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生活保護者の集いコミュの貧困と生活保護(31) 行路病院・ぐるぐる病院の「患者転がし」

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https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160512-OYTET50027/

生活保護の患者の入院を多数受け入れる民間病院があります。関西では「 行路こうろ 病院」と呼ばれてきました。行路は、正式用語ではありませんが、「ホームレス」と似た意味です。筆者が医療・福祉の関係者に聞いた結果を総合すると、その数は大阪府内と近隣の県で50か所近くにのぼります。関東にも同様の病院が相当数あり、「ぐるぐる病院」と近年、呼ばれています。


 なぜ「ぐるぐる」なのか。多数の入院患者が、病院の経営上の都合で1〜3か月前後ごとに次々に転院させられており、回り回って、元いた病院へ戻ることも珍しくないからです。

医学的必要性も、本人の意思も関係なく

 背景にあるのは診療報酬のしくみです。一般病棟では入院が長くなると、病院に入る1日あたりの入院料が下がるため、転院させるのです。受け入れる側の病院は、それで空きベッドを埋め、再び高くなった入院料を得て、入院時検査も一からやる。期間がたつと、また別の病院へ転院させる。

 治療上の必要とも、本人の意思とも関係なく行われる転院は「患者転がし」と言うべきでしょう。そこには、退院して生活する場所がないために病院にいる「社会的入院」が、かなり含まれています。

 そうした病院の中には、まじめに医療に取り組む病院もありますが、療養環境や医療内容の水準が低い病院も少なくありません。過去には、ひどい劣悪医療と巨額の不正をしていた病院グループや、必要のない検査や手術をしていた病院も発覚しました。

 以上のような実態は、何よりも患者の人権・人格を傷つけるものです。入院なので費用がかさみ、転院時にかかる移送費も医療扶助ですから、財政面にも影響しています。医療扶助をめぐる大問題のひとつです。

次から次へ、転院を繰り返す

 度重なる転院の実態はどういうものか。首都圏の弁護士や司法書士らでつくる「医療扶助・人権ネットワーク」が14年9月、厚生労働省と千葉県に改善を申し入れたケースを、まず紹介しましょう。

 2007年10月にギラン・バレー症候群という神経の病気を発症した男性(当時50歳代)は、東大病院に入院しました。一時は自力呼吸もできないほどでしたが、しだいに回復に向かい、身体障害の認定を経て、09年1月に千葉県流山市の病院に転院したあと、生活保護を申請して認められました。

 ところが10年2月に同県我孫子市の病院へ転院して以降、4年半の間に20か所以上も転院を繰り返したのです。千葉、東京のほか埼玉、群馬、栃木の病院も含まれ、同じ病院に戻ったことも何度かありました。病気の回復に必要なリハビリを受けられない病院も多かったとのことです。

 元いた社宅は引き払っており、「退院して居宅生活をしたい」と生活保護や障害福祉の担当課に連絡しても、「前例がない」「(居宅を)自分で探せば支援する」などと言われるだけで、担当者が病院へ面談に来ることも2年以上なかったそうです。ネットワークが要望書を出した後の14年10月、ようやく退院が実現し、居宅保護に移行しました。

もともと住居のない人だけでなく、入院中に住居を失って、広い意味でのホームレス状態になった人も「ぐるぐる」から脱出しにくいこと、福祉事務所からの敷金支給で居宅保護に移行することは制度的に可能なのに、実際の退院支援がろくに行われていないことが、問題点として浮かび上がります。

 こうした転院の実態は、会計検査院が14年3月にまとめた「 生活保護の実施状況について 」という報告や、総務省行政評価局が同年8月に公表した「 生活保護に関する実態調査結果報告書 」でも指摘されました。総務省の報告書は、東京都内の3か所の福祉事務所で見つかった具体例も挙げています。

足立区の事例 3年2か月間に、12病院間で34回の転院(12年度医療扶助費724万円)
江戸川区の事例 6年11か月間に、16病院間で43回の転院(12年度医療扶助費826万円)
新宿区の事例 2年3か月間に、12病院間で25回の転院 (12年度医療扶助費857万円)

