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きままにクルセイダーコミュのSS投稿所

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まあSSじゃなくても何か書いてみたよ、という時に投げつけてみる場所です。

コメント(7)

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=723993406&owner_id=3417841の直前話。


 王都行、前夜。

「ねえ、あんたさ」
「はい?オレですか?」
「うん」

 調理場から料理を載せた大皿を運んでいると、ずっと椅子に座ったまま何やら手紙を読んでいたラーナディアから声がかかり、キンケイドは皿をテーブルの上に置いてから彼女に向き直った。
 本来、森に住む狩人であるキンケイド、ここのところ森で出会ったラーナディア達に獲物を持ってくるのが日課になっていた。何故かついでとばかりに調理までさせられているのだが、まあ一緒に食べているしアインが喜んでくれるしいいか、と諦め半分に思っている。
 ちなみにアインは料理を手伝ってくれるのだが、ラーナディアは大体座って待っているだけだし、リュンは待っているだけなのは申し訳ないとは思っているらしいが手伝えることがないらしく、邪魔にならないように調理場の隅でひっそり立っているのが通例となっている。

「ずっと考えてたんだけどさ」
「何すか?」
「キンケイド、って呼びにくいわよね」
「…はあ」

 持っていた手紙をテーブルの端に投げ、躊躇い無く大皿に手を伸ばしながらのラーナディアの言に、キンケイドは首を傾げた。
 ラーナディアの指が肉を一切れ摘んでいくのをなんとはなしに目で追っていると、彼女はそれを口に入れる直前に、こう呟いた。

「というわけで、今日からキドね」
「…は?」

 言われた言葉の意味がわからずにぽかんと口を開けるキンケイドには構わず、ラーナディアはもくもくと咀嚼を始める。その指が再び大皿に伸ばされる頃、ようやくキンケイドの頭が事態を把握しようと動き出した。

「…キドって?」
「ん」
「オレのことっすか?」
「ん」
「ああ、なるほど…って、えええええ!?」

 指を舐りながら頷くラーナディアに抗議の悲鳴を上げると、調理場のほうからアインとリュンが顔を覗かせる。

「どうしたのー?」
「アイン、今日からこの人はキドさんだから」
「おー、キンケードさんはキドさんかー」
「いやっ、ちょっと待ってっ」
「キドさんー、スープできたよー」
「オレの意向は無視ー!?」
「うん」
「………………」

 リュンはいつもの通り何も言わず無反応だったが、その視線がどこかしら同類相憐れむものであるように感じて、キンケイドはがっくりと項垂れた。

 ああ、思えば最初の頃からこのペースに乗せられっぱなしなのだ。今はこうしてクルセイダーの住居である小さな教会で毎日のように食事を共にしているが、少し前までは金がないからと森まで押しかけてくるラーナディア(と着いてくるアインと引っ張られてきたリュン)に食事を振る舞わされていた。
出会った時に危うく怪我をさせてしまうところだったという負い目もあり、何よりお礼だと言っては木の実や薬草等を渡してくれるアインの笑顔にほだされて、猟犬達も随分アインに懐いているしまあいいかと、思いながら今日に至っているのだが。

 それにしても、とキンケイドは思う。
 以前あったクルセイダーという組織は、もっと厳格で、怖れられていたものだった。
 ラーナディアがクルセイダーだと名乗った時には警戒したものだが、ここに満ちる空気はとてもクルセイダーのそれとは思えない。ここを住処にしている、ということは、決して無関係ではないだろうことは明白とはいえ。

「そんな泣くほど喜ばなくても」
「…泣いてないし喜んでません」
「さ、夕飯にしよう夕飯。おなかすいた。早く早く」

 …とはいえ、傍若無人なラーナディアを見ていると、やっぱり何かの間違いではないかと思えてくる。
 彼女の人となりが大体把握できてきたキンケイドは、反論しても無駄だと悟り、仕上げに取り掛かるために調理場へと戻って行くのだった。



 その後、テーブルの端に投げ置かれたままの手紙に興味を示したところから、キンケイドの人生は本格的にラーナディアによって引っ掻き回されることになる。
 時はしばし遡る。

 ラーナディアという人物を一言で表すならば、傍若無人、自由奔放、馬耳東風といったところだろうか。
 要するになにものにも縛られ“なさすぎる”、勝手気ままを体現している人物…のように、今はリュンと呼ばれる青年には、そう見える。

