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信長の眉間コミュの「戯曲・ノブナガ」vol.3

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○寺の本堂

阿弥陀如来を型取った木像が床に倒され、
その馘がノコギリで引かれている。

夜、寺の本堂の中、蝋燭の光に照らしだされた
悪童たちの顔がそれを見詰めている。
皆一様に汗をかき怯えた表情をし、
中には手を合わせて念仏を唱えている者もある。
その中にケロリとして熱心に
自らノコギリを引いている少年がいる。
乞食のような装束のノブナガである。

ゴトリと木像の馘が落ち、他の悪童たちは恐くなってたまらずその場から逃げだす。物音に気づいた子坊主が寝所から起きてくる気配。
馘を懐に入れて庭に飛び下りるノブナガ。
後で子坊主の悲鳴が聞こえる。
 
○月明かりの西瓜畑

地面に寝そべり、盗んだ西瓜を食らいながら
切り取った木像の馘を月明かりに照らして観察するノブナガ。
まじまじと眺め、切り口を指で何度も触ってみる。
 
ノブナガ「これは…ただの木だ。仏とは人間が削った木の形に過ぎぬ。」

憤然と立ち上がって馘を側のコエダメに投げ込み、いずこへと   
もなく走り去る。
 
○翌日畑仕事にやってきた農民が汲んだコエの中に
 その馘を見つけて腰を抜かす。
 
○那古野城
 昼下がり、控えの間でごろりと寝そべり、
 熱心に春画を眺めている乞食装束のノブナガを問い詰める平手。
 床の間には巨大な地球儀が置かれている。

平手「という訳でクソにまみれた阿弥陀様の御馘が
   見つかったそうにございます」

ノブナガ「(春画の体位を真似しながら)ほほう、
     それはウンが良かったな」

平手「ノブナガ様、洒落ている場合ではありませぬ。
   寺の子坊主があなた様のいつもの御仲間が走って逃げるのを
   見たとふれ回っておりまする」

ノブナガ「(別の複雑な体位を真似しながら)…デアルカ」

平手「ノブナガ様、爺は不安で成りませぬ。まさか、
   まさか本当にあなた様が…」

ノブナガ「うるさいぞ、クソジジイ!その通り、オレだ。
     オレがその馘をブッたぎってやったのだ。
     しかし心配は要らぬ、あれはただの木だ。
     木を削って仏に見せ掛けてあるだけの偽物なのだ」

平手「何と、何と申されました?それではやはり、あなた様が…
   何という罰当りな…」

ノブナガ「(突然)アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ
     ハッハッハッハッハ」

平手「何が可笑しいのです、御黙りなされ!」

ノブナガ「罰など当たらぬ、あれはただの木だというのに。
     大の大人がなぜ雁首揃えてあんなものを有り難がるのか。
     オレには理解できぬゆえ確かめたのよ。
     結果は何度も申したであろう。仏の形をしたただの木だ。
     ただの木が罰など当てるものか。
     要するに誰かが作り上げた大ウソなのだ。
    (春画の一枚を指し示しながら)
     それに比べてこれを見よ。確かなものだ。
     この図を見ておるだけでオレは全身の血が燃え立つわ。」

突然、春画を脇へ置き、胡坐をかいて
大真面目な顔で平手の方に向き直るノブナガ。

ノブナガ「爺、あの日のことを覚えておるか。
     うぬがオレに人は必ずいつか死ぬものだと
     教えた日のことを」

平手「はて、左様なことが…あったような、なかったような」

ノブナガ「とぼけるなクソジジイめ、うぬも気付いておったはずだ。
     あの日を境にオレはただのキカン坊では無くなった。
     あの日までのオレはラクチンなただのキカン坊だったのだ。」

平手「…と申しますと?それからどんなキカン坊になられたので?」

ノブナガ「いつか死ぬことを知っているキカン坊だ」

平手「はあ?」

ノブナガ「オレはあの日以来朝となく夜となく死について考えた。
     庭の竹林が風に騒ぐ音を聴くと、
     ある瞬間オレはどうにもならぬ無力感に責め苛まれ、
     心が狂ったようになってしまった。
     オレは淋しかったのだ。
     己れがいつか消え果ててしまうということが。
     オレは苦しかったのだ。
     オレがいなくなった後もオレ以外のすべてが
     存在し続けるという事実が。
     何度も何度も、オレはそのことを考え、オレが死んだ後も、
     なお生き続ける奴らを呪った。
     オレの心は嫉妬に狂っていたのだ。」

平手「…(何を言っているのか理解できず、
   恐ろしげにノブナガを見詰めている。)」

ノブナガ、立ち上がり床の間に置いてある
巨大な地球儀の所まで歩いて行く。

ノブナガ「爺はオレの頭がおかしいと思っているであろう。
     だがたぶん正常なのはオレ一人だ。
    (地球儀を指で回しながら)
     これはバテレンにもろうた地の球じゃ。アースという。
     我らはこの上に立っておる。」

平手「(呆然として)あうす…?、立っている…?」

ノブナガ「説明しても分からぬとは思うゆえ黙っておったが、
     これはうぬらが思っているような
     西洋土産の巨大な毬ではないのだ。
     (日本を指し示しながら)
     オレも、爺も、この城も、この尾張も、美濃も、
     京の都も、それどころかこの日の本までもが
     この地の球のただの一点にしか過ぎぬ。
     そしてその外はすべて今までに見たこともない国と人、
     そして海で覆われておる。」

平手、よろめきながら地球儀の側へ来る。

ノブナガ「(次第に語気を荒げながら)
     あの日、人がいつか死ぬることを知り、
     長じてバテレンからこの地の球の説明を聞き、
     それを理解せざるをえなかった時、オレには見えたのだ。
     オレが消え去った後もなお、何事もなかったように
     この球の表面で日夜うごめき、生き続け、
     生活するあらゆる人々が、動物どもが。」

地球儀を指で激しく回転させるノブナガ。
キコキコと音を立て今にも壊れそうな地球儀。

ノブナガ「(叫ぶように、甲高い声で)ジイッ、
     その苦しさが分かるかッ、ジイッ!!」
 
何かに取り憑かれたようなノブナガ。
勢い余って地球儀を倒す。

平手「(ノブナガにすがり付きながら)
    若殿ッ、おやめ下さりませッ、若殿ッ」

倒れた地球儀の横で、平手に抱えられたまま
放心したように足を投げ出して座り込むノブナガ。
しかし、その目は空の一点を見詰め、爛と光っている。

平手の腕ををふりほどき、地球儀の足を片手でひっ掴み、
それをズルズルと引き摺りながら部屋の真ん中まで歩く。

ノブナガ「そして分かったのだ、
    (地球儀をドサリと畳の上に落とす。)
     オレは分かったのだ、
     またしても死を感じた時と同じく、
     竹林が風に騒ぐある瞬間に、
     突然オレはその感覚に打ちのめされ、
     そして完全に理解したのだ。」

呆然とノブナガを、そして落ちた地球儀を凝視している平手の顔。

ノブナガ「(突然舞い始める)人間五十年〜」
 
<舞「敦盛」一番>

〜人間五十年〜
〜下転の内にくらぶれば〜
〜夢、幻の如くなり〜
〜ひとたび生を得て〜
〜滅せぬもののあるべきか〜
〜滅せぬもののあるべきか〜
 
部屋の中央で朗々と歌い、舞う乞食姿のノブナガ。
その歌声に重なってテーマ曲、
「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」の一番が
フェイド・イン、フェイド・アウト。

フェイド・アウトと共に次の場面へ。

<続く>

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