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裕史くんと沙織ちゃんの二次創作コミュのオカルト探偵・KAMAJI〜5〜

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ハァッ ハァッ ハァッ……



私は一人、森の中を走っていた。

何故、こんな所に居るのかは、解らない。

ここに来るまでの、そして【私を追う何かから逃なくてはいけない】という経緯に至るまでの記憶が無いのだ。

気がついた時には、既に私は走っていて、本能的に【追われている】という感覚だけがあった。



『い…一体、何が起こって……いるん…だ?』



足場の悪い森の中で全力疾走をし、息も絶え絶えになりながら、私は当然の疑問を口にした。



ガッ…



鈍い音と共に私の視界は一回転し、身体の至る所に鈍痛が走る。

どうやら、土から迫り出した木の根に足をとられ、転倒してしまったようだ。

早く逃げなければ、【ヤツ】に追い付かれてしまう。

そう思い、立ち上がる為に右足へと力を込める。



『…痛っ!!』



その瞬間、右足に電気のような痺れと激痛が走った。

足を酷くくじいてしまったようだ。

幸い骨に異常は無いようだが、この痛みではすぐに立ち上がるのは不可能だろう。

私は近くの樹の根元に人が一人入れる程の窪みを発見し、一時、身を潜めることにした。

痛めた右足を前に突き出し、左膝を抱えるようにして座り込む。



『ハァ…ハァ……。 まずは、現状とこうなるまでの経緯を……一度、冷静に考えてみよう。』



時々、波のように押し寄せる右足の痛みに堪えながら、全神経を思考に集中させる。

上がっていた息も徐々に平静を取り戻し、段々とではあるが、これまでの記憶が戻り始める。



『……姫奈龍子。』



そうだ。

今から三日前、私は依頼を受けたんだった。










つづく。

コメント(183)

R嬢さん


怪しいですねぇ〜。

どんな結末にしていきましょうかねぇ〜。
憑いてるのは俺だなw

恋しちゃってるし!
八木恋さん


そうですね。
ある意味、【憑いて】ますね(笑)
たぁさん


さてさて…

読み通りの展開になるのか、ならないのか!?

近々、クライマックスの予感がしないでもない!!
つづき。





『…くはっ!!』



拳大の石が高速で鼻先を掠める。



ドロッ…



鼻から口元にかけて、生暖かいものが滴り落ちる。

先程の石で鼻が曲がり、鼻血が大量に出ているのだ。


「ブフーッ!
くそっ! チョコマカ逃げてないで、大人しく当たれよッッ!!」



冗談じゃない!

掠っただけでこの威力。

まともに当たれば骨折どころの話ではない。

内臓破裂しても可笑しくないくらいの威力だ。

私は力任せに鼻を元に戻し、再び足の痛みを堪えながら走り始めた。



「また逃げるのかぁ〜!
本当に何から何まで、ズルい奴だなぁ〜ッッ!」



足の捻挫の為に全力で走ることは出来ないが、幸いにも奴は鈍足でしかも体力も無いので、まず走って追い付かれる心配は無い。

しかし厄介なのは、私が少しでも休むと…



ズゴオォォッッ…!!



このように奴の石が飛んでくる。

一定以上の距離がなければ、この投石を避けられない。

かといって、この距離で私に奴を攻撃する術が無いのも確かだ。

どうすればいい…!?

私には、あの二人のような霊と直接、戦える能力は無い。

当初の作戦ならば、私とハマー・ナマコマンの三人で奴を倒す予定だった。

しかし計算外にも、ハマーとナマコマンそれぞれのドッペルゲンガーが出現し、やむなく散り散りになって各々のドッペルゲンガーを相手にしているのだ。



…ズキィッッ



『ぐあっ!!』



足の痛みが酷い。

そろそろ限界が近付いている。

ハマーとナマコマンを信頼していない訳ではないが、いま此処に来る保証が無い以上、私が何とかしなければならない。

奴への対抗手段を考えているうちに、知らず知らず私の周囲に対する注意力が散漫になった時…



ドゴッ!!



『……!!
うがああああぁぁぁ……ッッ!?』



とうとう殺人的な威力を持つ、奴の石が当たってしまった。

しかも、当たったのは怪我をしている右足。

私はあまりの痛みに、地面にはいつくばり転げ回る。



「やった! ブフーッ!
ざまぁ見ろッッ!!」



メタボ鎌司は、よほど嬉しかったのか、両手を上げて喜んでいる。

そのうちに私は石の当たった箇所を確認する。

当たり所が良かったのか、なんとか骨折だけは免れているようだ。

だが、ここまでの無理と先程のダメージで、私の右足首はソフトボールでも入っているのかと思うような程に腫れ上がっていた。

もう、これでは走ることが出来ない。

絶体絶命か!?



