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語部夢想〜語部夜行別館〜コミュの白鷺と黒鷺【語部草紙】

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しまったと夜子は思った


手元にある紅茶は一人分…
だけど部屋には黒崎が居るではないか

『おかえり…今日は私一人ぼっちだと思っていたよ』

「あぁ、いい香りだね」

真っ黒なコートを着て帽子をかぶったまま
一番すわり心地のよい一人がけの椅子にゆったりと腰掛けた黒崎は
紅茶の香りにスンスンと鼻を鳴らして見せた

『格好つける前にコートくらい脱いだらどうだ?
 カラスじゃあるまいし…どうぞ?』

淹れ立ての紅茶をカップに注ぎ黒崎の前に出すと
彼はテーブルのフルーツから林檎を手に取りくるくると回して見せた

「カラスだからこれで結構、そっちは君が飲みたまえ」

『なんだ、カラスっていわれて嫌だったの?催促したくせに…』

「いや違う、紳士なのさ♪」

…成る程、カップが一つしかないのに気が付いたらしい
好物を目の前にどこまでそのやせ我慢が持つのかとは思うが
夜子はふふと笑うと遠慮なく紅茶を口にすることにした

「何かおかしいかい?」

『いや別に…ああ、そうだちょっとカラスで思い出した
 前から聞いてみたいことがあったんだ』

黒崎はちょっとへの字に口を作ると嫌そうな顔をした

『嫌な顔するなよ、折角二人きりなんだからさ』

「誰か居るかもしれないよぅぅ〜?ほら!」
 
応接間の入り口の方をわざとらしく指差してみる黒崎


…だが誰も入ってはこないようだ



『まぁまぁ…とにかく話をしようじゃないか』



夜子は強引に語りはじめる事にした


********************

むかし、煤竹村という神に守られた村があった

それは記録に残らないほどむかしむかしの話で
今はどこにあったかさえ分からない

光をたずさえた巨大な白竹がこの村の御神木であり
その大白竹は竹林をもたず一本きりで生えている

これは神様が竹に宿っているに違いないと
村の人々は社を作り神官を住まわせて大事に祭ることにした

大白竹に宿った笹の葉は瑞々しく
村人はそれを家の戸に飾る事で災厄から免れる事が出来た
笹に護られた家や家人は嵐にも干ばつにも洪水にもあうことは無く
それどころか怪我や病気からも守られた

笹はひと月もたてば
災厄を肩代わりしたかのように真っ黒になってしまうので
ひと月ごとに交換しにゆくのも神官の務めだったようだ

この竹の神懸かりな所は他にもあった
人々が笹を祭り始め社を作ると
笹は応えるようにその光る竹の節から子を授けた
竹の空洞から生まれたので
人々はその子を「まほらさま」と呼ぶことにした

まほらさまは身の丈一尺程(約30cm程)の小さな女の子で
白竹に似た真っ白な姿を持ちそして白痴であったが
黒く染まった使用済みの笹を燃やせる唯一の子であった

黒笹は普通の炎では燃えず
彼女の身から生まれる静かな炎によってようやく
黒い煤を撒き散らしながら消えてゆく

まほらさまがその過程で身についた煤を
清らかな泉で禊ぐことにより災いが浄化されるのだと
人々は信じており
まほらさまは巫女として大事にされていたようだ


まほらさまには御付の神官が一人おり
神官の中から特に若くて美しい者が選ばれた

黒笹を焼くこと以外まともに出来ぬまほらさまの
身辺の世話をまかされたその神官はとても真面目で
熱心にまほらさまの世話をした

普段表情の無いまほらさまもその神官の前では
ゆっくりと笑顔を見せるようになり
神官にとっていつしかまほらさまは妹のような
わが子のような存在へと変わって行った


そしてある日の事

その日も神官は
お役目をおえたまほらさまの身の煤を落としに
村の外にある泉へ禊のためにお連れしていた


「ほら、おとなしくしていて下さいね」


神官がまほらの小さな足に水をかけると
まほらさまは嫌がって足をじたばたとさせた
いつもは特に嫌がることは無いのにと不思議に思ったが
冬にさしかかり水が冷たいのだと思い当たると
神官は水を両の手ですくって少しでも温めようとした

だが、神官の手が離れた隙に彼の脇から逃れようとした
まほらさまはするりと滑り泉の中へどぼんと転がり落ちてしまう

「まほらさま!」

神官があわてて泉に入って助けようとしたその時
彼の背後…いや、何処からだろうか?

