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コメント(3)
信次郎 「これだけ頑丈な火ぶくれこぶを作ったってことは、この人、我慢強いんです。
亭主に 言い返すこともない。亭主は、自分が能力ないもんだから、彼女に嫉妬して いる。そういう奴は相手の弱みを徹底的に暴く。おそらく、顔のことを言い募ります」
ハッとなって信次郎を見つめるじょご。
信次郎 「逆襲するためには何が必要か。新しくなった顔で—」
—平 「なるほど」
信次郎 「だから治療優先。—主—び出しは可能な限り先延ばしする。一方でわたしは浜鉄屋 周辺で話を聞いておく」
—平 「しかし、亭主が乗’込んで来るかもしれない」
信次郎 「そうなったら出たとこ勝負です。どうです、じょ•さん。取りあえず、わたしの患者になり ませんか？」
信次郎をしっかり見つめ、頷くじょご。
亭主に 言い返すこともない。亭主は、自分が能力ないもんだから、彼女に嫉妬して いる。そういう奴は相手の弱みを徹底的に暴く。おそらく、顔のことを言い募ります」
ハッとなって信次郎を見つめるじょご。
信次郎 「逆襲するためには何が必要か。新しくなった顔で—」
—平 「なるほど」
信次郎 「だから治療優先。—主—び出しは可能な限り先延ばしする。一方でわたしは浜鉄屋 周辺で話を聞いておく」
—平 「しかし、亭主が乗’込んで来るかもしれない」
信次郎 「そうなったら出たとこ勝負です。どうです、じょ•さん。取りあえず、わたしの患者になり ませんか？」
信次郎をしっかり見つめ、頷くじょご。
近江屋 「云い終わらねえうちにおまえの腕が一本、畳の上に転がってることになるが承知かい？え？ 承知の幕かって聞いてんだよ」
刀を抜いて信次郎の肩に刃を当てる。
信次郎 「ひとつ訊きます。東慶寺を松ヶ岡御所とお呼びするのはなぜでしょう？」
近江屋 「はん？」
信次郎 「御所とお呼びするのは五代目の院代さまが後醍醐天皇の皇女さまだからです」
云いながら刃をくぐって反対側に出る。
近江屋 「それがどうした」
信次郎 「東慶寺は権現様御声がかり—寺ですよ、三八親分！破廉恥大名加藤吉成の改易事件、憶え てます？暴君を諌めて会津を捨てた堀主水さまとその一族郎党３７０人をバカ殿は追撃した。 男たちを高野山で捕え、残らず処刑。女たちが逃げ込んだ東慶寺ではバカ殿の要求を蹴って 蹴って蹴倒して、結句、会津四十万石を改易にまで追い込んだのが寛永十六年、今からざっと ２００年前でございます」
お勝の命令で柄杓に水を持って来るお種。タイミングよく信次郎に渡す。信次郎、ぐいっと水を飲み、薬草瓶と行灯持ってきな、とお種を送り出して続ける。
信次郎 「東慶寺さまに訴え出ることは帝に、将軍家に、直に声をかけるのと同じ。立ちどころに斬首で す」
近江屋 「けどな」
信次郎 「そこで手前どものような仕事もあるわけで、御用宿を通さぬかぎり東慶寺はなにひとつお取り 上げにならない。だからこそあなたがたはなにもできないと申し上げたのです。わかった？」
近江屋 「あ ああ」
信次郎、舌なめずりし狂気をフル回転に。
信次郎 「近江屋さん、あなたは人を売買いしている」
近江屋 「幕府免許は出てるぜ。こっちだって言ってみりゃあ権現さまお声掛かりだよ！」
信次郎 「噂には女子供を—ったりもする。これまでさんざん泣かされた人たちに代わって、あんたらに油 を撒いて火をつけてさしあげてもいいのですよ」
近江屋 「なことしてみやがれ。火あぶりだぜ」
信次郎 「‘の前の‘の南町奉行根岸“前’さ•が三十五年五ヶ月前になさった判決があります。
父親から借りた金子十両を返そうとしない男に腹を立てた娘が、男の家に火を放った。
さて根岸さまはこの一件をどうおさばきになったのか。娘は火あぶりの刑 に処されました」
近江屋 「あたりめえよ」
信次郎 「借金十両のうち、五両を即金で、残りの五両は—年一朱ずつ八十年の年賦で返済するようお 命じになった。すべて返済した所で娘を火あぶりの刑とする。おわかりか？
娘は八十年間は無事ってことです。だからお勝さんが今そこにいる！」
お勝、ずっこけそうになるが、近江屋を睨みつける。
信次郎 「火あぶ までまだ残り四十五年！」
お勝 「残り四十五年！」