「ブフフフ…。
もうこれで、チョコマカと逃げ回ることは出来ないね?



メタボ鎌司は、ポーンポーンと石を手の上で軽く投げながら、笑みを浮かべた。



「猫が捕まえた鼠をなぶり殺すように、じっくりと、丹念に、ジワジワと痛ぶって殺してあげるね…?
それとも、あっさりと脳天をブチ割って死にたい?」



奴の興奮と狂気は、もはや最高潮に達している。

そして、今の私にあがらう術は無い。

私はニヤリと笑うと、タップリと皮肉を込めて、こう答えた。










『じゃあ…【本日のランチ】で。』










「……【かしこまりました】。」



奴の手から、とどめの一投が放たれた。










つづく。
つづき。





私は覚悟を決め、目を閉じた。





ズドオォォ…ッッ





終わっ……た…。

この世界での死は、現世での死を意味する。

私は依頼遂行に失敗したのだ。

パンくん、すまない…。

お姉さんを元に戻すという約束、守れなかったよ。






それにしても…死ぬっていうのは、もっと苦しいものだと思っていたが、実際はそうでもないな。

………あぁ、そうか。

あまりにも激しい痛みを受けると、感覚が麻痺して痛みを感じなくなるというが、あれみたいなものかな。

それもそうだな。

あんな威力の石を当てられれば、そうなっても可笑しくはない。

たぶん、今これだけ思考が動いているのも、死ぬ間際に記憶が走馬灯のように走るっていう、あれなんだろう。





「…カメジ。」





…ん?

誰かが私を呼んでいる?

この呼び方は、ナマコマンか。

最期にナマコマンが出て来るなんて、最悪……。





「バウバウバウッ!」





……今度は…ハマーか。

思えば、ハマーとパンくんが来てからというものの、とても充実した日々を送ることができた。

彼等のサポート無しに、今の私は有り得なかっただろうな。





「カメジッッ!!」





…ん?

またナマコマンか。

流石に、しつこいな。

私も死んだら、何かの精霊になれるだろうか?

なれるなら、何の精霊がいいかな?





「カメジ!
目を開けて、前を見るんだYO!!」





……本当にしつこいな。

もう死ぬ人間に無茶を言うなよ。

そんな力が、どこに残って…。



………。

なんだ?

別に体に力が入らない訳では…ない。

手に力は……入る。

拳も作れる。



私は………死んでいない……ッッ!?





私は閉じた瞼をカッと、見開く。

次の瞬間、私の目に飛び込んできたものは…



『お……お前たち!!』



私の代わりにメタボ鎌司の投石を顔面で受け止めているナマコマン。

そして吠え立てながらメタボ鎌司を威嚇し、次の行動をとらせまいとする、ハマーの姿があった。



「アーウチチチ…
今日は酷いめに遭ってばかりだNE。
カメジ…なにメタボマンをヲレ達に押し付けて、自分は昼寝してるんだYO。」
『す…すまない。
二人とも、無事に自分のドッペルゲンガーを倒してきたんだな。』

「まぁNE。
ちょっとばかりパワーアップしてたみたいだけど、ヲレの相手じゃあなかったYO。」

『やっぱり、そうだったか。
あの強さ、何かの力が別に働いているとしか思えない。』

「そのことだけどNE。
ちょっぴり気になる情報をGETしたYO。」



ナマコマンはそう言うと、ドッペルナマコとの戦闘時に引き出した情報を、私に伝えてくれた。





『なるほど…。
何者かが、あのイヤリングを通して力を……。』

「そうみたいだNE。」



それなら、あの異常な怪力も説明がつく。

もしかしたら、ドッペルゲンガーを作ったのも、その【何者】…か?



「それにしてもカメジ。
ひとつ…疑問があるんだけどNE。」

『なんだ?』

「どうして、いつまで経っても座り込んだまま、立ち上がろうとしないんだイ?」

『あ? …あぁ。
奴の投石が右足に当たってしまったんだ。』



私がそう答えると、ナマコマンは「ムフーン」という鼻息と、両手の手の平を上に向ける、腹の立つジェスチャーをする。



「カメジィ〜。
此処は夢の世界だと言ったのは、YOUだYO?」



………?



