ハリウッド50年代/ Hollywood 50s Vol.1:ロバート・アルドリッチの世界 Robert Aldrich ■ハリウッドの50年年代映画作家特集第1弾!まずはアルドリッチを。アクション映画の巨匠として70年代にはペキンパーとも拮抗し1980年代初頭まで活躍した。職人と芸術家でもありえた最後のアメリカ映画の監督の一人である。 ■50年代は第二次世界大戦後、ハリウッドは世界マーケットを支配するが、一方でアメリカではテレビが登場し、映画も予算の昂騰と大作へと大金を注ぎ込むようになった。カラー化、シネマスコープとテレビに対抗して映画が最後の輝きを見せた時代である。サイレント時代から活躍するジョン・フォードやハワード・ホークス、ラオール・ウォルシュ、ウィリアム・ウェルマン、キング・ヴィダーらによって確立された西部劇や活劇、人間ドラマなどのジャンルは戦後デビューした新世代の監督たちにとって与えられたジャンルであったが、その中でそれぞれが新たなジャンルの可能性を見いだした。皆戦後のB級映画からキャリアをスタートさせながら特にフィルムノワールや犯罪活劇で際のを発揮し、ようやく戦後の翳りある少しひねくれた個性を生み出したのである。こうしたジャンルの組成は彼らによって再生する。西部劇とニューロティック映画を組み合わせたアンソニー・マンや、戦後の若者の反逆を描いたニコラス・レイ、ドイツから亡命しユニヴァーサルでメロドラマを完成させたダグラス・サークに加えB級アクションからスタートしたドン・シーゲル、サミュエル・フラー、リチャード・フライシャーそしてロバート・アルドリッチらは70年代に再び再起し「ニィーシネマ」以後の活劇で最後の花を咲かせることにもなるのである。まずは第1弾。一見アメリカ的に見えながらルノワールやチャップリンの助監督も担当し、テレビ演出を経てようやく53年にデビューしたアルドリッチ。アクション映画、戦争映画とともにホラーや中世的な魅力もかもし出し、グリフィス以後の編集主義ハリウッド、物語の効率重視のハリウッドで編集しながらも弁証法的にならない引きと寄りのモンタージュ。対立なき対立の映画作家アルドリッチを再発見しよう。
////////////////////////////////////////////////////////////////// 「キッスで殺せ」Kiss Me Deadly 1955/U.S.A/104min Parklane Pictures Inc作品 ユナイテッド・アーチスツ配給 製作●ロバート・アルドリッチ、ヴィクター・サヴィル 監督●ロバート・アルドリッチ 原作●ミッキー・スピレーン(燃える接吻を) 脚本●A・I・ベザライズ 撮影●アーネスト・ラズロ 音楽●フランク・デヴォール 美術●ウィリアム・グラスゴー 編集●マイケル・ルチアーノ 録音●ジャック・ソロモン キャスティング●ジャック・ムートン メイク●ボブ・シェイファー 歌●"Rather Have the Blues" ナット・キング・コール、キティ・ホワイト 出演●ラルフ・ミーカー(マイク・ハマー)、アルバート・デッカー(ソーベリン博士)、 ポール・スチュワート(カール・エヴェロ)、クロリス・リーチマン(クリスティーナ)、 ファノ・ヘルナンデス(エディ・イエガー)、ウェズリー・アディ(パット)、 マリアン・カー(フライデー)、マキシン・クーパー(ヴェルダ)、 ギャビー・ロジャース(リリー・カーヴァー)、ニック・デニス(ニック)、 ジャック・ランバート(シュガー・スモールハウス)、 ジャック・イーラム(チャーリー・マックス)、ストロザー・マーティン(トラック運転手) ■探偵マイク・ハマー・シリーズは'47年の第一作目「裁くのは俺だ」を始めに'52年までに6冊が書かれた。その後、十年の中断を経て'62年から再び再開された。映画化は'53年ビフ・エリオットのハマーで『I,the Jury(裁くのは俺だ)』を最初に今回上映するのが映画化第二作目(小説では第6作目)となる。この後『My Gun Is Quick(俺の拳銃は素早い)』(小説第3作目)が'57年にいずれもユナイトで映画化、そして『The Girl Hunters(ガールハンター)』(小説第7作目)が原作者スピレーン自身がハマーを演じたことで知られている。80年代にはリチャード・T・ヘフロンによる『探偵マイク・ハマー/俺が掟だ』が出色だった。『キッスで殺せ』は『ヴェラクルス』で名を売ったばかりのアルドリッチが自身の製作で映画化、音楽はいつものデヴォール。本作は逆転して流れるタイトルから一気に展開し、呆気ない最後は後のアクション映画にも数々の影響を与えたことで有名だ。 ■1998年の再公開版の本作ではラストシーンが数カット増えていおり上映時間も2分長くなったが、特にラストシーンに関しては今回上映するオリジナル版の方が評判がよかった。脚本はA・I・ベザライズ。撮影は「ヴェラクルス」のアーネスト・ラズロ。音楽はアルドリッチとコンビで知られるフランク・デュヴォル。出演は「裸の拍車」「特攻大作戦」のラルフ・ミーカー、本作や『ドクター・サイクロプス』で知られる怪優アルバート・デッカー、本作でデビューした「ラストショー」のクロリス・リーチマン、「恐怖の一夜」や「市民ケーン」などで知られる名優ポール・スチュワートのほか、60-70年代には名悪役として知られるジャック・イーラム。後の低予算アクション映画に多大な影響を与え、40年代のニューロティックなフィルムノワールから乾いた活劇を導き出した。
Robert Aldrich Biography ■ロバート・アルドリッチは1918年8月9日アメリカ・ロードアイランド州クランストンの裕福な家庭に生まれた。アルドリッチ一家は政財界にも名士を輩出した名門である。父親は出版と金融の経営で成功していた。ロバートはヴァージニア大学で経済学を学んだ。 伯父が映画会社の株主であったため、製作の仕事につくが、結局一族から離れ、ハリウッドでRKOの使い走りからスタート。1942年〜43年にユニオンが結成され第4助監督になりアーヴィング・レイス、リチャード・ウォレス、エドワード・ドミトリクらRKOの低予算作品に付いた。一時、空軍に従軍したがフットボールの古傷のために1日で除隊する。1945年にはファ−スト助監督に昇進し、フランスから亡命していたジャン・ルノワールの『南部の人』、ウェルマンの『GIジョー』、マイルストンの『呪いの血』そして『凱旋門』、ロバート・ロッセンの『ボディ・アンド・ソウル』、エブラハム・ポロンスキーの『苦い報酬』などユナイト、コロンビア、MGM、ワーナーなど各社で助監督から製作マネージャーまで務めた。その中にはジョセフ・ロージー、リチャード・フライシャーら同世代の監督もいたが時代はマッカーシズム=「赤狩り」が吹き荒れていた。1952年にはイギリスでチャップリンの『ライムライト』の助監督、フランク・タシュリンがコロンビアで撮った『The First Time』を最後に草創期のテレビで演出するようになった。その中のヒット作ダン・デュリエ主演の「チャイナ・スミス」シリーズは後に映画化することにもなるが、カール・フォアマンの推薦でドーア・シャリーの推薦でMGMの野球映画『大リーガー』で1953年監督デビューしたのである。ダン・デュリエら「チャイナ・スミス」シリーズの仲間と作った『ランサムの世界』の後、ちょうどハリウッドでは俳優を中心にした独立プロが増えはじめ、その中でバート・ランカスターとベン・ヘクトに請われハリウッドのメインストリームで『アパッチ』そして『ヴェラクルス』を監督し注目される。特に『ヴェラクルス』では往年のスター、ゲーリー・クーパーとランカスターを共演させた。この成功で『キッスで殺せ』を撮ったのをきっかけに自身のプロダクションを興す。しかし56年の『攻撃』以降は実質的にはヨーロッパに逃れることになる。そしてハリウッドに復帰したのが『何がジェーンに起ったか?』'62であった。このように'50年代作家(ジョセフ・ロージー、ジュールス・ダッシン)はレッド・パージ以後ヨーロッパに逃れ小規模な作品を撮るか、あるいはアメリカがヨーロッパに焦げ付いた金で歴史大作を撮るのに監督として雇われる場合(アンソニー・マン、ニコラス・レイ、)があったがアルドリッチも例外ではなくイギリスで『地獄へ10秒』'57などを、'61年にイタリアで大作『ソドムとゴモラ』を撮っている。'60年代後半に起ったアメリカン・ニューシネマの動きはハリウッドの斜陽を表面化するとともに政治的にも緩和されたため'50年代パージの犠牲者の復帰を助長する。アルトマンの『マッシュ』の脚本家リング・ラドナーJrを始めドルトン・トランボ『ジョニーは戦場へ行った』、ポロンスキー『夕陽に向かって走れ』らも復帰。以後、スピルバーグ、コッポラらハリウッド・ルネッサンス派の興隆までの間にアルドリッチ、フライシャー、ヒューストンら'50年代作家がコンスタントに作品を発表する機会を得るのだった。アルドリッチにとっては66年の『飛べフェニックス』そして戦争アクション大作『特攻大作戦』に『燃える戦場』そしてニューシネマ風の反骨『傷だらけの挽歌』以後『ワイルドアパッチ』73年には『北国の帝王』74年『ロンゲストヤード』とアクション映画の傑作を作り、遺作は再び女系と男系の混成させた女子プロ映画『カリフォルニア・ドールズ』。その生涯監督作品数は30本がある。1983年12月5日、肝臓を患いロサンジェルスの病院にて永眠する。享年65歳。 (上写真は『キッスで殺せ』でギャビー・ロジャースを演出する若きアルドリッチ)
アルドリッチ/フィルモグラフィー ★は今回上映作品 1953 「大リーガー(日本未公開)」Big Leaguer 1954 「ランサムの世界(日本未公開)」 World for Ransom 「アパッチ」Apache 「ヴェラクルス」Vera Cruz 1955 ★「キッスで殺せ」 Kiss Me Deadly 「悪徳(劇場未公開)」 The Big Knife 1956 ★「枯葉(日本未公開)」 Autumn Leaves 「攻撃」 Attack! 1959 「怒りの丘」 The Angry Hills 「地獄へ10秒(劇場未公開)」 10 Seconds to Hell 「 Garment Jungle (日本未公開)」 Garment Jungle (ノンクレジット) 1961 「ガンファイター」 The Last Sunset 1962 「何がジェーンに起こったか?」 What Ever Happened to Baby Jane? 「ソドムとゴモラ」 Sodom and Gomorrah 1963 「テキサスの4人」4 for Texas 1964 ★「ふるえて眠れ」Hush... Hush, Sweet Charlotte 1966 「飛べ!フェニックス」The Flight of the Phoenix 1967 「特攻大作戦」 The Dirty Dozen 1968 「甘い抱擁」The Killing of Sister George 「女の香り」 The Legend of Lylah Clare 1969 「燃える戦場」 Too Late the Hero 1971 ★「傷だらけの挽歌」The Grissom Gang 1972 「ワイルド・アパッチ」 Ulzana's Raid 1973 「北国の帝王」 Emperor of the north 1974 「ロンゲスト・ヤード」 The Longest Yard 1975 「ハッスル」 Hustle 1977 「合衆国最後の日」Twilight's Last Gleaming 「クワイヤ・ボーイズ」 The Choirboys 1979 「フリスコ・キッド(劇場未公開)」 The Frisco Kid 1981 「カリフォルニア・ドールズ」All the Marbles