[mixi]混迷する吃音研究打開のため、すべての関係 - 矢野武貞の吃音談義〈青空広場〉

[20] mixiユーザー 04月02日 13:51

或る種の話行為が話行為一般から区別され、現に「吃る｣と呼ばれる(う)るが如き問題たり得ているのは、それが音声言語(話しことば)の正常さという当為からみられたときの、もっと基本的には音声言語の共同規範というルールからみられたときの、❬異常さ❭の問題でありうるからである。----[なお、素因説者たちが言う発話の「破壊｣とか「解体｣とかは、]話しことばの「正常さ｣という当為の密輸入にもとづいた、論者の価値判断をこそ内容的に指さすコトバである。(52ページ)

[21] mixiユーザー 04月02日 14:26

b 話行為における＜失敗＞と成功

吃るという現象は話し手という主体によって実現されないかぎりないが、それを実現させるものは、動きによって動きそのものを具体的に外化するところの、話し手の身体的行動である。わたしたちはこのような身体的行動(動き)を、意図的にすることができるという実験せられた事実をもつとともに、また意図的でなくそれをすることもできるという、結果的な事実を問題的にもっている。このことはとりも直さず、次のことを物語るといえよう。それは、吃るという身体的な外化の動きを実現しかつ再現することにおいて、わたしたちはわたしたちに❬できる❭ことを❬している❭]にすぎないということ、すなわち、吃ることもまた身体的な動き一般の理に背くものではないということである。或いはこうも言えよう。吃るという身体的な外化の動きを合理的に動かない限り、むしろわたしたちは吃ることができないのである。又は、吃ることを実現するために、わたしたちは身体的なその動きを非合理的にではなく、合理的(再現可能的)に動く必要があるのである、と。(55ページ)

[22] mixiユーザー 04月02日 19:19

4　話し手における内的過程と実践的外化過程とのあいだの次元の差異　

❮吃ハ発語セント欲スル時ニ始メテ生ズル症状デアツテ、発語セント欲スル意欲ヲ放擲スレバ、其症状モ亦タチドコロニ退散スル。(以下略)------❯(貝田好美「吃ノ本態ニ関スル研究[[大日本耳鼻咽喉科会会報]Vol.35-1(1929年)

たとえば右の文中で貝田は、かれの言う「狼狽吃｣(正音者の吃音的話行為)と「通常ノ吃｣(吃音者の吃音的話行為)とを、同一の観点から説明づけようとしている。正音者の「どもり｣を、それが臨床的な問題ではないという理由を以って考察の対象から一方的に切り捨てるというが如き理論的な愚挙を、少なくとも貝田は演じていない。----「吃ハ発語セント欲スル時ニ始メテ生ズル症状デアツテ----｣云々。これまたわかり切った事実にすぎないが、このわかりきった事実を貝田のように素直に視ることのできる理論家が、果たしていくたりいるであろうか、---と言わなければならないところに吃音理論界の情況的な病根の深さがある。(57～58ページ)

[23] mixiユーザー 04月02日 20:53

わたしたちはいつの場合も、吃るという身体的な外化の動きを合理的に動かないかぎり、吃ることが❬できない❭のである。------これを要するに、吃るときには誰しも(吃音者も正音者も)、いつでも、❮いわば、吃るべくして吃っているのである❯(金鶴泳)ということである。これは「誠に平凡な事実｣(湯山清)であるにすぎない。しかしこの誠に平凡な事実に驚くことからはじめないかぎり、吃音理論家にとってなにごともはじまりはしないのである。(61ページ)

[24] mixiユーザー 04月03日 11:18

5 「個性的原因」と本質的原因　

わたしたちは、はぐらかされてはなるまい。「個性的原因｣=特殊的原因というものは、どれほど「複合的｣に絡み合わされたところで、つまるところ普遍的(本質的)原因とは別のものであって、「どもりの病因｣を本質的(根元的)に明らかにしていこうとする試みから、それはほど遠いのである。こうみれば、どもりの病因｣[本態]を本質的に明らかにしていこうとする者にとって、「複合原因説｣なるものはそれを回避するための格好の逃げ道を用意するものでしかないのだ。(65～66ページ)

