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語部夢想〜語部夜行別館〜コミュのイヌガミ

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「こいつにスパゲティを食わせてやりたいんですが、かまいませんね!!」

そう言って、語部館に現れた湊の腕には、泥まみれの犬が抱きかかえられていた。

「駄目」

夜子はフォークを置いてきっぱりと言った。

「えー」
「万能ネギのたっぷり入った和風パスタだから犬には毒」

どこからかドッグフードを缶きりを取り出し、きこきこと開けていく。

「犬ってネギは駄目なの?」
「特に玉葱が危ないわね。ニラやニンニクもアウト」

人間は平気だけど犬や猫には分解できない成分があって、それが血中の赤血球を破壊するとかなんとか。

「うわ〜危なかったな〜。うっかりそのまま食わせるとこだったよ」
「それより湊さんの方が危ないでしょうが。思いっきり噛まれてるし」

よく見ると、犬は抱かれているというより、湊の腕に喰らいついてぶら下がっていた。
食いしばった牙の隙間から、憤怒に満ちた唸り声と、血がだらだらと流れている。

「うん、めっちゃ痛い。死ぬほど痛い……でもこいつ虐待されてたから」
「虐待?」
「生き埋めにされてた。道端に首だけ出して、届かないギリギリの位置に、うまそうな骨付き肉が置かれてた」
「それって……まさか、犬神の呪法?」
「犬噛み?ああ、噛まれてるけど」

――犬神の呪法。

四辻に生きた犬を首だけだして埋め、餓えさせ、罵り、甚振り、散々に苦しめて殺す。
目の前に餌を置き、決して届かぬそれを喰らおうと歯を鳴らし、伸ばした首を刀で切り落とすのだ。
その殺された犬の怨念を呪いに使う、外法中の外法。

「あんまり酷いから掘り出してたら、飼い主らしいおっさんが来て何か怒りだして、ムカついたから4〜5発蹴りを入れて逃げちゃった」
「可愛らしく小首を傾げて言う事なの?」

これまたどこにあったのか、犬用の皿にドッグフードを盛り、水入れにたっぷりの水を注いで、犬に差し出したが、犬は白目を剥いてうなるばかり。

「おーい。飯だぞわんこ。私の腕よりおいしーぞぉ……気づけやコラァァァァ!」
「何やってんだ?」

湊が顔をあげると、神宮寺が携帯灰皿に煙草を捻じ込みながら入ってくるところだった。

「話せば長い事ながら、わんこがご飯を食べません」
「そいつの名前は?」
「知らない……あ、首輪に書いてる。えーと、ポン太だ」

「そうか、お前が……ポン太。よし」
「ワン!」

神宮寺が呼びかけた瞬間、犬は湊の腕を放して餌に飛びついた。
山盛りのドッグフードをぺろりと平らげ、皿いっぱいの水を飲み干して、元気になった犬は、前足を揃えて行儀良く座った。
ポン太と呼ばれた犬は、こうしてみると明らかに雑種だったが、愛嬌のある顔立ちと賢そうな目をしていた。

神宮寺はトレンチコートのポケットから、小汚いゴムボールを取り出すとポン太に見せた。
するとポン太の目はある種の期待にきらきらと輝き、尻尾がわさわさと揺れた。

「とってこい!」
「ワンッ!!」

力いっぱい投げられたボールを追うようにして、ポン太の姿が掻き消えた。

「これで、本当の飼い主のところへ帰れるだろう」
「旦那、それってどういう……」

湊の視界がぐらりと揺れ、皆まで聞けずにぱたりと倒れた。








神宮寺は小さな依頼人から大きな依頼を受けた。

引っ越した時に迷子になった、親友を探して欲しいと。
そして手がかりにと、その親友ポン太が一番気に入っていたおもちゃのゴムボールを預かった。
けれど調査を始めて数日後、依頼人の母親が、依頼の取り消しを求めにきた。

『ポン太は新しい飼い主にあげちゃったんですよ』と。

依頼人の引っ越し先はアパートで犬は飼えない。
それでペットの里親ボランティアを介して、飼ってくれる人を見つけて託したのだった。
小さな依頼人には、そのへんの事情が理解できなかった。

『探偵さんにはとんだご迷惑をおかけして……』

お詫びの言葉と、少ないですがと差し出された封筒を押し返して、探偵は調査を続行した。

――新しい飼い主の元で幸せに暮らすポン太を見届ける。

そうして初めて依頼は完了した事になる。

……はずだった。




「まさか、犬神にされていたとはな」

静かに紅茶を啜る神宮寺。
帽子に隠れてその表情は見えない。

依頼人の母親は何も知らないようだった。
しかしボランティアの方は、これまでに何十匹も犬を引き取っていた男に不審を感じてはいたらしい。

「湊さんは、よくここまで持ってこれたな」

ポン太と名を呼ばれて、己を取り戻し、あるべきところへ還ったが、それまでは、犬のカタチをしたおぞましい瘴気の塊だった。

その湊はソファで死んだように眠っていた。
顔色は青白く、ぐったりとしていたが、時折口元がもぐもぐと動くあたり、例によって食べ物の夢でも見てるのだろう。


「ポン太は本当の飼い主のところに帰ったけれど」

夜子の唇に冷たい笑みが浮かんだ。

「他の子達はどこに行くだろうね」

人を呪わば墓穴二つ。
呪術は一度破られたら、その全てが術者に『返る』
外法中の外法を行った者の無残な末路を想像するのは容易かった。

神宮寺は紅茶を飲み干すと席を立った。

「急がないと、俺の分が無くなるな」

何をする気だと野暮な事を聞くものはいなかった。


【終】

コメント(4)

突撃☆語部館の晩御飯!!……な話でした。m(__)m


冒頭のあの台詞を言わせたいが為、話を無理矢理作ったという、存在そのものが出落ちな一品です。
夜子さん神宮寺さんごめんなさい。

湊は霊は見えないけど、自覚はないだけで見る以外の事はできるんじゃないかとかなんとか。


脳内フォルダにある長編版では、ポン太に憑かれた湊に犬耳が生えたり、神宮寺さんが犬神遣いと壮絶バトルしたり、依頼人の弱虫な少年がちょっとだけ強くなったりならなかったり。
面白かったです!
しかしキャラをよく把握しておられるなとと思ったり・・・
夜子はわたしが書くよりはぴさんに書かれてるほうがナチュラルに
脳内で動いてくれました(;ω;)ショウジンセネバー!

イヌミミナトはちょっと見てみたい気もしますww
犬神の呪詛…胸くそが悪くなるが、依頼は果たしたぜ。
…すまんな。間に合わなかった。

呪詛をやっていた男?

さぁな。俺の靴やコートが少し汚れちまった以外
思い出す事は無い、な。何も、無い。

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