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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかた〜A child of Pinocchio〜#捜査ファイル3『リトルハピネス』後編(3)

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴98年、12月22日、午後12時30分、香港、九龍大空洞〜〜


「へぇ、お兄さん強いんだねえ」

切にぶちのめされ、ほうほうのていで逃げ出していく数人のチンピラ崩れの姿を見ながら、ディーは感心したようにそう言った。

「でもさ、符の使いが荒いね。
そんなんじゃすぐに『魔』が尽きちゃうよ?」

敵を叩きのめすため切は複数の『陣』を同時起動しての格闘戦を行った。
確かに複数の身体強化型の『魔式』を使えばその分優位に立ちやすいが、同時に『魔』の消費も激しく体への負荷は大きくなる。

「飯さえ食えればなんとでもなる。
それより、時間はどれぐらいかかりそうだ?」

ディーの心配を一言で切り捨て、切は要件を尋ねる。

「そうだねえ、一日くれれば完璧に用意出来るはずだよ」
「分かった。
明日、同じ時間に来る」

そう言うと、周りの視線が集まって来ていることもあり切は一旦立ち去るため、さっさと歩き出した。

「あ、ちょっと待って」

立ち去ろうとする切を呼び止めたディーは、ポケットから一枚の符を差し出す。

「これを持って行って」

差し出された符は、長距離間で通話するための符、『遠吠え』だった。

「…『遠吠え』なら持っているぞ?」
「それは僕の顧客という証なんだ。
君が本物かを確かめる符丁だから、無くさないようにね」
「セキュリティということか。
分かった。預かっておく」

ディーから符を受け取ると、切は符を確認した。
ぱっと見では解らなかったが、通常の符と違い、この符は図式が全て逆に描かれていた。

「確かに。
じゃあ、また来る」

無くさぬよう懐の奥にしまい込むと、今度こそ切は大空洞から立ち去った。

大空洞から出た切は消費した『魔』を補うため、近場に見付けた大衆食堂へと入り食事を摂ることにした。

「いただきます」

軽く手を合わせてから、大きめの碗になみなみと盛られた塩のみの粥をスプーンで掬い食べ始める。
通常、【Pナンバー】は水素ジェネレーターから電気エネルギーを得るため食事を必要としない。
それは切達【OP】も同様なのだが、切だけは『ダグザ』という食事を摂ることで食物に含まれる『魔』を電気エネルギーに変換して電力と擬似マグネタイトを供給しているため、通常なら必要無いはずの食事が切にとっては必要不可欠なのだ。
かなり熱い筈の粥だが、それでも切の食事を遮るほどでもなくかなりの早さで切の体内へと流し込でいく。

「…ふぅ。
ごちそうさま」

十分足らずで粥を全て食べ尽くし、代金を置いてさっさと店から出る。
店から出てしばらくすると、切はつまらなそうに呟いた。

「……味を感じない。
やっぱりまだ駄目か」

数日前からの味覚異常。

それを改めて再確認させられ切は少し憂鬱になったが、気にするより先にやるべきことがあると頭振る。
時間は無駄に出来ないと、この後どう動くか思案しようと切が上を見上げた直後、突然背中に衝撃を感じつんのめりそうになった。

「っと!?」

同時に、手にしていたトランクが引ったくられる。

「しまっ…」

すぐに犯人を探すが、雑踏にまぎれこまれてしまい見つからなくなってしまう。
すかさずセンサーを切り替え、トランクに設置してあるマーカーを探す。

「見つけた。
逃すか!!」

路地裏へと入っていく反応を追い、切は人込みを縫って雑踏の中を駆け出した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴98年、12月22日、午後14時08分、九龍市街、路地裏〜〜


トランクを抱えた小さな集団が、複雑に入り組んだ路地裏を駆けずり回る。
迷路のように入り組んだ道だが、彼等には慣れ親しんだ庭のようなモノでありすいすいと奥へ進んでいく。

