ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

新日曜美術館コミュの2004/09/26放送

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
はじめまして。ノリでテキスト化してみました。特に意味はありません。次回以降、続くという保証もありません。が、ダイジェストは載せる予定なのでよろしくお願いします。

■2004/09/26放送『新日曜美術館』「現代の匠たち・その技と美〜第51回日本伝統工芸展〜」

司会  山根基世、はな
ゲスト 白石和己、宮迫千鶴

 今年も日本伝統工芸展が始まりました。1954年に第1回が開かれて以来、今年は51回目を迎えます。長い歳月の中で育まれた技を受け継ぎながら、常に新しい美への挑戦を続ける現代の匠たち。染色や木工、漆芸など、受賞作家の工房を訪ね、伝統工芸の今をご紹介します。今年は全国からの応募2340点から選ばれた入選作品、738点が会場に展示されています。

 『新日曜美術館』です。今年もこの21日から「第51回日本伝統工芸展」が東京の日本橋三越本店で始まっています。

 今年は16人の方々が優秀賞、奨励賞、そして新人賞に選ばれました。

 この16人の受賞した方々の作品を今日は見ていきたいと思います。今日のお客様をご紹介致します。三重県立美術館館長、白石和己さんです。そして、画家でエッセイストの宮迫千鶴さんです。

 宮迫さんは先日こちらの展覧会に行かれたそうですが、いかがでしたか?

 あの、祝日の日に行ったものですからね、予想していたよりはるかにお客さんがたくさんいて、すごい熱気を感じました。やはり美しいものを鑑賞したいという気持ちは、ああいった感じなんだろうなという気はしました。ただ、もうちょっと若い方がたくさん行かれるといいかなと思いました。せっかくああいった水準の高いものが並んでいるんですから、そういうチャンスをぜひ生かして頂きたいなと。

 この番組を見て、ぜひいらして頂きたいですね。

 白石さんはこの展覧会には20年近く関わっていらっしゃるんですが、何か今年の傾向というのはあるんですか?

 今年だけということではないんですけれども、すごくシンプルな造形を作った、そういうものが多いのではないかと思います。技術的なものはすごくいいんですけれども、むしろそういうものを控えめにしてすごくこう、素直な造形を作ったというような作品が目につきました。

 技をひけらかすのではなくて、秘めた力をシンプルにということですね。

 では早速、その展覧会の作品を見ていきたいと思います。

 木工家・川北浩彦の作品。シンプルな造形がケヤキの木目の美しさを引き立てています。石川県山中の伝統「挽物」の技です。凝ったデザインを手がけてきた川北ですが、今年は素直に木の持ち味を最大限に生かしています。
 器のフォルムを最も大切にしているという、金工家・田中正幸の作品。花瓶は、銀の板を金槌で打ち延ばす「鍛金」で作られています。そして装飾は細い金の象嵌と毛彫りによる彫金です。田中は様々な技を駆使して、金属の持つ美しさを巧みに引き出しています。
 金工家・正田忠雄は、子どもの頃に遊んだ笹舟の思い出をモダンな形の器に蘇らせました。鑞銀という銅と銀の合金を使っています。鋳型に、解けた鑞銀を注ぎ入れて作る鋳金の技法です。
 陶芸家・山本浩彩の作品。豊かな膨らみを持つ優美な形が、茜色の土の暖かみと見事に調和しています。茜色は、鉄分の多い粘土から生まれました。

 あの丸みと色って、ちょっと線香花火の最後にできる玉のような形をしているなと思ってみていたんですけれど、やっぱりああいう色や形を出すためにはいろんな技が必要なんですよね。

 ええやっぱりそれぞれいろいろな難しい高度な技術というのがないと、ああいう素直な形はできないんですよね。例えば正田さんの「笹舟」という作品が出ていましたよね。あの作品は、非常に複雑な形を鋳型で一回で鋳込んで作り出している。なかなかこれ難しいんですよ。しかも非常に綺麗な仕上げをしてございますけれども、テクニックとしてすごいもんだなと思って拝見していたんですけど…。

 シンプルなだけに素人が見るとそんなに難しく見えないけれども、秘められた、非常に深い技があったんですね。この4人の方々、ベテラン揃い、40代50代の方だったんですが、宮迫さんはどれか印象に残るのものはありましたか?