[25] mixiユーザー 04月03日 11:53

6 「どもりの現象上の変化」をめぐって　

---なぜなら、狼狽したり急き込んだりしないときにでも吃る場合、狼狽したり急き込んだりするときにでも吃らない場合、が容易に想定できるからである。吃ることの「原因｣を、それでもなお狼狽する、急き込むというような個々具体的
な事実のうえに、対応的=因果的にもとめつづけたとしよう。すると、かくの如き「どもりの現象上の変化はいつも謎のなかに包まれていることになる｣。他のなにものを疑っても自らの踏まえる方法的立場の「科学｣性(実は単なる直接性)だけはこれを信じて疑わず、守銭奴のように握りしめた自らの方法意識だけはこれを決して手離すことのなかった、吃音理論家という名の因果論者たちを悩ませ続け途方にくれさせてきた問題は、基本的にこの問題であるにほかならない。(67ページ)

[26] mixiユーザー 04月03日 12:38

[「どもりの本質はむしろそれぞれの状況に応じてどもり方にデリケートな変化を示すことのなかにみいだされよう｣とする神山/内須川の見解に対し]わたしたちはむしろかくの如き事実❲どもりの現象上の変化❳それ自体が、話すことをやってみないかぎりはないのであるという基底的なる事実、どのような“重症”の吃音者といえども話すことの❬はじまり❭をはじめないかぎり吃ることがないというわかりきった事実の方へ、理論的な視線を向けてしかるべきである。この変化することのない恒常的な事実のなかにこそ、「どもりの本質｣はみいだされよう。(68～69ページ)

[27] mixiユーザー 04月03日 13:15

7 リンゴが木から落ちるわけ　

旧来、理論家たちのおしなべてとってきたやり方は、吃ることを決定づけるモメント、その原因を、話行為の外側に還元的に想定するといったものであったが、わたしたちはこれに真向から反対したい。そしてこれに対して次の如き考え方を相わたらせたい。わたしたちは当り前にも、こういうのである。吃るという話行為の成り立ちは、おそらく、話行為そのものの成り立ちに基礎づけられるものであろう、と。(71～72ページ)

[28] mixiユーザー 04月03日 17:41

Ⅲ　話行為の構造　～1　人間の先験的な存在様式　
ー吉本隆明の考察を軸にして

わたしたち人間がなにかをするというとき、それは他のなにかを❬しない❭ことのかわりにそれを❬する❭のであり、選択的にする(余地がある)のであるということが、現情況において支配的であるプラグマチズムにあっては十分に考慮されたことがなく、言語観ひとつをとっても、わたしたちは❬---言葉をあたかもそう欲したためにそう表現されたものとみる、これらのべったりとした機能的な言語思想の渦中にある❭(『自立の思想的拠点』)のである。ひとりの吉本隆明によって完膚なきまでにたたかれながら、なおそれらの「べったりとした機能的な言語思想｣は、その歯当たりの軟かさ、そのプラグマチックな常識性のゆえに、わたしたちのあいだに広く根づいてしまっている。吃音理論における客観主義=事実べったり主義が「科学的な考え方｣の看板をかかげ、今日、ますます信者の数を加えつつあるのもそれあるゆえなのだ。(77)ページ

　

[29] mixiユーザー 04月03日 21:00

2　話行為の構造

話すという行為は、話し手という主体の意識的(=言語的)な行動と、身体的(=非言語的)な行動とが相まって、はじめて実現され得るものであると想定される。話行為の構成因子たるこの両者のあいだに本来的に横たわる乖離(人間の存在の仕方を特徴づける意識(心)と身体とのあいだのずれ)を、わたしたちは話行為の構造であると看なすのである。かかる見方の妥当性が一般的な水準で確定されるために、なお多くの批判的検討と時日が要するにしても、さしあたりこれに代えて、次のような「事実をさしだすことはできよう｣。わたしたちが失敗的に吃りうるという事実と成功的に吃りうるという事実とのあいだは、「もっとも非因果的な｣話行為における「構造によって媒介されてはじめて合理的ある｣(吉本隆明)というように。(80ページ)