 クルセイダーという組織の再編を引き受けてくれたことには感謝しているが、初対面からさして言葉も交わさぬうちに、デッドと名乗った自分に対して「リュン」という呼び名を与えた女性。
 とりあえず顔を覚えてもらえばいいからと街中を引っ張りまわされ、アインと引き合わせてもらい、これから住処となる古い教会の片隅に一室を与えられる頃には、リュンは彼女を自由奔放な人だと思うようになっていた。

 お金がないから森へ狩りに行こう、と彼女が言い出した時もそうだったのだが、その時森の中で出会った狩人の家に押しかけて食事をご馳走になる頃には、そこに傍若無人とか馬耳東風とかいう言葉が徐々に増えていって、今に至る。

 さすがにそんな風に思うのは失礼だろうか、と考えもしたのだが、心中の言葉を撤回するどころか、ある日そこに「よくわからない人」という項目が増えることになった。

「お金が増えました」
「わーい」
「………………」
「というわけで、今日からは狩人さん家に押しかけるんじゃなくて、あっちから来てもらおう」
「おー、今日もキンケードさんと一緒にごはんだー」
「………………」

 司祭からの個人的援助はさほど期待できなかったはずだし、支援を受けるにしてもまだ王都の教会に出向いた事はなかった──つまりは、まだ組織として正式に認められてはいないはずだったのに、どこから資金を捻出したというのだろう。
 疑問に思ったものの、リュンは尋ねることはしなかった。
 訊けば何か聞いてはならない答えが返ってきそうな気がしたからだ。



 食事の時間は賑やかなものだが、一人部屋に戻れば静けさが身を包み込んでくる。
 窓から零れ落ちる月光が床に窓枠の影を落とすのを、見るともなしに眺めながら、リュンは簡易なベッドに腰掛けて、しばしぼんやりとしていた。
 様々なことを思い出し、そして考えるが、どれにも答えが出ることはない。
 どれくらいそうしていたのか、近付いてくる足音に思考の海から意識を引き上げると、きっちり4回ドアがノックされた。

「入っていい?」
「……どうぞ」

 いきなり入ってくるものだと身構えていたリュンが小さな声で応えると、何やら手に握り締めたラーナディアが開けたドアからするりと入ってくる。
 立ち上がろうとするリュンを片手で制して、ラーナディアは握り締めたほうの手をリュンの目の前に突き出した。

「手」
「……?」
「手、出して」

 何を要求されているのか理解できずに固まったままでいると、焦れたラーナディアがもう片方の手でリュンの手を取って強引に開かせた。そこに、握り締めていた手からぱらぱらと、色とりどりの紙に包まれた丸いものがいくつも落ちてくる。

「資金調達した帰りに買ってきたの、半分アインにあげたから残りはあんたにあげるわ」

 リュンはまだ固まったまま掌に落とされたものを見つめていたが、ラーナディアはそれで満足したらしく、それじゃと言い残して部屋を出て行った。
 パタンと扉が閉まる音がして、そこでようやくリュンはラーナディアが何を持ってきたのかに気付く。

「……飴」

 どこにでも売っているような、何の変哲もない飴の包み。
 しかしそれは、もう随分と久し振りに、記憶の彼方へ消えてしまう程に久し振りに、この手に触れたもののような気がした。

 どうするべきか暫く悩んだ後、リュンはひとつを摘み上げてそっと包み紙を開くと、口の中に飴を放り込んだ。

 ……甘い。
 感想はそれだけしか出てこなかったが、リュンはころころと飴を遊ばせながら、再びぼんやりと月が作り出す影を眺め始める。
 ただ今度は、過去の幻影でも明日への不安でもなく、本当によくわからない人だということばかりが、リュンの胸中を占めていた。
アインチャプター01の後、王都行きのまえくらいの話です。


 青い青い空の下、アインは大きな洗濯籠を抱え、教会の庭へと出てきていた。
 洗濯籠にはたくさんの真っ白なシーツが入れられている。
 ここ2、3日続いていた荒れ模様は大地を潤してはくれたが、同時に貴重な洗濯の機会を奪っていた。今日はそれとはうって変わってさわやかな快晴で、空はどこまでも晴れ渡っているようにすら感じられた。

