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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかた〜A child of Pinocchio〜#捜査ファイル3『リトルハピネス』後編(2)

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〜〜新歴98年、12月21日、午後19時54分、香港、ホテル『鳳凰』〜〜


香港でも最高級に部類されるホテル鳳凰。

その最上階では現在、『魔式』の光に照らされけばけばしい装飾に身を固めた様々な種族の者達が談笑していた。
このフロアではセレブを自称する成金や富豪が社交会と称してパーティーを開催し、己の存在をアピールするように様々な自分に関わる成功の話をしている。

その中に、場の空気に馴染まない異質ともとれる二人が居た。

一人はインドの民族衣装を纏い双眸を閉じた褐色の肌の青年。
もう一人は、金色の髪をオールバックに纏め、黒地のスーツを着用する壮年に近い青年。
どちらも非常に仕立の良い服を着ているが装飾品等はほとんど着けておらず、この会場の中では浮いているようだった。
だが、褐色の青年はそんな事は気にならないようで、でっぷりとした腹の上に無駄に金をかけたと一目で分かるオーダーメイドのダブルスーツを着た上で全ての指に指輪を嵌めた手でグラスを持つ『海帝』の男と談笑していた。

「いやしかし、我社の部下と取り扱う海獣共はよくやってくれますよ。
先日も、スイスロシア間の五日はかかる海路を、わずか三日で渡り切るなどそれは見事なもので、ガハハハ…」

下品に笑う男に対し、青年は静かに微笑みながら「それは素晴らしい」と答えた。

「それほどの良質な海獣をお持ちとあらば、是非とも我社も協力したいですね」
「…ほぅ。
シュキ殿は面白い事を言いますな」

男の目がぎらりと光る。

「【PC】の正規品を取り扱うアイラーヴァタ社が我社を?」
「ええ。
最近は違法なパーツが多く流れておりますし、正規品の取り扱いを行う我社としては迅速な輸出入を行う術は多くにこしたことはありませんから」
「それほどまでに我社を買って頂くとは、光栄の限りですな。
ところで…」

男の目が影のように寡黙に立つ隣の青年に向けられる。

「そちらの方は秘書かなにかで?」

シュキは「ええ」と答えた。

「私の身の回りを世話してくれているアポロと言います。
彼は、僕の1番のお気に入りなんですよ」

名前を呼ばれた青年は軽く頭を下げる。

「ほうほう。
身の回りということはもしや、夜の世話もですかな?」
「…ふふ」

すると、男の笑みにいやらしいモノが混じり下卑た質問を声を低くして投げかけると、肯定するようにシュキが笑い、男は引くどころか逆に同士を得たとばかりに興奮気味にさらに問う。

「シュキ殿のお気に入りということは、さぞかしイイ声で鳴くんでしょうな?」

その質問にシュキは、「いいえ」と答えた。

「彼は声を出せませんよ。
僕が、彼の喉を潰したので」
「なんと!?
、酷い真似をなさりますな…」
「しかたなかったのですよ。
なにせ」

シュキは微笑を深くして言う。

「彼の声が、僕以外の男を誘惑したのですから。
…ねえ、しかたないでしょう?」

その微笑に狂気的な壮絶な気配を感じ、男は引き攣った笑いではぐらかす。

「そ、それはしかたないですな。
おお?グラスが空になっていますな。
新しいのと変えてこねば」

そう言うなりシュキから一目散に逃げ出した。

「…さて、少し離れさせて貰おうか」

そう呟くと、アポロを伴いフロアを後にした。

人目をかい潜り非常階段へとたどり着いたシュキは、『女王』の近衛隊のみが所持している探査用の符を起動して周りに翳した後、微笑のまま不機嫌全開なアポロへと向き直る。

「センサーに反応は無し、『感』も動きは無いから盗聴の心配は無いよ」
「……よくもまあ、あれほどの嘘八百が並びますね」

半目で睨みながら、「あまりの台詞に、本気で殺そうかと思いましたよ。リシル」と、シュキの本当の名前を呼ぶ。

「仕方ないよ。
ああいう手合いは、生半可な事じゃ引かないのはクラウスだって分かってるだろう?」
「それはそうでしょうが、よりにもよって私を情夫とするなんてのは…」