とにかく目前に黒い影が翻ったかと思うと
溺れるまほらさまをサッっと摘み上げて
黒い影は岸辺にすとっと舞い降りた

「…おや?子ねずみかと思ったのに」

黒い影はまほらさまを摘んだまま持ち上げるとしげしげと眺めている

「黒鷺(くろさぎ)よ
 そのお方は子ねずみではなどではなく尊いお方なのだ
 お前にとっては捕まえた獲物かもしれないが
 どうかこちらへ返してくれないだろうか」

神官は憤りを抑えつつ黒い影に頭を下げた

「ふむ…私は黒鷺ではないのだがそう見えるのかな?」

「…最初お前を見たときそう思ったからそう呼んだだけの事
 私はお前のような者を見たことが無いのだ
 気を悪くしたのならすまなかった
 名があるのならそちらで呼ぼう」

黒い影は少し悩むようなそぶりを見せたが
「それも面白い」とつぶやくと
喉をクックッっと鳴らしてこう言った

「いや、黒鷺で構わないよ
 これからはそう名乗ることにしよう
 ところで…この鳥から獲物のを奪うのであれば
 代わりに君は何をくれるのかな?」
 
神官は少し困った顔をすると
「できるだけ応じよう」と答えた

黒鷺は少し意地悪で言っただけであったが
彼の返答に嬉しそうに頷くと素直に
「話し相手が欲しい」と言った

「話し相手か…それは私でも良いのだろうか?」

神官が尋ねるとまほらさまを下に降ろしながら彼は答えた

「誰でも構わない、暇なんでね…
 ここに来てくれた時に名を呼んでくれるといい
 その時に現れようと思う…君の名前は?」

名を尋ねられて神官は少しためらった後「白鷺」と答えた
黒鷺はそれを聞いて満足そうに笑って

「それはいい!
 私も丁度水辺の君をそう見間違えていた所だった
 
 …ではまた」

そう告げて胸を手に添える不思議な一礼をすると
背にまとう衣を翼のように翻し
その場から忽然と居なくなってしまった


白鷺は暫く呆然と黒鷺の消えた中空を見つめていたが
きゅきゅとまほらさまが袖を引く力で我に返った

「ああ、いけない!
 さぁすぐに御身体を洗って差し上げますね」

身をかがめ水に濡れて冷えてしまっただろう体を抱きしめる
まほらさまはその行為に喜ぶと白鷺のほほに頬ずりした

ふと、白鷺は思う

(人ではない、という事はわかるのだが…)

まほらさまのように産まれても
このように水に濡れれば冷え、抱きしめれば喜ぶ
自分とまほらさまはどこまで違う生き物なのだろう?

禊ぐためすこしだけ体を離す
煤を水に流しながらふと自らの衣服を確認する

まほらさまについた煤は自分を汚すことは無い
黒笹は燃え尽きるのではなく
形を変えてまほらさまに取り付いているのでは無いだろうか?
誰もが普段から考えないようにしている事は
本当は何であるのか…
最近は煤の量が増えていっている気さえする


(…結局は、何もわからない)

白鷺はその日はそのまま
煤を落として綺麗になったまほらさまを連れて社に戻った

とにかくこうして白鷺と黒鷺は出会った


その後、白鷺は約束どおりたびたび黒鷺に会いに出かけた
禊につかう泉は村の外にある為
禊の時以外は黒鷺と合うのに
まほらさまを連れてゆくことは無かったが…
後から思えばそれは失敗だったのかもしれない

白鷺にとって黒鷺の話は面白かった

彼は嘘かもしれないと思えるほど色んな話を知っており
殆どが妖や土地神の話と思われた
白鷺の知らない他国の話もあり
それは高句麗や百済とも違うどこかの話のようだった

人に恋した剣の話
何度も生まれ変わる少女の話
血を吸い人を虜にする鬼の話
夜空よりはるか上から人々を嘲笑う神の話
海底より現れる海神の庇護を持たない魚のような妖の話
皇帝を殺しすべてを失う男の話
魔法を使いその中から大きな鬼を呼ぶ火付け道具の話