「うわーい、いいてんきだー!」

 まだ日の昇りきらないさわやかな午前の風に誘われて、アインは洗濯籠を抱え、踊りだすかのように駆け出した。
 2本はってある紐のうち、片方にはすでに赤や緑や黒のカラフルな服たちが吊り下げられ、風に揺られてそよそよと踊っている。
 昨日の夜に風の精霊たちが明日は晴れるよと唄っているのを聞き、張り切って早起きをした彼女は、ロイルに手伝ってもらいみんなの服を先に干しておいたのだ。

 ちなみに、ラーナディアは昨日の夜が晩かったらしく、まだ眠っている。ラーナディアもロイルも、たまにそうやって朝寝坊をしてくることがあるのだ。
 そういう時、アインは相手をそっと寝かしておいて上げることにしている。
 そのかわり、次の夜には洗い立てのシーツを準備しておく。そうすれば石鹸の甘い香りに誘われて、はやく布団に入りたくなるに違いないと思っているのだ。
 ラーナディアと出会う少し前、たった一月だけ一緒に暮らした姉のような親友は、眠れない夜の次の日、朝寝坊をするたびにそうしてくれていた。
 してもらってうれしかったことは、みんなに返してあげなさいと言っていたのは、もうずいぶんと前にはぐれてしまった1羽の鳥が口癖のように言っていた事だ。育ての母である竜を喪った後、共に同じ道を歩んだ大切な友達だった。
 二人とも、アインにとってたくさんのことを教えてくれた、大切な家族である。


 少しがんばって背伸びをし、洗濯紐にシーツをかけながら、アインは思う。
 ラーナディアやロイルも、育ての母や彼女たちと同じように、大切な家族であると。
 ラーナディアは風のような人だ。いつも自由奔放で、太陽の下を自由気ままに駆け抜ける清々しい一陣の風。そんな何者にも縛られない彼女だからこそ、雨上がりのやわらかい大地に守られていてほしいと思う。
 そうすることで風は帰る場所を得、安心して気ままに吹いていられるだろうから。

 ロイルは放っておくと自分から暗いほうへ暗いほうへと足を進めてしまう人だ。自分からは何も言わないし、ラーナディアもなにも言わないのでもうしばらく見守るつもりでいる。
 でもそのかわり、あたたかい太陽の火と、青く煌く朝の風に守られていてほしいと思う。
 日の光も入り込まないような暗い道へと迷い込まないよう、手を差し伸べられていられるように。

 石鹸とお日様の香りのする真っ白なシーツがそんな助けになるかどうかはわからない。
 それでも、ほんの少しでもいいから二人の助けになれるといいなと思うのだ。

 大切なものはたくさん見つけなさい。そうして大事に守っていきなさい。
 それは育ての母である竜の言であった。
 アイン自身には誰かを守るだけの力はまだない。
 そもそも争いごとはあまり得意なほうでもない。
 それでも、こうやってほんの些細なことでいいから、大切な人たちを守っていきたいと思うのだ。


 真っ白なシーツが風にひらひらと揺れている。
 誰もいなくなった後の小さな庭には、ほのかに甘い、優しい石鹸の香りが漂い続けていた。

 一体、どうして自分はココにいるのだろうか?


 薄暗い部屋の中、頭上から投げかけられる質問に、はい、とかええ、などと適当に答えながら、キンケイドは考える。

 そもそもの発端は、「クルセイダー本部」とラナらが呼んでいる教会の、テーブルの上に投げ出されていた一通の手紙に興味を持ったことなのか。はたまた、彼女を森で危うく誤射しそうになったことが申し訳なく、お詫びのつもりで狩りの獲物を供したことなのか。あるいは、騎士見習いの時分に、身分の差に物を言わせて村娘をかどわかそうとしていた先輩騎士を殴りつけて出奔し、早々と隠遁生活に入ったことなのか。

 窓から差し込む光が抑えられ、荘厳な雰囲気を醸し出す審問の席上で、自分よりも社会的にも物理的にも高い位置におわすご老人方から、自分の履歴書を読み聞かせられるという図は、なかなかにシュールだった。
 自分でも忘れていたようなことまで読み上げられ、一体どうやって調べてきたのかと呆れてしまう。自分がかつて片思いの女の子に出したラブレターまで読まれてしまうんじゃないだろうかと、いらぬ心配までしてしまうのだった。


 「…以上がこの者の経歴である。皆、確認すべきことはないか?」

 お歴々の中央、首座に座る老人が、豊かに蓄えた真っ白な髭を扱きながら、眠そうな声をあげる。それに応える者も皆一様に白い髭を蓄え、今にも眠りだしそうに目をしばたたかせている。
 12月26日の歴代サンタクロースを並べたら、丁度こんな感じの光景になるのだろうなぁ、とキンケイドは場違いな想像を巡らせた。

 「今のところ、問題なかろうて。クルセイダーの資質はそれなりに備えておるようじゃ」

 「腕の方もそこそこたつようだしのう」

 「欲を言えばこう、もう少し覇気が欲しいところじゃが」

 「いやいや、あの者の下で働くのなら、このくらいが丁度良いだろうて」

 「下手に気が強いと、反発しかねん。今は隊の強化時期じゃ。このぐらいへっぽこなぐらいが丁度よいわい」

 「ははは、コレは手厳しい。…ところでへっぽこといえば、この者の元主はアルフレッド辺境伯だったな」

 「ああ、あの。」

 「そうじゃ、最近公爵家から嫁を貰ったらしいが、大層尻に敷かれておるそうな」

 「それは気の毒にのう。どれ、今度愚痴でも聞いてやろうかの」

 「よせよせ、下手に干渉して、こちらまで噛み付かれてはかなわん。放って置くのが最良じゃよ。
 時に、今年の感謝祭についてなのじゃが…」

 審問の場は、既に老人たちのサロンと化していた。
 ここは元配下として、主人だった人物を擁護すべきかどうか迷ったキンケイドだったが、結局止めにした。彼の元主人に、フォローすべき要素が見つからなかったからである。

 「お疲れ様だったね」

 所在無くボーっと突っ立っていたキンケイドだったが、彼の傍にいつの間にか歩み寄っていた人物の声で、我に返った。
 年の頃はキンケイドと同じくらいであろう。身長差もほとんど無いのだが、背筋をすっきりと伸ばしたその姿は、その人物をより長身に見せていた。

 「ああ、ええと…?」

 「ジュリアス・クリストファーだ。司祭をしている。君たちの上官になるね」

 場違いなほどにこやかに応えた司祭は、いまだに続いている老人たちの世間話にこっそり肩をすくめると、キンケイドにそっと囁いた。

 「今日はもう帰っていいよ。必要なものは、後ほど君たちに届けさせよう」

 「はぁ、どうも…って、俺、いや、私の上官、ですか?」

 「そうともさ」

 ジュリアス・クリストファーは、この上ないほど上機嫌そうな顔で言った。

 「ようこそ、クルセイダーへ!」

 一瞬呆気に取られて、キンケイドは固まっていた。

 「え、いや、あの」

 「ああ、あの方たちはいつもあんな感じだから、気にしなくても大丈夫。こうなったら、結論はもう出ているということなんだよ」

 「はぁ、そうなんですか…すると…?」

 勝手が飲み込めないキンケイドに溜息をつくと、クリストファー司祭は大きく腕を広げて見せた。

 「つまり、キンケイド君。君のクルセイダーへの入隊が、審問員の皆様によって認められたということさ。おめでとう」

 「ありがとうございます………………なんてこった」


 クリストファーは、キンケイドの呟きを聞かなかったことにした。
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       ウーサーがクルセイダーに加入する前までの顛末
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ウーサーと、歴史では呼ばれるその人物の表現には色々あるが、ここではあえて一般的に知られる彼の表現を使おうと思う。つまり彼は奇人だったのだ。

彼の容貌は確かに帝国貴族に特有のすらりとした長身、金髪に赤眼。しかしその風体は和人の着物に腰に佩いた刀、さらには頭に斜めに提げている白兎の仮面と言う奇妙なものだった。

ウーサーは旅をしていた。帝国を、周辺各国を、適当に気ままにブラブラと。

たまに襲ってくる山賊団や強盗団を腰の刀を抜かずに多数を一人で、しかも戦場を自分の庭の様に有利に持ち込み、その抜かない剣と雷の魔術でバッタバッタとなぎ倒すその姿を見た商人や旅人達から"雷神にして不殺"のウーサーと呼ばれるようになった。
襲い掛かった山賊達ですら、その心意気に惚れ、陰日向に彼を慕いはじめる者も居た。

