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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかた〜A child of Pinocchio〜#捜査ファイル4『オールドシード』(12)

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、3月13日、午前10時00分、『里』〜〜


「……本気ですか?」

翌朝、クラウスから面会を求められそれに応じた長は、クラウスからの進言に問い返した。

「ええ。
私に、『ヤト』を捕らえる機会を頂きたい」

頭を下げ、クラウスはもう一度同じ言葉を告げる。
クラウスの背後では、複雑そうな表情で雪と長の護衛の者が二人のやり取りを一挙一動見逃すまいと緊張していた。
長の表情こそ変わらないが、彼女が驚きを感じているのは二人にはよく分かった。

「何故ですか?」

リク達の話とそれまでの経緯から、クラウスが自分に『ヤト』を狩らせろというなら解る。
だが、自身の手で『殺す』のではなく、生かして『捕らえる』機会を寄越せというのが解せない。
困惑する三者に対しクラウスは己の理由を口にする。

「私なりに考えた結論です。
『ヤト』は里にとって掛け替えの無い存在。
ならば、互いの関係を元の鞘に納めさせたいと思い、それをもって救っていただいた返礼としたいと決めました」
「…そうですか」

クラウスの言葉に長はそう答えたが、応じはしない。
確かにそうなるならば、長にとってもそれに超したことは無い。
が、『ヤト』はすでに理性を捨て去っている。

「策はお有りか?」

徒に任せ、更に悪い事態を引き起こすともしれないならば安易に任せることは出来ない。
しかし、クラウスにはそう問われることは予測していた。

「あります」

声こそ平淡に、だがクラウスは強い核心を持って言う。

「では、聞かせていただきましょう」

言葉の奥に僅かだが期待の色を確認したクラウスはその策を口にする。

「本気かよ?」
「無茶苦茶だ…」

その策に、聞いていた二人は呆気に取られるが、長は静かにそれを認めた。

「……成程。
確かに、一縷の望みはありますね。
いいでしょう。
一度だけ、貴方に機会を与えます」
「ありがとうございます」

長は頭を下げるクラウスから一旦視線を外し雪を呼ぶ。

「雪」
「え? …あ、なんだ?」
「急ぎ準備をなさい」
「ああ。そうさせてもらうよ」

善は急げとばかりに飛び出すように雪と護衛が出ていくと、長はクラウスに向き直り再び質問した。

「それで、貴方は何を望みますか?」
「何も。
無益な戦いを回避し、返礼出来れば十分です」

そう答えると、初めて長の口に笑みの形が浮かぶ。

「貴方はそれで良いかもしれませんが、それでは我々が貴方に借りを作ることになります。
なにか、貴方が求める物は無いのですか?」

全く無いとは言わないが、口に出すのはクラウスには憚られた。
しかしそれ以外に思い付くモノも無いので、敢えてクラウスは言ってみることにする。

「無理にとは言いませんが、可能であれば貴女方の歴史を教えてもらえますか?」
「……何故?」

対価に値するとは思えない要求に長は首を傾げ、更に続けられたクラウスの理由を聞く。

「私は、貴女方とよく似た者達を知っています。
それ故、彼等と貴女方との関わりが有るのか否かを知るために貴女方の歴史を知りたいのです」

昨日のやり取りから、自分達の過去を口にしたくないのは理解している。
だが、クラウス自身が知りたいというのは紛れも無く事実だ。
長はクラウスの目を真っ直ぐ見て、やがて答えを口にした。

「いいでしょう。
貴方が、見事『ヤト』を捕らえることが出来ればお話しましょう」
「感謝します」

長の言葉に、クラウスはもう一度頭を下げた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、3月14日、午後19時00分、小田原山中〜〜


人間の頭程もある黒いハンマーが幾本も『ヤト』に向かい飛ぶ。
が、そのどれもが硬い鱗に阻まれ弾かれるだけに終わる。
既に20を越える回数の攻撃が繰り返される中、『ヤト』は苛立ちを更に募らせ怒りの咆哮をあげる。

「そうです。
もっともっと怒りに身を染めなさい!!」

木々の間を疾走し、危険となれば『リニア・ラン』を駆使して緊急回避を繰り返しながらクラウスは無駄と分かっている攻撃を繰り返す。

何故なら、

「貴方の怒りこせが、貴方を仕留める私の武器なのですから!!」

『ヤト』を罠に嵌め拘束する。

それこそがクラウスが提案した策であり、狙いであった。
怒りに任せているとはいえ、『ヤト』はクラウスが手加減して勝てるほど弱くない。
だが、完全に逆上させれば思考は単純化し、十二分に付け入る隙が生まれる。
仮に、付け入る隙とならなくても怒りは大量のエネルギーを消費させ、気力までも吐き出させ疲労させれば理性を取り戻させるきっかけになりうる。
だが、そのためにはクラウス自身が絶え間無く攻撃を繰り返し、『ヤト』を猛り狂わせ続けねばならない綱渡りでもある。

速度と膂力は『ヤト』が上だ。

だが、瞬発力ならクラウスに分があり、こんな薄氷を踏み続ける作業に対する胆力とスタミナにならば絶対の自負がある。
『ヤト』の丸太のような尾が鞭というには些か凶悪過ぎる質量と速度で振るわれるが、『ヤト』の僅かな予備動作を見逃さなかったクラウスは『ヤト』の頭上へと跳びながらその暴風をかわし、言う。