彼の話は面白く何度も何度も黒鷺の元へと通った
いつしかぎりぎりの合間さえ抜け出して話を求めた

黒鷺が話すものは
意味が分からないものも多々あれど
それは白鷺の中の疑問を埋めてくれるような気すらさえしたからだ



「黒鷺、君はなぜ私に色んな話を聞かせてくれる?」

ふと、問いを口にしてみる

「さて?君が自分でも良いかと言ったのだろう?
 私は誰でも構わないのさ、話すことが出来る相手なら」

「神や妖の話が多いのは?」

「それを聴く為に君がいるからだ」

「…彼らは何のために居る?」

黒鷺の返答が止まる

「…では、人は何の為に生きるのか?」

そして、問いは問いで返された
黒鷺はやさしく微笑み白鷺は目を伏せる

答えは多分同じなのだ
有為でも無為でもなくただそれだけの為に

「だが黒鷺…それこそも人の都合じゃないだろうか」


黒鷺は答えない…いや、今度は話を聞いていないようだ
目をすがめて遠くを見ている

「黒鷺?」

「…まほらには君以外の神官が付いている?」

「いや…今は社で眠っておられる時間だが」

「すぐ戻れ、あれが大事なら今すぐ」

「?! 何かあったのか!」

「わからない、だが黒い塵が…煤が舞っている」

白鷺はその言葉を聞くや否や転がるように走った
その胸には村への安否でなくまほらさまの事があった
自分の目には黒鷺のいう塵や煤は見えてこない
だがあれがそう言うからには何かあったに違いないのだ


黒鷺と話すうちに彼は黒い煤の正体を考えるようになっていた

(あの煤は…人の呪いだ)

果たして、人がいう災厄とは何だろう?

それは人にとって都合の悪いモノの事

それが天から与えられたものでも
人が作り出したものであっても
自分の身から切り離して考えていた悪い都合が
己の身に降りかかった時にそれを指す言葉である

その災厄を何とかして欲しいというなどと言う
祈りという名の傲慢な呪いは
神を宿した笹を通し叶えられてしまった

大白竹はその身を依り代に呪いを詰め込まれて
黒く変色してゆくことになった
そしてたまった呪いを浄化する為に
大白竹はまほらさまを産み落としたのではないのだろうか
自然が持つ自浄作用の力のごとく…

そんな事を考えながら白鷺は走った


村に戻った白鷺はまず驚愕しそして安堵した

社の近くには村人が桑や鋤を手に集まっており
それは白鷺を驚かせたがよくみると人の輪の中心に
捕らえられた縛られた盗人とおもわれる輩が転がっていた

他の神官から話を聞くとどうやら笹を持ち出そうとしたらしい

「…ゆるしてけろ〜おっかぁが病で死にそうなんだぁ
 一枚だけ、一枚だけで良いからくれろ〜…」

涙ながらに訴える盗人を哀れに思うのか皆が顔を見合わせる
神官長がその雰囲気を汲み取ったのか温情の措置を出した

「そなたには可哀想な事だが、村人以外に笹をやることは出来ない
 母を思う気持ちに免じて命は助けてやろうと思う
 
 …そうだな、母と共に越して来ると良い
 そして神殿で働いて罪を償うとよいぞ」

「ああ…ありがとうございますだ」

「よかったなぁ」「それがええよ〜」

神官長の裁きに村人も盗人も盛り上がる
そんな大団円の空気の中、白鷺だけが違和感を感じていた

「お待ちください神官長様、盗人に軽々と温情を出してはいけません」

「ああ、おまえか…仮にも神官が冷たいことを言うでないわ…
 まほらさまはどうした?」

「まほらさまはお休み中です
 
 ところで今はなによりもまずこの男の追及が先なのです!
 おい!…村の者で無いお前が何故笹の話を知っている?」

その言葉に一同がギョッとする

平和ボケも良いところだ、と白鷺は内心辟易した

この村は特殊な村で一種の閉鎖状態である筈だ
外との商売などはすべて神官たちが執り行っており
白笹の話は村の外では禁句である
村と大白竹を守るために決められている事であり
だからこそ今までこんな事件は起こらなかったのだ

笹の事が外部に漏れるということは即ち
自分の生活が危うくなるという事である

そんな事もわから無いのだろうか…?
いや、村人はともかく
神官までもそうなのはおかしくは無いだろうか?