 私は、「挽物」というんですか、あれ。しばらくじーっと見とれていましたね。何がというのは一言では言えないんですが、あれだけシンプルなのにとっても存在感があって、こんな感じもあるんだなと思いました。それから会場で一際目立っていた茜色の陶芸、あれはもう本当に綺麗でしたね。

 本物を見に行かなくてはいけませんね。さて、今度は今年初めて受賞された方々の中から3人の方をご紹介します。

 異なる色の漆を数十回塗り重ね、そこに彫刻刀で文様を彫る、「彫漆」という技法です。彫芸家・石原雅員は、これまで花や動物をモチーフに文様を描いてきました。今年、新たな表現に挑みました。京都を訪れたときに抱いた印象を、古都の町並みをイメージさせる、抽象的な格子模様で表しています。
 NHK会長賞を受賞した人形作家・紺谷力の作品「腰鼓遊楽」。童子が無心に太鼓を叩いて踊る姿です。天平の奈良を思わせる異国風な衣装には、紺谷独自の鳳凰紋が施されています。古の妙なる音色が聞こえてきそうな軽やかな作品です。
 石川県金沢に紺谷の工房があります。紺谷力、62歳。若い頃は彫刻家を志していました。しかし、心の思いを表現できる人形作りに次第にのめり込んでいったといいます。人形作りは、役者を動かす演出家のようだと言います。人形を取り巻く世界をあれこれと想像しながら、個性を吹き込んでいくのです。紺谷は「塑造」という技法で作品を作っています。奈良、東大寺法華堂の仏たち。優しさとぬくもりに満ちた表情、これも「塑造」です。仏像作りの技を、紺谷は人形に応用しました。ステンレスの心棒で骨組みを作り、麻布と粘土を張り重ね、肉付けをしていきます。紺谷はこれまで30年以上、伝統工芸展に出品してきました。去年の作品です。入選はしたものの、これまで一度も受賞したことはありません。ところが、今年はいつもと少し違っていました。

 展覧会というのはやっぱり競争の場ですから、力みというかそういうものが作品のどこそこに出てきとる気がします。この構えている足、ぎこちないところがありますよね、自然でないところが。今年は力強さということよりも、自分の作りたいもんを作りたいようにして作るということが一番大事なことやなあということを感じました。

 今年、紺谷は無心に楽しんで人形に向かうことができたと言います。紺谷は薄く溶いた顔料を筆で叩くように塗り重ねていきます。塑造の肌合いを生かした、明るく軽やかな彩色を心掛けています。

 こうして眺めとると心も和んでくるし、人形ってやはり素敵な世界やなと、夢も広がりますし、本当に優しい世界ですね。

 文部科学大臣賞を受賞した、木工家・本間潔の作品。分厚いケヤキの一枚板から彫りだされています。作品の中央に広がる面が静けさを、その両端の板の重なりが
動きを表しています。対立する静と動、面と線を巧みに配置したデザインです。

 宮城県の北部、栗駒山のふもとに広がる農村地帯、志波姫町です。本間潔、54歳。木の魅力に引き込まれた本間は、28才のとき、サラリーマンをやめ、独学で木工を学びました。積み上げられた丸太はほとんどが地元、栗駒山のケヤキとトチです。北国の木は木目がつみ、器にしたときに美しいといいます。

 木工の場合は素材でほぼ作品の半分以上、6割、7割がもう決まると言っても過言ではないと思いますよね。ですから、素材を如何にいいものを選ぶかということが、作品の良し悪しに影響すると思いますよ。

 大きな木を電動鋸でおよその形にした後、本間は彫刻刀だけで器を彫っていきます。「くりもの」という技法で、機械ではできない、自由な形を作ることができます。指先で木の調子を読みとりながら、掘り進みます。

 彫り挙げる作業をは工程の中では一番楽しい仕事でもありますよね。これが10センチの厚さだったんですけど、その状態では年輪が真っ直ぐなんですけれども、それが彫り下げることによって、こういう曲がった形の年輪も出てくる、まあある程度なるかなという予測もあるんですけれども、これまでになるっちゅう予測ができない部分もありますよね。

 本間は10年前から伝統工芸展に出品しています。しかし去年出品したこの作品は、入選を逃してしまいました。小ぶりながら、トチの木目がさざ波のような美しい動きを見せています。

 木質が器には適している材料ですから、形的にもいろいろ木目の面白さが出てきますから、本当に好きな木の一つですね。花びらの模様がもう少し広がりがあって、もう少し深みが強ければ、深みがあればという感じがしますね。この木の厚さですね。

 今年本間は、去年より大きな厚さ10センチの木を使って受賞を果たしました。

 本間さんは工芸展出品のために6つの作品を作ったんだそうです。で、受賞したのは6番目に作った作品だったんですけど、こちらにあるのは4番目に作ったトチの木でつくった作品で、こちらが5番目に作ったケヤキの作品ですね。試行錯誤しながら作品を完成させていくんですね。宮迫さんはどうご覧になりますか?