「……もう大丈夫そうだな。
みんな、一旦休もうぜ」

そうしてかなり奥深くまで進んだ彼等は、リーダーと思しき少年の言葉に追跡を振り切ったと確信して盗んだトランクの中身を物色しようとトランクを開こうと試みる。

だが、

「なんだこりゃ?」
「どうした?
開かないのか?」

リーダー格の少年はトランクを開こうとした者にそう問いながらトランクの鍵を見た。
トランクの鍵は鍵穴ではなく、留具のところに数字盤がついたタイプの鍵だった。

「パスワード式だって!?
無茶苦茶ロートルな機械だな」
「壊しちゃえば?」
「馬鹿、こういうのはトランクごと売っちまえばいいんだよ」

一人の意見にリーダーはそう言うと、立ち上がって親指で路地を指した。

「ロン姉だったら多分良い値で買ってくれる相手を探してくれるだろうから、さっさと行こうぜ」
「そうはいかないな」

突然声をかけられ、ぎょっとする少年達。
そこには、コートを翻す切の姿があった。

「ヤバッ、バラけろ!!」

咄嗟にリーダーがそう言うと、即座にバラバラの方向へと全員が駆け出す。
だが、切は冷静だった。

「『疾駆』、起動」

1番近い少年に狙いを定め、一瞬で接近しあっさり腕を取り捕まえた。

「痛!!」
「ちぃっ、コウを離せ!!」

腕を捻られた仲間の悲鳴にリーダーは逃げるのを止め、反転して背後から切へと殴り掛かる。
切はそれをかわし、掴んでいた手を離して逆にリーダーの腕を捻って動きを封じた。

「シン!!」

トランクを持った少年がリーダーの名を叫ぶ。

「クソ、放せ!!」
「おい、暴れると折れるぞ」

喚くのを無視して警告する。
だが、シンは暴れるのを止めない。
そして、切の警告通りごきりと腕から鈍い音が響いた。

「がっ!?」
「ほらみろ。
大人しくしてりゃあ怪我なんてしなくて済んだものを」

呆れながら切は、最初に捕まえた方の少年から手を離し、折れた腕が悪化しないように痛みに喚くシンの首から肩までを固定するように押さえて言った。

「全員動くな。
大人しく荷物を返せ。
荷物さえ返して貰えれば、こいつの腕の治療ぐらいはしてやるぞ」

交渉というより脅迫だなと切は自覚しつつ、シンの安否を恐れて逃げなかった者達に言う。

「う、嘘じゃないんだろうな!?」

怯えた様子で一人がそう聞いたが、切は逆に呆れながら答える。

「ガキ相手に嘘をついてどうすんだ?」
「お、大人は卑怯だからすぐに俺達を騙そうとするじゃないか!!」
「……お前等、親は?」
「「……」」

妙な言い方が引っ掛かった切の問いに、さっきまで痛みと怒りから喚き散らしていたシンまでもが口を接ぐんだ事で、切は大体を察した。

「……しゃあねえな。
おい、お前」

切は自分のお人よしさに呆れて溜息を吐くと、自分のトランクを抱える少年を呼んだ。

「…なんだよ?」
「トランクのキーボードに05270401と打ち込め。
それで鍵が開くから、中から『促進』付きの包帯と……」
「止めろ!!」

指示通りにトランクを開けた少年に向け、シンが突然怒鳴り出した。

「施しなんか俺は絶対受けねえぞ!!」

完全に固定されて身動きできないシンがそれでも暴れようとするが、切は「笑わせんな」と叩き斬る。

「俺は俺の勝手でテメエの腕を治すんだ。
気にいらねえってなら、今すぐお前がなんとかしてみせろ」

努めて静かに、かつ威圧的に切は言うと、恐る恐る差し出された当て木に使える木片と包帯を受け取り、悔しそうに歯噛みするシンの腕を治療し始めた。


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