神官長は「確かにお前の言うとおりである」
と頷くと言葉を翻した

「その事は由々しき問題だ
 この私が直々にこやつに問いただそう…連れて行け」

控えていた神官たちが盗人を社の置くに連れて行こうとすると
盗人はあわてて抵抗した

「なんも!なんもねぇです!!
 オラんちは銭が無ぇからつい…!勘弁してけろ!助けて!」

「うるさい!黙れ!」

連れて行かれる盗人を白鷺はじっと見つめる
なんだ、なにかがひっかかる…

(…銭?金銭が何の関係が…まさか!!)

神官たちは手のひらを返したように盗人を暴力で黙らせようとしている…

まさか!まさか?!

考えの纏まらない内に白鷺は盗人と神官たちの間に割って入った

「どけ!問うべきと言ったのはお前だろう?何がしたい?」

神官長が白鷺を叱り付けるがそちらをきっと睨み白鷺は言った

「ええ!ですから確認させてください!
 …盗人よ、お前は金が無いからと言ったな?」

「もういい!連れて行け!早く!」

「ならば…白笹はお前の村では売っている物なのか?」

村人がどよめきはじめる
じわじわと村人がにじり寄る…神官達は強行できない…

そして盗人がぽつりと答えた





「へぇ…ここの神官達から買っていると…」





後のことは、もう滅茶苦茶だった

村人は暴れ、神官達は傷だらけになった
その度傷や痛みは吸い上げられ人災によって
神殿にあった大白竹は見る間も無く真っ黒に染まっていく

(このままでは…まほらさまが!!)

村人にとっては白鷺も同じ神官である
行こうにも囲まれ、殴られて彼もまた身動きがとれない

このままでは限界に達した白笹の恩恵が尽きて
神官達は平等に死を迎えるだろう

村人も神官もみんなみんな自業自得だ



まほらさま以外は…




だが どうする事も もう 出来ない




(黒鷺は…我らの話も誰かに語るのだろうか…)


慣れない痛みにいつしか白鷺は気を失っていた





ギシギシと竹が軋む音が神殿に響く音で目が覚める
きっと耐え切れなくなった竹が割れる音なのだろう
頭上に迫る傾いた白竹…いやもうすでに黒竹なのだが
それに危険を感じた村人は退避したようだ

誰も居ない事に安堵する…自分は助かったのか
神官達はどうなったのだろうか…誰も居ないのか?

重たい頭を持ち上げ見回してみる…誰も居ない
そこかしこに煤が溜まっている

…それと煤を引きずって歩いたかのような線が
社から外へ向かっていた

(何だ…?)

何とか起き上がりそれを見た瞬間
白鷺はゾッとせざるを得なかった

煤は人の形をして幾数もそこにおちていた


「…なんてことを」

白鷺のほほを涙が伝った
無垢な存在は もう居ない

腕は…片方いける
足もまだ動くようだ
白鷺は己の体を確認すると煤の道を追いかける
間違いなくまほらさまはこの先に居るだろう

辿った先で白鷺が見たものは
誰も居ない村と無数の人型の煤

そして小さな動く煤の塊だった

小さな煤の塊は白鷺の姿を見つけると
嬉しそうにもそもそと
彼のほうへ近寄ってくる

小さな手を一生懸命伸ばし…助けを求める子のように

『しらさぎ…しらさぎ…』

それは、初めて聞くまほらさまの声だった

煤は小さな彼女の髪の一本にまで張り付いて
彼女を黒く染め上げている

村人を煤に変えたのは間違いなくこの子だ
だが、訳も分からず呪いを背負わされ泣く幼子を
誰が憎めるというのだろう?


白鷺は動く方の手でその小さな手をしっかりとつかむと
「さぁ禊にいきましょうね」と笑いかけた


******************************

いつの間にか夜子はソファーから立ち上がり
黒崎の椅子の周りをくるくる回りながら話している


『それでだ…』
 
『小さな手を引いて泉に戻って来た白鷺は
 自らが煤に蝕まれてゆくことも構わずまほらさまを洗ってやった
 すると、まほらさまの身についた煤は泉の中に流れて消えた』

『だが、まほらさまの身が真っ白に戻る頃、 
 白鷺は怪我と煤の呪いでそのまま息絶えてしまう
 白鷺を失った悲しみでまほらさまは大きな涙を流した』

『それを見守っていた黒鷺は二人を哀れに思い
 白鷺を本当に白鷺に変えてまほらさまと二人遠い国へと連れていった』

『…と、まぁそんな話なんだけどね』


ぴたっと背後で立ち止まり椅子の後ろから黒崎の顔を覗き込む
目と目が合った所で夜子はニヤニヤした笑みを作った
少し困ったように黒崎は眉をひそめて夜子をじっと見つめる

