上がり大会をやって、オレはいきなり連続三回やっ
 て見せ、精々一回しかでけへんかった彼等に「オレは66のジジィやで」得
 意満面になったりして若者達を大いに悔しがらせてやった。


 天神橋商店街の東の裏通り、特にJR天満駅から天六に掛けて飲食店が軒を
 並べていて不景気が侵食している大阪にあって殆どの店にお客は充満してい
 る。
 何故かすし屋が多く毎日行列が出来る店も稀ではない。

 街山荘のある路地の両側は立ち飲み、居酒屋が軒を連ね昼からでも繁盛して
 いるんや。
 平日でも昼からこんなに多くの人が飲みに来るって、一体この人達は何をし
 てはんねんやろうと要らぬ心配なんかしてしもうて。


 店の裏の窓を開けると少し離れた場所に高層マンションがそそり立っている。
 その一階、地下と大きな市場「天満卸売り市場」になっていてその北側が天
 満市場でとに角物が安い。
 安いからもっぱら買物はそこになる。
 仕入れがほぼ目と鼻の先ちゅうのは実に便利や。
 しかも数日前に天満駅を横切った直ぐ先の商店街にあの玉出が進出してきた。

 で
 その日はその玉出を視察に行き、折り返して天満市場でも買物をして小一時
 間ほどで店に帰ってきた。

「あっ、危ない」と思わず叫びそうなのを呑み込んでジイッと様子を窺った。

 ピアノの横、スピーカーの後ろの窓辺、彼女はしきりにその窓を見つめていた。
 そして今、窓辺にとまりこちらに背中を見せてる彼女の姿が店に入って直ぐ
 目に飛び込んできた。


 絶対に未だ飛べないと確信している。
 その確信がいかにも彼女を危険な状態に置いているかとオレに驚愕が走った。
 窓辺から外の通りのアスファルトまでは4m近くの高さ。足を滑らして落下
 でもしたら致命傷をこうむる可能性は大なんや。

 咄嗟に判断したのは、それでオレが慌てふためいて大声を出したり駆け寄っ
 たりしたら警戒と恐怖で彼女がバタつき足を滑らせる恐れがある。
 
 一瞬、驚愕が走ったものの即座にスイッチを切り替えて、そおっと抑えて音
 も立てず静かにそろりと近づいていった。

 彼女から2mほどのところで立ち止まると気配を察したのか首をひねり視線
 がオレを捉えていた。
 あどけない無表情のつぶらな黒い瞳がジーッとオレを見つめる。
 それがオレには何か訴えているように思えた。

「何してん?危ないやんか、そんなトコに居ったら。どうしてそこへ上がったん」

 答えは直ぐに分かった。
 何度か挑戦してスピーカーの短い斜面をよじ登り隣の椅子に移りそとて窓辺
 にたどり着いたのやろう。

「あのな、そこまでは必死で何とか上がれたやろう。そやけど、お前はなその
 羽では飛んでいかれへんねんで。危ないからもう少し辛抱してそこから降り
 ておいで」

 ジッと聞いているのかひ首をひねったまま視線を外さず見つめている。

 オレが傍に行って抱き上げて床に下ろせない。
 実は、彼女は一切オレを信用してへんやろ。その証拠に水も米も口にした形
 跡はない。ただ、距離を保っていれば逃げようとしないのだけはハッキリし
 ていた。

 2mの距離を保ったままオレには何の行動もとれない。
 説得して諦めさせて彼女が自主的に降りて来るのを待つしかなかった。

 突然、ひねっていた首をクルッと正面に向けそのまま前を向いて動かない。
 オレを完全に無視してるやん。

 その間隙をついて一挙に彼女のコトまで行き手でこちらへ引っ張ろうと咄嗟
 に思った。



 咄嗟に跳躍して彼女を引き寄せようと思ったが、直ぐに諦めが起きた。

 それは大いなる賭け。
 もし、失敗したら彼女は窓の外に転落する。転落すると命に係わる超重大な
 コトや。そんな賭けはやっぱりでけへん。
 第一、今オレはそんな事ができる体ではない。
 2m先まで一気に跳躍なんかしたら折角治まってきた痛みが激しくぶり返す
 のは必至や。

 そっと引き返して買物を片付け、またそっと近寄りソファーに腰を落とし見
 守るコトにした。

 午後の陽射しが広い窓からいっぱいに射しこんで目映い明かりの中に鳩がチ
 ョコンとたたずみ光りを浴びて羽がキラキラ照り輝いている。

 微動だにもせずただ前方を無表情で見つめて照り輝く姿はどこか神々しく妖
 精か神の化身のような錯覚を覚えさせる。

 見守るオレは居ずまいを正し神妙にしているのが当然のようになっていた。

 飛びたてる訳でもないのに、ジッと立ちつくし一点に視線をむけている。
 宇宙の大いなる摂理を悟り、計り知れないエネルギーを一身に受け取ろうと
 しているかのような静かなそして小さな尊厳をオレは見ていた。