[30] mixiユーザー 04月04日 13:09

話行為は、話し手の意識的な行動によって方向づけられるが、それを外化するための実践的かつ具体的な動きは、かれの身体的な行動(非意識的-自動的-反射的な機制)にゆだねられる。そして、話し手という主体によって外化せられた限りでの話行為においては、身体的な行動による音声言語表現それ自体が同時に意識的な行動による音声言語表現でもあるという、❬直接的な二重性❭(三浦つとむ)が、すでにして成立しているものとみなされるべきである。つまりそのような構造的あり方において、話行為のはじまりは初めてあり得るのであると考えられる。
吃ることはなぜ、失敗的にであれ成功的にであれ、あってしまうものであるのか。右の如き理解を手に入れさえすれば、それに対する説明はむしろ容易である。たとえば、こう言うことができるだろう。ー話行為のはじまりをはじめることにおいて、意識的行動が身体的行動に直接的に介入することは不可能であり、このため、意識の志向するところはそれを体した身体の実践的な外化の動きそれ自体の具体性(一回性)にかかって、その正否が決定づけられるほかない。この両者のはざま、その本来的な乖離のうちに、吃るか吃らないかを決定づけるモメントがあるにちがいない、と。

[31] mixiユーザー 04月04日 14:10

3 「異常」だから吃る？

ところで吃音者と正音者とのあいだの区別にかかわる問題が現実的に成立するためには、この両者のあいだにどこか違いがなければならない。しかもその違いは、わたしたちにハッキリと判るものでなくてはならない。そうでなければ、そもそもこの両者を日常生活のうえで区別(問題化)することは不可能である(！)からだ。すると、こういうことになる。吃音者と正音者とのあいだの区別が実体的に為されうるためには、仮定された吃ることの実体的原因❲病因❳Xが未知のものであってはならず、既知のものでなくてはならないのだ、ということである。つまり、素因説者たちのもつ前提は、ほんとうは結論であるわけなのだ。かれらはその出発点において、吃音者の現実的な存在を実体的な存在にスリ換えるという詐術をやってのけていることになる。

[32] mixiユーザー 04月04日 21:50

Ⅳ　「吃る」とはなにか

吃るとはなにかという問題をめぐっては、むしろ学的なレヴェルでさまざまの解釈や説明がゆきかい、あれやこれやの謬見がつき纏ってはなれないといった現状にあるけれども、しかしながら何を吃るとみなすかということは、現実にわたしたちが生活を営む❬場❭においてあたかも自明のようにやすやすとなされており、そうであることによって、或る種の話行為がまさに問題的なそれに、つまり吃ると呼ばれる話行為たり得ているのであるという事情に、わたしたちはひとたびは意を用いて然るべきである。(91ページ)

[33] mixiユーザー 04月05日 12:54

---そして話し手が「自分が話す時の流暢さに欠けた話し方を、異常なものと
思って悩む｣(神山/府川「吃音｣)ことがあるとすれば、それはこのような現実的基盤❲生活の場❳に深くその根拠をおいている。つまり引用文の文脈が暗示しているように、それを異常なものと思い込むのはなんら誤りでもまた話し手本人の責任でもないといわなければならないので、「話し手本人の気持ちや態度｣というものはかれ自身に属するが、しかしかれ自身の恣意には属さないということ、それは基本的に音声言語の共同規範によって媒介的に規定を受け取っているのであるということ、この事実がみのがされてはならないであろう。なおまた留意されるべきは、話し手がそれを異常なものと思って悩むにしても悩まないにしても、それはかれの「気持ちや態度｣の次元の問題であって、話すという行為それ自体の問題ではないという事実である。臨床的問題としての吃音の問題、すなわち吃音者の問題との関連でいえば、前者は❬吃音者の行動❭におけるそれとして、また後者は❬吃音的話行為❭におけるそれとして、それぞれに考察の対象となり得べきものであるが、「この点ではほとんどすべての言語病理学者たちは｣ひとしなみに無造作かつ無頓着であり、実質的に後者の問題を前者のそれに解消してしまっていると言ってよい。(98ページ)

[34] mixiユーザー 04月05日 14:07

しかしいったいどのような理由にもとづいて、わたしたちはたとえば「音節のくり返し｣や「音の引き伸ばし｣を吃ると呼び、「ことばの言い直し｣をそうは呼ばないのだろうか。後者の例で考えれば、それはおそらくそうした非流暢さの原因が「ことばの言い直し｣のためだと認めうるものであり、なおかつわたしたちにとって一般的にそれが許容できるものであるからだ。------これを定義めかして言えば、次の如くになろう。吃るとは、ことばの流れがつかえつまりとどこおるといった状態が、それ自体として、いいかえれば社会慣習的に許容され難いようなかたちで、外化(具体化)せられたときの問題的な話行為のことを言う、と。(105～106ページ)

[35] mixiユーザー 04月05日 17:23

Ⅴ 「吃音者」とはなにか～1　「一過性の吃」と「永続性の吃」　

ところで先ほどわたしは、吃るという話行為はつねに一過性❲その場かぎり❳において成り立つものであり、それ自体が永続することは有り得ないとしなければならないと言った。この事実はわかり切ったことではあるけれども、次の意味で重要である。吃るという話行為を存続させるものは、それ自体ではなく、その話行為の主体(話し手)であるということだ。ここに、話行為の問題とは別に、話し手という主体の側の問題ーすなわち「吃音者｣の問題があらわれる。(112～113ページ)

[36] mixiユーザー 04月05日 20:14

２吃音者の本質規定～a ＜吃音者である＞ところの生ま身の人間　

吃音者が実在する。この事実は言うまでもなく、吃音の治療およびその基礎理論が必要とされる実際的な契機をなすものであるとともに、ひいては徒労にも似たわたしどもの理論的考察という作業に或る切実さを賦与するものである。だがしかし、それはそのままでは単なる先験的な直接性としての事実であるにすぎない。現実的にたしかに存在(実在)するもの、それが吃音者という実体ではなく、「吃音者｣と呼ばれるうる種類のあり方をもつ生ま身の人間でしかないことを、わたしたちはすでにしかと見据えてきたのである。(115ページ)

[37] mixiユーザー 04月05日 20:34

したがって吃音者であるところの或る特定の者が現に存在(実在)するということは、なんらかの意味でかれが、自己を「吃音者｣たらしめてきたということ、かれが吃音者になったということを示している。別言すれば、吃音者は「吃音者｣としての体験を、その軌跡を、おのおの生活史のうちにもつのである。それはかれの一回限りの生の歴史に属する以上、他の誰にも肩代わりさせることのできないかれひとりだけの-かれに個有の、具体的な体験の事実史であって、この意味では、無数の蓋然性によって吃音者たるかれの現在は支えられている。(115～116ページ)

[38] mixiユーザー 04月06日 18:30

或る人間が、いつの時期からか「吃音者｣としてあってしまい、或る期間それでありつづけてしまったとすれば、かれにとってこの事実は、それだけでそれ自体で、何かしら十分に重いものであろう。一方、吃音者が❬吃音者である❭ことを意志的にやめるためには、作為的にこの事実が無化されなければならない。だが、それは不自然である。なぜなら、すでにあってしまった確固たる事実をあたかもそれがなかったかのように見なすという、いわば跳び越しの手続きがこのとき吃音者に対して要求される筈だからである。このジレンマのなかに、吃音「治療｣の真の課題-その困難な課題のひとつが横たわっているものと、わたしたちは考えてよい。(116～117ページ)

[39] mixiユーザー 04月06日 20:32

b 臨床的な立場と理論的な立場　

ところで吃音者A の悩みが、まさにかれの吃音者であるという事実それ自体におかれているのであるならば、かれはかれのうちなる吃音者としての普遍相をこそ根源的に悩むのではないか？-----ここまできてこの問いは、当り前にも次のように書き直される。ひとりの例外もなく吃音者のすべてに相通ずる要素とは何であるの？かと。(119ページ)