先程のやり取りが余程気に入らなかったらしく、クラウスはぶつぶつと文句を垂れ続ける。

「だったら、僕が下になれば良かったかい?」
「そういう話ではありません!!
まったく、『イザナミ』の指示が無ければ今頃は…」

不平不満が止まらないクラウスを見ながら、リシルは苦笑が込み上げ、堪らず吹き出してしまった。

「……何が可笑しいのですか?」
「いや、時間って凄いなぁって感心してただけだよ。
昔の【P3】クラウスだったら、不満なんて全部腹に溜め込んで黙り込んでたから」
「……」

クラウスはリシルの言葉を噛み締めてみる。

クラウス、リシルの両名は人間では無い。

【PC】より人に近く、そして絶対埋まらない違いを持つ【OP】と呼ばれる機械人形だ。

確かに、昔の自分は、他の兄弟と違い【OP】として個の必要性を見いだせなかったクラウスは、自然と自分を出さないようになっていた。
だが、

「過去は所詮過去。
比較対象とするには至りません」

そうきっぱりと言い切ると、話を切り替えるようと前から言いたかった文句をぶつけた。

「大体、なんなんですかあなたのネーミングセンスは?
陳腐にもほどがあります」

二人は【P0】こと天野切から奪われたジェネレーター【RAIJIN】No.1『ユーピテル』の行方を探すため、流通の中継地である香港を訪れた。
ここでは、裏も含めてありとあらゆる品が取引される。
そのため、クラウスとリシルは名前を偽り、様々な裏に繋がる情報を求めて潜入しているのだ。

リシルは表向き【Pナンバー】のパーツを流通させるアイラーヴァタ社の会長。
クラウスはその補佐という立場を借りていた。

「シュキにアポロ、どちらも私達の【RAIJIN】の妻と子の名とは、バレたらどうする気ですか?」
「大丈夫だよ。
寧ろ、正面から叩き潰せるし好都合だよ」

そう笑うリシルにクラウスは溜息で答える。

「はぁ。
やはり、選択を間違えました」

クラウスが意にそぐわない相手と行動を共にする理由、それはクラウス自身に原因があった。

先日、横浜で起きた天野切に始まる戦いのおり、クラウスは無断で自分の専用兵器『ワルキューレ』を使用した。
そのため、【OP】を下に置く【Mother'S:イザナミ】はその責として【P4】リシルにクラウスの監視と行動を共にするよう命じた。

そのリシルは『ユーピテル』の捜索の手段として、財界からの捜査に踏み切った。

それは、リシルの見て来た財界という世界が、裏や闇に非常に近い位置にあるからだ。
それこそ、世界の頂点に立つ『女王』でさえ見通し切ることの適わない深い闇に。
実際、クラウスが見た限りでも、持っているだけで犯罪に当たるイミテーションではない本物の宝石や、行方不明となった筈の遺器がいくつも見受けられ、その事にクラウスは心底呆れと怒りを感じていた。
クラウスの憤りに対し、リシルは軽く言う。

「朱に交らば…というやつだよ。
見栄と欲望は、人類の性だからね」

長らくこの世界に触れて来たリシルの言葉に、クラウスは虚しさを覚える。

「世界が変わっても、人は変わらないのですかね」

クラウスが知る人々は、多少の差異はあっても『リ・ディアル』のルールを受け入れ、ぶつかることは多くとも互いを認めながら日々を謳歌している。
だが、ここにいる者達は、かつての人間の様に欲望と悪意に染まっているようにしか見えない。

「さあね。
それにしても、兄さんはどこに行ったんだか」

『ユーピテル』を奪われ重傷を負った切は、最低限の修理だけを受けた後、失踪した。
それが二日前。

「さあ?
ですが、香港に来ているのは確かでしょう」

そう言い切る理由は、ベルガーが『ユーピテル』を奪い逃走する際に使用した潜水艦が、三日前に香港で確認された事に起因していた。
フェイクの可能性もあったが、ベルガーの目的が切を弄び苦しめる事を考慮にいれると、なんらかの情報が入ると判断したのだ。

「切は大丈夫です。
本気になったアレは、最強ですから」
「…そうだね。
さて、もう少し探りたいしそろそろ行こうか」

クラウスを促し、フロアへと向かうリシル。

「ええ」

使命を前に、感情を隠し無表情を作ったクラウスは頷いた。

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