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新作!リベレーター コミュの第一話 動き出す力

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かつて、この世界は命無き混沌の世界だった。別の世界で耐えた命は精霊となり、新しい世界で別の人生を歩む。その為に数多の世界を渡る精霊となる。この世界はその分岐点としての役割を担っていた。しかし、この世界を管理する精霊の一人が発した言葉がこの世界に嵐を吹き込む。


 ――この世界を新たな命が宿る地としよう――


 その一言はこの世界に暮らす精霊たちに衝撃を与えた。その言葉に賛同するものと反対するものの二極に世界は別れ、精霊たちは戦いを始めた。それぞれが賛同の軍勢、反対の軍勢と名乗り、熾烈な戦いを繰り広げた。その戦いは何百年も続き、新しくこの世界に訪れた精霊たちも巻き込んで、戦渦は拡大していくばかりだった。だが、その戦いに終止符を打とうと、光の精霊ユティ・闇の精霊シュバリアの二人が現れる。二人は配下に風、土、水、火の精霊を従えて、反対の軍勢を屠っていった。そして、反対の軍勢を「死を迎えし者たちの世界」に追いやり、賛同の軍勢の勝利で戦いは幕を閉じた。


 賛同の軍勢に勝利をもたらした六人の精霊は、六大精霊神として人々に崇められた。そして、この世界は命の宿る世界の一つとして創造された。そして新たに創造された世界で、ユティは高らかに宣言した。


 ――この地に住まう命よ、我らと共にあれ……この地に訪れる精霊たちよ、ここでその翼を休めよ。共に支え合い、共に生きることでこの世界は成り立ち、日々を歴史と刻む。我らの世界の名はイクシアル、数多の群雄が安らぐ場所なり――


 光の精霊神ユティのこの言葉から、この世界……イクシアルは始まった。



 魔術と科学が混在する世界イクシアル……そこには精霊と呼ばれるものが存在する。彼らはあらゆる者の強い意志に感応し、その者に奇跡をもたらした。人類はそれをソウルエレメント(精霊元素)と呼んだ。人類はその未知の存在を探究し、やがてそれを糧にして飛躍的な発展を遂げた。イクシアルに存在する大小六つの大陸の人々は、交流こそ無いもののそれぞれが栄えていった。だが、その繁栄の陰で人類はそれぞれの思惑の元に、凄惨な戦いを繰り広げてきた。
これは、敗戦国を立て直そうと力を尽くす女王と、国も家族も護るものすら持たない一人の騎士が織り成す物語……


1・ノルン大陸の歴史


界暦一九四五年。イクシアルの北東に位置するノルン大陸には、東西を二分する二つの大国があった。東を統治しているのはベルネーア王国。西側はアルディナ連邦によって治められている。ベルネーア王国は、六つある属性のソウルエレメントと契約を結び、古より培われてきた魔道術を力としている。


対するアルディナ連邦は、最高で二つまでしか契約できないソウルエレメントを機械的に使役し、一人で複数の属性の魔道術を扱うことができる魔導科学で発展してきた。


両国の力は絶大であり、自国の隣国を次々と併呑していった。ノルン大陸には大小百を超える国家が存在していたが、二つの大国はそれらを瞬く間に傘下に加え、最終的に大陸の勢力図はベルネーア王国とアルディナ連邦の二色に塗り分けられた。


両国家は国政と思想から全く異なる。それ故に国家間の溝は深く、小国内の内乱に互いに介入することで、間接的な小競り合いを続けてきた。しかし、一九五〇年には、その対立がより一層激しくなっていた。両国共に軍備拡張に邁進し、何かと理由をつけて国境付近で戦闘を繰り返した。何れも小規模であるが、やがて大きな戦いが始まることを、示唆しているようなものだった。


そして、同年の夏の日差しが眩しく光るある日、アルディナ連邦はベルネーア王国への宣戦布告とともに、五万規模の軍をベルネーア領へと派遣し本格的な侵攻を開始する。ベルネーア遠征軍と名づけられた軍勢は、魔道術に欠かせない貴重な鉱石が採掘されるオプトーレ鉱山地帯にまで行軍する。当時からこの鉱山地帯を巡って両国は争いを続けてきたが、これほどまでの大軍が投入されたのは初めてだった。


これを口火に、両国は全面戦争に突入することとなる。互いに大軍を繰り出し合い、一歩進んで二歩下がるような戦いを際限なく続けてきた。後に塵界大戦と呼ばれたこの戦いは熾烈を極め、戦局は膠着しながら十年の年月が過ぎていった。


だが、ある日を境に戦いは大きな節目を迎える。それは、界暦1960年四月九日に起こった。アルディナ連邦軍屈指の猛将グラン・マルティーニ准将が、ベルネーア軍のオプトーレ地帯最大の拠点であるサンガバル砦の攻略を果たしたのだ。サンガバル不落の神話とそこに配備された十万を超す兵力が、たった六千のアルディナ軍に敗れたことは、ベルネーア軍に大きな衝撃を与えた。


事実上拠点の無かったベルネーア遠征軍は、ベルネーアが築いた主要都市と山岳地帯を結ぶ街道という進攻ルートを手に入れた。更に本国から新たに派遣された二十万の増援と、参戦を表明したベルネーア西方地域に暮らすシフィリス族からなる義勇軍が加わって、反ベルネーア連合軍の兵力は三十万にも膨れ上がった。   

この十年に渡る戦いで、始めて数において優劣が生まれた。足並みを揃えたアルディナ軍とは打って変わって、ベルネーア軍オプトーレ守備隊はサンガバルで五万近くの兵を失い、本国からの増援も間に合わなかった。その結果、二倍以上の軍勢を相手にする羽目となった守備隊は、反ベルネーア連合の前に奮戦むなしく歴史的大敗を喫した。その後も反ベルネーア連合軍の快進撃が続き、僅か三ヶ月でベルネーア王都ベルスティアの一歩手前にある最終拠点、城塞都市ポリフェルカまでの進軍を果たす。


最新兵器を導入した三十万の軍勢は、ベルネーアの精鋭百万の戦力すら凌駕していた。ベルネーア軍はこの三ヶ月で五十万以上の損害を被っており、軍はジリ貧に後退を続けていた。だが、ベルネーア軍がこの街を失うということは、連合軍の刃がベルネーア王国ののど元に突きつけられたことを意味する。


王都の陥落は王国の滅亡を誘発しかねなかった。後が無くなったベルネーア軍は各地の敗残兵をまとめ、総数四十万近くの軍勢を一箇所に集結させた。そしてベルネーア王国の切り札とともに、来る反ベルネーア連合との最終決戦に備えた。もう後がないベルネーアの将兵たちの誰もが己の死を覚悟していた。


 ……そして界暦一九六〇年十一月三十一日、戦争は突然終わった。徹底抗戦を唱えるベルネーア国王、ゴッドベルト・フォン・ベルネーアが崩御したのだ。その後、和平を望んでいたゴッドベルトの義妹が王位を継ぎ、アルディナ連邦に全面降伏の申し入れを行った。


元々、ゴッドベルトが鉱山資源を独占していたことに端を発し、そしてシフィリス族を弾圧し、その部族が連邦に支援を求めたことで始まった戦争であった。シフィリス族の居住地を奪還し、本命だったオプトーレを手中に収めた以上アルディナ連邦側に戦闘を継続する意味はなかった。元々民主主義国家であるアルディナ連邦に、大陸制覇という概念は持ち得なかったのである。何よりも彼女の人柄のよさと謙虚さに戦前から好意的だったアルディナ連邦評議会が、女王の申し入れを受諾したのだ。


十年もの間、多くの死と貧困を撒き散らした戦乱の終結に人々は歓喜し、涙を流しながら女王を讃えた。敗北したことよりも、また平和な日々が戻ってくることの喜びを人々はかみ締めることができたのだ。


民衆とは逆に、戦意旺盛だったベルネーア軍の将兵達は、彼女の選択に疑問を抱き好意的ではなかった。開戦時は百万二十万の兵力を誇っていたベルネーア軍は、十年の戦いで僅かに三十万名まで磨り減っていた。


その損害の殆どは終戦前三ヶ月の大攻勢で失われた。これに民間人の犠牲を加えれば、二百万を超える命がこの大戦で奪われたのだ。将兵の多くは、戦争終結の事実も受け入れられずにいた。彼らは連合軍が王都に悠々と進軍する姿を、ただ見つめるしかなかった。