[40] mixiユーザー 04月06日 20:49

c 吃音者のすべてに相通ずる要素　～＜吃音者の行動＞と＜吃音的行為＞のあいだ

「吃音者｣とはなにか。わたしはここでそれを次のように定義しておきたい。吃音者とは、「吃る｣と呼ばれる問題的な話行為を習慣的に存続するという常ならぬあり方を獲得し、結果的にそれを捨て得ずして、今にそのあり方を持つ者を言う、と。(117ページ)

[41] mixiユーザー 04月06日 21:07

d 幼児の吃音者と成人の吃音者　

こうみるとき或る人間の❬吃音者である❭という事実は、つねに、なぜだかわからないがすでに❬あってしまった❭事実としてあらわれる。かれの意識が異議を唱えだすとすればまさにその点においてであろうが、しかしその頃には、もはやかれはあまりにも❬吃音者である❭ことに慣れ親しんでしまっているのである。つまりかれの異議申し立てはいつの場合も遅れてやってくるほかない。(128ページ)

[42] mixiユーザー 04月07日 11:02

Ⅵ　「発吃」の問題を考える（A)　～1　「発吃」とはなにか　

吃音者の「吃りはじめの時期の情報｣が不確か(神山五郎によれば)なのは、基本的には、かれが吃音者として吃りはじめたのはいつかということ、つまりかれが❬吃音者になった❭のはいつかということを確定するための手続きそのものが、回顧的-遡行的でしか有り得ないという事実に由来する。それは吃音者の吃りはじめのときとかれの❬吃音者である❭ことが気づかれたときとのあいだに時間(期間)という邪魔ものが介在しているためではなく、時間(期間)という邪魔ものが介在しないかぎり、却って❬吃音者である❭とか❬吃音者でない❭とかの区別にかかわる判断がくだし得ないという事実をその基盤とするのである。(134ページ)

[43] mixiユーザー 04月07日 11:44

2　ジョンソンの「診断原因学説」をめぐって　

---一見「科学的｣風の奇怪に厳密な観点を以って、ジョンソンのようにただ「子供達がしゃべっているのを聞いただけ｣では、吃音者と正音者とのあいだを画する区別などでてこよう筈がない。それはかれの方法の然らしむるところであって、もしジョンソンがあくまでも科学的たらんと欲するのであったならば、むしろかれは現実的に当り前のように為されている吃音者と正音者とのあいだの区別に関わる❬事実❭を対象化し、専らそれを理論的にとらえ返すべく努めるべきだったのであり、また、ただそうするだけで足りた筈なのである。おもうにジョンソンは、両親(特に母親)がその子とたいていの場合同居しており、ともに時間を過すことが多い(少なくともジョンソンがその子と過すよりは)のが普通である、という事実のもつ理論的な意味に想い到らなかったのであろう(144～145ページ)

[44] mixiユーザー 04月07日 16:05

Ⅶ　「発吃」の問題を考える（B)　～1　＜吃音者である＞という＜あり方＞が獲得されるための条件　

こう考えるとき、いかなる原因(aetiology =etiology )によって人は❬発吃❭するか、というような原因論的な問題の立て方は、あまり意味がないものと言える。わたしたちは、ほんとうは次のように問題を立てた方がよいのである。ひとが❬発吃❭する=❬吃音者になる❭ためには、どのような条件が必要であるか？ひとが吃音的話行為の習慣的な存続者となるために、必要とされる条件は何だろうか？というように。この設問は以下の如く書き換えることができる。ひとが吃音的話行為の習慣を獲得していくうえで、妨げをなすような条件は何だろうか？と。
正当な意味での常識を以ってかんがえるとき、それは、吃ることが話し手にとって❬いけないことである❭と意識化されている場合、いいかえれば音声言語の共同規範が❬禁止❭としてはたらく場合である、と簡単に答えられよう。(161～162ページ)

