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詩と死とヤチャマとクドリャフカコミュのP134『君ばかり見てた』

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『君ばかり見てた』


決意を込めた「じゃあ」の後に、「ありがとう」と続けたのは、単に他に相応(ふさわ)しい言葉が見つからなかったからだ。

僕らはこの先、二度と会う事はないのだから、「またね」と言うのは全くの嘘になるし、かといって「さよなら」で締めくくるのは、余りにもありきたりだと思ったんだ。


ここ最近の僕たちといえば、事ある毎に衝突するわ、些細な事で口論になるわ、もう一緒にいる事が限りなく不自然に思える関係だった。

だから、この最後の「ありがとう」が、一体何に対する感謝の言葉なのか、正直自分でもよく分からない。

それでもやっぱり、君は僕と出会ってくれたのだから、ここは「ありがとう」で良かったのかもしれない。


誰もが羨む程に仲の良かった僕たちが、どうして、いつの頃からすれ違い、ついには互いを傷つけるようになってしまったのか。

それは僕には分からない。

もしかしたら、君には分かっているのだろうか。


君が時計を気にし始める。

別れ話も、そろそろ終わりかけのようだ。

その頃になって、僕はようやくその場所が、君との初めてのデートで訪れたカフェだという事を思い出した。

海の見えるオシャレなカフェ。

今の時間帯は、沈み行く夕日を眺めながら、愛を語らうカップルたちで賑わっている。

他の人から見れば、あるいは僕たち2人だって、そんな幸せなカップルの一組に、数えられているのかも知れない。


心の中は誰にも見えない。

重苦しい沈黙。

君の目を真っ直ぐに見れなくなって、僕は窓の外の夕日に目をやる。

美しい夕日だ。

世界なんて、燃やし尽くしてしまいそうに美しい夕日だ。

そうだ。

いっそ、世界なんて、燃やし尽くしてくれたらいい。


初めて君とここに来た日にも、きっと同じように美しい夕日が、空を染めていたのだろう。

だけどあの日の僕は、夕日なんて全然目に入らずに、君ばかり見てた。

君ばかり見てた。

君ばかり見てた。

僕らはあの日、とても幸せだった。

とてもとても幸せだったんだ。


そうか。

今、僕は気付いた。

決意を込めた「じゃあ」の後に、「ありがとう」と続けたのは、単に他に相応(ふさわ)しい言葉が見つからなかったからなんかじゃない。


幸せだった頃、不器用な君が、包丁で怪我した指先を隠してカレーライスを作ってくれた事や、雪の降る寒い夜に、クリスマスツリーの前で2時間も待ってくれた事や、風邪をこじらせて高熱を出した僕を、朝まで寝ないで看病してくれた事や、落ち込んだ僕を、何度も何度も勇気付けてくれた事を思い出して、少し泣きそうになる。


僕らはある時期、とても幸せで、本当は君に感謝すべき事が沢山あったのに、お返しなんて何ひとつ出来ずに、反対に僕は君を傷つけてしまった。

そしてそれはもう、取り返しがつかない。


気が付けば、店の客はもう僕らしかいない。

太陽はとっくに、水平線の彼方に消えてしまった。

良かった。

夕日が世界を燃やし尽くさなくて良かった。

君のために、明日も世界が回り続ければいい。

君の悲しみと、僕の存在だけを置き去りにして、明日も世界が回り続ければいい。

ずっとずっと。

この先もずっと。


僕らはこの先、二度と会う事はないのだから、最後に君に告げる言葉が「ありがとう」で本当に良かった。

決意を込めた「じゃあ」の後に、「ありがとう」と続けたのは、単に他に相応(ふさわ)しい言葉が見つからなかったからなんかじゃない。


最後に一瞬、ぎこちなく微笑んで、立ち去る君の後ろ姿に、僕はもう一度「ありがとう」と呟いた。

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