 私は会場で今年の受賞作を見せてもらったときは、すごく素晴らしいと思ったんです。全体が10センチというのが…これも10センチくらいですよね。でもなんか受賞作のほうがもっと厚みを感じたんです。ですからちょっとしたこと、あるいは素材の違いもあるんでしょうけれども、どっしりとした雰囲気が素敵でした。

 最後にできあがったものが一番パワフルな感じだったということですね。

 やっぱりトチとケヤキと、この厚さも違いますと全然印象が違いますよね。

 やっぱり木工というのは、木の材料そのものが表現に結びついている分野なものですから、木の種類、それから木目の出方、木目を選ぶのも技術の一つなんですよね。そういうものと、自分がいったい何を表現したいかというところがうまく合わないと、いい作品というのは出ないような気がします。

 このケヤキの作品は本当になんか隅がピンと上がって、生きた、なんか飛び跳ねそうな生命力を感じますよね。

 あまりそれが強すぎると逆に嫌味になるケースもありますから、そこもやはり作家の感覚でしょうね。

 その辺のバランス感覚もまた技術に入っていくのかしら。

 佐賀県、有田焼の伝統を受け継ぐ陶芸家・今泉今右衛門の作品。自らが生みだした墨はじきという技法で、雪の結晶紋を現代的にアレンジし、描いています。
 6年前、日本工芸会会長賞を受賞した作品。墨はじきの技を成功させたばかりの頃のものです。今年、今泉は器の底の部分に亡くなった父が考案した、薄墨という技法を採り入れました。親子2代の工夫が融合した作品となっています。

 陶芸家・武腰潤も石川県の九谷焼の家を継ぐ作家です。これまで、皿や壺を手がけてきた武腰は、今年、箱に挑戦しました。磁器は、土の収縮率が高く、これほど大きなものを作るには、熟練した技が必要です。笹藪で遊ぶヤマガラを写生し、絵付けをしました。
 漆芸家・内野薫の作品『木地蒔絵箱・夏園』。木地蒔絵とは白木の板に蒔絵で文様を施すもので、木地を汚さずに漆を塗るのは大変難しく、最近はほとんど見られなくなりました。内野はキュウリの蔓や虫食いの葉を精緻に描いています。東京の大学で漆芸を学んだ内野は、現在は石川県輪島市で制作活動をしています。
 内野薫、53歳。内野が木地蒔絵の研究を始めたのは、5年前のことです。文化財の修復に携わったのがきっかけでした。今回の出品作は、久しぶりに制作した自分のための作品でした。

 まあ今年は猛暑でしたから、ずっと6月くらいは暑かったですよね。まあその中で、うちの家庭菜園の中でいつも元気に咲いて食卓を潤してくれるキュウリが目についたんですね。まあひとつ冗談ででもキュウリをちょっとスケッチして、自分にとってですね、心安らぐものがキュウリだったので、これ以上考えても出てこないので、じゃあキュウリをつけようかと。

 内野が修復に関わった香川県金刀比羅宮。この本宮の天井画は木地蒔絵、桜の文様が施されたものでした。明治時代初期のもので、138枚あります。木地はヒノキです。内野がこれほど多くの木地蒔絵をみたのは初めてのことでした。内野ははじめ、昔ながらのやり方で復元しようとしましたが、ヒノキに漆が浸透し、絵の際に滲みが生じてしまいました。そこで、文房具店や日曜大工の道具を売る店をのぞき、使えそうなものを買い集め、次々に試しました。ポリエチレンのシートを木地に貼ると、汚れを防ぐことができました。シートの上に下絵をのせ、模様に沿って切り抜いていきます。このカッターも本来、漆塗りの道具ではありません。現代の仕事には、現代の道具を使ってもよいのではないかと内野は考えたのです。木地蒔絵に関わって、内野の作風は大きく変わりました。白い木地の上に絵を描くことは絵画に近く、これまでにない解放感があるといいます。

 まあ木地蒔絵に出会ってから、木地蒔絵の特徴をつかんでデザインをするということで、こういう言い方は変かもしれませんけど、漆はベースが黒いですから、どうしてもイメージ的に暗いデザインのものが多かったんですよね。どうしてもそこが暗いデザインで考えていたものが、今回それが白くなったということで、まあ、がらっと作品が変わったというふうに言えるんですけどね。

 木地蒔絵に触れることで作風ががらっと変わったということですが、以前はどのような作品を作っていらっしゃったんですか?

