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黒魔亭コミュののてりアドベンチャー

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コメント(31)

彼は道に迷っていた。
「迷ってなどない!」
人生に迷っていた?
「むしろ順風満帆だ!くそっ、なんでこんな山の中で一人で叫ばなければならんのだ!」
そう、彼は道だけでなく、仲間からもはぐれているのだ。
「はぐれてなどない!ちょっと別行動をとっているだけだ!なんなんだこの状況は、イライラする!」
一人虚空へ叫ぶ彼の姿は、しかし山の中には似つかわしい、兎。
「兎なんかと一緒にするな!タビットだ!」
その時彼の長い耳がピクリと動く。
「む、殺気!」
右へちょうど100度振り向いた時、まさにその身に迫る、一条の矢を発見した。
彼は咄嗟に腕で矢を払いのけ

(ザクゥ)

られなかった。
見事に額を撃ち抜かれ、仰向けにバッタリ倒れてしまった。

『のてりアドベンチャー』

完!!




































「よし、当たったぞ!」
子供の声がする。
「…夜ゴハン」
別の声もする。
男の子が意気揚々と、女の子が恐る恐る獲物に近づく。まだ幼いと言っていい年頃だ。
「変な模様だと思ったら、布が巻き付いてら」
「…服」
「あれ?荷物も引っかけてるぞ」
「…あ、くまさんのぬいぐるみ」
女の子が、荷物の中にあったぬいぐるみを抱え上げる。気に入ったようだ。
「これ、兎じゃなかったのかな?蛮族?」
「…多分、タビット。初めて見た」
「何それ?変種の野獣?」

“………誰が野獣(のけもの(のけ者))かー!”

