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即興小説家コミュのひびわれ

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あまりたくさん泣くので、涙で頬がひびわれた。

力が込められない身体。
弱々しく投げ出したみたいな指先と、痛むくらい冷えきったつま先を持て余している。全身の重たさに震える。
のろくて浅い呼吸は眠るためのものだ。目をきつく閉じる。せめて考えることを手放したいのに、それは許されざることのような気がする。心臓に冷たく錆びた金属が刺さって動けないみたいな錯覚に眩暈がする。両腕と両足とが、重い鎖枷につながれているような気がする。

赦されない、とどこかで誰かが告げる。
絶望なのか後悔なのか安堵なのか、わからない痛みで胸が重く沈む。きつい。苦しい。
「回路がいかれたんだ。」冷たい色の荒んだ瞳がわらう。

労るような蔑むような瞳の色を知っている、と思う。
拒絶と独善。
傲慢と孤独。
嫉妬と絶望。
苛立ちとやさしさと無気力。
アンタそりゃ都合よすぎだろうさ、と飼い馴らした魔物が月のように婉然と笑う。アンタをわかってやれるのは俺以外にいないだろう?解けない呪いが苦しいんだろう?ここから出してさえくれたら、世界一大切に守ってやるのに。
とがった耳と端正な顔立ちが、指一つ動かさずに誘惑する。

「冗談きつい。お前に喰われるわけにいかないんだよ。」と鼻で笑い返す。
「そう?」
魔物が整った指を伸ばす。

触れてほしいんだろう?

檻の中から頬に触れた指先は、あたたかくすべらかで頼もしい。虚勢も自暴自棄も見透かされる。膝が折れそうになる。声を上げて泣いてしまいたい。叫びたい言葉を封印してる。なにもかも放出して委ねてしまいたい。
本当は。
ほんとうの自分は、ちっとも強くない。
本当は弱くて、ずるくて、甘ったれた人間で、小さくて。守られたくて。いつも何かを求めていて。ひとりでは前に進むことも満足にはできなくて。差し伸べられる手があるなら、すがってしまいたくて堪らないのに。

それでも、と強く目を閉じた。
自分を手放すわけにいかない。
あたしはもう小さな女の子じゃなくて、真綿にくるまれている時期はとうに過ぎ去ってしまったから。

血が流れるほどに掌に爪を立てる。
ここで折れるわけにいかない。
「あんたの好きなようにはさせない。」

魔物はきれいな手であたしの髪をやさしく撫でる。何度もなんども。慣れない手つきで、思い出させるために、わざと記憶に似せて。
涙をおさえられなくて、それでも歯を食いしばる。
あんたと自分自身の痛みのために、一滴の涙だって流すものか。



薬に頼らなきゃならない域かもしれない、と左手をおさえながら思う。古い跡が冷えている。壁は崩れていくだろうか?崩れたとして、再生できるだろうか?感情も遠い。
ひとりきりになれる夜のつかの間にはひどい嵐のようだけど。

西の果てを目指す。
魔物につながれながら。

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