 近代の蒔絵というのは、大体黒い漆地の上に蒔絵をするというのが主流だったわけで、内野さんもそういうやり方をしていたんですけれども、木地蒔絵に出会ったときに木の明るさ、柔らかさ、素朴さというのが多分、内野さんの精神にすごくフィットしたんではないでしょうか?

 漆というと夜の闇の世界という感じがありましたけれどね。これは朝の光というか、午前中でないとキュウリのみずみずしさというのは感じられないですよね。ですからそれだけ自由になったということなんでしょうね。これがいいなと思ったのは、古い技を、修復を通じて受け継いでいくという、そういうあたりがやっぱり伝統工芸のダイナミックな世界ではないかなと感じました。

 そうですよね。伝統というのは古いものを受け継いでいくというだけではだめだと思うんです。やっぱり自分のものを作り出していく、伝統と創造というのは全然反しない。むしろ伝統だから創造が必要だというところはたしかに言えるんじゃないかなという気はします。

 「墨はじき」という今泉さんの技法も、技法そのものは昔からあるもののようですね?

 江戸時代からあります。それから先代の今右衛門さんもよく使っていた技法なんです。でも今回の作品なんかを見ますと、「墨はじき」を使って非常に繊細な表現にしている。すごく苦労しているんじゃないかなと思うんですけど、自分の技術に高めているというのは感じられますね。

 切子、つまりカットグラスの技法を得意とするガラス工芸家、渡邊明の作品です。切子はガラスをカットすることによって生じるきらきらとした輝きが魅力です。奥行きのある模様を作りたいと考えた渡邊は、カットしたガラスを張り合わせ、表面だけでなくガラスの内部にも切子による輝きを作り出しました。
 真竹を素材とした細いひごで作品を作り続けてきた竹工家・田中旭祥。今年は四隅に幅の広い孟宗竹を加え、さらに細くしなやかな篠竹を赤く染め、装飾としました。異なる竹の性質や特徴を生かした、華やかな作品です。

 日本工芸界総裁賞を受賞した染織家・山下郁子の作品『紬織着物初雪の朝』。初雪の翌朝、山並みを白く染めた雪と、空の青さに感動した気持ちを表現しています。雪山の稜線を表す白くカーブした線が、袖から身ごろへと、寸分の狂いもなく織り上げられています。
 富山県の西部、城端町。会社勤めをしている山下は、毎朝この山を見て出勤しています。山下郁子、50歳。東京の大学でテキスタイルデザインを学び、紬織りの人間国宝・宗広力三に師事しました。ふるさとの城端に帰り、結婚、子育て、仕事に追われながら、再び機織りを始めたのは10年ほど前のことです。山下の爪が青いのは、藍瓶で糸を染めているからです。機織りの時以外は、台所が工房です。図案作りがここで始まりました。しかし、なかなか決まらず、描き直した図案は数十枚に及びました。

 一番最初に描いたのはこれなんですけど、山並みを思って描いたんですけど、これだと織るのが、大変なんですよ。織るのが大変だから、パターンでやっていこうかなと描いたのがこういった感じなんですけど、自分の思いがこれだと出ないと思って…

 縦糸と横糸を染め分ける、かすりの技法で絵柄を織り出します。図案は普通、一定のパターンを繰り返して作られます。1つのパターンが大きくなれば、それだけ染めや織りの仕事が大変になるといいます。

 自分の初雪の朝というイメージをつくるためには、そのパターンの繰り返しで満足いかんかったから変えただけなんです。結局、裾からこう広がる感じを出したかったのね。自然がこう広がっている、着物からはみ出してほしいような気持ちで図案を描きたかったんです。

 結局山下は、図案を最も難しい、最初の絵に戻しました。繰り返しがほとんどなく、着物全体が一つの絵となっているのです。山下は、実物大の図面を作り、それに沿って慎重に横糸を置いていきます。糸一本乱れるだけで一からやり直さなければならないからです。山下は去年この着物を出品する予定でした。しかし締め切りに間に合わず、2年がかりの制作となりました。

 どうすれば的確に、簡単に織りやすいような柄になるのかなっていうふうに思うんだけれど、今回の場合はもう、柄を描いてしまって、後からどうすればこの柄に近づけるようになるかなっていうことを考えた。できる限りの元の柄に近づけるにはどうしたらいいかということを一生懸命考える。でも本当に楽しかったです。

 こちらは山下さんが以前、伝統工芸展に出品して入選した着物です。見ているだけでも気分が落ち着きますよね。

 この作品で、かすりのパターンということについて白石さん、もう一度説明して頂けますか?