 10分が過ぎ、20分が経ち、更に時間は延びていく。
 外を一心に見つめる彼女、小さいが無色透明な彼女の尊厳に引き寄せられる
 かのように見守るオレ。

 痛ましくだらりと垂れた左の羽にもかかわらず、抗えない強固な意志が彼女
 のつぶらな瞳に宿りオレの懸念がいかにも無用のようにも思えた。

 飛び立とうとしているんや。
 そやけど自分の今ある力が如何に頼りないかを彼女は悟っている。
 そやから動かへん。
 動けるパワーを体内の底から念じるように呼び起こしているんや。

「分かったよ。多分、君は無謀なコトはせえへんやろう。そこに居るのにもう
 懸念も邪魔もせえへん。自分の在りようを冷静に理解してんねんな」

 目映い彼女の輝きと午後の陽射しに包まれたオレの体に抵抗力が抜け、いつ
 しか眠りに落ちていた。


 バタバタバタ、激しい羽音でハッと目が覚めた。
 どの位眠っていたんやろうと、彼女の居る窓辺に目をやる。

 居れへん。床にもおれへん。
 彼女の姿が消えた。
 慌てて窓から身を乗り出して下を見る。下の焼肉屋の突き出したテントが邪
 魔をして視界をさえぎる。それでも更に身を乗り出して覗いたが見える範囲
 では彼女の姿がない。

 う〜ん、やっぱりオレの懸念は正しかったんや。
 睡魔の中でエエ加減な妄想に捕らわれて保護せなアカン処置を怠ったと、悔
 恨が途轍もなく沸きあがり、そのまま身を翻して下へ降りようとした時、

 バタバタと羽音が何処からか聞こえてきた。
 それは多分、極近距離。周りを見渡す。
 また、羽音がした。窓から視線を真っ直ぐ前に移した。

 居った。
 向への串屋「満ぞく屋」の上のマンションのベランダの端の角に爪を引っ掛
 け滑り落ちまいと羽をばたつかせている彼女の懸命な動きが目に飛び込んで
 きた。

 「おおぅっ」思わず呻くオレであって。
 「ガンバレ」続いて小さな叫びが口から飛び出していた。

 爪の力が尽きて滑るのを羽をばたつかせて浮き上がりベランダに上ろうと何
 度も試みている。

 やった。とうとう登りきった。
 鉄柵の間をヨチヨチとすり抜け通りを見渡せるようにこちらに向き直り、一
 度羽を大きく広げてゆっくりと沈むようにうずくまった。
 流石に疲れたとみえる。それからまたその姿勢のまま微動だにもしない。

 彼女は冷静に自らを推し量っていたんや。
 窓を見上げ、窓までの距離と自らの力量を測り窓から外を微動だにもせず見
 つめていたのもやはりそうなんや。

 命を全うしようというコトを冷静に推し量り慌てず着実に一つ一つ段階をク
 リアしていく。
 動物の本能というだけではスッキリしない熱い個の輝きがある。
 集団で群でパニクルのでなく、窮地に追いやられた個として神々しいまでも
 孤高になり深遠に思いを巡らし、咄嗟の行動力で一歩ずつ前へ前へ進んでゆ
 く。

 人間でもこうもいかへん。
 いや、人間こそ一人では何も出来ないというのが現代人かも。

 窮地に立つ。
 
 オレは何度も窮地に立ってきた。
 89年の信州木島平の街山荘全焼、最大の窮地であった。
 なったモノはしょうがないと現実を速やかに受け入れ精一杯冷静になり次の
 行動を考えた積りでいたが、後から振り返れば随分と慌て間抜けなコトの多
 かったことか。

 それからも、色んな窮地が後を絶たず今では窮地慣れしているようでもある。

 それにしても、彼女の比ではない。
 人間の愚かな懸念より、もっと高いところから自らを見つめていた。

 どんな人間の格言や説法よりも、感動を持って身に染みこむような教えを受
 けたと思う。

 ふと、思う。
 慌てず、焦らず、投げ捨てず、諦めない
 日ごろ自分に言い聞かせてる言葉を鳩が摂理の化身となって身を持って示し
 てくれた。

 小一時間も経ったころ、パタパタと羽音がして彼女は更に高く舞い上がって
 いった。その羽音はバタバタからパタパタ軽やかな響きを残していた。

 熱い滴がオレの目から流れ落ちる。
 否めない感動に体の中から正直に作動してんねんや。

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