「…どうかしたかい?」


『この話の黒鷺…お前だな?』


成る程…そのニヤニヤ笑いはそれが言いたかったのか、
と黒崎は呆れた

肩をすくめて脱力したようにため息を付く黒崎に
夜子はまるで鬼の首を取ったかのような表情で
『どうなの?』と確かめる

「そのとーり、だ」

黒崎は期待に沿うようお手上げのポーズでそれに応えてあげる

『なんだか最期がいかにもって感じで
 お前らしくない気がするんだけど、まぁいいさ…
 珍しくはぐらかさなかったね?』

「嘘はつかない主義でね?」

『なるほど…お前らしい』

「ところで夜子、そろそろ紅茶を宜しく頼むよ
 …3人分」

『3人?』

「そろそろ圭一君が外で凍えている頃合だ」

チラッと黒埼がドアに視線をやるとドアがギギィ…とゆっくり開いた

「ど、どうも…」

カタカタと小刻みに震えながら圭一がおろるおろると顔を出した
夜子は気が付かずに話していた事に真っ赤になりながら
素っ頓狂な声で叫ぶ

『圭一さん?!な、何してるのそんな所で!』

「い、いや…なんか入りづらくて…さ、寒いっ」

「圭一君…そんなジャケットで大丈夫か?」

「だ、大丈夫じゃない!!早くいれてぇぇ」

『ちょ…やっ…わ、わたし紅茶…淹れてくる!!』

夜子は赤面を継続中のまま半パニック状態でキッチンへと逃げていった
そんな夜子を手をひらひらしながらバイバイと見送る二人

「ふぁびょりすぎですな…いやぁ俺まずかったですかね?」

「うん、まぁ」

「う…すいません、立ち聞きして」

「いや、そうじゃなく…
 最初に振ったときに何故入ったこなかったんだい?」

「内緒話とか聞きたいじゃないですか!ジャーナリストとして」

「成る程…だが、君のそれはジャーナリズム精神でなく
 デバガメと言うんじゃなかろうか?」

「だからすいませんってば…」

「いや、君が居るのは知っていたしそれに…
 君もあのくらいの話は知っているだろうと思ってね、問題ないさ」

ふと、圭一は黒崎のほうを確認する
珍しく黒崎の顔はいつもの笑顔を携えていなかった
…普通の無表情と言ったところか

「…ある程度の口伝や伝承は」

腐っても御堂家の人間ですから、とは口にしない

「怖いな、君は何でも知ってそうだ」

黒崎はにっこり笑ってわざとらしく肩をすぼめてみせた
この人にだけは言われたくないな、と圭一は思う

「ただ、今の話…俺の知ってる話とは違うんです
 まずそれらしき話に黒鷺は出てこない…当然ですよね」

「うん?」

再び、空気が緊張する
それでも圭一はかまわず続けた

「大体の大筋は同じですよ、
 竹から生まれた娘が村人を煤にしてBAD・END
 だけど最後の最後だけまた違う
 
 神官が彼女を禊して死ぬでしょう?
 だけど彼は死ねなかった
 彼に居なくなって欲しく無い竹の娘が
 竹である自分の体にある節(不死)をひとつ
 それと煤の呪いを帯びたままでも生きれるように
 自分の力を全部あげちゃうんです
 それがいかに残酷か理解できずにね」


圭一はそこでいったん話を止める…
黒崎は喋らない

「神官はそうして不死の祟り神になった
 そしてまた少女も生き延びた
 竹の空洞を作るには節は2つ…不死が一つ残ったんです
 どこかで2人生き続けた…というのが俺の知ってるお話」