 この作品ですと、上から下まで大体2、30センチくらいのところで7、8回同じ模様が繰り返されていますけれども、2、30センチくらいのパターンでやると、染めた糸、まあ織物というのは縦糸と横糸を組み合わせて模様を作るわけですけれども、その染めるときの糸が同じものが何回も使えるんです。今度の入選した作品は、あんまりそういうところがないですね。ですからパターンがないと、そういうのが1本1本、極端にいうと別のものを使わないとだめだということですよね。
普通のものを使う

 気が遠くなる作業ですよね。

 大変だと思います。

 それに対して挑戦した山下さんの気持ちはすごいですよね。

 すごいですよね。でもいいお顔ですよね。私がすごいなって思ったのは、例えば自然の小さなモチーフというのを見て、花でもいいんですけど、繰り返していくということは簡単に考えつくことだと思うんです。でもこの人の場合は、雪の日の朝というものすごく広大な自然をそのまま全面に展開していこうとされたわけですよね。だからものすごく心の中に、自然というものに対する親しみというか、畏敬の念というか、大きさが入っている人なんだなと思ったんです。

 それが直接作品に表れているという、そんな気がしました。

 その感動の強さがあるからこそ、着物からはみだすほどね、気持ちを感じます。さあそれでは最後に、今年初めて受賞した新人賞の3人の方の作品をご覧いただきましょう。

 人形作家、杉浦美智子の作品。杉浦は、現代的な空間にマッチした人形とは何かと考えました。むき出しの足や手、体の輪郭が見える洋服。新しい人形のあり方を模索する中から生まれた作品です。
 染織家・松原忠は、池の上に枝を伸ばした紅葉の美しさに感動し、この作品を作りました。藍は赤と黄色を混ぜることで紫や緑にもなります。松原は、藍が持つ多様な色を様々に変化する紅葉に重ね合わせています。
 金工家・山本晃司の作品は、「接合せ」という技法で作られています。模様によって切り分けた様々な金属の断片を鑞付けし、1枚の板にします。その板をさらに6枚接ぎ合わせ、六角の器にしました。文様は、海の波をイメージしています。瀬戸内海に面した山口県光市。ここに6年前、山本の両親は小さな店を構えました。工業デザイナーだった父親が「接合せ」という技法に魅せられ、自ら作品を制作するようになったのです。父と子は今、向かい合って作品作りに励んでいます。
父、晃さんもも以前、NHK会長賞を受賞しました。山本晃司・28歳。3年前から父の工房で机を並べています。金属の板を模様に沿って切り分けます。この作品では3種類の金属を使うため、3枚を重ねて切っています。

 おお。

 どうしても緊張してるね。

 大体もうすぐ折れるもんなんですよね。1つの作品を作るために100本から200本くらい。これをこう切って、こういくでしょ?歯の向きを変えるためにちょっと無理したりするんで、結構早く折れるんですよ。

 模様のデザインはいつもパソコンを使います。今回受賞したのは6つめの作品でした。最初に作った作品がうまくいったので、この道に入る決心をしたといいます。

 たまたまこういう感じになったんで、それをちょっと気に入ってこれにしようと思いました。

 最初はやはり反対されました。でも人に反対されるとなんか、やりたくなるというか、そういうのがあって、どうしてもこれが作りたいと言って、作ることにしました。

 このデザインを見てみると分かると思いますけれども、非常に細かい色の違いというか、金属の違いがあるわけですから、それだけの細かいものを鑞付け、接合していくわけですから、まず失敗するな、と。でもやっぱりそういう経験がない限り、むしろやれるんだよ、と。なんかそんなものがあったのかもしれませんね。

「接合せ」で、最も難しい鑞付けの作業です。融点の低い、銀鑞という金属で接着させます。溶けた銀鑞が金属と金属の隙間に流れ込んでいきます。ところが、銀鑞がなかなか溶けてくれません。