…………。



…………あっ!

そ…そうか!

焦り・疲労・痛みで、この世界の大前提を忘れていた!

此処は夢の世界。

言い換えるなら、精神の世界とも言える。

今、私の姿を象っているのは、肉体ではなく精神。

つまり、私が私の姿を客観的にイメージしたものに過ぎないのだ。

ならば、ある程度は私のイメージでこの世界での自分の姿や能力は、どうにでも出来る。

それこそ、この怪我だって健康体を強くイメージすれば治すことが可能だ。

人間は、精神の生き物という言葉がある。

これは、人間という生き物は精神の状態が肉体にまで影響を与えることを指している。

例えばスポーツ選手が競技の前に、「大丈夫、自分ならやれる。」というように、自己にポジティブな言葉を投げかけたり、好きな音楽を聞いてリラックスするなども、この一貫だ。

また、火の点いていないストーブに、火が点いていると思い込んでいる人が触って、手に火傷を負うといった実例まである。

それ程に、精神と肉体は密接な関係なのだ。

私は足の怪我などしていない自分を強くイメージした。





つづく。
つづき。





すると、みるみるうちに右足の腫れと痛みは引いていき、すぐに立ち上がることができる位に回復していった。



『…よし!
これでまた戦え……』





ギャワーーンッ





再び戦う為、私が立ち上がろうとした時、ハマーの鳴き声が兒玉した。

今まで、私の身体が回復する為の時間稼ぎをしてくれていたのだが、とうとうメタボ鎌司の反撃を喰らってしまったのだ。



「ブフフーッッ!
よくも邪魔をしてくれたな、このクソ犬め!!」



メタボ鎌司は全体重を乗せ、倒れたハマーを踏み潰そうとするが、ハマーは寸前で身をよじってかわす。

そして、体勢を立て直すと、再び吠えながらメタボ鎌司を撹乱させる為に動き回る。



「カメジ…
ヲレのドッペルゲンガーも、そこそこに強かったけど、YOUのはどうやら格が違うみたいだNE。」



ナマコマンのリーゼントが上下にブルブルと動いている。

メタボ鎌司の発するプレッシャーに反応しているのだ。



「どうする、カメジ?」



イメージにより自分を強化して戦うという方法はあるかもしれない。

しかし、自身が想像もつかない程の力をイメージするというのは、矛盾している。

何か、他の方法で対抗出来る手段を見つけなければならない。



『……ナマコマン。』

「ん?
何か思い付いたかイ?」

『以前、ナマコマンがマスターとやっていた【合体】。
あれ…、私でも出来るのか?』

「エ…!?」



ナマコマンはギョッとした表情で私を見る。



「それはどうかナ?
ヲレもボスとしかやったことないし……」



いや、たぶん出来る筈だ。

見たことも無いなら無理だろうが、私は一度、目にしていてイメージは出来る。



『…とにかく今はそれしかない。
やるしか無いんだ!』

「オ〜ケ〜〜イ、カメジ。
ちゃんとヲレの情熱と愛を受け止めてくれYO!!」





いくぞ!





…………合体ッッ!!





私とナマコマンの身体はまばゆい光に包み込まれる。

ナマコマンの姿が徐々に薄れ私の中に溶け込んでいく。

自分の中に違う意識が入ってくるのは、奇妙な感覚だった。

感じたことのない力が、身体の奥から溢れてくるのが認識できる。

これが、【合体】というヤツなのか……!!










……………カッ










二人を包んだ光は一層強まり、辺り一帯を照らしつける。



「ななな…なんなんだよ、ブフー!
ビックリしたなぁ、もぉ〜。」



メタボ鎌司が眼鏡を外し、光で眩んだ目を擦る。

やがて光は収縮していき、中から一つの影が出てきた。

光が弱まると、段々と影の輪郭が見えてき始めた。





『不思議な感覚だな。
自分なのに、そうじゃないような…。
今にも溢れ出しそうなパワー感。』



鎌司は、自分の手や足・胸など、変化がないか確認する。

しかし…



『……妙だな。
これといって、変化は起きていないようだ。
失敗…という訳でもなさそうなんだが。』



特に目線が高くなったり、体毛が濃くなった様子はない。

だが、本人は気付いていなくとも、傍目で見ている者は、その変化に恐怖していた。

影の正体を見たメタボ鎌司は、ゴクッと唾を飲み込む。

そして一言、こう呟いた。










「……すっげぇリーゼントだブフー。」





つづく。
こっちもめちゃくちゃ面白い!!