「…確かに違う結末だね」

「このお話、タイトルもあるんですよね
 かぐや姫とか瓜子姫とか…たぶんそういうノリで」

「…まほら姫かな?」

「いえ、そもそもその子の名前が違いますね
 ヨリシロの姫と書いて


 …依子姫(よりこひめ)」


しばしの沈黙があった後、
ふいに圭一の手元に黒崎から林檎が投げられた


「なかなか面白い話だったよ、ごほうびだ♪」

「似てますよね」

「さて?ただ、物語には創作がつき物さ」

確かに黒崎さんは嘘はついてない
だけど、追求しても彼はもうとことんはぐらかすだろう
この話題はこれまでにしようと圭一は思った

「あー…そろそろ紅茶来ますかね?さむいったらっ」

「林檎をお食べ?風邪に良いらしいよ?」

「あーなるほど…引く前ですっ!てか体冷えます!!」

「女性の方が男性より冷え性になるというじゃないか
 君は男性だ、問題ない」

「ぐぁーちげぇぇ…はぁ、なんか突っ込み疲れます、俺」

どっと疲れた圭一の肩をぽんぽんと叩くと
黒崎はハハハと笑い彼の耳元で囁いた

「…まぁ、そういう訳だから
 夜子に林檎は与えないでくれ、毒なんだ」


『お、おまたせーっ!!
 夜子ちゃん特製お紅茶とクッキーだぞっ☆大判ぶるまいっ』


がばっと圭一が頭をあげると同じタイミングで
夜子が思いっきり変なテンションで入ってくる
思いっきり慣れない作り笑顔で逆に気持ちが悪い


「黒崎さん、手遅れのようです」

「同感だ」

どうにも彼女は自分の失態にはとことん弱いらしい
うっかり黒崎の話をした事がそんなに恥ずかしいことだったのか??
そこまでテンションあげるほどの事ではないと思うのだが…

「ちょっと俺、夜子さん変なんで帰ります〜また〜」

『ちょ、圭一さん帰らないでっ!!』

わたわたとすがり付いてくる夜子を無視して圭一は帰ろうとしている

「そだ、黒崎さん」

「何かな?」

すでに黒崎は我関せずといった素振りで紅茶を楽しんでいた

「俺は蛇でもないですし、ここ好きなんで大丈夫です」

「そうか、またおいで」

「ええ、おやすみなさい」

「おやすみ」

『ふぇぇ、無視するなよぉぉ…』

圭一が帰ってしまった後、夜子は拗ねてまたソファに突っ伏している
最近の彼女はとても幸せそうだな、と黒崎は感じていた

「拗ねる君も面白いよ?」

無言でクッションが飛んでくるのを首だけでかわし
黒崎は2杯目の紅茶をゆっくりと注いだ

語部館は今日も平和である
願わくば、明日も…

コメント(7)

おつかれさまでしたーっ
くそながい話を読んでいただいて本当に有難うございます
またもや夜子の草紙です

これでおわりこれでおわりと言いつつ何度目だ(汗)
でも脳内にあった祟り神サイドの昔話は本当にコレで終わりです
黒崎使いの語り部であるジェスター氏の協力をあおぎ
なんとか形になりました
祟り神サイドの話以外の草紙はまだ書くと思います、たぶん!

これでもかなーり削ったエピソード多いんですよね…
まとめきれていないいい証拠です
今回は謎解き辺含めて黒崎とのなれそめを書きたかったので
とっても満足です


とりあえずそんなわけで書ききれてない部分を補足!!

●黒崎/黒鷺について

私の書く黒崎は本家のスタイリッシュな黒崎とずいぶん違うので
キャラ改変じゃね?とか思われるかもしれないですが
変な部分はこれでも大体許可とってます!
むしろまじめな会話部分で突っ込まれます!ひでぶ!

彼が滑稽なしぐさをわざとするのは道化の部分であり
きっと公式設定の…はず…?ゴメンテ。

黒鷺=黒崎という類似の名前の構図はずいぶん昔から
こちらからお願いしてですが決定しておりまして
黒崎という名前は黒鷺を聞き間違えられた際に
また何かしらで気に入っちゃって
そっちに変えたんじゃないかなーなんて話してました

●白鷺/祟り神について

のちの祟り神さん
なにがあってあーなったというと
死なないでーって事で不死と力を移植されて
ショックで全身白くなるわ
人間として死んだ瞬間生きてることになるわ
おかげで半身は煤で爛れた残るわの人生が被害者の人

この話の後、「まほらさま」だった力を失った少女夜子が
約一尺だった身体と人格がすこしづつ育っていくのを
また罪を犯さぬよう見守りながら呪わぬ事を教えて生きて生きました
その間ずっと人間への葛藤を抱き続け…「祟り神」の話につながります
「自分が恐ろしいものである事が忘れられる」という台詞には
もともと人間であったことが含まれているんじゃないかなーとか
作者の癖に思うわけです。


