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オリジナルスタンド闘技場記録室コミュのSSB16【ドキドキ神経衰弱】

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コメント(7)

世の中とは、こうもうまくいかないものだろうか。何もかもが裏目に出て、一つとして自分の思うとおりに行かない。自分の力量が足りないわけでも、注意不足なわけでもない。この世界すべての事象が、僕の邪魔をする。それもこれも、僕の『守銭奴』という性格が災いしたことだが。いや、僕の性格と『貧乏神』が。

ナァ、イイ加減、俺ニ金ヲ払オウゼ?」

僕の後ろで貧乏神が囁いた。名前は【ミニチュア・ダックス】。僕が付けた名前だが、愛着もクソもない。僕の『絶対不運』は、この忌々しい貧乏神によって創り出されるものだからだ。

「オイ、無視スンナッテ。ナァ『須賀』ヨォー」

「僕の名前を呼ぶな。」

この貧乏神。【ミニチュア・ダックス】自身が言うには、『僕の精神から生まれた力』らしい。何の力にもなってない。コイツが僕に取り付いている事自体、こいつの創りだす『絶対不運』の力のせいに決まっている。

「『須賀』ヨォー。俺ニ金ヲ払ウダケデイインダヨォー。ソレダケデ、俺ノコトヲ『キングボンビー』ダナンテ呼ベナクナルゼ?何セ俺ハ…」

「『払った金銭に応じた期間、能力者の絶対幸運を保証する』だって言うんだろ?断るね、お前に金を払うぐらいなら、僕はこの『絶対不運』を耐え続ける。給料日の預金通帳を見るのが唯一の幸せな生活だとしてもだ」

僕の名前は『須賀』。性格はケチ。『絶対不運』に耐え続ける、ただの男だ。『絶対不運』は、僕の住む世界の至る所に存在する。それは僕の意思とは関係なく襲ってくる。自転車は5台盗まれた所で買うことをやめ、行列は必ず前の人で終わるのでもう何年も並んでいない。外食はどこで食べても必ず虫か髪の毛が入っているので食べない、酷いときは、僕の所へ運ばれてくる料理が、何度も僕の目の前で宙を舞って床にぶちまけられたなんてこともあった。

『命に関わること』と『直接金銭に関わること』が『絶対不運』の対象ではないという事が、せめてもの幸いである。おかげで僕は、病気もせずに毎月25日に預金通帳を眺める楽しみがある。

夏のコンビニは涼しくて好きだ。家のエアコンを着けるのが億劫だったので、休日は涼しいコンビニで雑誌を読んで時間をつぶすことが多い。何の興味もない週刊誌。どうでもいいゴシップ記事を流し読みしている僕の隣に、黒いスーツの男が来た。男は僕と同じ雑誌を手に取り、同じページを探して読み始めた。僕がページをめくると、男も同じタイミングでページを捲った。

僕はなんだか居心地が悪くなって、雑誌を閉じてコンビニを出た。コンビニの店員が、(あいつまた立ち読みだけだ)という視線を僕に向けたが、僕は何も気づかないふりをした。店を出るとき、隣に来ていた男を見た。男は何もない感じで雑誌を読み続けていた。

大分気分が悪かったが、僕はもう家に帰ることを選択した。日の暮れ方は、夕方に差し掛かる頃だった。コンビニを出た僕は、強い日差しに舌打ちをした。このあたりが単なる住宅街だったのが救いだ。もしビルが立ち並ぶオフィス街だったなら、窓から跳ね返る日光の温度で、サウナのような陽気になっていただろう。そんな中、僕はデジャヴに襲われた。コンビニの向かいの道路の端に立っている電柱。そこにもたれかかっている男が元凶だ。

電柱にもたれかかっている男は、たった今僕の隣で同じ雑誌を読んでいた男だったのだ。僕は思わず、コンビニの方を向きなおした。雑誌を読んでいた男はいない。(双子かもしれない)という線はここで消えた。
雑誌を読んでいた男は、僕の方を向くと口を開いた。

「じゃ、これから『神経衰弱』な。『俺がジョーカーだ』。『俺は一人だからな』」

「は?」

僕がそう聞き返す前に、後ろの貧乏神が口を開いた。

「須賀ヨォ。コイツァ、コノ俺【ミニチュア・ダックス】ガ見エテルミタイダゼェ?」

すぐに分かった。この男も、この『貧乏神』のような奴を飼ってるんだ。僕の貧乏神は後ろをついて回る。見える奴がいたらすぐにバレるんだ。今までもそんなことはあったが、害意がないことを伝えさえすれば、2・3発殴られるだけで許してもらえる。

「あの、僕はあなたに対する敵意はありません。」

男は僕の言葉を鼻で笑った。

「アンタに『敵意』は無くても、俺にはあるんだよ。何故かってさ、俺は『スタンド使い』と『勝負』するのが大好きなんだ。俺と対等な『勝負』ができるのは同じスタンド使いだけだからな」

この男は頭がおかしい。僕はイライラしたが、ここは無視して通り過ぎようと決めた。しかし、男は言葉を紡ぐことを辞めない。

「『勝負は神経衰弱』ッ!今から半径400メートル以内の範囲に『52のトランプ』を隠したッ!この勝負に俺は『金壱千萬円』を張ろう!」

何を言っているんだこの男は…馬鹿なのか?僕の今までの常識が通じない程の馬鹿なのか?『神経衰弱』?僕がそんなに暇に見えるのか?暇なことは否定はしない。否定はしないがなァァァ…!!

「あんたの張るものは…そうだなァ。ゆっくり考えてくれよ。『金壱千萬円』に釣り合うモンをよォォ…!」

そういうと男は消えていく。僕は全く気にも留めず、歩き始めた。しかし、後ろの貧乏神がそれを静止する。

「テメェェェ!逃ゲウッテンジャネェェェ!!コレハ『ガチンコ』ナンダヨォォ―――ッ!!イイカ?俺ト須賀、オメェハ一心同体ナンダヨ!コノ『能力』ガ、俺ニ警告シテンダ!!『放棄スレバ死ヌ』ッテヨォォ―――!!」

全く。この貧乏神は何にもわかっちゃいない。本当に僕の半身なのか疑わしいとさえ思う。

「黙れ、貧乏神。僕は別に『勝負を受けない』とは言ってない、『勝負する理由』を探してただけだ。そうだな…さっきあいつ、僕の真似をしておちょくってきた。それだけでいい。へこましてやる。」

僕…『須賀』はケチな男だ。だけど、それ以前に…負けず嫌いなんだ。『神経衰弱』だと?舐めやがって。半径400m以内の隠されたトランプ。本当に『トランプのカード』が隠してあるのか?いや、そんなもんじゃゲームとして…『神経衰弱』として成立しやしない。屋外には風もある。何より、『全く関係ない奴に邪魔をされる可能性が』…
――――『俺がジョーカーだ』。『俺は一人だからな』

「そうか。『全く関係ない奴』が『トランプ』なんだ」

すると、僕の頭の中に声が聞こえる。先ほどの『ジョーカー』を名乗る男の声だ。

『ルールは把握したな?お前が26組のペアを全て見つけることが出来れば勝ちだ。時間は無制限だが、お前がギブアップした場合のみ俺の勝ちとする。』

聞けば聞くほど、僕に有利なルールだ。400m以内を虱潰しにさがせば僕の勝ちじゃないか。『金壱千萬円』、その言葉に僕の胸は躍った。背後の貧乏神が気にはなったが、『絶対不幸』がいかに襲ってこようとも、僕の銀行貯金が2ケタは増えるこの勝負は魅力的でしかなかった。

僕はその場を離れる。歩き始めて程なく、一人の男を発見する。その男のすぐ後ろから、同じ顔をした男。僕がその2人の同じ顔をした男を発見すると、2人はくっ付いて消滅した。

「これがペアを見つけるってことか。5分とかからずに残り25ペア。ついてるぞ」

僕の歩みが自然と速くなった。言うなれば、この『神経衰弱のペア』は階段の段差。一歩上るごとに『金壱千萬円』が近づいてくる。なんて楽な階段なんだろう。こんな楽な事で大金を手にできるなら、働く事なんて馬鹿馬鹿しくなってくる。金をふんだくったら、すぐに辞表を書こう。最高級の便せんに、極上のインクと万年筆で。そして金箔の封筒に詰め、ビンテージものの切手を貼って送りつけてやろう。

「胸が高鳴ってくるな」

「独リ言、気持チ悪イゼェ。」

背後の邪魔虫の言葉など耳に入る余地もなく、僕は歩き続ける。今度は2人の女性が並んでくる。またも同じ顔だった。僕の視界に入った途端、先刻の男性と同じように2人がくっ付いて消滅していく。また『金壱千萬円』に近づいた。

懸念材料と言えば、後ろについてくる喋るゴキブリぐらいだ。元はと言えばコイツのせいで僕の人生は散々だった。『金壱千萬円』があれば、コイツを何とかすることが出来るかもしれない。最先端科学技術、霊媒師。そんな類を僕は想像した。

その後も、ペアを見つけるのに30分とかからなかった。いや…5分で1ペア、さらに3分でもう一組と見つけた僕にとって、この二十数分の歩きはやきもきしたもんだが、目の前の光景をみてそれも吹き飛んだ。

8ペア。

同じ顔を男性のペアが4組、女性が4組。向かいから歩いてくるのだ。時間に換算すれば1組2〜3分で見つけたことになる。僕は思わず強く拳を握りしめた。小さな声で「よしッ」と言ったと思う。

それに対して後ろの役立たずが何か言っていたが、もう僕にはなんにも聞こえやしなかった。残り16ペア。すでに10組を見つけた。たかだか30分強あるいただけで、だ。

これは褒美だ…『絶対不幸』を耐え続けてきた僕への、神の褒美だ。僕の人生はここから始まるんだ。『絶対不幸』の対極であるモノへ向かう人生が…

ここで僕の頭を冷静に戻す言葉。『絶対不幸』。この【ミニチュア・ダックス】の影響化にいる僕が、こうまで次々と大金へと向かえるだろうか。貧乏神をみやるが、貧乏神は何も言わないで僕を見ているだけだ。

もし今の状態が『絶対不幸』の影響で起こっているとするなら、この喋るゴミは間違いなく僕に

「金ヲ払オウゼェ〜!須賀ヨォ〜!!」

と言ってくるはずだ。違う。この状況は『絶対不幸』の能力によるものではない、と僕は確信する。

その証拠に、また同じ顔のペアが1組歩いてきた。なんだコレは。『神経衰弱』というゲームを成してすらないじゃないか。残り15ペア。歩き回るには半径400mという範囲は狭すぎる。歩けば歩くだけ見つかるのは当然と言えた。
「須賀…」

後ろの昼行灯が僕の名前を呼んだが、僕は無視した。僕はコイツが大嫌いだ。なぜこんな奴が半身として存在するのかさえも理解に苦しむほどだ。この『絶対不幸』が、僕の運命であるかのようじゃないか。金を払うことで得られる『絶対幸福』なんて僕には無価値だと心底思うのに、何故このような半身が生まれたのか。

「考えるのも腹が立ってくるな。でも、この無用な問答も今日でお別れだ。」

同じ顔の女二人を消滅させながら僕はつぶやいた。のこり14ペア。既に『金壱千萬円の内、いくら貯金して通帳を眺めるのか』というような構想を構築しつつある僕は、無意識に舌なめずりをする。顔を水滴が通るくすぐったい感覚がした。汗が垂れたのだ。この汗が、夏の暑さからくるものなのか、はたまた僕の興奮からくるものなのかはわからない。ただ、とても心地よく感じた。

僕はとうとう歩くことを辞める。公園のベンチで、冷たい微糖の缶コーヒーを片手に路上を見つめるだけとした。もちろん、4〜5分おきにペアが現れる。『ペアの方から寄ってくる』。これだ。『何の苦労もなく得られる利益』。まさに『絶対幸福』にふさわしい。僕は自分の半身を今、乗り越えている。自分の力で。

1組、2組、3組…4組。とうとう残りは10ペアとなった。『ジョーカーの男』め、後悔させてやる、お前の敗因はたった一つだ。『僕が覚醒した』。それだけだ。

背後をうろついていたカトンボの気配などもはや感じない。感じる必要が無い。僕は心地良い、『この絶対幸福』の中でまどろんでいた。酒も飲んでいないのに、ふわふわと手足が驚くほど軽い。それがたまらない快感に思える。

僕はベンチに座っているのが惜しくなって、公園を飛び出した。夏の暑い陽気の中を、僕は駆け抜ける。なんとて爽快なんだろう、爽やかで晴れやかな気分なんだろう。『ツイている』というのはこんな気持ちなのか。何もかもが前向きで、輝いて、最高に甘美な時間。

目の前を通り過ぎる17組目のペアを消滅させながら、僕は小躍りした。『金一千萬円』への道は、辛く険しい山道なんかじゃない。スキップしたくなるようなさわやかな高原だった。

「ふふふ…フフ…アハハハハハハ!」

僕はこみ上げる笑いを抑えることができない。また自分たちから消えに来た8人を消滅させる。残り4ペア。もうすぐ…もうすぐこのなんの華も無い生活とはおさらばだ。僕はこの後手に入るであろう『金壱千萬円』の使い道を考えながら歩く。途中。22組目のペアを消滅させてやった。残り3ペア。

つまりは、僕の『幸福への階段』が残り3段。一切の気配を感じなくなった背後を確認する。やはりもうあの貧乏神の姿はみじんも見えない。とうとうヤツもあきらめたのだ。僕から金をセビることを。

それを祝福するかのように、23組目と24組目のペアが消えて行った。


…あと一組。あと一組消してやれば『金壱千萬円』が手に入る。僕は緩み続ける口元と、下がり続ける目尻を抑えることを辞めた。


「さぁ、どこだ?どこからくるんだ?僕の幸福は…。僕の方はいつでも準備ができている。いつでもッ!いつでも飛び込んでおいでッ!!」

「何言ッテンダ?須賀ァァ…」

ゾクッと僕の背筋に寒気が走った。聞こえるはずないだろ…?お前はあきらめたはずだ…僕に『憑いている』事を…そうじゃなかったのか?え?違うのか…?

「『俺ハ、オ前ナンダヨ』…。『俺ガ、オ前カラ離レル事ハ無イ』…『オ前ハ、俺ニ金ヲ払ワナイ限リ、幸福ニハ辿リ着ケナイ』…!!」

【ミニチュア・ダックス】…僕の最大にして最凶の障壁、やはり一筋縄ではいかなかった。この究極の不幸を乗り越えなければ、僕に幸福は訪れない。

「お前は黙ってろ。僕はこの400m内にいるであろう『最後の一組』を探し出すだけだ」

僕は歩き始める。しかし、これまでの絶好調がウソのように、人っ子一人見当たらない。やはりコイツだ、【ミニチュア・ダックス】。コイツが僕の道を塞いでいる。コイツを何とかする事こそが、僕の『最大幸福』に直結する…!!いや…

「それこそが『最大幸福』ッ!!」
しかしながら、いくら歩けどもペアの見つかる気配はない。僕は、足に鈍い痛みを覚えた。足の皮がむけ始めている。日が傾き始める。西日が暑い。僕の体力をじりじりと奪っていく。『絶好調』でない今のこの疲労感のたまり方は予想外だった。

普段からもっと備えが必要だったかもしれない。もっと世の中に希望を持って、体を鍛えたりしたら良かったかもしれない。この降ってわいたチャンスを絶対に逃したくない。僕が今張り合えるのは、この気持ちぐらいだ。

『幸福への執念』。それだけが僕の体を突き動かす。鈍かった痛みがだんだんと強くなる。湿った感じから、恐らく出血している。それでも僕は、やるしかなかった。

じりじりと太陽によって消耗していく体力を、僕は抑える術をしらなかった。


――――もうどのぐらいたっただろう。とっくに沈んでしまった太陽を僕はいささか懐かしんだ。最後の一組が一向に見つからない。もう勝負を投げたくもなる。この400mから出られないことを確かめた僕は、さらに疲労した。

後ろで【ミニチュア・ダックス】が自分への支払いの勧めをする。無視だ。こんな奴に金を払って得られる幸福など、享受する価値もない。僕は自分の力で幸福を勝ち取る。それが僕のプライドだった。

「ふざけやがって…あの黒服の男…ひょっとして『最後の一組』を用意してないんじゃあないのか?」

僕の脳裏をよぎったのは『イカサマ』の言葉だった。あの男がイカサマをして僕をハメているんじゃないか。それだけだった。

『おいおい、妙な勘繰りはやめてくれよ。俺が伝えた【ルール】は全て正しい。俺は勝負に嘘はつかない。』

頭の中に男の声が響いた。コイツは僕を監視している。僕が何をしているのか見えるに違いない。

『ところで、俺は金を張った。アンタがこの勝負に何を張るのか、そろそろ決めてもらいてぇなぁ。俺の金額と釣り合うモンを…』

そこで男の声は途切れた。僕は考える。これは単なる『神経衰弱じゃなかった』。この腐れ貧乏神、【ミニチュア・ダックス】のような異能を持った者との勝負。僕が考えるより、遥かに面倒なモノだ。

「『ルールに嘘はない』…」

僕はルールを思い出す。

『『勝負は神経衰弱』ッ!今から半径400メートル以内の範囲に『52のトランプ』を隠したッ!この勝負に俺は『金壱千萬円』を張ろう!』

…なんのひらめきもない。体力の消耗も手伝って、全く脳が働かない。さらにそれが手伝ってストレスが溜まる。負の連鎖だ。夕方までのスキップはどこへ行ったのやら。僕の脚には鉛が付いたようだった。

「【ミニチュア・ダックス】…お前は『貧乏神』どころか死神だよ…こんなもんを引き寄せやがって」

もうこんな勝負はやめにしたい、やめにしたいが、負ければあの男の言う『金壱千萬円』に釣り合うものを差し出さなければならない。そんなものは僕にはない。抜けられないのだ。

「金ヲ払エ須賀。俺ノ『絶対幸福』ガアレバ、コンナ勝負ハ秒殺ダゼェ?」
死神の囁きだ、こんな状況だからこそ、甘美に聞こえる。『それも悪くない』と思わせるような…

死神の…


―――じゃ、これから『神経衰弱』な。『俺がジョーカーだ』。『俺は一人だからな』

「フフ…フフフハハハハハハ!アーッハッハッハッハ!!」

「ソウダ須賀ァ!金ヲ払エ!アラユル『幸福』ガ、オ前ヲ包ミ込ンデクレルゾォォ!!」

脚の疲労が限界ではあったが、そんなものは超越した。僕は今、何もかもを超越したのだ。

「何を言っているこの汚らわしいドブネズミが…。僕がお前に金を払うことなど…魂魄幾度生まれ変わろうともありえんッ!!だが…お前の能力は使わせてもらうッ!!」

「何ヲ言ッテヤガルッ!?『絶対幸福』ハ、オ前ガ金ヲ支払ワナイ限リ発動シナイッ!!」

僕は空を向き、『黒服の男』に声をかけた。

「聞いているかッ!!『僕の賭けるものが決まった』ッ!僕はこの勝負に『僕の命を賭ける』ッ!!」

すると目の前の景色がゆらぎ、黒服の男が姿を現す。これが【ミニチュア・ダックス】の能力だ。

「アンタ…何をしやがった。なぜ俺がこの場に姿を現さなければならないッ!!?」

黒服の男は面食らった顔で驚いている。そうそう、僕が見たかったのはそういう顔だ。そうやってお前をへこませてやりたかった。

「このゲームのゴールに『死』を設定したからだ。【ミニチュア・ダックス】の巻き起こす『絶対不幸』は、『命に関わる不幸だけは起こさない』。つまり、このまま僕が負けるビジョンが明確化した今、そのゴールに『死を設定』すれば…。相対的に『絶対不幸』によってそれが回避される。」

補足するならば、この勝負が『絶対に脱出できない密閉空間』で行われていたのも大きな要因だ。『勝敗を決しなければ出られない』。つまり、『僕の負けがイコールで死に直結するなら』…。

「僕の勝ちだッ!!お前が『ジョーカー』、神経衰弱に紛れ込んだジョーカーは、どのカードともペアを作れる。さらに、お前は『52』のカードといった。『26のペア』とは一言も言わなかったな…。25組のペアとペアではないカード+ジョーカー。それがこの神経衰弱のルールだったわけだ。」

ここで僕の勝利は確定する。『ジョーカーによってペアが確定するカード』それは…

「勝負の相手である僕までトランプに設定してあったとはな、しかし…『これですべてのペアが揃った』ッ!!僕の勝ちだッ!!」

男は膝をついてその場にへたりこんだ。負けを認めたしるし。僕の頭上から、福沢諭吉の描かれた紙切れが舞い降りてくる。このまま千枚落ちてくるだろう。僕は疲労でその場に寝転んだ。このまま少し眠ろうかな。体力も限界だ…起きるころには壱千萬円のベッドで目が覚めるわけだ…フフ…


―――

「須賀ヨォォ…オ前ハスゲー奴ダヨ。『絶対不幸』ヲ逆手ニ取ルナンテ…デモヨォ…。『幸福』ジャネーカラ『不幸』ナンダ…『不幸ヲ使ッテ勝チトッタモノ』ガ、幸福ヲ齎ス事ナンテネーンダ。ナァ須賀ァ…。」


○月×日、△△新聞の地域欄の小さな見出し。

深夜の路上で会社員、過労死。


Fin

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