[45] mixiユーザー 04月07日 16:32

成人の発吃者(吃音者になってしまった者)を仮定するとしよう。かれが吃ることを❬いけないことである❭と意識していないと考えるのは不自然であるから、ふつうには、かれはそれを承知しているにかかわらず自己の習慣として取り込んだものと考えられる。この場合、好き好んでそうしているのでなければ、かれは自己の意志に反してそうしているのでなければならない。前者の場合ならば、問題は本来的に存在しないだろう。というのも、実際のところ、かれは吃音者になってしまったわけではなく、ただ自己をそれに擬しているにすぎないと言うべきであろうから。そこで後者の場合であるとするなら、このときかれは、自己の❬意志に反して❭習慣的にどもることとなるような吃り方ー自己の意志力をもってしても結果的(実践的)にコントロールできないような高度な吃り方を、最初から身につけていなければならない筈である。このことは不可能ではない。そうではないけれども、また決して容易なことでもないといわなければならない。(163～164ページ)

[46] mixiユーザー 04月07日 16:59

2　「自然治療」とはなにか

むろん、過去にひとたびあってしまった吃音的話行為の習慣的な存続という事態は、それが具体的に❬あってしまった❭事実であることによって、決して拭い去ることも消しさることもできない。それゆえ、❬吃音者である❭ところの者がそれでなくなるとは、吃音的話行為の習慣的存続という「異常｣そのものがなくなるということではなく、そのかわりに「正常｣な話行為とされるものが実践的に座を占めつづけることによって、結果的に前者の習慣がおき捨てられることであると考えられる。
-----であるから、鈴木秀男の発言をかれとは違った意味で、わたしたちは同じようにくり返さざるを得ない。「いかなる治療法も『自然治癒を模倣する方向に治療法を考えて行く』べきだといえるのである｣(『医療と看護の論理』メヂカルフレンド社)と。(173ページ)

[47] mixiユーザー 04月07日 17:47

3　「模倣説」への照明　

ふつう幼児は、たとえば「タマゴ(卵)｣の「タ｣音の発音運動(❲音声学者❳服部四郎の言う❬音声器官の社会習慣型にはまった運動❭)を習得するうえにおいて、前舌を中歯茎に接触させてからそこを開き、止めていた呼気を放つといった行為の過程をそれ自体として模倣するものではなく、耳できいた「タ｣音の音声を模倣する。言い換えると、調音行為の試行を通じて、それを耳できいた「タ｣音の音声にまで音韻的に近づけるのである。それと同様のことが、この場合についても言えるであろう。❲学的通説に反し❳子どもは吃音の「症状｣ないし「行動｣それ自体を模倣するものではなく、表現されてそこにある❬吃りコトバ❭、あるいはそのパターンを模倣するのであると考えたとき、「模倣説｣は合理的であり得る(178～179ページ)

[48] mixiユーザー 04月07日 20:32

Ⅷ　成人吃音者のかかえる問題をどうとらえるか～1　成人吃音者の＜悩み＞の根源　

「どもりとは、吃音者がどもらないように努力してすることなのである。Stuttering,then,is what the stutterer-does -trying -not -to-stutter.｣(『どもりの相談』)。かれ(ジョンソン)の著書をはじめてひもといたとき、わたしはこのくだりにぶつかって、思わず立ち止まり首をひねった覚えがある。。論理を機械的に当て嵌めるなら、ここはむろん❬どもらないように努力してどもらないことである❭か❬どもるように努力してどもることである❭かでなければならない筈だからだ。-----そこでこのコトバは、ほんとうは次のように書き改められて然るべきである。❬(或る段階に達した)どもりとは、吃音者が吃らないように意識として努め、行為として却って吃るべく努めていることなのである❭。或いは、❬それは、吃るまいと吃音者の意図することが、却って、吃るという話行為を引き出すことにつながってしまったときのことなのである❭というように。(187ページ)

[49] mixiユーザー 04月08日 15:24

2　必要なときに必要なことがいえるという能力の欠如せる者　

だが、❬吃るか吃らないか❭は話すことをはじめないかぎり決定づけられないものであり、これは先験的である。かくて吃音者は、吃ることを避けようとすることができる余地をもって、その発話のはじまりのときへ近づく。かくの如きいわば宙ぶらりの、いわゆる“蛇の生殺し”のような状態が、おそらく吃音者当人にとっては堪えがたく苦しいのである。(196ページ)

