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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかた〜A child of Pinocchio〜#捜査ファイル1『吸血鬼』(3)

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜新歴98年、10月25日、午後18時38分〜〜〜〜〜〜


夕刻、切は事務所のテーブルに並べられた掌に収まる小さな機械のパーツをいじくっていた。

アルが去った後、嶺から『魔式』の詳細を聞いた切は、一旦嶺をアルが用意したという仮住まいに帰らせ、必要だと思う道具を確認しながら時を待っているのだ。

嶺から教えられた『魔式』は、詳細は不明。

ただ、遺っていた古い記述から血を媒体とし『風』と『地』の属性を有した『陣』の魔式であること。
兵器型『魔式』だが百年前の『第二次魔女戦争』でも使用されなかったことの二点のみは判った。

この二つの情報から、切は『魔式』の大体の影響を予測できた。

件の『魔式』は、それほど広範囲には影響を及ぼさない。

それは、兵器型の『陣』でありながら『第二次魔女戦争』で使用されなかったことから推察された。

凄惨を極めたとされる『第二次魔女戦争』

その中でも兵器型の『陣』の『魔式』が使用された地域のほとんどは、神話に登場する地獄の数々や世界の終焉に起きる断罪の行いを再現したという。
この時使用されなかった『陣』の『魔式』は、どれも現在も生活の基盤として使われる安全な『魔式』か、消費する『魔』に対して効果がほとんど得られない『失敗』した『魔式』の二つ。

故に、戦争にも使われず、さらに現在人の生活にも使用されていない『陣』の『魔式』が、世の中に対してそれほど驚異を与えるとは考えづらいのだ。

かちゃかちゃと音をたてて並べられたパーツが組み上げられ、それを切が懐に仕舞うのと同時に、バタリと音を立ててクゥが紙袋を抱えた姿で帰宅した。

「ただいま〜。
今日も疲れたよ〜」

紙袋をテーブルに置くと、切の座っているソファーに寄り切の膝を枕にして寝転がる。

「重い」
「愛は重いんです」

切の文句をさらっと流しながら、クゥは嬉しそうにツナギの尻からでている尻尾をパタパタと振る。

「…はぁ。
今日はどうだったんだ?」
「えっとねぇ。
パルテノンでウェイトレスのお仕事とねぇ、」

クゥは、今日のアルバイトの話から友達の話まで色々な事を喋る。

生活だけなら、別段クゥが外に働きに出る必要は無い。
赤貧といっても、猫探しやら失せモノ探しやら素行調査やらの細かい仕事でアルへの支払い以外の最低限の衣食は賄える程度の収入はあるし、クゥ一人ぐらいなら多少切り詰めればなんとか養えたので切はそれで構わないと思っていた。

だが、クゥはそう思っておらず切が止めるのも構わずアルバイトを始め、住まわせてもらってるからと自身の収入のほとんどを切に渡している。
切は最初こそ嫌がっていたが、現在は素直に受け取りつつもクゥに内緒でクゥのための貯金に回しているあたり諦めが悪かったりする。

「ねえ、キリ。
晩御飯どうする?」
「ん?」
「だから、晩御飯だよ。
今日はサンマが安かったから焼き魚にしようかなって思ってんだけど、キリは食べたい物ある?」

期待を込めるクゥの言葉に、少しだけ間を置いてから、

「塩粥と梅干しがあれば十分」

と、クゥを残念がらせた。

「また〜?
そのうち、高血圧で死んじゃうよ?」
「好物で死ぬなら本望だ」
「みみっちいよ。
せめて、おじやとかにランクを上げようよ〜」

しょうもない問答を続けた後、今日の夕食はクゥの用意した秋刀魚とサラダに白米と、切の惨敗に終わった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜新歴98年、10月25日、午前21時10分〜〜〜〜〜〜


夕食後、クゥが風呂から上がったのを確認し、切は外に出るため愛用の黒いコートに手をとるとクゥに声をかけた。

「今夜は遅くなるから、先に寝とけよ」
「うん、わかった」
「じゃあ、行ってくる」

クゥの返事を確認してから、切はコートを羽織り事務所のあるビルから外に出た。
外は完全に日が落ちていたが、日が落ちても街の騒がしさは終わる気配を見せない。
夜の闇を払うために、やや高めに建てられた柱の上に『陣』の『火』の魔式がぽつぽつと明かりを点し、街は夜を好んで活動する者達で溢れている。