●まほらさま/夜子/依子姫

ある意味一番ずるい人
夜子は自分はもともと人間だったと思い込んでいます
それは心と身体が成長する前の事は忘れちゃってるからです
ただ単に心と身体が人間のように成長した時期に
やっとこさ物心付いたのです

ところで書ききれなかったシーンになるのですが
白鷺って実は最期の禊の途中に死んでしまいます
身体は洗ってやれたが髪は洗ってやれなかったのです
片手が折れてしまっていたので呪いを受けたのは半身でしたが
人間普通そこまで影響を受けちゃうと死んじゃいますよね…
と、いうわけで覚醒前夜子は禊きれてない状態であり
少し陰鬱な性格をしております

…だから覚醒後は毒が抜けてちょっと垢抜けてきてるんですよw
周りの影響で馬鹿をやるようになってきた夜子ですが
彼女はもともと素直で天真爛漫な性格だったのだと思います


まだまだ書きたいことはあれどしつこいのでこのあたりで!!
本当に有難うございました!!

最期に
圭一さんちょい役で出てもらうつもりが結構台詞多く…
草紙で出すのだから許可もらえばよかったなぁと反省中です
お借りしました、本当に有難うございます!!

あとJester!色々有難うね!
そろそろ新作期待している!(`・ω・´)


ではでは!


>キートさん

ぎゃぁぁ1ゲットされてたぁぁぁああorz

いやもう本当に有難うございます!
ちなみに中の人は蛇=失楽園で知恵の実を食うようにそそのかしたものと思ってるのですが…あれちがったっけ、ひでぶ

林檎=知恵の実だった気が!!
それに掛けて
「夜子さんが居場所を失うような真似しませんよ」との言葉のつもりでした
違ったら死ぬほど恥ずかしい。
ちゃんとしらべて書けって例ですね!ええ、わるい例!!

御堂家って圭一さんの草紙でも実際すごい家だと思うのですが
語部世界設定では土御門家くらい有名な霊能者の家と違うのかなぁとか
思ってたりします。
変なテンションの夜子さんに笑いましたw
 
 
なるほど、黒崎さんと夜子さんと祟り神にはそんなつながりが。
 
あ、知恵の実=林檎で合ってますよ。そして知恵の実を与えたのが蛇だってのも。
まあ、蛇の正体はサタンだったりルシファーだったりサマエルだったりイブリースだったりと、はっきりしないんですが。
 
 
・サタン
ご存じ魔王の称号。でもサタンの意味は「敵対者」、「妨げる者」だったりする。さらに実は初期の頃は天使で、神の命令で人間の邪魔をしてた。
けど気付けば悪魔を束ねる魔王になってたり、サタンという名前の悪魔になってた。
グノーシス主義の流れを汲むボゴミル派ではサタナエルという名前で、神の息子でキリストの兄貴だとされている。もちろん神と喧嘩して天からダイブ。
 
 
・ルシファー
みんなご存じ非常に有名な悪魔。もともとはルシフェル(Lucifel)だったが、堕天したために「神の〜」を意味する「el」をとられてルシファー(Lucifer)になった。
とっても有名な悪魔だが、実はルシファーなんて悪魔は存在しなかったりする。3〜5世紀ごろのお偉い神学者の方々が誤解して誕生した。けど誤解した人たちが大物なんで、そのままスルーに。
 
 
・サマエル
「神の毒」を意味する名前をもつ。もともとは死を司る天使だった。非常に可哀想な理由で堕天使になった子。
他の天使が嫌がったためにモーゼに死を与える役目を引き受けたのだが、モーゼがことごとく抵抗したために失敗しまくり。その際モーゼに杖で殴られて目を潰された。結局神がモーゼを天に召したわけだが、神は失敗の連続に怒ってサマエルを天から追放した。
特に悪いことしてないのに堕天使になった可哀想な子。
 
 
・イブリース
最初の悪魔とされている。神がアダムを創った際に、天使たちにアダムをリスペクトするように言ったがノーと言ったために堕天使になった子。
ノーと言った理由としては、光から生まれた天使の方が土から生まれた人間よりも上だから断る、という説と、礼拝すべき相手は神以外には存在しない、という神の教えに忠実だったためという説がある。
ちなみにこの子だけイスラム。
> キート⇔ゼトワールさん
イスラムではシャイターンは「悪魔」、イブリースは「最初のシャイターン」なので、どっちが上ってのはないですね。むしろ同列?

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