ねこ時計コミュのDIVE 上下　森絵都　角川文庫　

森絵都「DIVE !!」を読んでいる。
冨田選手のインタビューの際。奇しくも生島店主も同じ本を読んでいることが判明。
角川文庫のこの夏の新刊で、前にも書いたかも知れないけど、これが拾い物です。
あさのあつこ「バッテリー」にも劣らない飛び込み選手たちの物語。
佐藤多佳子「サマータイム」にも劣らない夏の叙情が溢れる。
飛び込みというマイナーなスポーツの魅力を丹念な取材と巧みな描写で描く。
（この人、直木賞を獲った作家なのですね）
内容の紹介文はこんな感じ…
「オリンピック出場をかけて、少年たちの熱く長い闘いがはじまる！
高さ10メートルから時速60キロで飛び込み、技の正確さと美しさを競うダイビング。
赤字経営のクラブ存続の条件はなんとオリンピック出場だった！　
少年たちの長く熱い夏が始まる。第52回小学館児童出版文化賞受賞作。」

オリンピックで飛び込みの中継を見て、一人何本飛ぶのだろう？なんて思っていたが
この本を読んで初めて、ああ、そういうことだったのかと納得、
創生期、イギリス式のイングリッシュ・ヘッダーという飛び方と、
スエーデンのスウェディッシュ・スワローという飛び方があった、
なんていう歴史の話も、楽しく、かつ勉強にもなります。
特筆すべきは、登場人物のキャラクター設定の上手さ。
この場面で、この人物はこんなふうに考える、行動する、葛藤する、と描く。
中学生や高校生の選手たち、コーチ、父母、ガールフレンド、上手いのだ。
中でも、麻木夏陽子コーチや津軽の海で鍛えた野生児 沖津飛沫のキャラは出色だ。

「男の一人も知らない女より、いろんな男を知ってる女に選ばれた方が光栄だ」
　恭子はにっこりほほえんだ。
「あたしもおんなじ。なんにも知らない飛沫（しぶき）より、東京のことも知って、
　競うことも、負けることも知って…そんな飛沫のほうがいい。」
（中略）
　おれはあそこに、東京に帰るのだと実感した。
　自分の意志で。
　たぶん、負けるために。

「おれたちの生活って、いつもなんか採点されたり、減点されたりの繰り返しなんだ。
　いろんなところにジャッジがいてさ、こうすればいい人生が送れる、
　みたいな模範演技があって、うまく言えないけどおれ、そういうのを飛込みで越えたくて」

　オリンピックへの道など、思えば奇跡の積み重ねだ。
　肉体的な適性と精神的な適性。
　毎日の練習とそれを許す環境。
　優れたコーチとの出会い。家族の理解…。
　そのひとつでも欠けたら奇跡の条件はそろわない。
　そして最後に強運という味方を引き入れてこそ、
　初めて選手は夢の舞台に立つことが出来るのだ。

「初めてあなたのダイブを見たときから、私はずっとそのおもしろさに惹かれつづけてる。
　技の難易度を競うだけがダイブのおもしろさじゃないわ。あなたを見ているとそう思えるし、
　できれば世界中の人たちにそれを教えてあげたい。高度な技だけがすべてではない、と。」
　　　　　　　（森絵都「DIVE!!」上　角川文庫より）


最後の文章は、冨田の体操を描く上でちょっとしたインスピレーションを与えてくれる。
そういえば体操にもアトランタまで規定演技があった。
スポーツとして見るなら規定の演技というのは反対に個性が出て面白かったけどなあ。
実はまだ上巻を読み終わったところ、続きはプールサイドで読みたい
…昼、温い半身浴をしながら「DIVE!!」下巻をいっき読みする。
ズバリ星5つ！2006年に僕が読んだ中で間違いなくベスト小説でした。
もしかしたら生涯に読んだスポーツ小説でオールタイムベストかもしれない。
「DIVE!!」に登場する少年たちへ拍手は止まない。

クライマックスの国内選考会（舞台はなみはやドーム！）
「コンクリートドラゴン」と題された第４部はその試合だけ、200頁が費やされる。
その取材力の確かさ、構成の上手さ、濃密さ、キャラクターの際立つこと、
特筆すべきは文章の骨太さ、強さ。

どうしてこの作家はこんなにキャラクター設定が巧いのだろう。
主人公でない脇役の少年や、脇役のコーチの描き方にもぞくっとさせられる。

クライマックスでは、風呂の中で読みながらも鳥肌が立つ。
飛沫（しぶき）という名の少年が見せた「スワンダイブ（前飛び込み伸び型）」、
さらに無垢な少年が奇跡の４回転半に挑むところで物語はカットアウトする。
ふたたび鳥肌が立つ。

森絵都「DIVE!!」面白いです。
飛び込みの試合を生で観たくなります。

この人の他の小説も読んでみたい。
何でも小説を書くためにフルマラソンを完走したらしい。