決して刀を抜かない彼に対してある人がこう聞いた。
「何で刀を抜かないのですか?」
「斬らなくて良い命なら斬らなくても良いじゃないか?」
山賊たちに襲われ、自らの血を流しながらも彼はそう言って笑った。

その出来事を持って、彼は聖騎士になる素質があった。と歴史書では言う。
でも、彼は本当に聖騎士になりたかったのかどうか、は本人にしかわからない。


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 真っ暗闇を切り裂く雷雨振り続けるの森の中。その森の中にはまるでこの世のものとは思えぬ怪物の姿が仰向けになっていた。
 その怪物は既に事切れているようで、切り裂かれた腹部から真っ赤な鮮血が溢れ出ては雨によって流されている。
 怪物の傍らには恐らくその怪物を切ったであろう長刀を片手に持ち、自分が何をしたのかもわかって居なさそうにぼんやりしている少年と、
その少年より少し年上なのだろう、長い金髪をした少女が彼を包み込むように抱きかかえていた。
「良い事ウーサー。良く聴きなさい。武器は確かに人を守る事ができます。でもしばしばそれは他人ばかりではなく、本人の心さえ傷つけるものなのです」
 まだ幼い金髪の少年に語りかける少女が居た。姿こそ幼い容貌をしてはいるが、彼女の身にまとった雰囲気が歳相応には見させなかった。
 だが、それでもやはりまだ幼い彼女は恐怖に震える手を必死に止め、己が大切にしている少年を諭そうとし、いつも言っている言葉を紡ぐ。
「だから、その大切な事が判るまでこの剣は封印しましょう。貴方が成長し、全ての傷を食い止める実力が付くその時がくるまで」
 少年はまるでその声が耳に届いていないかのようにぼんやりと雨に打たれるままだった―。

 そして数年後、旅装束を着たウーサーがクルセイダー本拠地のあるこの土地へと流れ着いた時、彼は文無しだった。
(はらへった…。)
虚ろな目をしている彼はすでに倒れ伏した。さらに運の悪い事に冷雨すら降ってきた。
道中で襲ってくる盗賊や山賊たちも彼の姿をみただけで逃げ出してしまって、彼らの懐をまさぐる事ができないのが致命的だった。
(有名になりすぎたかなぁ…。)まさしく後悔先に立たずである。
(ああ…いし…き……が…)
薄れていく意識の中、近寄る足音が聞こえたような気がした。

次に彼が目覚めた時に見た者は物珍しそうに彼を見つめる幼い子供…のように見えるが少女だった。
彼は暖かな、でも彼にしてみたら小さな布団で寝ていた。手足が枠の外にはみ出している。
「う…?」
「う?」
オウム返しに聞き返す少女。それがウーサーとアインの出会いだった。
その後、彼は自分を助けてくれた彼女に対して恩を返す事になる。
そしてそれが彼がクルセイダーに導かれるきっかけでもあった。
「なんじゃこりゃ?」
朝もやがまだ微かに残る早朝。キンケイドは最近の日課となった、教会の修繕を行おうとしていた。
ここのところ、直す端から壊れていく建物に愛想を尽かし、いっそ新規に生活用の小屋でも作ってしまおうかと考えている。だがまぁそれでも、短い期間とはいえ雨風をしのいだ場所である。それなりに愛着は沸いていた。

このまま崩れてしまうのも忍びないし、今あるものを再利用できるならそれがいい。粗末に扱えば、貧乏神様に申し訳ないし。
そんなことを考えながら、夕べ、なぜかはがれ落ちていた玄関のレリーフを取り付けようと、最近手に馴染んできた金づちを持って外に出たのだった。

ああ、だがしかし。

「なーんで、レリーフが粉砕されてるんだろ…」

ラナが蹴飛ばしたり、アインが躓いて転んだり、ということのないよう、入口の脇に立てかけて置いたのは昨夜のこと。
それが、玄関前にある大きな敷石の上にあり、文字通り木っ端みじんになっていたのだった。

ちなみにこのレリーフ、杉の寄せ木を用いて彫られた年代もので、葡萄の蔓が作る輪の中心で、羊飼いの若者が遠くを眺めている、という、この土地由来の牧羊神をモチーフにしていた。

「気に入ってたんだけどなぁ、これ…」

がっくりと肩を落としたキンケイドは、箒と塵取りを取りに屋内へと戻って行った。


彼はまだ、木槌を振るう同居人の『助力』に、全く気付いていないのだった。

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