ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

イズミヤのバラッドコミュの「都会のランナー」A.Aレビュー/vol.2

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
1979年発売。「'80のバラッド」と同じく加藤和彦のプロデュース。前作の完成度を引き受けつつ、さらに世界を広げた感のあるこのアルバムも日本のロック史上に残るべき名盤である。
評論家の立川直樹は “イズミヤがスプリングスティーンと夜の街を走っている光景を思わず思い浮かべた”と、このアルバムのレビューに書いている。言いたいことは分かるが、イズミヤの都市は架空の都市である。いや、そう言うとイズミヤは絵空事を歌っているのだと言っているように思われかねないが、そうではない。イズミヤの描く都市はその匿名性が最大の魅力なのである。どこだか分からない猥雑さ、混沌。そんなものを含め、ただ、彼が思い描く都市のリアリティの断片を集め、コラージュし、都市というパブリックイメージを総括するリアリティ=実存感を創り上げているのだ。逆に、スプリングスティーンの歌に出てくる都市はそのほとんどが実在する都市、街である。アズベリーパーク、ニューヨーク、バルティモア、キングスタウン、アトランティックシティ…実際にある街を題材にしているからこそ、スプリングスティーンの歌には濃厚なリアリティ=生活感が漂うのだ。イズミヤの都市は茫漠として大きく、深い。場所や国も不明である。しかし、その都市は多くの“ナマヌルイ”シティ派シンガー共が歌うどこかの外国のオシャレな風景だけを拝借した“ありえない街”ではなく、確かに大阪のようであり、名古屋のようであり、東京のようでもあり、福岡のようでもあり、それは充分な“実在感”を伴った“ありえる街”である。もちろん、スプリングスティーンの“生活感”を腐している訳ではない。「闇に吠える街」や「リバー」は間違いなく僕のフェイバリットである。立川氏がどのような夜の街の風景の中を2人が走っている光景を思い浮かべたのかは分からないが、僕はそこに関してずっと違和感を感じていたので、その理由を考えてみただけだ。
さて、「都会のランナー」である。蹴躓いたようなリズムから始まるので、僕はずっと自分のレコードに傷があり、針が飛んでいるのかと思っていたが、最近、CDを買い直して聴いてみるとまったく同じ。元々こういうイントロらしい。そんな風に始まるのが一曲目の「旅から帰る男たち」である。“長い旅から帰る男達がいる/旅を超えて帰る男達がいる”というこの歌の結びである堂々たる宣言でアルバムは幕を上げる。“男達”は「'80の〜」から続くキャラ“エイジ”のようにも、そうでないようにも見えるが、イズミヤ自身が“旅を超えて帰る男達”の内の一人であることは間違いない。
二曲目は特異な題材をサラリと、しかし毒気タップリに歌う「褐色のセールスマン」。“ドアを何度も叩き/自分を売りサバク”“ヤツを殺したのは/セコいプライド/見栄張る自信と裏腹に/打たれて散らばる”…強烈なインパクトを持った愉快な言葉とシャープなバッキングの切れ味が堪らない。
やがて、視点は土砂降りの雨のから抜け出し、夕暮れの巨大な街並を漂う。テンプテーションズの「マイガール」のリフを効果的に引用した超クールなテーマが冴えまくる「俺の女」。日本にこれほどカッコイイ、ラブソングが…他にあるだろうか。僕は聴いたことない。“夜が/アスファルトを塗りつぶし”“俺の好きな女が/シャレを言う”…だぜ。おい、おい。“オレにとっての街は女だ”というイズミヤの言葉を思い出す。驚く程綿密で完成された演奏。行き届いていながらワイルド、そしてイノセントだ。イズミヤのパーソナリティを支え、程よく際立たせている。イズミヤのボーカル自体が“程よさ”とは無縁なので、それをサポートするバッキングには“程よさ”が必要だ。そんな気がする。
タイトルの割には“風”の動きを感じさせるような、滑らかなピアノのテーマで始まる「風もないのに」。歌い出しから最後までテンパリ気味のボーカルがスリリングである。おそらく少し高めのキーで歌っているのだろう。ヒステリックかつ、セクシーだ。
アナログ盤ならB面の一曲目を飾るのが「揺らぐ街」である。アルバム中唯一、加藤和彦の作曲。イントロのギターからして中々カッコよく、他の曲と比べてもまったく遜色なくアルバムに溶け込んでいる。激しくもリアルな歌詞が、イズミヤの、咆哮ではないもう一つの狙い澄ました声質で歌われ、サビ部分の加藤による無表情なコーラスも効果的。
絶望的な近未来のシーンを描いた前曲のイメージを払拭するオプティミスティックなイントロから「ハーレムバレンタインディ」へ。特に演奏的にという訳でもないが、何故か異国情緒を感じる作品。“レイの花をつけた黒い髪の女”などという歌詞が出て来るからか。いわゆる、高級クラブの女にまつわるあれこれを歌っているのだと思われるのだが…どうだか自信がない。
軽快な「ハーレム〜」の後にフテブテしく始まるのは、ワルツのリズムなのにロックンロールなんだよ、文句ねえだろ?って感じの「王の闇」。この楽曲も(他の楽曲もそうだが)イズミヤならではの孤高の佇まいを見せつける。だって…こんな歌、いや、内容がどうとか演奏がどうとかじゃなく、他にはぜったい見当たらないって。日本の、他のどんなアーティストも、ちょっとでもこれに似た歌、歌ってないよ、一人も。一曲もない。“英雄、俺の街では〜お前がサマになる頃は/人もすでに飽きている”嘲笑的であるのか、自嘲的に歌っているのかは分からない。ただ、ひたすらカッコイイと思う。僕は実は、アルバムの中でこの曲が一番気に入っている。
そして、最後はアコースティックギターを中心としたアーシーな雰囲気の中で歌われる、しかし、圧倒的なロッカバラッド、「君の心を眠らせないで」。“粘着質でいやらしい”イズミヤの歌唱が何故かとてつもなく優しく聴こえてしまう。他の楽曲とは一線を画す分かりやすくロマンチックな歌詞が素晴らしい。
ジャケットは荒いピクセルのモニター画面に大写しにされたイズミヤの顏のドアップ。怒っているのか、笑っているのかよくわからない。この表情の奇妙さは「'80のバラッド」と似ている。前作のようにイラストブックこそ付いていなかったが、独特のイラストが今度は歌詞カードのバックにびっしりと描き込まれて、文字(これも手描きでイラストの一部と化している)が読みにくい程だ。「家族」の歌詞カードも似たような雰囲気だったのように記憶しているが…。また、歌詞カードには英訳(こちらはキチンと印刷されている)も付いており、イズミヤの野心が伺える。

※この作品に関して、あなたの意見、思い入れ、知っている情報等があれば下記に追加をお願いします。

コメント(1)

「都会のランナー」ライナー掲載の写真。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

イズミヤのバラッド 更新情報

イズミヤのバラッドのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング