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泡蟹文庫コミュの2巻目「魅惑の花弁」その4

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                 6 暗黒

 彼は寂しい方なのです。彼の周りに人はたくさんいらっしゃいましたけれど、その方々は誰も彼のことを見てはおりませんでしたの。彼らは彼の足元にある財産にしか目がいかず、どうすればそれが手に入るかしか考えておりませんでしたわ。それに嫌気がさして、彼は人との交わりを絶ってしまわれた。ですから極端に疑念と嫌悪と排斥の気持ちがお強いのです。もし関わりあいたいとお思いならば、取り入ろうとするのでなく献身する気持ちで接すれば、きっと彼も心を開いてあなたを認めてくださるはずですわ。今まで人をほとんど信じてこられなかった方ですから、時間はかなりかかると思いますけれど……。きっとあなたなら――。
 はい? そうではないですって? あら、失礼いたしました。ワタクシったら勘違いを。てっきり彼との関係を取り持ってほしいのかと。――えぇ。――はい。……それでは、彼に聞きたいことがあっていらっしゃったのですか。その、ペットとやらがいなくなったことと、あなたの主人について何かご存知のところが無いかと。――はぁ。それに関してはワタクシも存じ上げませんわ。フフフ。お力になれなくて申し訳ありません。ですが、彼ならば何か……。いえ、それについても彼に直接うかがわないと分かりかねますわね。彼がどれほど話してくださるのか。
 ――ワタクシから彼にその旨をお伝えするのですか? それも疑問ですわ。確かに彼への接し方は、失礼ながらワタクシのほうが得意といえるかもしれませんが、この件につきましてはあなた自身のことがメインでございましょう? ワタクシが尋ねて答えていただいたものが、決してあなたが納得する答えとは限りませんもの。その後で納得しなかったからといって、もう一度あなたが同じ質問を繰り返すことはタブー。それならばたとえつたない言葉であっても、あなた自身が彼に直接うかがった方がよろしいかと。
 ――えぇ、彼は極端な人間嫌いではあるけれど、本当の用事があって尋ねるときはきちんと対処してくださいますのよ。何度かお見受けしたけれど、郵便物を配達してくださる方にも丁寧にお礼を述べ、場合によってはお品物を逆に差し上げたりなさっておいでですわ。ですからあなたも、ね、彼に一度お会いになったらいかがかしら。
 ――そう。やっと「会いたい」と言ってくださりましたね? ほらもうあなたの後ろにいらっしゃるのよ? どうかしら、初めて彼とお会いした感想は。それほど怖がらなくてもよろしくてよ。ただあなたを理解されていないだけですの。ほら、お話になって。さぁ。好きなだけ。ねぇ。
 あら? 気に入らなかったようですわね。アハハ。刺される度にあの赤いジュースが湧き上がって、おいしそう。今すぐにでも飲み乾してしまいたいですわ。あら? どうされたの? ピクピクと脈までうたれて。さっきの元気はどこへ行かれてしまったのかしら? フフフ。ああ、のどを潤すこの感触。素晴らしいわ! この色! この味! この香り!
もっと。
モット。
モットホシイ。
モットチョウダイ。
モット。モット。モット!

                   †

    ――三月二十四日 午前九時十三分
               私立探偵 ブライアンの日記――

 本日あの屋敷の謎を探るため潜入しようと思う。報告は帰ってからになるだろう……。
































                   †

――彼は手に入れた
――彼は今まで望んできた幸せを手に入れた
――彼は束縛することで愛を手に入れた
――そして彼は奴隷の地位をも手に入れた

 彼女は嘘をつくと微笑むのだ。花としてでなく、人の言葉で。まるで自分は人であるかのように上品に、そして妖艶に。無意識に微笑んでいるようだが、それは僕を裏切れないと意味している。彼女はどこまでも僕の手の中。逃れることは不可能。もちろん彼女が僕の傍に居続ける限り、彼女のためにできる事はなんだってするが……。今回のように血を欲するならば、与えるのが僕の使命。望むもの欲するものを僕の財力と知力で叶えてあげるのが最高の返答。あぁ、早く彼女の満足した姿が見たい。早く、早く、早く! 獲物に死を! ロゼという名の――いや、ローズという名の下に!
 少し熱くなりすぎたようだ。獲物に気づかれては意味が無い。今回の獲物は男だ。味は女や子供に劣るが、鮮度には問題ない。何しろ敷地内まで入ってきてくれているのだから。それも彼女の居る温室に、だ。この機を逃す手は無い。彼が家から出る前に仕留めなくては。ナマモノは傷みやすい。できるだけ彼女に近い位置で処理したほうが良い。
 さてと、問題は何を持っていくかだな……。とりあえずナイフとナタ、ノコギリは必須だろう。ずっとあの場に居る彼女はきっと退屈しているだろうから、何か他に面白い刃物も数本持っていくとするか。目の前で解体ショーを行えば、少しは退屈な気が紛れるはずだ。どんな斬り方が一番効率よく血液を採取できるか判断基準になるし。あぁ、楽しみだな。彼女の喜ぶ顔が目に浮かぶよ。そして獲物のおびえる愉快な顔が。殺してくれといわれても、殺さない。なぜなら獲物のために殺すのでなく、彼女のために殺すのだから、獲物の言い分なんて聞きやしない。絶対に。
 さて、準備は整った。今彼は彼女の許(もと)で、のんびりと会話でも楽しんでいるのだろう。これからの惨事も知らずに。そろそろ話も終わりに近づいているようだが、何とか間に合いそうだ。彼は勝手に敷地内へ侵入し、彼女と会話し、もしかしたら彼女を傷つけたかもしれない。――これは立派な罪だ。罪を犯したものは、それが罪であることを知る必要がある。知らさなければいつまでも過ちを繰り返すから。『疑わしきは罰せよ』。僕は罪に対してきちんと罰を与えるよう教わった。だから、殺す、彼を。
 簡単なことだ。背後からナイフで数回刺し動きを止め、両足首を切断。次に両手首を切断して、彼女へ血液を捧げる。出なくなったら、分断してミキサーにかけ肥料にしてしまえばよい。彼女もきっと喜ぶだろう。あの艶やかな赤が、さらに深みを増し、美しく彩るのだ。全ては彼女のため。全ては彼女のため! 全ては彼女のため!!
 ――さぁ、仕事だ!

「……あぁ、素晴らしいよ! ローズ! お前はこの世で一番美しい存在だ! こいつの血も飲み乾して、その赤い花弁をより赤く美しく染めてくれ! あぁローズ、ローズ! ロオォォォズウゥゥゥゥゥ!」




あとがきということで。
ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。
ワタクシのきったない文章でも暇つぶしに使えたら結構なことです。

さて、ずいぶん前に書いたものだから、憶えてないことだらけですよ。
伏線とか聞かれても、答えられるかどうか……。
まぁ書いた当初はそれなりにがんばって書いたつもりなので、
何とか形にはなってると思いますが、まだまだ未熟。
感想とかあればどうぞ。
――読了お疲れ様でした。ではまた。

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