続きも楽しみです!!
ガトさん


コメント、メチャクチャ早いですね!

不定期更新ですが、クライマックスも近そうな雰囲気なので、楽しみに待っててくださいね。
鎌恋さん


こちらもコメント、早ッッ!?
本当は【ヒョウイ合体】なのですが、携帯で変換されなかったので、諦めましたあせあせ
Seiさん


ドキドキしちゃいましたか(笑)

一瞬、リーゼントで体毛モッサモサの鎌司にしようかと思いましたが、

ちょっと可哀想なので、止めました。
つづき。





『さぁ、来い! メタボ鎌司!!
私と勝負だYOッッ!!』



若干、喋り方が変になりながら、私は頭に高々と聳え立つリーゼントを折り、メタボ鎌司に向けてホームラン予告を突き付ける。



「ブフフーッッ!
ちょっと濃ゆくなったからって、調子にのりやがってッッ!!」



メタボ鎌司の怒りは頂点を極めた。

鼻からは沸騰したヤカンのような水蒸気を噴射させ、眼鏡のレンズに亀裂が走る。

私はメタボ鎌司の額の辺りに、コブ状の突起物が迫り出していることに気が付いた。

それは段々と大きく、鋭利に成長していく。

あれは、コブなどではない。

………角だ!

あの姿はまるで…鬼そのものじゃないか!





【誰かがイヤリングを通して、ドッペルゲンガー達に力を送っているらしいYO】





先程、ナマコマンと交わした言葉が脳裏を過ぎる。

まさか、その【誰か】とは…!



「その顔を、グチャグチャのミンチにして、ハンバーグにしてやるッッ!!」



様々な憶測をしている間に、メタボ鎌司は投球フォームをとる。



『……!
考えるのは後だ!
まずは、こいつを倒さなければ!!』



私もメタボ鎌司に合わせて、野球の打者のごとく構えた。

メタボ鎌司は足を高く上げ(実際は腹の肉が邪魔をして、90度も上がってはいないのだが)、渾身の力を込めて石を放る。



「ブフフンッ!!」



石はヤツの手元からスピードを増し、ホッピングするように下から私の顔を目掛けて飛んでくる。



……ジャッ!



弾丸のような投石が右頬を掠める。





………見える!

これまで目で追うことが出来なかったあの石の軌道が見える。

メタボ鎌司は自身の失投により外したと思っているのか、肩を回して動きの確認をしている。

だが実際には失投などではない。

確実に石は私の顔面を捉えようとしていた。

しかし、ナマコマンとの合体により飛躍的に動態視力と反射速度が向上した私は、それを寸前で避けていたのだ。



「今度こそ、当ててやるブフーーッ!」



数度の投球確認をしたメタボ鎌司は、再び振りかぶる。



ビシュッ



二投目はタイミングを計る為、スイングを合わせてみる。



チッ …ズガッ!



ナマコバットにチップした石は軌道を変え、後ろにあった樹へと命中する。

避けながらスイングした為か、少し腰が引けてチップ程度になってしまったな。

だが次は……

その時、頭の中にナマコマンの声が響いた。



(カメジ。
今のスイングじゃあ、ダメだYO。)

『…何故だ?
今のはタイミングを合わせただけ。
次は打ち返せる。』

(いや…無理だYO。
カメジの深層心理にこびりついた石への恐怖が、あと一歩踏み込むのを拒絶させていル。)

『なら、どうすればいい?』

(…思い出すんだYO。)

『………?』

(あの破れた帽子で、いつも萎びた雑草を口にくわえ込んだ、どんな球にも真正面から向かっていく、彼の姿WOッッ!!)

『………!!』



そうだ。

彼はどんな球にも、それこそ超クソボール球にだって、その勇気で真正面から立ち向かっていたじゃないか!

思い出せ!

彼は自分に向かってくるビーンボールに対し、どう対処していた!?





「何ブツブツ言ってるんだブフー!
さっきのはマグレだ! そうに決まってる!
本当に今度の今度こそ、息の根を止めてやるブヒヒーッッ!!)



メタボ鎌司の運命の三投目が放たれる。

グングンと増すスピードは、私の顔を目掛けて真っ直ぐに進んでくる。

早く!

早く思い出すんだッッ!!



……ピクリッ



一瞬、幼き日に漫画で読んだ、彼のあの勇猛果敢な姿がフラッシュバックする。

そう、あれは確か…!