[50] mixiユーザー 04月08日 18:33

第二部
Ⅰ「吃りの進展」とはなにか　

かようなコトバの曖昧なつかわれ方と丁度つり合うような理論的混乱(認識の不徹底)をあらかじめ避けるため、わたしたちは「吃音どもり❲stuttering ❳｣というコトバをあっさり捨てることにしよう。すると、「どもりの進展(成長)｣とは、実は吃音的話行為それ自体の進展(高度化)のことであるとともに、吃音者の進展(高度化)のことをも意味するという理解が自づから浮かびあがってくる。あたかも❬発吃❭の事実がかれらにとって「吃音のはじまり｣を意味するとき、それはわたしたちにとって吃音❬者❭のはじまりのことであるにほかならなかったように。(223～224ページ)

[51] mixiユーザー 04月08日 20:55

Ⅱ　＜一次的吃音者＞から＜過渡的吃音者＞へ　
2　自動的過程としての、＜自然性＞から＜努力性＞への吃音的話行為の高度化　

吃音者や治療者(臨床家)ばかりではなく、理論家にとっても同じようにどもりの問題が厄介なのは、話し手が不安に駆られたり、吃りはしないかと懸念したりしなかったりすることに本来的にはかかわりなく、吃ることが話行為のうえで実践的に❬あってしまう❭ものであるためである。吃音的話行為を高度化させるものは、吃音的話行為自身を措いてはない。話行為は、それが実践的に実現されないかぎり、どんな意味からも❬ない❭ものであるからだ。そうである以上、その実践的実現の反復という事態を通じてしか、吃るという話行為が高度化(悪化)されることは有り得ないとしなければならないのである。(232～233ページ)

[52] mixiユーザー 04月09日 12:26

つまりここでの考察の対象となるのは、❬吃音者である❭というあり方を温存したまま、しかもことばがなかなか“前へ進まない”という問題を解決する必要に迫られた者の話行為に、必然的に限定されてくるわけだ。これは自然性❲連発型❳の吃音的話行為それ自体が、自らを変化させようとすることと同じである。そこでどういうことになるだろうか。もはや従来の方法をとることができない以上、ことばを“前へ進める”ために、話行為はその速度をはやめる=話調を強める、という方法を選ばざるを得ないのである。かくて、「繰り返しには力が入り、ピッチもますます不規則になる｣というような、自然でない❬努力❭的な発話の仕方が話行為のうえに推参することとなる。問題なのは、それが(ことばを前へ進めるために)語頭音の話調を必要以上(常態のとき以上)に強める結果を生むばかりでなく、同時に音声言語の表現に関与する器官を必要以上に緊張させるとともに、呼息の気圧力をもまたそれは必要以上に増大させることにつながるため、却って、ものが言いづらくなるという結果を招きよせてしまうことである。換言すれば、発語努力が却って発語阻止努力として機能してしまうという問題が、ここに生じるのだ。(238ページ)

[53] mixiユーザー 04月09日 13:44

Ⅲ　吃音者の最も高度な形態である＜二次的吃音者＞における諸問題（A)　

吃音者の最も高度な形態である二次的吃音者の問題は、基本的に、自己の吃音的話行為とその習慣を、自己の意志力を以ってしても実践的(結果的)に捨て去ることができないということに帰着する、といってよい。❬吃るか吃らないか❭は話行為の実践的な成り行きに任せるしかないという意味で、かれは吃るという事態を予防する❬能力❭を持ち合せないのである。かくて吃音者は、❬必要なときに必要なことがいえるという能力の欠如した者❭である。つまりこの問題は、❬吃音者である❭個々の者にとっては、かれの能力の欠如の問題として、私的に提起されてくるほかはない性質のものである。吃る事態を意志的にくいとめることができないというこの結果的にあってしまう確固たる事実は、同時にまた、かれが自己を❬吃音者である❭と考えると否とにかかわらず、かれに「吃音者｣としての自己認知を、迫ってやまないところのものだ。(251～252ページ)