アルから預かった金塊を通貨に換金した切はまず、街の治安施設に向かった。

治安施設といっても、警察機構のような国家組織ではなく、都市単位で自警団が治安を維持している組織だ。

切は、その中でも横浜全体を管理している『竜神会』という組織の門扉を叩いた。
竜神会は古い日本づくりの屋敷に本拠地を置く大きい組織で、かつては暴力団とも呼ばれていたが、国が解体され警察機構が力を失うと自分達の土地の安全を守る組織の筆頭に立ち、最終的に警察組織と同じ機能を有するに変わっていった。

切が竜神会の支店のビルに来訪すると、切の知り合いの、剃髪で頭頂部に大降りな角を生やした『鬼王』の酒井という名の男が対応した。

「先生じゃないですか。
今日は一体どんな用で?」
「ちょっと、聞きたいことがあってな」

案内された小部屋で出された茶を啜り、切はここしばらくの間に起きた事件について尋ねた。

「事件ですかい?細けえ喧嘩ぐれえならそれこそ毎日起きてはいやすが、どういった程度ですか?」
「できれば、血に関係のある事件が知りたい」
「……。」

酒井は表情を厳しくすると、切の右側に置かれている戸棚に近付き、中から一冊のファイルを取り出した。

「ここからは、他言無用でお願えしますよ」

そう言うと、ファイルを開き、調査書を広げた。
調査書には何枚も写真と横浜から近隣までの地図が添えられており、写真はどれも現場と思しき場所が写されていた。

「1番始めは三月程前ですかね。
被害者は人間の女。
身体から大量の血液を無くしていやした。
その後、同一犯と思しき血を奪われた被害者が三ヶ月の間に十人程挙がってやす。
幸い、被害者は全員治療が間に合いやしたが、最初の被害者は抜かれた血が多過ぎたらしく、まだ意識が回復してねえです」

酒井の説明に、切もまた顔を険しくしていた。

「一応、殺しには到って無いのか」
「へい。
現場の様子や襲われた時間から、『夜天』の者を優先的に洗ってはいやすが、怪しい奴は住所不定ばかりでやしてまだ足掛かりも掴んでねえんですよ」

そういうと、ファイルを閉じた。

「しかし、奇妙な話ですぜ。
狙われたのは全員人間。
それも女だけならともかく性別や年齢はバラバラ。
そのくせ金品には手も付けず血だけ抜かれるなんて事件なもんで、うちらの間では『吸血鬼』なんてあだ名までついてやすよ」

がりがりと頭を掻いて愚痴る酒井。
切は酒井に合わせず、被害現場と地図を照らし合わせながら酒井の言葉に納得していた。

被害者は横浜全域から他県の境の方にまで発生しており、この範囲全域となればいくら龍神会が大きいといっても、三ヶ月かけて手掛かりゼロであってもある意味仕方なかった。

「うちらにも管理してる責任や沽券なんつうもんもありますし、どうしても落とし前はつけなきゃまずいんですよ。
先生、なんか判りませんかい?」

酒井の言葉に改めて地図を見直してみると、切は微妙に空いた一角が気になった。

「ここらへんは調べたか?」
「ん、ああ、ここですかい。
ここも一応調べやしましたが、放逐された廃倉庫ばかりでなんも出なかったんですよ。
一応、『神羅』にも見させましたが、『魔式』の反応も無かったです」

酒井は切の質問に答えてから「気になるんですかい?」と尋ねた。

「…いや、すまないがただの気のせいだ」
「そうでやすか。
もし、先生の方でも何か分かりやしたら情報の提供をお願えしやす」
「ああ。
忙しい所を今日はありがとうな」
「いやいや。
先生には何度も助けてもらってやすから。
先生もお気をつけてくだせえ」

酒井の言葉を背にビルを出た切は、その後、いくつか知り合いの情報屋を回るが龍神会以上の情報は手に入らなかった。

「ここもダメか」

かなりアングラな方向からでもたいした手掛かりはなく、切は溜息を吐いた。

「……あいつに頼ってみるかな。」

嫌そうに呟くと、切は来た道を引き返しある場所へと向かった。

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