近江屋 「四十五年？」
信次郎 「わたしはこれと同じお裁きをお願いするつもりです」
お種が持って来た行灯をぐいと手許に引き寄せ、
信次郎 「お勝さん、お種さん、種油をありったけばら撒く！」
お勝 「あらよ！」
信次郎、お勝、お種、薬草瓶を抱え、撒き散らす。
逃げ出す雁ブ。
近江屋 「どいつもこいつも、くくく、狂ってやがる！」
と退散。猿孤児は信次郎を眺め、
猿孤児 「生まれ変わっ•ら、あんたの弟子になる！（ 駈け去る）」
信次郎、ふらっとなって、上がり框に尻餅をつく。
放心したようにべったり座り込むお勝とお種。
お勝 「あたしの出番はともかく、根岸さまにそんなお裁きがあったとは、知らなかった」
信次郎 「全部くちから出まかせです」
お勝 「全部・・・あんたは医者より戯作者に向いてるよ」
刀を抜いて信次郎の肩に刃を当てる。
信次郎 「ひとつ訊きます。東慶寺を松ヶ岡御所とお呼びするのはなぜでしょう？」
近江屋 「はん？」
信次郎 「御所とお呼びするのは五代目の院代さまが後醍醐天皇の皇女さまだからです」
云いながら刃をくぐって反対側に出る。
近江屋 「それがどうした」
信次郎 「東慶寺は権現様御声がかり—寺ですよ、三八親分！破廉恥大名加藤吉成の改易事件、憶え てます？暴君を諌めて会津を捨てた堀主水さまとその一族郎党３７０人をバカ殿は追撃した。 男たちを高野山で捕え、残らず処刑。女たちが逃げ込んだ東慶寺ではバカ殿の要求を蹴って 蹴って蹴倒して、結句、会津四十万石を改易にまで追い込んだのが寛永十六年、今からざっと ２００年前でございます」
お勝の命令で柄杓に水を持って来るお種。タイミングよく信次郎に渡す。信次郎、ぐいっと水を飲み、薬草瓶と行灯持ってきな、とお種を送り出して続ける。
信次郎 「東慶寺さまに訴え出ることは帝に、将軍家に、直に声をかけるのと同じ。立ちどころに斬首で す」
近江屋 「けどな」
信次郎 「そこで手前どものような仕事もあるわけで、御用宿を通さぬかぎり東慶寺はなにひとつお取り 上げにならない。だからこそあなたがたはなにもできないと申し上げたのです。わかった？」
近江屋 「あ ああ」
信次郎、舌なめずりし狂気をフル回転に。
信次郎 「近江屋さん、あなたは人を売買いしている」
近江屋 「幕府免許は出てるぜ。こっちだって言ってみりゃあ権現さまお声掛かりだよ！」
信次郎 「噂には女子供を—ったりもする。これまでさんざん泣かされた人たちに代わって、あんたらに油 を撒いて火をつけてさしあげてもいいのですよ」
近江屋 「なことしてみやがれ。火あぶりだぜ」
信次郎 「‘の前の‘の南町奉行根岸“前’さ•が三十五年五ヶ月前になさった判決があります。
父親から借りた金子十両を返そうとしない男に腹を立てた娘が、男の家に火を放った。
さて根岸さまはこの一件をどうおさばきになったのか。娘は火あぶりの刑 に処されました」
近江屋 「あたりめえよ」
信次郎 「借金十両のうち、五両を即金で、残りの五両は—年一朱ずつ八十年の年賦で返済するようお 命じになった。すべて返済した所で娘を火あぶりの刑とする。おわかりか？
娘は八十年間は無事ってことです。だからお勝さんが今そこにいる！」
お勝、ずっこけそうになるが、近江屋を睨みつける。
信次郎 「火あぶ までまだ残り四十五年！」
お勝 「残り四十五年！」
近江屋 「四十五年？」
信次郎 「わたしはこれと同じお裁きをお願いするつもりです」
お種が持って来た行灯をぐいと手許に引き寄せ、
信次郎 「お勝さん、お種さん、種油をありったけばら撒く！」
お勝 「あらよ！」
信次郎、お勝、お種、薬草瓶を抱え、撒き散らす。
逃げ出す雁ブ。
近江屋 「どいつもこいつも、くくく、狂ってやがる！」
と退散。猿孤児は信次郎を眺め、
猿孤児 「生まれ変わっ•ら、あんたの弟子になる！（ 駈け去る）」
信次郎、ふらっとなって、上がり框に尻餅をつく。
放心したようにべったり座り込むお勝とお種。
お勝 「あたしの出番はともかく、根岸さまにそんなお裁きがあったとは、知らなかった」
信次郎 「全部くちから出まかせです」
お勝 「全部・・・あんたは医者より戯作者に向いてるよ」
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