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似而非日記帳コミュの宿仮る夏の記(四)

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【岩場と斜陽の事】

私は、荒い岩肌と冷たい海水に揉み上げられた足の筋肉が強張って来た事もあり、休息の為に岩へよじ登って腰掛ける事にしました。
私は岩の上にあぐらをかいて、ごつごつした岩肌を撫でたり、窪みにできた狭い水溜まりに掌を浸して、温い塩水を弄んでいました。
いつしか太陽は西の空へ移り、徐々に燃えたぎる身体を明石の大橋へ擦り付けようとしていました。
少し風が出て肌寒さを感じ始めたので、
「そろそろ帰ろうか。」
と声を掛けましたが、小さき人は巻き貝採集に余念が無く、私の声は波風の音と溶け合って、何処か永遠の涯へ消え行くのでした。
ついに太陽が橙色の薄絹を纏い、明石の大橋へまとわり付くに及んで、私は小さき人を何とか説得して、水中眼鏡にこんもり盛り上がって犇めき合う、どれもこれも似通った姿態の巻き貝達を岩へ還す作業を始めました。
小さき人は、明石の蛸の様に唇を尖らせて、さも不満気な様子で巻き貝を荒っぽく解き放っていきました。
そうして、全ての巻き貝を岩肌に転がしてみますと、のっそりと触手を出した各々が勝手気儘に動き出すのでした。
しかし、よく見るとその中に一匹だけ鮮やかな白と赤茶色の縞模様をした細身の巻き貝が居て、ぬっと突き出した鋭い足をじたばたさせて他を完全に凌駕する速度で小走りを始めたのでした。
「おや、こいつはヤドカリだったんだね。」
私がそう言い切った頃には、憐れなヤドカリは再び小さき人の捕囚となって、足は虚しく空を切るばかりでした。
「やったよ。初めてヤドカリを捕ったよ。」
突っついたり、裏返したり、海水に浸したりして、ヤドカリの研究に没入していく小さき人。
いよいよ橙色を濃くする太陽。
容赦無く鳥肌を撫でる浜風。
こうやって私達は、大宇宙へ連なる赤錆色の空の下、永遠の営みの中に仮の宿を定めたこの生を、静かに、しかし力強く燃焼させていくのだろうか。
私はとりとめも無い考えに耽りながら、小さき人の冷えた身体を両の掌で摩りました。
そして、もう少しだけ待ってやろう、と思ったのでした。

コメント(1)

優しきニースのFrance男のようですね。
力強さと繊細さと包容のあたたかさと夕刻の浜風の冷たさを感じます。

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