球に自ら近づくことを恐れずに、更に一歩踏み込む。

そして球を目掛けて、縦にバットを振り抜く!










カキーーーンン……










高校野球の金属バットのような、こぎみの良い金属音が鳴り響く。



「ブフヘヒャアアァァァ……ッッ!?」



その直後には、メタボ鎌司の断末魔の叫び声。

私の打ち返した石はピッチャー返しとなり、ヤツの身体のど真ん中を貫通していた。

口から蟹の泡のようにゴボゴボと音をたてながら血を吐き、大の字に倒れ込む。

私はヤツの近くに歩み寄ると、静かに語り掛けた。



『私はお前を怨んではいなかったよ。
お前という過去が…存在があったからこそ、今の私が在る。
お前は私にとって、掛け替えの無い存在なんだよ。』



既にヤツの顔からは鬼の形相は無い。

ヤツは私の話を聞くと、はにかんだように笑って消えていった。





もう少しだけつづく。
感動のフィナーレにむかってゴーですね!
八木恋さん


そうですね。

近々、フィナーレが近づいております。

もしかしたら『その頃、宇宙ステーションでは…』と続くかもしれませんが(笑)
つづき。





「もう、5時間も眠り続けてる。
時々、うなされてるし。
先生達…大丈夫かな?」



パン達は、鎌司とハマーの横たわった身体を固唾を飲んで見守っている。

ただ一人違ったのは、姫奈龍子。

あれから周りが話し掛けても返事のひとつもする事なく、黙って二人…いや、鎌司の身体を凝視していた。

まるで意識を、念を鎌司に送り込むかのような眼差しだった。










ピキッ…










乾いた音が僅かに響く。

それはテーブルに置かれた、姫奈のイヤリングだった。

パンはその音に気付き様子を見てみると、誰も手を触れていない筈のイヤリングに亀裂が入っていた。

不審に思ったパンが、イヤリングに触れようとした、その瞬間だった。



「グ…グウウゥゥ……」



突然、男とも女ともつかない呻き声が響く。

その声に反応し、振り返ったパンが見たものは、血の涙を流しガタガタと震える姫奈の姿だった。



「ひ…姫奈……さん?」



姫奈の異様な姿に恐怖を感じながらも近付こうとするパンに、マスターの激しい制止の声が飛ぶ。



「パン!
そいつに近付くんじゃねえ!!
早く俺の後ろに隠れるんだッッ!!」



マスターの声にビクリとすると、パンは姫奈に掛けようとした手を引き戻し、マスターの背後に逃げ込む。



「…マスター。
ど…どういうことですか?」

「もしかしたら…とは思ってたんだが、やっぱりだ。
この女、質の悪い悪霊か何かに取り憑かれてやがる…!」



姫奈は頭を抱え、苦しそうにもがいている。

目から流れ出る血の涙はポタリポタリと落ち、テーブルの上に血溜まりを作っていた。



『う…うぅ……』



その時、姫奈の姿に言葉を失っている一同の横で、眠っている鎌司がうなされた声を出した。



「…先生ッッ!!」

「アニキ、大丈夫っスか!?」



その声で我に返ったパンとシェルは、縋り付くように鎌司のもとへと駆け寄り、肩を揺する。

やがて鎌司は薄らと目を開け、二人へと微笑みかけて口を開いた。



『やぁ…。
おはよう、二人共。』



酷く疲弊し、汗にまみれてはいるが、命に別状は無さそうだった。

鎌司に続きハマーも目を覚まし、ナマコマンもどこからともなく、その姿を現した。



「先生…よかった。
本当によかったああぁぁーーーッッ!!」



泣きじゃくりながら抱き着くパン。

鎌司は少し戸惑い、恥ずかしそうな表情を見せながら、パンの頭に優しく手を置く。



『……ただいま。』



シェルもハマーとナマコマンに鼻水を擦りつけるように抱き着いていた。

しかし、そんな感動の再会を、マスターの一言が一喝する。



「…皆、感動してるとこ悪いが、今はそんな場合じゃねえみたいだぜ?」



そう言ってマスターが顎で指した先には、震えながらうずくまる姫奈の姿が。



『……姫奈さん?』

「鎌司、うかつに近付くなよ。
………よく見ろ。」

『………?』



マスターに促され、姫奈の様子を注意深く見ていると、ある異変に気が付いた。

姫奈の身体が、ボヤけているような、ダブッているような感じに見えるのだ。

マスターもそう見えているということは、決して疲労で目が霞むといった類のものではない。

