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belzinaspirit in mixiコミュの#17 六甲山系登坂練習

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翌日から直志と岡之上さんは毎日六甲山に登坂練習の為に通った。
道中幾度も立ちはだかる急峻な登りを越えて麓に辿り着くと六甲山系の登りが待ち受ける。そこは標高931メートルの六甲山を頂点に幾つもの山々が連なり、近隣地域のヒルクライマーにとって登坂練習のメッカとなっている。
相変わらず山猫のように鋭敏に坂を駆け上がる岡之上さんを横目にベルヅィナは毎日のようにぶつぶつと文句を吐き出し続け、直志はひたすら重力と抗った。
「はぁっ……はぁっ……くそっ、いつ登っても、はぁっ……はあっ……六甲山はきついな」
「あーやだやだ! 何で六甲山なんか登らなきゃなんないんだよ、あたしは40キロ以上出ないと気分がノらないのよ…………ぶつぶつ」
直志の少し前を走っていた岡之上さんがスピードを緩め、直志の横に並んだ。
「ねぇ、なんで外川くんって登りがダメなの?」
昔は……っ、元競輪選手に……っ、鍛えてもらってたあっ……からっ……、平地ばっ……かでっ……それにっ……」
息が上がってしまって息継ぎをしながら話す直志とは対象的に岡之上さんはいつもと変わらずすらすらと話す。
「それに? なになにっ?」
「この自転車がっ……、登りは嫌いってっ……言うからっ……」
「お前っ、余計な事言うなって!」
苛立っていたベルヅィナが直志のヘルメットを小突き、乾いた軽い音が山中に響く。その音に岡之上さんは驚き周回を見回すが何も無いので首を傾げた。
「へぇ〜外川くんの自転車は登りが嫌いなんだぁ。思いっきり平地仕様だもんね」
直志のプロトタイプは空気抵抗を減らす為にシートチューブが翼断面形状になっており、ホイールやシートポストなどの強い空気抵抗を受ける部分のパーツはそれに合わせて空気抵抗を軽減するパーツを装備している。
「でもさぁ、登りで勝負出来ないとレースで勝てないよぉ? 鈴鹿ロードやクリテリウムみたいな平坦なコースなら今のままでも勝てるけどぉ、例えば美土里山みたいな複合コースとか、あと乗鞍とかヒルクライムレースじゃあ集団にヒルクライマーが紛れてたらあっという間に千切られちゃうよぉ」
岡乃上さんの指摘は的を得ていた、確かに美土里CCの模擬レースで帷子さんが登りで仕掛けて来たら直志は簡単に置き去りにされる。六甲山など言わずもがなだ。
ベルヅィナが神妙な顔をする。
「そう言われてみれば……岡乃上さんの言う通りね」
「外川くんは平地の走りやエスケープアタックは得意なんだしぃ、登りで勝負出来るようになったら今よりもっと強くなれるよっ」
直志は心肺に負担がかかった息苦しさから喋るのをためらい無言で頷いた。
「とっ、言うことだからっ、まずはあたしを捕まえてみてっ!」
そう言うやいなや岡乃上さんはサドルから腰を上げてアタックを仕掛け、直志を振り切って六甲の険しい坂をぐんぐん登って行った。
「直志、あたし決めたよ、登りに強くなろう」
それまであんなに登りを嫌っていたベルヅィナの変わりっぷりに直志は戸惑う。
「…………何で?」
「あの女とメラクにいつまでも負けるのは癪だからだよ! さぁきついけど岡乃上さんを追うわよ!」
ベルヅィナに発破をかけられた直志は気合を入れて今まで以上に重力と抗い、ダンシングで岡乃上さんの後を追った。