[54] mixiユーザー 04月09日 14:26

ジョンソンという名で代表させることができるところのいわゆる「予期闘争説(学習説)｣者たちは、この問題を大なり小なり、吃るまいとするからすなわち吃音者は吃るのであるといった調子でアッサリ片付けてしまっているが、これは❬吃るまい❭と意図することが却って❬吃る❭という話行為を引き出すことに結びつく場合があるという、一面的-部分的事実を不当に拡大するものであるばかりでなく、吃るという話行為それ自体の問題を、❬吃音者の行動❭問題一般に解消してしまうものであるにほかならない。(262ページ)

[55] mixiユーザー 04月09日 15:02

2　＜予期性＞の吃音的話行為の成立～　予期性の吃音的話行為のメカニズム　

実際的にこのことはどのようにして実現されうるだろうか、といえば言うまでもなく、話行為のはじまりに音声言語表現のはじまりが伴わないという現象形態において、「ーータマゴ｣、「------タマゴ｣なるモデルによってあらわされる高度な吃り方において、なのである。
❬吃るまい❭と意図することが、かようにして❬吃る❭という結果に結びつく。つまり結果的事実として、とにもかくにもそれは❬あってしまう❭のである。まことにこれは不合理な話であると言わねばならぬが、かかる不合理を合理的に演じさせるものは、コントロールの意識が話行為の外化のうえで実践的に試みられるほかないという、必然性であることを理解しなければならない。(267ページ)

[56] mixiユーザー 04月09日 15:29

ジョンソンの言う「どもりのトリック｣の過程とは、吃音者の誤解によって「しかけ｣られるものではなく、誤解であろうと正解であろうと、吃るまいと意図することが話すという外化行為のうえで実践的に試みられるほかないという、単なる事実に基いて成立するものだと言わなければならないのである。ジョンソンは、吃音者がわざわざ「馬鹿げたことを無理してやっている｣というように言うが、そうではなく、吃音者は「馬鹿げたこと｣を合理的に「やっている｣のであるにすぎない。それは事実の側の問題であって、吃音者の理解の仕方の側の問題ではないのだ。(271ページ)

[57] mixiユーザー 04月09日 15:53

---吃ることもまた話すことであるにほかならない。こういう自明の理解のうえに立ちさえすれば、現象的にまったく相反するかにみえる次の如き事実ーすなわち、コントロールの意識を差し向けると否とにかかわらず吃音者が吃るときもあれば吃らずに話せるときあること、通常、吃ることは意図的でなく❬あってしまう❭ものであること、にもかかわらず吃ること一般は意図的に再現できるものであること---等々のあらゆる局面でありうる事実に対して、わたしたちはたやすく統一的な視点を得ることができる。吃ることの原因、吃ることを決定づけるモメントを、おしなべて話行為の外側に還元的にもとめんとする既成吃音理論の方法的立場からは、たとえ逆立ちしても、かような統一的視点というものが出てき得べくもないのである。(273ページ)

[58] mixiユーザー 04月09日 16:53

Ⅴ　治療論への道すじ　

或る人間にとって、かれの❬吃音者である❭という事実がその生き死にに関わる問題として提起されてくることがあるとすれば、それは必ず、自らして選ばれたものであり、自らに選ぶということを外側(社会的現実)から強いられたものである筈だ。
こうみるとき、吃音者の問題は、「吃音者｣としてのかれのあり方を許さない社会との関係における問題、社会的生存としての、「吃音者｣なる生ま身の人間の問題であるということができる。ジョンソン以来、よく「吃音は評価の病気である｣というようなことが言われるが、この種のコトバは、右の如きコンテキストのなかでのみ比喩的にその意味をもちうるのであって、評価という“誤った”他者の行為が、「発吃｣とか「吃音の悪化｣とかの事実をつくりだすといった言い種は、俗流の解釈でしかない。肝心なことは、“誤り”であろうとなかろうと、そのような価値判断(評価)が現実的=社会的に流通しており、そのことによって「吃音者｣たる人間の問題がはじめて対象的にありえているという点にあることは、いまさらくり返すまでもないことである。(296～297ページ)

[59] mixiユーザー 04月09日 17:02

取り敢えず、以上を以って、旧著からの引用を終えることと致します。だいたいのポイントをお伝えできた。そう思われますので。

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