こうしている間にも、ダブッては重なり、またダブッては重なるということを繰り返す。



『マスター。
やはり姫奈さんは…』

「あぁ。
憑かれちまってるみたいだな。」



急いで除霊しなければ。

そう思い立ち上がろうとするが、急に酷い目眩が襲い掛かかり、思うように身体を動かすことが出来ない。

私と行動を共にしていたハマー、そしてナマコマンでさえも同じ症状に陥っていた。



「鎌司、無理はするな。
お前等の精神的疲労は半端じゃねえ。」



姫奈さんのダブりは大きさを増し続けたが、突然、その現象と身体の震えがピタリと止まった。









「カ…マジ………」





暗く湿った陰鬱な声が、私の名を呼ぶ。

この声には聞き覚えがあった。

姫奈さんがうずくまった状態から顔を上げ、私を見つめる。

しかしその顔は、姫奈さんのものではなく、全く違うものへと変貌を遂げていた。



『やはり…貴女でしたか。』





つづく。
おおぉぉ、
いよいよクライマックス来ましたねぇ!!
どうなるんだ!!

そして、『貴女』とは一体誰なのか!?
次回を待て!!
八木恋さん


そう!

次回を待……

先に言われちゃったよ!
まってそいつは偽者の八木恋よっ!

めをさましてっ!
今度こそ八木恋さん


…はっ!

やっと気が付いた!

ガリさん、八木恋さんに成り済ますとは、なかなかやりますな(笑)
つづき。





額から迫り上がった突起物。

白目の無い、全てが漆黒に染まった瞳。

耳まで裂けた口から覗く、鋭利な牙。

正に【鬼】と呼ぶに相応しい、異形の姿がそこにあった。



「うわああぁぁぁッッ…!!」



彼女の姿を見た途端、シェル君は発狂したかのような叫び声をあげ、マスターの後ろに逃げ込む。



「アラ、シェル。
私ヲ見テ逃ゲルナンテ、酷イワ。
元恋人ニ対シテ…ククク。デモ安心シテ?
今ハ、アナタミタイナ虫ケラニハ興味ガ無イカラ……。」



鬼は薄気味悪い例の声で、怯えるシェル君を嘲笑う。



「…お姉ちゃん!!」



パンくんが涙を流し、震えた声で彼女を呼ぶ。

そう、この【鬼】はパンくんの実の姉が変貌した姿なのだ。

彼女は過去にシェルくんから裏切られ、生まれ持った強い霊力で復讐を試みた。

しかし、私とハマーによりそれは看破され、彼女の使った力がそのまま【呪い】となって返された。

あの姿は、その成れの果てなのだ。



「パン…久シ振リネ。
元気ニシテルミタイデ、姉サンモ安心シタワ…。」

「お姉ちゃん……。
元の優しい…あのお姉ちゃんに戻ってよ。
………お願いだから。」

「クク…。 駄目ヨ、パン。
私ニハ、ヤラナケレバナラナイコトガアルワ…。」



彼女はそう言って、疲労困憊で動くことの出来ない私へと視線を移す。



「鎌司…。
今回モ私ノ罠ヲ破ッテクレタノネ。
嬉シイワ……。」

『罠を破られて嬉しい?
………どういうことですか?』

「私ノ喜ビハ、アナタノ苦悶ニ歪ム顔。
私ノ快楽ハ、アナタノ絶叫。
アナタガ、モガケバモガク程…私ノ楽シミハ続ク。
アナタヲ殺ス時ガ、ヨリ楽シミニナル。
ククククク…ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ……ッッ!!」



狂ったように笑い続ける彼女を見て、私は背筋が凍りつき、それ以上の言葉を発せられなくなっていた。

彼女を元に戻す。

そうパンくんと約束し、私自身も揺るぎない強固な意思で、臨んできたつもりだった。

しかし、今は目の前にある圧倒的な力と恐怖に、その心さえも折られそうになる。

そんな金縛りのように、微動だに出来ない私の前に、ユラリと一つの影が入り込んできた。

……パンくんだった。



「お姉ちゃん…。
もう、こんな恐ろしいことは止めよう?
こんな事をしていて、お姉ちゃんが幸せな筈がないよ……。」



パンくんは、ゆっくりと歩みを進め、彼女の目の前に立った。

彼女もパンくんには害意は無いのか、そこまで近付いても、何もする様子はない。

パンくんは両手を広げ、彼女を優しく抱きしめた。



「パン…。
何ヲスルノ、離シテ。
私ノ邪魔ヲシナイデチョウダイ……。」

「嫌よ!
私…私、こんなお姉ちゃんなんか、見たくないッッ!!」



パンくんがそう叫んだ時、とめどなく流れていた涙の雫が、彼女の顔に飛んだ。



ジュウウゥゥゥ…ッッ!!