岡之上さんは週末の美土里CCと神戸異人館レーシングとの合同練習会にも参加した。各チームのメンバー一同は、目の前でヘルメットとアイウェアを外し弾けるような挨拶をする可憐な年頃の女の子が、以前美土里山で遭遇した挑戦者の正体と知り驚嘆する。
「こないだ外川君のアルバイト先で見た時は気付かなかったけど、まさかお嬢ちゃんがあの時の挑戦者だなんてね、驚いたよ」
「こんな強い女の子がいるなんてね、世の中面白いもんだよねぇ。」
「俺の登りでの相手が帷子さんだけじゃなくなったみたいだな。今日の六甲山は激しくなりそうだぜ」
ただただ畏敬の念を抱く西角さんと帷子さん、心に闘志を燃やす広島さん、その他皆色々と眼前に現れた猛者に対してそれぞれの感情を持って一同は六甲山へと向かった。
一行は六甲山系の登りに入った。いつもならすぐに帷子さんと広島さんが雌雄を決するべく弾丸のように飛び出して行くのだが、今日は皆緩いペースで坂を登っている。
集団の先頭では帷子さんと広島さんが互いに後ろの様子を伺いながら黙々と並んで走っている。その後ろで韮山さんと野島さん、西角さんが補給食はおにぎりとあんパンどちらが優れているかという激しい議論が交わされていた。
「あーあ、チーム練習まで六甲山だなんて、たまには平地を気持ち良く走りたいわ」
野島さんが説く赤飯おにぎり最強伝説を全否定する韮山さんの背中を眺めながらベルヅィナがぼそりと呟いた。
「登りに強くなるって言ってたじゃないか、頑張ろうよ」
「頑張ってるけど、健康にいいからって毎日青汁ばかり飲んでたら、たまにはコーラも飲みたくなるだろ、そんな感じよ。直志だってそうだろ?」
最近、毎日六甲山に通っているせいか、平地好きのベルヅィナはヒルクライムにすっかり飽きてしまっていた。だが直志はめげずに今日も真剣な眼差しで六甲山地の登りに挑み続けている。
「でも……強くなれるんだったら……俺は毎日だって……青汁を飲むよ」
「あっそ、まあやる気があるのはいい事だよ。それにしても…………」
ベルヅィナは後ろに目を遣った、直志から少し離れて岡之上さんと稲田君が並んで走っている。
「……稲田君ってあんなキャラだったっけ?」
直志も後ろの様子を伺うと、稲田君が岡之上さんに違う意味での猛アタックを仕掛けていた。
「今日練習終わったらお茶しようぜ? スイーツの美味しいカフェ知ってるんだぜ」
「食事制限中だから行かないっ」
「じゃあ映画は? 招待券余ってるからさあ」「い〜か〜な〜いっ!」
岡之上さんは徐々に苛立ちを隠せなくなる。それでも稲田君は空気を読まずアタックし続けた。
「いいじゃん、確か彼氏とかいないんだろ? 好きな人とかいんの?」
岡之上さんは答えるのもうっとうしいという表情で黙る。
「じゃあ俺が立候補しちゃおっかな? ということだからいつデートしてくれる?」
岡之上さんはもう堪忍ならんと言う形相をしてサドルから腰を上げて数回ペダルを蹴り込んでぐんと加速し、
「ウザいっ! あたしをナンパするんだったらあたしに勝ってからにしたらぁ?」
そう稲田君に吐き捨ててアタックを仕掛けて集団から飛び出す。
岡之上さんが動いた事で集団は活気づき、皆の目の色が変わった。帷子さんと広島さんは岡之上さんが視界に入った瞬間に堰を切ったようにペースを上げてアタックに反応する。
「待ってました! この勢い、早いねぇ、楽しいヒルクライムになりそうだね」
帷子さんが嬉々として岡之上さんを捉えようとテスタッチの車体を左右にリズミカルに振り、その横を広島さんがクランクに付いたペダルをもぎ取るかのような力任せの激しいダンシングで帷子さんに肩をぶつけんばかりに競り合う。
「帷子さんの相手は俺だ! 今日こそお嬢ちゃんと纏めてぶっちぎってやる!」
「いいねぇその意気、広島さんはそうでなくちゃね」
三人は絡み合いながらペースを上げて険しい登りを駆け上がって行った。
「さぁ、俺たちも始めようぜ」
「ああ、あの三人のバトルは見ておきたいからな」
西角さんが野島さんを牽き連れて前の三人を追う、
「外川、稲田、ボヤボヤするな、帷子さんを追うぞ。稲田、お前は行け!岡之上さんとデートしたいんだろ!」
稲田君は韮山さんに発破を掛けられて愛のパワーがどうのこうのと叫びながら勢い良く飛び出して行った。
「外川、しっかり付いてこい、遅れるなよ!」
「はい!」
直志は前を牽いてくれる韮山さんから遅れまいと必死にペダルを漕いで韮山さんの背後に付く。二人は徐々にペースを上げ、前を行く野島さんと西角さんに追いつき、競り合いながら六甲山を登って行った。

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