 ああ、やばいこれは。なんでこれ溶けてくるんだろう。

 これ以上加熱すると、他の金属も溶け出してしまいます。原因は、銀鑞を溶かすために塗る薬品の濃度がいつもより薄かったためと分かりました。

 でもね、僕は30年やってきましたけれども、いまだにこの鑞付けの時は緊張しますね。祈るというかそういう感じ、ありますよ。本当にこれ、慣れないというか、そういうのはあるんですよ。まあ、少しは分かってきたんですかね、難しさが。

 なんか応援したくなりますね。でもお父さんが息子さんの作品を見て、「恐いもの知らず」とおっしゃったそうで。でもその後、「自分もそうだった。だからできたんだ」というようなことをおっしゃったんだそうです。やっぱりこの親子関係というのは作る作品に対して影響があるんでしょうか?

 やはりものすごく深いところでね、作家がお父さんですからね。目に見えないところでいろいろなことを学んでいると思うんです。道具の使い方、素材の使い方、そういったものを伝承して、しかも自分の表現を加えていくわけですから、私はやっぱり親子関係というのはいいなあと思いますね。

それにしてもあの作品を見ると、たしかにすごく手が込んでいますよね。まだお若い、28歳、始めて3年あまりですか?それであの技に挑戦しようというのは、たしかに恐いもの知らずかもしれないと。

 若い方にどんどん挑戦して頂きたいですよね。もちろん何でもかんでも挑戦すればいいというわけではなくて、伝統工芸の基本になる素材に対する深い研究、それから素材をどう自分のいろんな表現に結びつけるかという技術ですね。その二つは欠かすことのできないものなんですけれども、そういう上に立って、自分の思いというか、そういうものを、どんどんいろんなやり方で作って頂きたいと思いますね。

ある意味で恐いもの知らずであるということは大事なのかもしれませんね。

 そう思いますね。全体で今回見せてもらって、執念と緊張感、やっぱりそういったものが工芸を見るときの精神の高さを感じさせてくれて、やっぱり最初に言ったように、ぜひ若い人が見てほしいなという気には改めてなりますね。

 白石さんは、改めて今回の展覧会を見て…。

 やっぱり皆さん随分努力をされているなというのが大きく感じたことですね。あの、やっぱり伝統工芸というのは先ほどもちょっと出てきたんですけれども、今の
伝統工芸なんですね。ですから伝えられた技術とかやり方というのをそのまま受け継いでいるだけでは、今の芸術作品にはならないと思うんですね。今の作品を作るために、自分の作品、自分の思いを入れなければ今の作品にならないわけで、それにはどうしたらいいかということに皆さん随分努力をされている。今回全体的に見ますと非常に素直な感じで表現されているなという気がしました。

だからそのせいなんですね。私たちが見ていてもね…。

なんかのびのびとした、なんかすごく自由を感じるように思いました。

 欲しいなと思える作品がたくさんありました。来年がまた楽しみになりました。どうもありがとうございました。

*****************************
■アートシーン

近世京都の狩野派展 @京都文化博物館
坂田栄一郎 天を射る @東京都写真美術館
視覚の世界 勝井三雄デザイン展 @富山県立近代美術館
一陽展 @東京都美術館
まつり・祭・津まつり @三重県立美術館
牛腸茂雄展ー自己と他者ー @三鷹市美術ギャラリー
清宮質文のまなざし @高崎市美術館
訃報:藤田喬平

■次回予告
「河童になりたかった男」小川芋銭


ちゃんちゃんちゃかちゃん
ちゃかちゃかちゃん〜(将棋)

コメント(4)

伊作様

はじめまして。ややマニアックな(?)コミュニティにご参加下さいまして、本当に感謝しております。個人的な趣味ですが、勝手にテープ起こしをしていきますので、今後ともよろしければ適当に読み流して下さればと思います。

美術に関してはまだまだ勉強中の身ですので、お時間があるときにでも、情報・コメントなど下されば幸いです。

よろしくお願いします。
伊作様

 将棋の音楽は耳から離れないですよね〜。あの切り替わりの違和感が、妙に気になります。夜の再放送の後は『N響アワー』でなんとなく接続がうまくいっている感じなのですが…。

 それにしても、一日に2回も同じ番組を放送する番組(しかも再放送が超プライムタイム)って、『新日曜美術館』ぐらいじゃないでしょうか。特殊な番組ですねぇ…。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

新日曜美術館 更新情報

新日曜美術館のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング