「一時的な金利上昇の混乱の結果、新規国債が発行できない事態では、財政規律の信認が失墜し、ほとんど同時に銀行券への信認も失われるリスクは無視しえない。すなわち、インフレーションは貨幣的現象ではなく、究極的には財政が引き起こすことになりかねない(Sargent and Wallace[1981])。このリスクは、制度的に日本銀行が金融政策運営上の独立性を保持していることや、財政法上日本銀行の国債引受が禁じられているということとは無関係に、期待形成の反転によって生じうる。 Itoh and Shimoi[1999]の真意は、日本銀行が国債引受を余儀なくされることを避けるために、国債のアグレッシブな買いオペを率先して行うことにある。ところが、こうした行動を実際に中央銀行が起こした場合、Itoh and Shimoi[1999]が金融緩和の副産物として提起した政府債務削減が自己目的化し「債務削減のためにインフレーションを起こす」という金融政策の目的(物価安定)と予期せぬ結果(財政赤字削減)が逆転した期待形成が発生し、その結果金融政策の信認が失墜するリスクは無視できない。なぜなら、統合政府全体としてみると、予期せぬインフレーションへの誘惑は非常に大きく、中央銀行が非常手段を用いるような状況で、はたして物価安定へのコミットメントが信認されるかどうか、という新たな問題が生じることになる。とくに、期待された予期せぬインフレーションを大量の国債買いオペで予定どおり実現できず、国債の買切り額を増加する圧力が高まる局面は、こうしたリスクが高まることになる。」
「ハイパー・インフレーション終了の本質的手段をSargent[1986]は、?追加無担保信用を求める政府の要求を法的に拒否しうるという意味で独立した中央銀行の創設と同時に、?経常勘定の大幅な赤字からの脱却を可能とするような財政政策レジームの計画的・抜本的な変更が行われることとしている。すなわち、金本位制復帰を展望した独立した中央銀行の設立と、財政再建の道筋の提示がともに満たされたと信認された瞬間に、物価水準の発散は停止したという意味で、インフレーションは貨幣的現象ではなく、究極的には財政が引き起こす(Sargent and Wallace[1981])。Sargent[1986]の主張の正しさは、チェコスロバキアがこれらの国々と同じ多くの困難に直面していたものの、自国通貨価値の維持と、抑制的な財政レジームを当初から採用し金本位復帰を急ぐことで、ハイパー・インフレーションを回避したことからもうかがえる。」