……それからまた十年の月日が流れた。ノルン大陸は統一され、大陸統一政府ノルン連邦が誕生した。苦しい時代を乗り越え、ベルネーア王国も一主権国家としての再建を果たし、人々は平和な日々を送っていた。戦後三年、連邦政府はかつてない犠牲と混沌をノルン大陸にもたらした、あの戦争が再び起こらぬ様にと、加盟国間で一つの条約を結ぶ。戦いに終止符が打たれた地で戦争終結の同日にポリフェルカで結ばれた平和条約は、後に「英断の条約」と呼ばれた。女王はノルン大陸でもっとも勇気ある選択をした英雄として、民衆の絶大な支持を得るに至っていた。




 照明が落とされた室内で軍服を着た四、五人の男女が向かい合わせに座っている。その表情に笑顔は無く、無表情だった。


「各支部長が、賛同の意志を示しています。数日中には全軍の配置が完了するでしょう」


 眼鏡を掛けた男が、手に持った手帳を見ながら報告した。


「『ユーディキウム』はどうなっておる?」


 この中で一番年を重ねていそうな男が口を開いた。すると、眼鏡の男の隣に座っていた赤髪の女性が立ち上がった。


「現在の再構築率は九十パーセントです。こちらも期日には全工程を終了します」


「まもなく全ての準備が整います。決断のときですぞ、閣下」


 初老の男の隣で、部下の報告を聞いていた中年の男が、自分よりも一回り近く若い男に話しかけた。その若い男の軍服は他の者たちと違い派手な装飾が目立つ。この男が彼らの指導者であることは明らかだった。指導者は部下の話を終始硬く目を閉じて聞いていた。少し間をおいて、決意が固まったかのようにゆっくりと眼を開き、その口を開いた。


「……この作戦で、多くの市民と将兵の命が失われるだろう。だが、それでも我々は立たねばならぬ。戦場こそ我らが生きる場所、愛すべき故郷である!」


 指導者は、自身の手に持っているサーベルを抜きその切っ先を掲げた。


「各人決戦の準備を整えよ。我らの意志とそれを貫く覚悟を、この大陸の者どもに示すのだ……全ては我らの故国の為に」


「故国のために!」


 部屋にいた全員がその男の言葉を復唱した。それを合図に、彼らは忙しなく室内を後にした。ただ一人、指導者だけが室内に残された。男は自分の下した決断を悔いるかのように、サーベルの刀身を見つめていた。


 二人の男が向かい合って座っている。一人は真っ白なスーツを着こなした顔立ちのよい若い男で、もう一人はフード付きの黒いコートを着ている。その顔を見ることはかなわない。だが、背中に背負う大剣が彼の印象を濃くしていた。


「『ユーディキウム』の発動プロセスはどうなっている?」


フードの男が格好からは想像できない陽気な声でスーツの男に話しかけた。対するスーツの男もおどけた調子で肩をすくめる。


「予定通りだよ。終戦記念日には間に合うさ」


 フードの男の、唯一見ることができる口元が笑みを浮かべた。


「君もえげつない事を考えるね。あの激しい戦いからやっと立ち直ってきたこの国を、再び瓦礫の山にする気かい?」


 そう言うスーツの男の言葉に、フードの男を咎める意志は見受けられなかった。むしろ楽しみにしているようにも聞こえる。


「僕は唯、この大陸の者たちに素晴らしい舞台を披露して差し上げるだけだよ」


 そう言うとフードの男は立ち上がり、仰々しく両手を広げた。


「『リルーティア、僕と共に戦いへと赴こう! この世に愛を蘇らせるために』」


 フードの男は、ある演劇の台詞を口に出す。スーツの男はまたかといった顔をした。


「君も好きだね……僕はコメディの方が好きなんだが」


 スーツの男は苦笑して言う。その言葉に全く悪気は無かった。フードの男はその男の態度を面白がるようにじっくりと見ていた。


「分からなければ結構。僕の描く舞台の面白さは、見てみなければ分からないのさ」


 フードの男は自信満々に言った。踵を返し、室内から出て行こうとする。だが、扉を少し開けて男はスーツの男の方に振り向いた。


「何を望もうとこの幕は上がる。それは避けられない。だが、君もきっと気に入るだろうさ……君からは僕と同じ匂いがするからね」


 スーツの男は思い切り肩をすかして見せた。それが答えだといわんばかりに、言葉を発しなかった。「それでは」と言い、フードの男は宮廷の貴族のような礼をして室内を後にした。スーツの男には、その仕草が様になっているように見えた。

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