「なあ、兄貴」
そういって弟は、無理やりな笑顔を向けてきた。私は視線を合わせることが出来ず、ただただうつむいた。
「俺ね、最近兄貴の為に毎日祈ってるんだ。ほら、これ」
弟は手を差し出してきた。見ると、それはユダヤ聖書だった。本はひどく傷んでおり、表紙は剥がれかかっている。それでも弟は笑っていた。
「ここ、見てよ」
弟は本を開いた。そこにはこう書かれていた。
『助け合う兄弟はまるで堅固な城のようだ』
「ありがとう」私はただひと言つぶやき、席を立った。溢れる涙を悟られまいと、弟に背を向けたのだ。
背中ではいつまでも弟が叫び続けていた。兄貴、兄貴――。
私はある罪を犯し、この塀の中から一生出ることのない身である。
私は願った。ならば神様、どうかその城が崩れぬよう、お守りくださいと、弟に背を向けたまま祈り続けた。
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