「その程度、アル様の脱走に比べればどう攻撃するか宣言しているのと変わりません!」

追い越し様、先端を丸くした槍を二本生成、内一本をそのまま叩き付ける。
ガンと金属が弾かれるか音が響き、『ヤト』が激情を誇示するように更に咆哮する。

「まったく。
しぶといにも程がありますよ」

『ヤト』を配置したトラップへて誘い駆けるクラウスは苦笑いを浮かべる。
実際の所、クラウスに手加減する余裕は無い。
先程の投擲とて、人間が直撃すれば骨に異常をきたして当然というほど威力を込めていたが、『ヤト』にはさしたるダメージは伺えない。
ついでに叩き付けた槍を捻りがりがりと鱗を削るが、これも効いた様子は無い。

「まったく、ここまでノーダメージというのも正直傷付きますね。
【OP】のリーダー?聞いて呆れますよ」

着地と同時に駆け出しながら、里でこしらえ袱紗に詰めてもらった砂鉄を増やし生成する武器の数を増やす。

「貴方を捕まえるどころか、追い詰められているのは私のほうなのですから」

状況だけを見れば、クラウスが優勢に見える。
だが、実際にはクラウスは『ヤト』にダメージを与えられず、『リニア・ラン』を繰り返す頻度も少しづつ増えているのだ。
それが何を意味するか、クラウスは理解していた。

「……本能か理性かはさておき、私の手の内を読まれているのですね」

ルーチン化は危険だと判断し、計画の順序を即座に組み替える。
刹那、演算にノイズが走ったが、馴れない連続高機動に処理が乱れたのだろうとそれを無視し新たなパターンを組み上げる。

「計画を修正します。
…多少の怪我は勘弁願いましょう」

そう呟き、手にした槍の先端を鋭意に尖らせ投擲。
槍は、狙い違わず『ヤト』の硬い鱗のほんの隙間をえぐり、鱗の一枚を引き剥がした。

「っ〜〜〜〜!!??」

形容できない『ヤト』の絶叫。

それもそのはず。ドラゴンの鱗とは人間で言うならば爪に等しく、強引に引きはがすということは生爪を剥くのと変わらないのだ。

「良い的ですよ」

痛みから追撃に移れなくなった『ヤト』にクラウスは容赦などしない。
更に十数のナイフを精製し、そのナイフ全てで鱗を引き剥がしにかからせた。

「っっっ〜〜〜〜〜!!!!!?????」

発狂してもおかしくない激痛に『ヤト』はのたうちまわり、クラウスは更に距離を稼ぎ新たに武器を精製しながら、しかし疑問に思う。

「私は、何をしている?」

冷静に続けられる思考とは別に、自身の中で凶暴な感情が僅かづつ顔を上げ徐々に武器の精製がより鋭利に、より殺傷に特化しようとしている。

「私は『ヤト』を止めたいと!?」

違和感を感じ、精製を一度破棄しようとしたクラウスだが、その命令は無視され武器が飛来していく。

「どういう事だ!!
まさか…!?」

更に造られた大鉈の姿にクラウスは確信した。

主人格を押し退けた戦闘プログラムの暴走。

それにようやく気付いたクラウスだが、意志とは裏腹に躯体の動きまでもが連動して『ヤト』を殺そうと攻撃を行っていく。

「なにをやっている私は!!??
こんな結末、認めてたまるものですか!!」

必死に戦闘プログラムに介入し、『ヤト』への致命傷となる武器を砂鉄へと分解させながら、同時にシステムチェックを走らせクラウスは自らの異変の正体を探る。

そして、遂にその原因を突き止めた。

「緊急判断システムにウィルス感知だと!!??」

思考とは別の、人間で言えば本能や直感等の部位に該当するシステムが、ウィルスに侵されていた。

「いつの間に誰が!?」

即座にウィルスを焼くワクチンプログラムを展開するがその間にもプログラムの中止が起こる気配はなく、ウィルス駆逐が済むまでに加えられる攻撃が成されれば『ヤト』が死んでしまうだろう。

「こんな展開、認めてたまるものですか!!」

そう叫ぶやいなや、クラウスは全プログラムを一時的に全て解放した。

「ぐぅぅぅぅうっ!!??」

瞬間的に発生した容量を超える処理量に、稼動していた『ウェポン・クリエイト』がフリーズを起こし『ヤト』を貫かんと待機していた武器の群れが砂鉄へと形を失っていく。

同時にクラウスのメインまでもが再起動を要求してきた。

「っ、システム再構築承認!!
ウィルスバスター最優先。再構築完了まで84秒」

その間、クラウスは一切の行動を封じられてしまう。
傷ついたとはいえ、『ヤト』はまだ無力化されていない。
ここで実行すれば間違いなくクラウスは死ぬと確信していたが、それでもクラウスは何の躊躇もなく実行する。

「切の真似をしようとして不様を晒して、切ですら認めないような結末を受け入れて生き延びるぐらいなら、死んだほうが余程意味のある結末だ!!」

そう叫ぶと、クラウスは全てのプログラムを遮断した。


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