4000人以上が「頻回転院」


 各方面から指摘を受けた厚労省はようやく、「頻回転院」という表現で、この問題の実態把握に乗り出し、生活保護を担当する自治体に対処を求めるようになりました。

 14年度分の実態調査の集計によると、90日間に居宅に戻ることなく2回以上続けて転院があった医療扶助の患者は、全国で4057人にのぼります( 16年3月3日の社会・援護局関係主管課長会議資料 のうち保護課分)。都道府県単位の数にして多い順に並べると、次の通りです。

大阪1287、福岡378、東京373、北海道263、愛知169、兵庫136、千葉127、神奈川113、愛媛92、鹿児島91、岡山87、埼玉84、高知80、京都68、熊本67、山口59

 圧倒的に多いのは大阪(うち大阪市1073人)で、大都市圏が中心ですが、地方でも頻回転院はけっこうあることがわかります。

 しかも、4057人のうち2720人(67%)は、病院から福祉事務所への書面連絡が転院よりあと。つまり、病院間で勝手に転院を済ませてからの事後報告か、転院直前の電話連絡でした。

 ただ、90日間に2回以上の転院という定義が「ぐるぐる状態」の患者数を本当に示しているかどうかはわかりません。通常の医療でも急性期からだと90日間に2回転院は珍しくないですし、他科受診のため一時的に転院した事例もカウントされます。逆に「ぐるぐる状態」で90日間に1回しか転院しないこともよくあるので、実際は4000人よりずっと多い可能性もあります。

入院したら、ほったらかしの福祉事務所

 厚労省は、14年8月20日の保護課長通知で、自治体に次のことを求めました。

<1>転院にあたっては医療機関から、転院が必要な理由や転院先を事前に福祉事務所へ連絡させる

<2>福祉事務所は、転院の必要性について嘱託医と協議しながら検討する

<3>福祉事務所は、レセプトを点検して、その医療機関で適切な医療が行われているか検討する

<4>医学的判断に疑義があるときは都道府県の本庁に助言を求める

<5>都道府県・政令市・中核市は、必要に応じて医療機関に個別指導を行う

<6>頻回転院患者の実態把握を行う

 総務省の調査に基づく勧告を踏まえたものですが、実はずっと昔、1973年の保護課長通知でも、病院からの事前連絡、福祉事務所による検討を求めていました。また、特別な必要があるときを除いて都道府県域をまたぐ転院は不適当だとしていました。それらが、ろくに守られていなかったのです。

 どうしてなのか。総務省による福祉事務所への聞き取りでは「2週間、1か月以内という短期間の転院もあり、訪問による病状把握や本人の意思確認ができない」「転院の必要性は主治医の判断で、福祉事務所にそれを覆すだけの医学的知見はない」「他の都道府県にある医療機関には指導権限が及ばない」といった釈明が出ていました。

 より本質的な背景を考えると、「入院中の患者は病院にまかせておけばよい」という感覚の福祉事務所、ケースワーカーが多いからでしょう。医療を受けさせているのは良いことだとみている。住まいを確保して退院を支援するのは手間がかかる。長期入院患者への訪問は原則6か月に1回でよいが、居宅保護に移れば月1回の家庭訪問が原則になる。要するに、入院していれば、ケースワーカーの労力がかからないからです(そのかわり費用はかさむ)。

 退院支援に力を入れないのは、ホームレス状態の人に対する差別的な見方もあるかもしれません。

 かつて大阪市では、住まいのない人が退院する場合、施設入所でなければ保護廃止という運用で、居宅保護への移行を認めていませんでした。居宅移行の敷金支給は98年からポツリポツリと始まり、04年からは積極的に支給するようになりました。その結果、同市のホームレス状態の入院患者数は、かなり減ってきたのです。そういう教訓を生かすべきでしょう(それでも全国的に見れば、大阪市の頻回転院患者数は、まだ群を抜いて多い)。

入院料の逓減制、平均在院日数のシバリ


 病院のほうはなぜ、転院させるのか。診療点数表に組み込まれた2種類のしくみが関係しています。いずれも、一般病棟全般について入院期間を短縮させるための経済的誘導です。

 ひとつは「入院基本料の逓減制」です。一般病棟では、入院日を含めて14日以内は加算が大きく、1日あたりの入院基本料が高いのですが、それを過ぎると下がり、30日を超えると、もう1段階下がります。そして90日を超えると原則として療養病棟と同様に、検査、画像診断、投薬、注射、処置などを含んだ包括点数(マルメ)になり、実質的にガクンと下がります。簡単に言うと、病院にとって入院初期の患者はもうかるけれど、長くいる患者はもうからないわけです。

 もうひとつは「平均在院日数のシバリ」です。入院基本料は、看護職員の配置密度に応じてランクが分かれており、配置密度の高いランクの病棟ほど入院基本料が高いのですが、ランクごとに平均在院日数の要件が定められています。もし一般病棟の患者全体を平均した在院日数がそれを上回ると、低いランクの入院料しか得られません。入院日数の長い患者がいると全体に影響するので、まずいのです。

 そういう事情なので、入院が長くなった患者の転院を図るのは、病院が不当な利益を得るためというよりも、経営上のやむをえない対応とみるべきかもしれません。転院の方針決定や転院先探しは、医師ではなく、事務長などの連絡で行われることが多いようです。

 ただし、以上のしくみは、ひとつの病院ごとの話で、転院すると患者の入院日数はリセットされて、また1日目から始まります。転院を受け入れた病院は、高い入院基本料からスタートできるのです。この部分は過剰なもうけでしょう。

一般の患者なら180日ルールが適用

 それなら、生活保護に限らず、保険診療の患者でも転院させられないか? 疑問はその通りです。現に急性期の病院では、一般の患者もたいてい2〜3週間で追い立てられ、あまり回復していない場合は次の行き先を探さないといけません。

 かつては、その後の入院先でも2〜3か月ごとに転院を求められる状況が、高齢者を含めた一般患者にもあり、多くの患者・家族が苦しんでいました。肺炎を起こしているのに、強引に転院させられたケースもありました。

 このため、02年度の診療報酬改定で「180日ルール」が導入されました。これは保険外併用療養の一種です。最初の入院から通算した一般病棟での入院日数が180日を超えると、入院基本料の85%しか保険で給付されず、15%は患者の自費負担になります(難病、がん、重症、小児を除く)。

 その結果、転院の繰り返しは減り、180日を超えて長く入院せざるをえない病状の患者の多くは、01年に区分が創設された療養病棟に入るようになりました。現在の療養病棟は、患者ごとの医療の必要度などによって入院基本料が異なりますが、長く入院しても点数が下がることはありません。

 生活保護の場合、医療扶助の給付対象は原則として保険のきく範囲なので、15%分は出ないことになりますが、実際には退院先がない場合、15%分も例外扱いで医療扶助から給付されます。それなら病院は100%の収入を得られるので、入院の長期化への歯止めにはなりません。

社会的入院をなくすことが重要

 「ぐるぐる転院」という異常な現象をなくすために、何をすればよいか。厚労省が通知した内容だけでは、さほど対策が進むように思えません。

 筆者がいちばん重要だと思うのは、社会的入院をなくす取り組みです。病状が重くないのに生活の場として漫然と入院させられている場合、福祉でやるべきことを高価な医療に肩代わりさせているわけです。退院先になる居宅や介護施設の確保に積極的に力を注ぐ必要があり、国は、そういう活動に財政的なサポートをするべきです。

 第2に、病状や医療内容のチェック。医学に素人のケースワーカーでは無理なので、医師、それが難しいときでも看護師を雇う。書類だけでなく、実地に病院へ出向いて患者の状態を確かめるのが効果的です。その費用を国が出しても、医療扶助費が減って見返りはあるでしょう。

 第3に、公的な病院を活用すること。病状が本当に病院の診断通りなのかを確認するため、検診命令という形で公的病院へ一時的に転院させることも有効でしょう。ここで言うのは「公立」だけではありません。たとえば済生会は、もともと貧困者医療のために明治天皇の資金拠出で作られた組織です。

 第4に、経済的誘導の方法の見直しです。病院に対して「いったん入院させたら、ずっと診ろ」と倫理面から強いるのは無理があるので、基本は診療点数などによる経済的誘導が必要でしょう。通算入院日数を考慮しつつ、転院後の入院基本料がはね上がらない工夫をできないか。また、質の低すぎる病院は 淘汰とうた されるべきですが、入院するしかない病状の人たちのベッドは必要なので、一般病棟から療養病棟への転換をある程度、認めてはどうでしょうか。

原昌平(はら・しょうへい)
読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保 障を中心に取材。精神保健福祉士。2014年度から大阪府立大学大学院に在籍(社会福祉学専攻)。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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