すると、その涙の付着した箇所から肉を鉄板で焼いたような音と煙が発生する。



「ウギャアアアアアァァァーーーーーッッッッ!!!!」



この世のものとは思えないような絶叫をあげた彼女は、パンくんの腕を強引に振りほどくと、後方に飛びのいた。

煙の出ている顔を、手で押さえた彼女は、怒りとも悲しみともつかない眼差しで私とパンくんを見る。



「鎌司…。
今日ハコノクライデ許シテアゲルワ。
マタ近イウチニ会イマショウ。
ソノ時モ、素敵ナ声ヲ聞カセテネ?」



そう言って、彼女は姫奈さんの身体から離脱すると、霧のように消えていった。

だが、私は確かに見ていた。

彼女が離脱しようと顔から手を離した瞬間、パンくんの涙が付着した部分が、元の人間に戻っているのを。





つづく。
まさかこんなことでお姉さんの助け方のヒントが・・・


そしてこのヒントを知ったパンさんが暴走しちゃったりしてwww
八木恋さん


パン暴走ですか(笑)

とりあえず、あんな展開にしちゃったけど、これからどうしゃうかなぁ?

パン本人さえ知らなかった秘密とか作ろうかなぁ?
しばらくチェックしていなかったら凄い話が進んでいるあせあせ(飛び散る汗)

まさかパンさんのお姉さんだったとは…冷や汗
R嬢さん


お待ちしてましたよ!

残すはエピローグのみとなっております。

たぶん、明日あたりかな?
エピローグ。





私はあの後、これまでの睡眠不足と疲労で、そのまま気を失ってしまった。

次に目を開けた時は、病院のベッドの中だった。

特に外傷や変調は無いのだが、念のためということで三日間は入院して様子を見るらしい。

付き添ってくれていたパンくんも、何か買いに行くと言って、今は居ない。

私は枕元の台に置かれたタバコとライターを手に取り、火を点ける。

本来なら病室内は禁煙なのだが、病室はちょうど私一人ということもあり、看護婦に頼み込んで、ようやく一日二本だけ許しを得たのだ。

吐き出された煙が病室の真っ白な天井に広がる。

私はそれをボーッと見つめながら、今回の事件を思い返した。



パンくんの涙により、一瞬だが人間の姿に戻ったお姉さん。

あれでは完全に戻ることは無かったが、あそこにヒントはある筈なのだ。

あとは、決定的な【何か】。

その【何か】さえ解れば、お姉さんを人間に戻してあげることが出来る筈だ。

だが、今はそれが何なのか見当さえつかないというのが本音だ。

まだまだ…調べることは山積みだな。



そんなことを考えていると、不意に病室のドアが開けられた。



『おかえり、パンく…』



入ってくるのは当然、パンくんだと思っていたのだが、ドアの前に立っている人物は、彼女ではなかった。



『姫奈…さん……?』



そう、入ってきたのは今回の依頼人、姫奈龍子さんだった。

しかし、最初に会った彼女の暗く重い雰囲気は見る影もなく、優しいものへと戻っている。



「八木さんがこちらに入院していると聞いて、お見舞いに伺ったんですが…。」

『え?
そんな気を使わなくても大丈夫ですよ。
仕事柄、慣れっこといえば慣れっこですし。』

「でも…!
私の依頼でこんな事になってしまったんですもの。」



姫奈さんはそう言って、申し訳なさそうに俯く。

本来は、こんな綺麗な人だったんだな。

最初が最初なだけに、そのギャップに驚く。

………ん?

いま姫奈さん、【私の依頼】って言ってなかったか?



『あの〜…』

「はい?」

『もしかして、これまでの記憶…全部あるんですか?
てっきり、霊に取り憑かれていたので、記憶は無いのかと…。』

「ええ、意識はあったんです。
でも何て言うか、私の意思を別の意思が支配しているというか…。
あのイヤリングを購入したのは、私の意思なんですけど。」



なるほど。

文字通り、彼女は姫奈さんを操っていた…ということか。

恐らくは彼女が呪いをかけたイヤリングを姫奈さんが、偶然にも購入してしまったというところか。



「それで…
八木さん、お身体の具合はいかがなんですか?」

『あぁ。
ただの疲労からくるものですから、二〜三日も安静にしていれば、退院できるみたいです。』



それを聞いて姫奈さんもホッとしたようで、表情に少し明るさが戻る。



「本当によかったです。
これ、足りるかどうか解らないですけど、依頼料です。」



そう言うと姫奈さんは鞄の中から、お札の入った封筒を取り出す。



『いえそんな…受け取れませんよ。
依頼だって、姫奈さんは操られてやった訳だし。』

「いいんです!
結果として、私は八木さんに救われたんですもの。」

『……そうですか。
では、有り難く頂戴いたします。
実は今月、ピンチだったんです。
助かりましたよ、ハハハ…。』

「フフフ…。
あ、あともう一つ。」



姫奈さんは再び鞄を開けると、今度は小さな箱を出した。

一瞬、またあのイヤリングかと思いドキリとしたが、その箱は綺麗にラッピングされ、イヤリングよりは少々大きめだった。



「少し早いんですけど。
これ、バレンタインです。
ちゃんと、手作りですよ?」

『え?
あ…有り難うございます。
嬉しいですよ。』



チョコを受け取った私を見て、姫奈さんは少しだけ頬を赤らめて呟いた。



「あの時の八木さん…格好よかったな。」

『………え?』



聞こえてしまった私も、思わず頬を赤らめてしまう。

ほのかに桜色の空気が病室内を漂う。

その時だった。



ガラガラガラ…



「先生、ただいま戻りました!」
勢いよくドアを開け、パンくんが帰ってきた。

その瞬間に、先程までの桜色の空気は一変し、痛い程の沈黙と凍り付いた空間となる。



「…先生。
人が心配してりゃあ、なに病室に女の人を引っ張り込んでるんですか?」

『えッッ!?
ご…誤解だよ、パンくん!!』



必死に弁解しようとするも、既にパンくんの耳には届いていない。



「二人で頬を赤くして、何が誤解ですか!
先生の、バッカヤローーーーーッッ!!」



……ゴシャ。



パンくんは何かを私の顔に投げ付けると、走って出ていってしまった。

その【何か】から、ハラリとカードがシーツの上に落ちた。



〜〜先生、どうせバレンタインチョコなんて貰う相手いないでしょ?
仕方ないから私が恵んであげますね。
言っときますけど、【義理】ですからね!
パンより〜〜



パンくんのくれたチョコは、ほんのりビターな味がした。






オカルト探偵・KAMAJI 〜5〜 完
いやぁ〜面白かったです!!
っておぉっと!!
エピローグでまさかの姫奈さんとぱん。さんの戦いがっ!!笑

これは第6章に関係してくるのか!?笑

第5章お疲れ様でした!!
ガトさん


いやぁ、疲れました。

たぶん、今までで一番長い話だったんじゃないでしょうか。

文章も期間も。

また暫くは、テイルズに集中します。

読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
依頼完了ですね指でOK今回はさすがの鎌司も手こずりましたね〜あせあせ(飛び散る汗)

ぱんさんのお姉さんの事も気になるけど、鎌司とぱんの恋の行方もチト気になりますねウインク

そしてマスターと私の恋の行方も…ハートって私は出ていなかったようれしい顔
R嬢さん、そろそろ出してみようかしら?

なんとなく、キャラのイメージは出来ております。
〜あとがき的なもの〜


本日、

オカルト探偵・KAMAJI第5話

終了しました。

約二ヶ月にわたっての長期トピになってしまいましたが、楽しんで頂けたでしょうか?

そして、読んでくれた皆さん、本当にありがとう。

皆さんのコメントが活力となり、最後まで書ききることができました。

では、また暫くは自コミュの創作に専念したいと思います。

いつになるか分かりませんが、またオカ鎌の新作でお会いしましょう。
たぁさん


ご愛読、出演、共に有り難うございました。

いつまた新作を作るかわかりませんが、その時はまた楽しんで読んで下さいね。
☆美衣☆さん


コメント下さって、ありがとうございます。

嬉しいです。

オカ鎌は、私の気が向いた時に始まる、超不定期連載なので、またネタが出来れば、スタート致します。

いつかは不明ですが、その時は宜しくお願いしますね。

また、これまでに作った話を少し修正したものを、私のコミュ『子供も大人も読みたい絵本&物語』とCielさんの『虹色文庫』にて掲載していますので、宜しければ覗いてみて下さい。

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