地の底から轟くかのような声を響かせ、額から角の様に矢を生やしたタビットがユラリと起き上がる。
「ぅわーー!」
「きゃーー!」
不自然な動きで子供に迫るタビット。彼の眼鏡が怪しく光る。
“かえせー”
ぬいぐるみに手が届いた瞬間、男の子の蹴りが顔面にヒット。鼻血を噴きながらあらためて仰向けに倒れるタビット。
「に、逃げろー!」
「…う、うん」
男の子は一目散に、女の子は戸惑いながらもぬいぐるみを抱えたまま、山の中へ走って行ってしまった。
一人残されたタビット。
おもむろにムクリと起き上がる。
「ガキが。俺を獲物と間違えるなんて」
生きてたのね。じゃあここからは『復活!のてりアドベンチャー』って事で。
「子供の力とはいえ、当たり所によっては危なかったぞ」
いや、まさに狙い撃ち的中って位置ですが?
彼は服の汚れをはたき落とすと、額の矢を慎重に抜いた。流れ出る血を押さえながら、懐からポーションを取り出して一本を飲み干す。
「とりあえず休もう。あいつらが家に帰るまでは俺自身が動けないしな」
それだけ言うと、木の根本に座り込み、目を閉じた。
つまり、さっき操霊魔法の『ドールサイト』をかけたから、あの子達が家に着くまでそれで道を見て覚えて、後でゆっくり追いかけるって事ね。
そんな回りくどい事しなくても、普通に話しかければ良かったのに。
「軽率には恐怖を、だ」
はいはい、むかついたってね。
大人気ない。
新しい朝が来た。
昨日はあの後、野良蛮族を追い払ったり、あの子供達の家を訪ねたらゾンビ扱いされて男の子と決闘したり、ぬいぐるみを返して貰うために女の子とお姫様ごっこをしたり、まだ若いお母さんとお風呂場で鉢合わせそうになったりしたが、そんな事は些細な出来事だ。
『…右手に炎、左手に影…』
そして彼はさっきから必死で虚空に語りかけている。
あ、紹介が遅れたが、彼の名前はノテリ、種族タビット、性別男、年齢15、彼女いない歴じゅ…(パンッ!(柏手))…15年。
彼の耳がピクピク動く。
阻止出来なかったのが悔しいらしい。まだまだ甘いな。
『…仮初めの魂を宿らせ給え』
ついに呪文が完成する。
床に描かれた魔法円。その中央に置かれた一見ただの木の枝が、蠢いたかと思うと突然成長を始めた。
伸び、曲がり、分かれ、捩れ、あっという間に人形になる。
小鬼にも似たそれは、『オーク』と呼ばれるゴーレムの一種だ。
こんなもの作ってどうするつもりだ?まさか、一晩泊めて貰って恩を仇で返すつもりじゃ…。
「…お前に仕事を与える。とりあえずついて来い」
言ってノテリは部屋を出る。後に続くオーク。廊下を進み、そのまま裏口を使って家からも出てしまう。
そこに子供の声が聞こえてきた。
「朝ごはん出来たってのに、どこ行ったうわ何あれ!?」
「…木のお人形?」
「キモッ!」
「…かわいー」
男の子は女の子を、ちょっと嫌そうな顔で見た。
とうのノテリは切り株の前にオークを立たせ、具体的な命令を与えていた。
“切り株に物が乗ったら、挙げた腕を降り下ろす”
そしてその腕に手斧をくくりつけている。
って事は…自動頭割り装置か!
「自動薪割り装置だ!頭割るのは頭悪すぎるだろ!」
さいでっか。
「ノテリさん、朝ご飯できましたよ」
お母さん登場。
「まぁこれは立派な………すみません、何ですか、これ?」
「おはようございます、一宿一飯のお礼に…」
朝ごはん貰ったら二飯じゃない?
「……お、お礼に、薪でも割ろうかと思いまして」
「これで、ですか?」
「まぁ見てて下さい」
ノテリは薪を一つ切り株の真ん中に置く。
パカーン!
見事に薪を割った!
「まぁ、素晴らしいわね。でもちょっと危なくないかしら?」
「そういう時こそコレです」
くまのぬいぐるみを取り出すと、眼鏡をきらめかせながら呪文を唱える。
するとなんと、ぬいぐるみが勝手に動き出した。
そして脇に積んである薪を一つ取ると、切り株の上に置いた。
パカーン
オークが薪を割る。
ぬいぐるみが薪を置く。
パカーン
オークが薪を割る。
「後は割れた薪を拾い集めるだけです」
「まぁ!これは便利ね!」
「こいつらは丸一日働きますし疲れ知らずなので、あとはお子さんでも大丈夫ですよ」
「え?ノテリさんは?」
「私は旅をする身です。あまり長居は迷惑でしょうから、そろそろお暇しますよ」
と言うと彼はまとめてあった荷物を持ち、引き止める声に手を振って応え、麓の集落へ向けて歩き出した。
え?朝ごはんは?まさかこいつ、『一宿一飯』にこだわってるとか言わないよな?
ナレーションが誰なのか期待するところだ。
「腹減ったなぁ」
今からでも遅くないよ、戻れば?
「そんな事できるわけないだろ」
もう作った後だよ?逆に処分に困ってるよ、きっと。
「う…」
その時彼は何かに気付いた。
がばと振り向く。
「しまった!」
どうした!?
「俺としたことが迂闊だった!」
だからどうしたんだ!?
「あのぬいぐるみは、返してもらわないとなっ」
内容と裏腹に嬉しそうに引き返すノテリ。
別に理由がご飯でもぬいぐるみでも体の悪さには変わり無いだろうに。
その時、悲鳴が聞こえた。
この声は、お母さん!?
「…っ!」
駆け出すノテリ。
どうしたんだろう。まさか頭割っちゃった?
「…いや、この気配は…蛮族!」
昨日追い払った奴らか!
「性懲りもなく!」
全力で山道を駆け上がるノテリ。
たしかゴブリンやコボルトだったはず。今度こそやっつけちゃえ。
「貴様ら!そこを動…く……な……」
勢い込んで駆け付けたそこには、気を失ったお母さんと、蛮族の御一行様その数10体程。
ただその内容は、ゴブリンをはじめオーガ種や名のわからぬキメラっぽいの、さらに頭良さそうな人型蛮族もいる。
正直、強そう。
ノテリ一人でどうにかなるのか?
そいつらが何故か、子供二人を攫おうとしている。
「マ、マて、その子らをど、どうする気だ?」
声裏返った上に言い放ちきれてないノテリ。
ビビるのは分かるけど、カッコだけはつけようよ。
『決まっているだろう、今日の晩飯だ』
オーガ(多分)がニヤニヤしながら答える。
『正確にはデザートだな。幼体の肝は臭みがない』
キメラ的な奴が補足する。
よくみれば、猪だの熊だの、メインディッシュ用の肉も捕らえている。
「そんな事させるか!『大気に散らばる欠けたる想い…』」
無謀にも、攻撃を仕掛けるノテリ。呪文を唱え、マナを現象に変え、力に方向を与える。
その寸前、ゴブリンの一体が矢を放った。それは一直線にノテリの額に向かう。
昨日の教訓を生かせ、ノテリ!
「甘い!」
反射的に身を躱し

(ザクゥ)

きれなかった。
大きく後ろに倒れ込むタビットの少年。
『たわいもない』
去り行く蛮族達。

『復活!のてりアドベンチャー』

かn
ムクリ。
起き上がるタビット。
“かえせー”
無念が過ぎたか?今度こそゾンビか?いや、彼の瞳にはまだ光がある!
しかし自力で額の矢を抜いたものの、今度は俯せに倒れる少年。
起き上がろうとするも、四肢が身体を支えられない。
「こんなところで…」
去る蛮族に向かって腕を伸ばすが、その視界が暗転する。
「もうダメ…なのか…」


































かすかに外が騒がしい。
「もう…だめだ…………はっ!」
とび起きるノテリ。
彼はベッドの上にいた。
どうした、悪い夢でも見た?
「……あぁ、こんなところで寝てる場合ではないというのに!」
そう、あれからもう3日も経っていた。
今はお母さんに寝かしつけられている。彼女自身はかすり傷程度で、心配は無い。
しかし子供達は…。
「早く追わないと手遅れになってしまう」
ざわと、木々が揺れる。
そんな事言っても、君自身が回復しないと…。
「そんな悠長な事言ってられないだろ!?ほら、俺はもうこんなに元気だ!」
そんなすごい眉間にシワ寄せて言っても説得力ないよ。傷は治ってても、痛みはあるんだろ?途中で行き倒れたらみっともないよ。
「ぐ………」
外の音が大きくなる。
「まぁノテリさん、ちゃんと寝てないとダメですよ」
お母さん登場。
「いえお母さん、私はもう…」
「いけません。治るまでしっかり休んで下さい。それに…」
窓の外に視線を向けるお母さん。
「子供達もきっと、それを望んでますよ」
「………」
悟った様な表情。
「なにより…」
窓に寄り、それを開けるお母さん。
外の音がはっきり聞こえてきた。
「あの子達の命の恩人ですもの」
外から声が聞こえる。
「僕がオークだ!」
「…わたしくまさん」
「切り株に乗ったら!」
「…割る」
パカーン。
「切り株に乗ったら!」
「…割る」
パカーン。
自動薪割りごっこをしているようだ。
そう。ノテリの活躍で、子供達には怪我一つない。
あの日は大変だった。
麓の集落で準備して、すぐに蛮族を追いかけて、ゴーレムや罠、知略を尽くして雑魚を退けると、ボスには口八丁手八丁、舌先三寸で丸め込み、とっておきの秘策や最終奥義まで繰り出して、なんとか子供達を取り戻したのだ。
その凄まじさは漫画は勿論、アニメでもフルCGでも、ましてや文章でなど、再現する事は出来ないだろう。
「あなた達、そろそろお昼にしますよ」
『はーい』
二人の声が重なる。
「ノテリさんも一緒に」
言ってタビットの少年を抱え上げるお母さん。
「うわもう歩けますから!」
「そんな事言わずに」
抵抗むなしく運ばれるノテリ。「それにもう行かないと、仲間が…!」
「後でまた全身シャンプーもしましょうね」
「いやあの……………はい」
それこそ断れよ。


その後結局、一週間も持て成されてしまうのだった。
彼が仲間と合流出来るのはいつの日か。




ところで、自動薪割り装置にいたく感銘を受けた子供達。
男の子が将来マギテックを修得し、主婦を楽にする装置を開発して有名になったり、女の子は『人形使い』と呼ばれる凄腕のゴーストハッカーになるのだが、それはまた、別のお話。




『のてりアドベンチャー』

第一話 完

オチがダイジェストおおおおおおおおお!!!!!!(゜д゜)
いや、面白かったよ。お疲れ様でした。
> GMオブGMまことさん

一気にとばした所、前半のも後半のも細かいとこまで考えてあるんだけど、途中でだれそうだったから終わらせたの。
近々第二話アップ予定です。
期待せずに待て!
第二話


突然の雷雨。
短い足で必死に走るタビットの少年。
「短いは余計だ!」
ほらほら走って。濡れちゃうよ。
「……もう、手遅れ、だろ」
あ、あの大きな木の下、わりかし平気かも。
「はぁ、はぁ、どこだ、ここは。多分、この辺りだと思うが」
鬱蒼と繁る木々が、時折稲光に照らされる。
山の麓だから、そんなに遠くないと思うけど。地図は?
「濡れた。判別不可能だな。でも地図に間違いがなければもう見えても……」
その時、一際強い稲光。
それが浮かび上がらせたのは、半分山にめり込んだ、大きな砦。
「と、砦?聞いてたのは、普通の山小屋のはずだが…?」
とりあえず行って聞くしかないんじゃない。もしかしたらおじいちゃんが自分で改築したのかもしれないし。
「一人でどうなるってレベルじゃないだろ。まぁ行くがな」
雨が多少弱まった頃合いを見計らって木の下を飛び出すノテリ。
なんだか大変な事になりそうだね。
ただのお使いの依頼のはずだったのにね。
回想。


それは今朝の事だった。
「頼む、これを親父に渡してくれ…ゴホゴホ」
布団の中から懇願するおじさん。
奥さんと子供も心配そうに見守る。
ここは街からはかなり離れた辺境とも言える村。その中の、たまたま知り合ったおじさんの家の中だった。
確かこの辺は蛮族の勢力範囲に程近いはずだけど、利用価値の低さからか、たいして問題の起きた事も無い地域。
で、なんでこんな所にいるかと言うと、全てはノテリの方向オン…。
「アイツらの事だ、逆にこっちにいるかもしれんだろう」
じゃあま、そんな感じで。
「私からもお願いしていいですか」
奥さんが言う。
「お義父さん、もう歳だし、様子を見るだけで構いませんので」
「俺が動ければすぐに後を継いで、親父を帰らせるのに」
「あなたったらまたそんな事を…。そんな必要無いでしょう?」
「そうだよ、お父さんとおじいちゃんと一緒に暮らすんだよ」
男の子も言う。
なかなか複雑な事情のようだ。
詳しく聞くと、そのおじいちゃんってのが変わり者で、ここからさらに山に入った所の山小屋に一人で住んでて、自称『一人蛮族防衛線』。なるほど筋骨逞しい老人で、山刀一つで自給自足の生活をしているとの事。とは言えさすがに本当に一人で蛮族を退け続けられてるわけもなく、実際は昔この辺りに派遣された辺境守護衛士の子孫で、自分は重要な役割を与えられた一族の末裔だと思い込んでいるだけらしい。
でも最近は歳のせいか時々体調を崩すらしく、一月に一回は息子であるおじさんが薬や身体に良い調味料等を差し入れに行っているのだそうだ。
「俺がこんなじゃなければな」
うめくおじさん。体格はかなり良い方なのに、顔色が悪い。
囁くように奥さんに聞く。
「(何か、重い持病でも?)」
「いえ、ただの風邪です。この人、図体はでかいくせに、病弱なんですよ」
「はぁ………そうなんですか、そうなんですね…へぇ…」

回想おわり。



とか思い出してるうちに、砦にたどり着くノテリ。
でもよく見ると変な砦だ。大きさからすれば100人くらいは余裕で詰めてそうなのに、入口は二人しか通れそうにないくらいちっさいし、ノックしても誰も出ないし、鍵もかかってないし。
って勝手に入っていいの?
「しょうがなかろう、事情を説明すれば許される範囲だ」
そうかなぁ?
「しかし…誰も出てこないな」
入った所は小さな部屋で、まるで玄関。
正面に扉がある。
ん、何か書いてない?
「何…『鍵は開いている。入れる者だけ入れ』?どういう事だ」
見た目には普通の扉に見える。形からすると、押して開けるようだ。
取っ手を持ち、押すノテリ。
体重をかけて、押すノテリ。
渾身の力を込めて、押すノテリ。
開かない。
いや、わずかにズレた。
でもすぐに閉じてしまった。
「重いわ!くそっ、だれか居ないのかー!」

しーん。

「こうなったら、意地でも入ってやる」
荷物の中から<魔化された石>を取り出すと、やおら呪文を唱えはじめる。

一時間後。

「石の従者よ、そこの扉を開けろ!」
って軽率過ぎない!?扉開けるためだけにストーンサーバントとか!
サーバントは楽々、かどうかはわからいけど、とにかく扉を押し開いた。
脇を抜けて中に入るノテリ。
「入ってやったぞコラー!責任者出てこーい!」
少年の声が、砦に響いた。












結局、最深部と思われる所にたどり着くまで誰にも出会わなかった。
しかもやたら“注文”が多かった。
部屋を進む度に走らされたり泳がされたり、最後には落ちてきた天井を支えて、ストーンサーバントが壊れてしまった。
「従者の仇、必ず討ってやる」
目的すり変わってるよ。
「討つ相手がいればだけどな」
おじいちゃんは討っちゃ駄目だよ?
「……」
ノテリは辺りを見回す。
目の前には、山小屋があった。
建物の中にさらに建物。
さっぱり訳が分からない。
その異様さに気付いているのかいないのか、ノテリは山小屋の戸を勢い良く開ける。
「たのもー!」
小屋の中は小綺麗に片付いていた。
目につくのは寝台とテーブル代わりの切り株。
そして寝台の上の老人と、切り株の上の…、て、鉄板…?
幅50cm、長さ2mはある金属の板が乗っていた。
「そんな物どうでもいい。多分山刀だと思うのだが…」
室内を見回すノテリ。
あの、おじいちゃんは?
「多分死んでる」
そうか、死んでるのか。
…。
ん?
死んでるの!?なんで!?
「この状況見ればわかるだろ」
どの状況だよ。
その時不意に、声が響いた。
『力が欲しいか…』
『力が欲しいか…』
見回すノテリ。しかし、死んでいる(らしい)おじいちゃん以外に誰もいない。
『力が…』
「どこだ?」
『欲しいなら…』
「いらん!」
『くれてや………え?』
「まだ」
まだ!?
『まだ!?』
思わず謎の声と同時に聞き返しちゃったよ。
「どのような種類のものかも分からんうちに、ホイホイ手がだせるか」
言いながら部屋を捜索するノテリ。
『なるほど、用心深いな。しかしここまで辿り着いたお主だ、気に入る事間違いなしじゃぞ』
「能書きはいい」
言い放ちながらも部屋を探り続ける。
『最大の効果は文字通り<力>じゃ。気力と根性を力に変える事が出来る』
「ほぅ…」
『更に、どんな強敵でも恐れる事なく戦う、強い勇気が備わる』
「ふん…」
『それだけではないぞ、索敵に有利な、目、耳、鼻がすこぶる良くなる。闇夜の襲撃も問題無い』
「やっぱいらんわ」
『おまけとして戦士の助言を…何?』
「いらないと言ったのだ。そもそもお前自身はいったいどこに痛っ」
寝台の下を覗き込んだノテリが起き上がった拍子に、鉄板の出っ張りに頭をぶつけた。
途端に、鉄板から強力な魔力が流れ出し、ノテリの体を包み込んだ。



















「受け取れ!」
「いらん!」
「くれ!」
「やらん!」
「お主に託すと決めたんじゃ!」
「私には必要無い!」
「俺にくくれればいいじゃないか!」
「お前には無理じゃ!」

………

混沌としていた。
ここは戻って村のおじさんの家。
おじさんとおじいちゃん(生きてた)とノテリが言い争っている。
どんな状況かと言えば。
図らずも魔剣(鉄板に見えた物)の所有者となってしまったが、絶対いらないノテリ。
あとを継ぎたいおじさん。
一度なったからにはどうしてもノテリに使わせたい上に、身体の弱い息子には渡したくないおじいちゃん。
の三つ巴。
…三竦み?
あ、関係ないけど、あの謎の声はおじいちゃんの腹話術だった。孫を喜ばすために練習したんだって。
紛らわしい。
「こんな極端なものはいらん!」
「なぜじゃ?このブレイブグレイブがあれば、そんじょそこらの蛮族なぞ、ものの数ではないぞい」
「問題はだ…、…視力が良くなると言ったな」
「ああ、向かいの山の蝶の模様も見えるぞ」
「そんな事になったら、この眼鏡の存在意義が無くなってしまうではないか!」
「ぁ、ぅ、はぁ?」
おじいちゃんが言葉に詰まる。
「ダテにすれば?」
「意味の無いものを着けたくはない!」
おじさんの助言も両断。
「しかし、あの試練の道を突破したのじゃから、おぬしが持つべきじゃろ」
「そこだ!私は何一つクリアしていないぞ」
「そんな訳はなかろう。でなければあそこまで辿り着けんはずじゃい」
「ゴーレムだ」
「ゴーレムなぞ試練には出てこんわい」
「違う。突破したのがゴーレムだ。良く考えろ、私があの試練を突破出来るわけがなかろう。最初の扉さえ開かなかったわ」
とたんにうろたえ始めるおじいちゃん。
「いや、しかし、お主あの時一人だったではないか」
「吊り天井でな…」
「…」
おじさんが手をのばす。
「………じゃあ俺が」
「返せ!」
おもむろに大剣を引ったくるおじいちゃん。
が、その重さを支えきれず、倒れてしまった。


戸惑うおじいちゃん。
「な、何故じゃ!?何故所有権が移らん?」
「あー…それはだな」
頬を掻くノテリ。
「魔剣の意地だ。…頑固なんだ」
どういう事?
「消去法でな」
もしかして、おじいちゃんの意志と魔剣の意志が重なって?
「だからじいちゃんを説得できれば、魔剣も諦めるかと思ったんだが」
おじいちゃんが驚きを通り越して呆れている。
「いったい誰に似たんじゃ」
「あんただ!」
「ワシはそんな魔剣に育てた覚えは無い!」
「あんた自身がそう育ってるんだ!」
どうすんのさ。
「どうするも…なんとか説得して…」
置いて行けないの?
「これがな…ビニールの破片が静電気でくっついてくるみたいに、なかなか離れないんだよ」
うわ、うっといね。いっその事持ってっちゃえば?
「重いのは重いんだよ。邪魔だし、どうせ使いこなせないし、絶対いらない」




結局魔剣とこの家族を説得するのに三日三晩費やした。
最終的に、孫の男の子が所有者になるという、問題先送り的解決に至った。
タビットの少年は、いつになったら仲間に追い付くのだろうか。



ちなみにあの砦は観光スポットとなり、村興しのイベント開催地として重宝され、力自慢達の聖地となるのだが、それはまた別のお話。
第三話



夜中の雨の中、二人の少年が路地裏を走っていた。
一人は帽子を、もう一人はフードを深くかぶり、顔はよく見えない。
分かれ道に差し掛かり、しばし逡巡する二人。
「右でいいか、コルク?」
言って、返事も待たず駆け出す帽子の少年。
「ま、待ってノテリさん、そっちは」
慌てて後を追う、コルクと呼ばれたフードの少年。
不意に広い通りに出ると、いきなり呼び止められた。
「おい貴様ら、何者だ!」
見事な体躯の男性が、手斧を持って近づいてくる。
「お前ら、顔を見せろ」
身を竦めながら、見合わせる二人。
「グズグズするな!」
おずおずと、帽子とフードをとる。顔があらわになる。
「なんだ、人間のガキか。お前ら、タビットとナイトメアを見なかったか?」
「み、見てないよ」
帽子をかぶりなおしながら、ノテリが応える。
その時、他の路地から別の男が現れた。
「いたか?」
「いや、いたのは人間のガキだけだ」
「…こんな時間にか?どこの子だ?」
男が振り返った時には、すでに二人の少年はいなかった。
「まさか、さっきの奴らが?」
「追って確かめろ」
男達は、路地に走り込んで行った。



「行き止まり!?」
路地を走り回ったあげく、行き着いたのがここだった。
小柄な体を利用して近道を使ったつもりが、裏目に出た。
まさに袋のネズミ。いやウサギだ。土地勘無いのにむやみに走り回るから。
「うるさい!しかし…」
塀の向こう側は道の様だが乗り越えるには高く、下にも横にも通れる隙間はない。
追っ手の声が聞こえる。
「こっちか」「間違いねぇ、他に逃げ場は無ぇはずだ」
万事休すか。
その時、横手にあった扉が開いた。
「こんな夜中になんだね、騒々しい」
そこには、茶髪茶眼の青年が立っていた。
「お前、レイアード!」
「その声はノテリ君かい?まあいい、入りたまえよ、雨が吹き込んでくる」
「どういうつもりだ」
「つもりも何も、匿ってあげようと言ってるんだ。今まさに君達を追ってる人に比べれば、ましだと思うがね」
どうするの、ノテリ?
「…コルク、入るぞ」
二人が入るとレイアードは扉を閉めた。
中は居間の様な部屋だった。
物陰に身を潜めると同時に、扉が荒々しくノックされる。
少し間をおいてから扉を少しだけ開け、外の男と話すレイアード。角度のせいかレイアードの声しか聞こえない。
「こんな夜中にいい加減にしてください。…断りましたよ、そうしたら兎みたいにピョンと跳んでそこの塀を越えて行きました。…知りませんよ、魔法でも使ったんじゃないですか?」
言って扉を荒く閉じるレイアード。タオルを持って二人に差し出す。
「話を聞く前に、まず体を拭きたまえ。部屋が汚れる」
二人はタオルを受け取ると、ディスガイズを解いて体を拭いた。
ノテリは、タビットの少年の姿に。
コルクは、左耳の上の辺りから、前方へ向かってツノが生えていた。フードをかぶらなければ隠せない程の大きさ。
ナイトメア。
穢れを持って生まれ、忌み子と嫌われる種族。
布の擦れる音だけがやけに響く。
…。
……。
何か言いなよ、ノテリ。
「誰がウサギか」
そっち!?
「………助かった」
「ほぅ、君に礼を言われるとは思わなかったよ。別に恩に着せるつもりはないよ、話さえ、聞かせてもらえればね」
レイアードは体を拭き終わった二人に、ソファーをすすめる。
「いくらなんでもまだ濡れるぞ?」
「構いませんよ。さすがに着替えを用意できるでもなし。それに、ボクはそこには座りませんし」
汚すなとか汚していいとか、どっちなんだ。
居心地悪そうに、並んで座る二人。
その正面に、テーブルを挟んでレイアードが一人掛けの椅子に座った。
「では早速、話を聞かせて貰おうかな、犯人君」













ノテリは、事実関係だけを簡潔に話した。
寒いのか、隣のコルクが震えている。
「それで結局、ノテリ君はこの騒動の犯人、誰だと思うんだい?」
「こんな事件、すぐに解決すると思っていた。やっている事は子供だましもいいとこだ。しかし、調べれば調べる程、真犯人を探す程に、他に該当するような人物は現れるなかった」
俯くノテリ。
「確かに、捜査はかなり正確に、綿密に行ったようだね」
レイアードは言って、いつの間にか煎れていたお茶をすする。
「最初は濡れ衣だと思ったんだ。『ナイトメアだからお前が犯人だ』なんて言ってるから、とっさに庇ってしまった。だが…」
ノテリは立ち上がり、隣のコルクを見る。
「こいつが犯人だ」
「ノテリさん、そんな!」
コルクが驚き、声をあげる。
「ほぅ、証拠はあるのかい?」
レイアードが、ちょっと感心したようにノテリに問う。
「物的証拠はなかったが、これだけの状況証拠があれば十分だ」
「では、君自身が犯人の仲間では無いと言う証拠は、あるのかな?」
レイアードが再度、ノテリに問う。
「旅する身だから不在証明は難しいんだが、少なくともここで騒動が起こり始めた頃には、もっと北の方にいた。途中でちょくちょく仕事をしたから、調べて貰えばわかると思う」
「それが君本人だとどうやって確認する?」
「時間はかかるが、直接面通してもいい。連行してもらって構わない」
「ボクにはそんな権限は無いよ。でも実はね、部下に聞き込みに行って貰ったんだ。確かに、ノテリと言うタビットが通ったと言う情報が入った。風貌も合う」
当事者でありながら会話に置いていかれたコルクが、不意に立ち上がる。
「僕じゃ、僕じゃない!」
錯乱したように首を振りながら、後ろに下がる。
「違う、僕は違うんだ、僕は悪くない」
逃げようと、入って来た扉へ振り返った瞬間、レイアードが一気に間合いを詰めた。
鳩尾へ一撃。
「ノテリさん、助け…」
それだけ言って、ナイトメアの少年は倒れた。












官憲での手続きを終え、レイアードと共に歩くノテリ。
俯いて、何かに堪えているような表情。
「間違いないんだ。実行犯は、コルクだった」
「ああ、そうだろうね」
レイアードは真っすぐ前を向いている。しかし、何を考えているのかいまいち分からない。
「彼は操霊術師だ。今回の騒動はまさに操霊術によって起こされたものだ。ただ、悪戯にしては、人死にが出たのはいただけない」
「コルクがやった事は悪い事だ。相応の処分は受けなければいけない」
レイアードが、ちらとノテリを見る。俯いたノテリはそれに気付かない。
そういえば、歩幅の違う二人が横に並んで歩いている。レイアードが合わせてくれてるみたいだ。
「事件は解決した。何がそんなに不満なんだい?」
「…コルクは、ナイトメアが元々持っているものよりも、穢れが進んでいた」
ノテリの目に、力がこもる。
「コルクは誰かに利用されていたんだ」
レイアードは何も言わない。
「ナイトメアを、穢れを、ただそれだけで嫌い、差別する奴は気に入らない。だが、そこに付け込んで利用するような奴は、許せない」
レイアードの表情がピクリと動く。
「ナイトメア差別についてはボクも意見はあるが、とりあえず、君の考えは分かった」
「…コルクの事、よろしく頼む」
「ボクにそんな権限は無いよ」
肩をすくめるレイアード。
「最初に言ったろ。ボクはただの、探偵さ」







………。

……………。

……あれ?
…オチは?
「オチなどない」
え?
いつものあの『別の話』は?
「コルクはきっと更正してくれる」
…。
ノテリ、どこ行く気なの?
「あいつらの居そうなところだが?」
…道のりは遠そうだね。


彼が仲間に会えるのはいつの日か…。


第三話、完
第四話


戦闘は激しいものだったが、危なげなく進んで行った。
特にザギザは強かった。
剣や尻尾を振るうたびに雑魚がまとめて吹っ飛んでいく。
レイアードも小剣を巧みに操りながら、敵を一体一体確実に倒している。『蝶の様に舞い蜂の様に刺す』とはまさにこれだよねって感じ。
でも時々投げてるあのカードはなんだろうね、ノテリ?
「そこだゴーレム!行けゴーレム!」
…何やってるの?
「見ての通り、応援だが?」
戦いなよ!
「接近戦は無理に決まってるだろ。援護魔法は出来る限り使った」
ならなんでゴーレムの応援だけなのさ。
「しょうがないだろ、うちの子が一番弱いんだから。ザギザはともかく、あんなお坊ちゃんがこんなに出来るとは思わなかった」
レイアードってお坊ちゃんなの?
「知らん」
…。
「危ないゴーレム、後ろだ!『クリメイション』!」
こんな調子で、奥へ奥へと進んで行った。



その数時間前。


品の良いオープンテラス。
香り高く心休まるお茶。
優雅な午後の一時。
ノテリは安寧を満喫していた。
「ンー、グラシアス」
……あー、デリシャスね。気取りすぎだね。むしろ気取れてないね。
「うるさい」
「おや、ノテリ君じゃないか。こんな所で会うとは奇遇だね」
後ろからかけられたこの声は…。
「レイアード?私に何か用か、こんなときょ………ろで」
振り返ったノテリが見たのは、青年紳士と、その傍らに立つ大柄な人影。
リルドラケン。
その姿は直立する大型爬虫類。しかしその印象とは違って野蛮ではなく、高い知性を持つ種族。
しかしその時ノテリの脳裏をよぎる、
歪んだ眼差し、
迫り来る爪、
剥き出しの牙。
刹那の悪夢から立ち直り、ノテリが尋ねる。
「ヤア、れいあーどクン、ゴキゲンウルワシイネ」
…立ち直ってなかった。
首を傾げつつも、レイアードが続ける。
「ここで会ったのも何かの縁だ、同席、いいかな?」
「ド、どうぞどうぞ!」
一気に跳び上がって反対側の席に移動するノテリ。
呆気にとられる二人。
「タビット用の椅子は、ボク達には小さすぎるよ」
言って、ウェイトレスに椅子を運ばせ、二人分のお茶を頼む。
お茶が来るまでにレイアードが互いを紹介する。
「ザギザ、こちらがあのノテリ君だ。ノテリ君、こちらはザギザ。今回、護衛…用心棒かな、してもらっている」
ザギザが軽く会釈をする。
背の差のせいかもしれないけど、見下されているような威圧感がある。
なんか感じ悪いね。
…。
…。
いい加減立ち直れ。
そのうちに二人のお茶が運ばれてきた。
一口飲んで、話を切り出すレイアード。目付きが変わった。
「さて、ここで会ったのも何かの縁だ。よければノテリ君にも、ボクの仕事を手伝ってもらえないかな」
「レイアードさ…さん?」
初めてザギザが喋った。
とても渋い声。思ったより、歳くってるのかも。
視線を交わすレイアードとザギザ。
「…知りませんぞ」
引くザギザ。
「何かあったのか?」
やっと普通に喋ったノテリ。
「探偵のボクが動いているんだ、当然、事件だよ」


レイアードからあらましを聞くと…。
最近、街道に蛮族が多く出没している。なんだか集まっているようだ。
ある豪商が愛人のためにやたらと荒くれ者を集めている。
調べると、その愛人は蛮族が化けている疑いがある。蛮族が集まっているのもコイツのせい。
どうにかして裏を取り、蛮族の目論みを阻止したい。
そして…。
立ち並ぶ木々からの木漏れ日。
踏み締める柔らかな腐葉土。
目の前にはぽっかりと口を開ける、朽ちた迷宮。
「シティーアドベンチャーじゃないのかよ!」
自分で作ったストーンゴーレムに蹴りを入れ、八つ当たりしながらノテリが言う。
探偵が事件だなんて言うから、てっきりミステリーだと思ったのにね。
「その段階は過ぎてしまったよ。相手が蛮族だと分かった時点で、最終的には力技がほとんどだね。例外は驚くほど少ない」
レイアードが事もなげに告げる。
「だからって、お…私を、ただの戦力として使うってのはどうなんだ!?」
でもノテリ結構強いよね?
「それはそれだ!私の『君の頭脳を遥かに超えた推理を、見せてあげるよ』ってセリフの責任はどうとってくれるんだ!」
いつそんな事言ったの!?
「残念。今回はそれほど難しい推理は必要なかったよ。またの機会に取っておいてくれたまえ」
「あまり騒ぐと、気付かれますぞ」
ザギザがたしなめる。
「では、そろそろ乗り込みますか」
散歩にでも行くような調子でレイアードが言った。
ザギザが無言で歩き出す。
「足手まといになるなよな」
ストーンゴーレムを進ませながらノテリ。
「援護は任せたよ、ノテリ君」
レイアードが続く。
三人と一体は迷宮へと入って行った。


戦いは終わっていた。
リルドラケンは片足を引きずる様にして歩いていた。肩にはタビットを担いでいる。
全身に切り傷、打撲、火傷など、歩いているのが不思議なくらいだ。
「まさかこんなに苦戦するとは。ザギザとノテリ君がいなかったら危なかった」
そう言ったレイアードも、力無く垂れた左腕を右手で押さえている。焦げた革鎧が、戦闘の激しさを物語っていた。
「あんな…化け物がいるなんて、聞いてないぞ…。しかも三匹も…」
ザギザの肩の上で頭だけを起こし、ノテリがつぶやく。
そう、迷宮の最奥にいた蛮族と魔導機械が、とんでもない強敵だったのだ。
前衛の蛮族二体が恐ろしく剛健で、しかも後衛から魔導砲を撃ち込まれるという最悪のコンビネーションだ。
「ボクだって知らなかったさ。しかし、今回一番反省すべき点は…」
その後は声には出さなかったが、三人とも同時に、同じ事を思った。
『敵の正体を一つも、誰も知らなかった事だ』
そう、誰も分からなかったからなめてかかったし、特殊能力を知らなかったから大打撃を受けた。
知識の大切さを、文字通り身に染みて感じた。
「私は、例の女を取り逃がしたのが悔やまれます」
ザギザが苦しみを込めて言った。額から流れ出た血が目に入るので、目の辺りをしきりに拭っている。
そう、メインのターゲットは、最奥にたどり着いた時にはすでに裏口から逃げ出していた。
まさか町へ戻ってるとは思えないから、単純に取り逃がした事になる。手がかりも無い。
「とりあえず、あんな強力な蛮族が町へ進行する前に阻止出来たんだ。当初の目的は果たせたと思っていいんじゃないかな」
レイアードが励ます様に言うと、ザギザは苦々しい顔で頷く。
「では後は騎士団をは…派遣してもらえるように申請をしましょう」
「そうだね、生き残った蛮族が町や旅人を襲うかもしれない。しばらくは警戒が必要だろう」
「騎士団…?わざわざこんな所まで来るか?最近は他にも物騒な話が多いらしいし、中央も色々事件が起こってるって聞くぞ。戦争が近いなら傭兵として雇ってもらおうかって、行き先を変更する輩もいるくらいだ」
「へぇ、ノテリは耳が早いんだね」
本気で感心している風なレイアード。
「冒険者なめんな。情報は生命線だ」
ああ、確かにさっきは死にそうになったね。
「…それは言うな」
「冒険者…なるほど」
よく分からないけど納得してくれたみたいだ。
ともかく三人は、傾いた日を背に、町へと歩いて行った。
とにかく一晩休み、朝一番に魔法で怪我を治してからザギザが報告に行っている間に、ノテリはレイアードから報酬をかなり多めに受け取った。
完全な依頼達成でもないのに受け取れないと突き返すノテリに、後付けだが危険手当てだと押し付けるレイアード。
根負けした…というか、言い訳があればアッサリ受け取ったノテリ。ちゃっかりしていると言うよりは、ゲンキンなんだろう。現金だけに。
「面白く無い」
そんなこんなで、ノテリの脱線旅は続く。
仲間に会えるのはいつの日か!
「無理矢理シメたなコイツ」



ちなみにこの時のザギザが道に迷って、心配した二人が見付けた時には、何故か仔犬や仔猫に囲まれて動けなくなっていた話は、またいつかの機会に。


第四話 終

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