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belzinaspirit in mixiコミュの#14 直志のお仕事

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鉄板の上でハンバーグが旨そうな香ばしい香りを立てながら焼かれている。直志はそれを鮮やかなヘラ捌きで鉄板から剥がし、レタスが乗せられたバンズの上に素早く置く。そしてまるでピアノを弾くかのような手つきでチーズ、スライスオニオン、トマトをトッピングしてソースをかける。最後にものの数秒でラッピングしてカウンターに載せる。
「LLLスペシャルお待たせしました〜」
オーダーが無くなり手持ち無沙汰になった直志は厨房の冷蔵庫にもたれて腕組みしながら今日のシフト表をなんとなく眺める。
(新人研修 岡之上美優)
と書かれた業務連絡の欄に目が止まった。
(店長がやればいいのに……)
直志はこの店で高校生の頃からアルバイトを続けていて最近では遅番を任されて社員並の仕事をこなしていた。練習が終われば夜遅くまで働く生活は厳しいが、自転車のパーツ代や消耗品代、レースの参戦費用の援助が一切ないので働かざるを得ない。
「外川く〜ん、今日の新人ってかわいい?」
張本が奥で玉ねぎを切り泣きながら訪ねて来た、
「さぁ、知らないよ。」
直志は素っ気なく答える。
「彼氏いんのかなぁ? 外川くんよぉ、どっちが先にデート出来るか賭けようぜ?」
直志は答えるのも面倒くさくなってだんまりを決め込む。
「あ〜おまえには恵子ちゃんという彼女がいたんだっけ? そうだったこりゃ残念だ」
直志は何だかいらっと来たので近くにあった消毒用アルコールスプレーを取り、ノズルを絞って勢い良く張本に向かって噴射した。
「うわっ!何すんだよバーロー」
張本も負けじとアルコールスプレーで反撃する。暫く二人がアルコールスプレーの撃ち合いを繰り広げていると、レジの前に女の子が立って呆然と二人を見ていた。直志は慌ててレジに走る。
「いっ、いらっしゃいませこんにちはっ!」
直志の慌てようを見て女の子がクスッと笑った。
「あのっ、今日からここでアルバイトする岡之上なんですけどぉ」
「ああ、君が新人さんか。じゃあ中に入って来てくれる?」
直志は岡之上さんを厨房の奥にある事務所に案内した。
張本がニヤニヤしながら岡之上さんを舐めるようにジロジロ見た、背丈は女の子にしては高く、体格は華奢ではない。ジーンズにレースのスカートを合わせた装いじゃなければベリーショートの髪も相まって男にも見えそうだ。
「胸ないなぁ〜この新人」
そう張本が呟いたら、岡之上さんは張本の方を向き、
「聞こえてるし」
と、不機嫌そうに言った。
直志はまず岡之上さんにドリンク類の作り方を教えた。さほど難しい事ではないのですぐに教える事が無くなった。
平日の夜は客足はまばらで、ほとんどドリンクとスナック類ぐらいしか注文が入らない。忙しくないのは新人教育にはある意味好都合で、直志は岡之上さんに次の日から一人立ち出来る位の勢いでレジの操作をじっくりと教えていた。
自動ドアが開き、見慣れた顔の客がやって来た、会社帰りの西角さんだ。いつも美土里山で見るレーシングジャージ姿からは想像出来ない程にストライプのスーツをお洒落に着こなしている。
「外川君! 俺のエディメルクスの命の恩人! 感謝してるぞ!」
西角さんが直志の手を強く握りしめて深々と頭を下げた。直志は店内の他の客や岡之上さんの視線が気になり苦笑いを浮かべた。
「どうしたんだよ外川君、スマイルが新鮮じゃないぞ? 昨日の練習で疲れてるのか?」
引きつった笑いは疲れのせいではないのだが、実際昨日の挑戦者との激しいバトルと罰練習のせいで疲労が抜けておらず、その経緯を西角さんに説明した。
「美土里CCもやられたのか!」
「ということは異人館レーシングもあいつとやりあったんですか」
西角さんが頷く。
「丁度練習が終わる位に美土里山を流してたらあいつは絡んで来たんだ。うちは六甲山アタックの帰りだったからさすがに誰も太刀打ちできなかったよ。体力があいつとイーブンならやれない相手じゃなかったけどね」
「確かに、万全の状態でもう一度戦ってみたいですよね。」
西角さんと昨日の話で盛り上がっていると、直志は岡之上さんをすっかり放ったらかしにしている事を思い出した。彼女は呆然とレジの画面を見つめている。その状況を察した西角さんは、
「新人さんの研修してたんだね、悪い悪い、すっかり邪魔して話し込んじゃった。そうだ、新人さんアイスコーヒーをくれないか? レジ打ちの練習だと思ってさ」
と、岡之上さんに注文した。彼女は直志にレジの操作を教えてもらいながらぎこちない手付きでレジを操作し、ディスペンサーのボタンを押してプラスチックのクリアカップに冷えたアイスコーヒーを注ぎ、カウンターのトレーの上に置く。
「えっとぉ、お砂糖とミルクはおひとつずつでいいですかぁ?」
「脂質は避けないといけないんだ、シロップだけでいいよ」
岡之上さんはトレーの上にスティックシュガーとストローを置いた。西角さんはスティックシュガーを手に取り困ったような顔をする。
「これ…………どうやって溶かしたらいいの?」
岡之上さんは一瞬不思議そうな顔をしたが、少し考えたら解ったようだ。
「あ、そっか! 溶けないですよねっアハハハ」
と笑ってごまかしてスティックシュガーとガムシロップを取り替えた。直志が恥ずかしそうに何度も頭を下げる。
「いいよいいよ、人間失敗して学ぶもんさ。それじゃ外川君、バイト頑張ってな」
西角さんはそう言いながらその場でアイスコーヒーにガムシロップを注ぎ、それをストローでぐるぐるかき混ぜながら店を出ていった。

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