ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

masayumeコミュのまさゆめ連載小説 第七話「彼女の事情4」

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
駅前の噴水広場に着いた私は自分の過去の行動を思い出しながら地面だけを見て歩いた。

日が落ち始め、焦りは大きく膨れていった。

相変わらず空は今にも夕立に見舞われそうだった。

(どうしよう無い・・・)

(噴水の水の中に落ちちゃったのかも・・・)

私は噴水の水面に目を凝らし底に髪飾りが無いか何度も確認しようとした。

だけど揺れる水面のひかりの加減でうまく底まで見えない。

命の全てを燃やし鳴き続ける蝉の声とゴロゴロうなる雲が私の鼓膜を埋め尽くしていた。

お母さんからもらった髪飾り。

あれさえあれば。私は何とかやっていける。

そう思っていた。

あの髪飾りが、自分が愛されていると思える最後の鍵のように思っていたから。

悲しい気持ちが心の墓場から起き上がってきそうだった。

それはゾンビのようにゆっくり確実に近くに歩み寄ってくる。

負けてはいけない。

そのゾンビに負けてはいけない。

私は自分の言葉を取り戻すんだ。

そのためにここまできたんじゃないか。

こんなことで全てをあきらめたらそこで終わってしまう。

また、お父さんとお母さんと一緒に住むために。

負の感情に支配されたゾンビにはなってはいけないんだ。







心のそこから這い上がったゾンビが私の心の芯に触れようとしたとき。

空のほうが、先に泣き出してしまった。



つむじに当たる雨のしずくが冷たかった。

幸せなことに、傘を忘れた私はずぶ濡れで。ほほを伝う水滴が雨なのか涙なのかわからなくなっていた。


雨が地面をたたく音が大きく渦巻いて頭にはいってくる。

その中に、ひとつの声が私の頭に入ってきた。


「何してるんですか?」

振り返ると傘もささず男の人が一人立っていた。

「何か探しものですか?あー、えっと、雨ぬれちゃいますよ。」

そういう、彼も頭からびしょ濡れだった。

(君も・・・ぬれちゃってるよ。)

人に話しかけられ顔をあげた私はいつの間にかあたりが完全に暗くなってしまったことに気づいた。

私はいったい何してるんだろう。

病院で突然いなくなってしまった私をおばあちゃんが探してるかもしれない。

「とにかくどこか屋根の中はいりませんか?風邪引いちゃいますよ。」

男の人が怪訝な顔をで言う。

だけど髪飾りがまだ見つかっていない。

水面は雨に打たれもう底なんて見えやしない。

だけど駄目だ。諦めきれない。

私はゾンビに負けない。戦うんだ。

そのためにあの髪飾りが必要なんだ。

(だめ・・・ゾンビと戦ってるの。だからまだ。)

少し怯えた表情で私の返事を待っている彼に頭の中でそう答えた。

どうせ、言葉はしゃべれない。説明もめんどくさい。

黙り続ける私を見ていればこの人も諦めてどっかへ行くだろう。






「お疲れちゃんです!!!デュクシ!!!」

沈黙持久戦にかなり早い時間で彼は負け。敬礼して駅の方へ走っていった。謎の掛け声とともに。





だけど、


残された私は結局髪飾りを見つけることは無かった。



続く













コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

masayume 更新情報

masayumeのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング