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生活保護は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という憲法２５条に基づく制度です。支給基準は５年に１度、見直されることになっていて、国が今その作業を進めています。【熊谷豪】
最後の安全網なのに ８割が「すり抜け」
働けなくなったり病気になったりした時のために、社会にはさまざまな安全網（セーフティーネット）が用意されている。失業保険、年金、医療保険、生活困窮者自立支援制度などだ。その中の「最後の安全網」が生活保護。十分な貯金がなく、親族の支援も得られない世帯に、必要な生活費、住宅費（家賃）などを支給する。医療費も原則自己負担ゼロになる。
生活保護は、どんな人にも最低限度の生活を保障する制度だが、実際にはここからすり抜け、最貧困状態に陥っている人は多い。
貧困状態にあって生活保護を受けている人の割合を「捕捉率」という。使うデータによって計算結果は異なり、国は推計値を明確にしていないが、「２割程度」とみる専門家が多い。安全網は穴だらけの状態だ。
背景として指摘されるのが自治体の対応。生活保護費は国が４分の３、申請窓口の自治体が４分の１を負担し、保護世帯の増減は財政支出に直結する。そのため理由を付けて申請を受理しようとしない「水際作戦」が横行しているとの批判は根強い。また、自治体は扶養義務のある親族に「援助できないか」と問い合わせるため、これを嫌がって申請しない人も多いといわれる。
支出増の主因は高齢化 医療費抑制がカギ
生活保護の受給世帯は１９９６年度からの２０年間で約２・７倍に急増し、２０１７年度の国の保護費は当初予算ベースで３兆８０００億円にも達する。増え続ける最大の要因は高齢化の進行、つまり年金だけでは生活できない人が多くなっているということだ。受給世帯のうち６５歳以上の高齢者世帯の内訳は、７０年代には約３割だったのが、１６年度に初めて過半数になった。
高齢の受給者は特に医療費が多くかかり、今は保護費の約半分を医療費が占める。国は支出抑制のため、安価なジェネリック医薬品（後発薬）を優先して使うよう求めているほか、利用する調剤薬局を原則１店舗に限定して薬のもらい過ぎを防ぐ方針だ。同じ病気での不必要な「頻回受診」を減らす対策の強化も検討するが、認知症の患者もおり、健康や命に関わることだけに安易な規制はできない。
国や自治体は保護費の不正受給対策にも力を入れ、１５年度の不正受給数は過去最多の４万３９３８件（総額約１６９億円）となった。だがこの中には、高校生が部活動の費用としてためていたアルバイト代の申告を必要と思わずしていなかったなど、悪質性が低いケースも含まれる。不正受給が多いとの印象付けは、受給者への偏見を助長するとの批判もある。
基準が下がると 低所得層、広く影響
生活保護費の基準は５年ごとに見直すことになっており、来年度がその年。今年度はそのための検証が行われ、厚生労働省の社会保障審議会の議論を踏まえ年末までに大筋が決まる。前回見直しではデフレによる物価下落を反映させ、生活扶助費が３年間で平均６・５％カットされた。
今回も政府・与党は圧縮策を探っているが、基準が下がると、影響を受けるのは受給者だけではない。
例えば、毎年改定される労働者の最低賃金。法律で「生活保護との整合性に配慮する」とされており、保護基準を下回るのは望ましくない。今年度の全国平均の時給は８４８円にまで上がったが、保護基準が切り下げられれば最低賃金も伸び悩む可能性があり、低賃金で働くパート労働者らを直撃する。
また、住民税を非課税とする収入や、小中学生の学用品や給食費を行政が支援する「就学援助」の対象も、保護基準費が考慮される。非課税世帯でなくなると、介護保険料や医療費（高額療養費制度）の自己負担額がアップする。
中国残留邦人への支援金、ハンセン病療養所入所者家族への生活援護費なども変動する。消費の落ち込みなど間接的な影響も含めれば、低所得者層を中心に切り下げは多方面に波及するのだ。
生活保護は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という憲法２５条に基づく制度です。支給基準は５年に１度、見直されることになっていて、国が今その作業を進めています。【熊谷豪】
最後の安全網なのに ８割が「すり抜け」
働けなくなったり病気になったりした時のために、社会にはさまざまな安全網（セーフティーネット）が用意されている。失業保険、年金、医療保険、生活困窮者自立支援制度などだ。その中の「最後の安全網」が生活保護。十分な貯金がなく、親族の支援も得られない世帯に、必要な生活費、住宅費（家賃）などを支給する。医療費も原則自己負担ゼロになる。
生活保護は、どんな人にも最低限度の生活を保障する制度だが、実際にはここからすり抜け、最貧困状態に陥っている人は多い。
貧困状態にあって生活保護を受けている人の割合を「捕捉率」という。使うデータによって計算結果は異なり、国は推計値を明確にしていないが、「２割程度」とみる専門家が多い。安全網は穴だらけの状態だ。
背景として指摘されるのが自治体の対応。生活保護費は国が４分の３、申請窓口の自治体が４分の１を負担し、保護世帯の増減は財政支出に直結する。そのため理由を付けて申請を受理しようとしない「水際作戦」が横行しているとの批判は根強い。また、自治体は扶養義務のある親族に「援助できないか」と問い合わせるため、これを嫌がって申請しない人も多いといわれる。
支出増の主因は高齢化 医療費抑制がカギ
生活保護の受給世帯は１９９６年度からの２０年間で約２・７倍に急増し、２０１７年度の国の保護費は当初予算ベースで３兆８０００億円にも達する。増え続ける最大の要因は高齢化の進行、つまり年金だけでは生活できない人が多くなっているということだ。受給世帯のうち６５歳以上の高齢者世帯の内訳は、７０年代には約３割だったのが、１６年度に初めて過半数になった。
高齢の受給者は特に医療費が多くかかり、今は保護費の約半分を医療費が占める。国は支出抑制のため、安価なジェネリック医薬品（後発薬）を優先して使うよう求めているほか、利用する調剤薬局を原則１店舗に限定して薬のもらい過ぎを防ぐ方針だ。同じ病気での不必要な「頻回受診」を減らす対策の強化も検討するが、認知症の患者もおり、健康や命に関わることだけに安易な規制はできない。
国や自治体は保護費の不正受給対策にも力を入れ、１５年度の不正受給数は過去最多の４万３９３８件（総額約１６９億円）となった。だがこの中には、高校生が部活動の費用としてためていたアルバイト代の申告を必要と思わずしていなかったなど、悪質性が低いケースも含まれる。不正受給が多いとの印象付けは、受給者への偏見を助長するとの批判もある。
基準が下がると 低所得層、広く影響
生活保護費の基準は５年ごとに見直すことになっており、来年度がその年。今年度はそのための検証が行われ、厚生労働省の社会保障審議会の議論を踏まえ年末までに大筋が決まる。前回見直しではデフレによる物価下落を反映させ、生活扶助費が３年間で平均６・５％カットされた。
今回も政府・与党は圧縮策を探っているが、基準が下がると、影響を受けるのは受給者だけではない。
例えば、毎年改定される労働者の最低賃金。法律で「生活保護との整合性に配慮する」とされており、保護基準を下回るのは望ましくない。今年度の全国平均の時給は８４８円にまで上がったが、保護基準が切り下げられれば最低賃金も伸び悩む可能性があり、低賃金で働くパート労働者らを直撃する。
また、住民税を非課税とする収入や、小中学生の学用品や給食費を行政が支援する「就学援助」の対象も、保護基準費が考慮される。非課税世帯でなくなると、介護保険料や医療費（高額療養費制度）の自己負担額がアップする。
中国残留邦人への支援金、ハンセン病療養所入所者家族への生活援護費なども変動する。消費の落ち込みなど間接的な影響も含めれば、低所得者層を中心に切り下げは多方面に波及するのだ。
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