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小説書き組合コミュの優しい君のセレナート。

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放課後の誰もいないPC室で、俺はあるサイトを見ていた。

「うん、良い感じじゃないか」

パソコンの画面に映し出された数値を見て顔の頬が緩んでしまう。

画面上にはある動画が流れており、その動画の上には視聴者のコメントが右から左へと流れていく。

 それらの殆どは動画の事を賞賛する物で思わずニヤケてしまう。

──おぉ、いかんいかん。

 ギュッと自分の頬をつねって自我を保つ。

 俺が見ているこのサイトは誰でも動画を投稿出来るというサイトで、動画にリアルタイムでコメントを付けられる事を売りに、巷では大人気の動画投稿サイトである。

 小さい頃から歌うことが好きで、友人などとカラオケに行くと「お前、マジで上手いんだから動画とか作ってみたら?」などと言われる程だ。

 もちろん「そんな恥ずかしい事が出来る訳ない」と友人たちに言っていたのだが、実は随分前から投稿していたりする……。

 最初の内はあまり良い評価を得る事が出来なかったが、ここ最近は再生数もうなぎ登りで、この前の動画は総合ランキングにも載った程だ。

 もちろん、こんな事をしているなんて身内には言えないので、誰一人として知る物はいない。

「しっかし、今回伸びるなぁ……、もしかしたら上位に入るかも」

 再び顔が緩もうとした、その時。

「何してるの? 勇くん」

「おうああああああああああああああああ!!」

 背後からの不意打ちに俺は叫び声を上げてAlt+F4のボタンを押した。
 そして、画面を隠すように立ち上がり後ろに振り向くとそこには……。

「アレ? 誰もいない……」

「ここだよぉ……」

「ここ?」

 目線を下に下げると、そこには尻餅を突いた知り合いがいた。

「……って、なんだ由利か」

「いきなり大声出さないでよぉ……、ビックリしちゃったよ」

 愛野由利。幼稚園からずっと一緒にいる幼馴染だ。

 性格は良くいえば天真爛漫。悪く言えばトロい。

 ほわほわしていていつも周りに迷惑を掛けているある種のトラブルメイカーだ。

 しかし、いつも柔らかな笑顔を浮かべているせいか、誰も彼女を責めず、クラスの癒し系として一目置かれている。

「ったく、ほら。大丈夫か?」

 そんな奴と幼馴染なばかりに、俺はこいつの親から「由利の事、お願いね」とお守りをさせられる始末だ。

「うん。ありがとう。勇くん」

 顔に満面の笑みを浮かべて俺の手を取ると、ゆっくりと起き上がる由利。

 すると、由利のポケットから黒い何かに巻かれた物が零れ落ちた。

「なんか落ちたぞ?」

 俺が拾おうとすると、由利はいつもの数倍の速さでそれを掠め取りポケットの中にしまった。

「こっ……、これは何でもないの!? 別に勇くんが見たってこれっぽっちも面白い物じゃないから気にしなくて良いの!!」

「えっ……、あ、はい」

 まるで何か隠してますと言わんばかりの反応に少々驚いてしまった。

「ところで、いま」

「ところで、今何してたの? パソコンの画面見て凄く嬉しそうだったけど」

「あっ、え、べっ、別に!?」

 先程の事を思い出して手に嫌な汗が滲んでくる。

「そっ……、それよりもどうしてお前がここにいるんだよ?」

「あたしは実行委員会の会議が終わった帰りだよ? まだ勇くんの靴があったから一緒に帰ろうと思って」

 どうやら由利の口ぶりだと俺が何を見ていたかはわかっていないようだ。

「うし、なら帰ろうぜ。時間も遅いしさ」

「うん!」

 そうして、俺と由利は校舎を後にした。




 一緒に帰る。と言っても、別に会話をする事はない。

俺が先頭を歩いて由利がその後ろにくっついてくるだけだ。

 普通の友達なら何の会話もないと空気が重たく感じるはずなのだが、由利と一緒にいる時はそれを感じる事も無く、むしろ心地良さすら感じる程だ。

 由利は文化祭の実行委員会という事もあり最近は一緒に帰る事も少なくなったが、それでも帰れる時は一緒に帰るようにしていた。

 チラリと後ろを見ると、由利は耳にイヤホンを付けて、幸せそうに鼻歌を歌いながら河の方に視線を向けていた。

 夕陽で顔に赤みがさし、肩で整えられた栗色の毛が赤く染まっている。

──歌なんか歌っちゃってまぁ。

 イヤホンを着けているせいでわからないのだろうが、静かに歌っているようでも由利の声量は大きめで少し離れた俺にも聞こえるぐらいだ。

──なるほど、先程隠していた物は音楽プレーヤーだったか。どうりで慌てる訳だ。

 うちの学校は校則が厳しく、今年まで携帯すら持ち込み禁止だった。

 ゲーム機や音楽プレーヤなどもっての外で、それらが先生に見つかればその場で没収されてしまうのだ。

 しかし、機械音痴の由利がプレーヤーを持っているなんて珍しい。流行りの曲なんかも知らないのに何故こんな物を持っているんだろうか。

 それが気になり、俺は彼女の大きすぎる歌声に耳を傾けた。

──アレ、この曲……。

 それは何処か聞き覚えのある曲だった。

──えっと……、なんだっけコレ!!

 首元まで出かかっているのに曲名が未だ出ない。

 そんなむず痒さから、由利のイヤホンを奪って聞いてやろうかと思ったが、彼女の顔を見てすぐに止めた。

眼を閉じて歌う由利の笑顔がすごく綺麗だったから。

「……反則だってーの」

 せっかく気持よく歌っているのに邪魔するのは無粋という物だ。

──そういえば、俺が歌を好きになったのって……。

 少しの間、歌姫の横顔を眺めて、再び前を向いて歩き出す。

 暮れなずむ空を見上げるともう一番星が輝き、由利の優しい歌声がそれに綺麗に溶け込んでいた。


──星に祈ろう、君の笑顔を。月に願おう、君の幸せを。



 あぁ、ようやく思い出した。





***

お気軽トピでは文字制限に引っ掛かるのでこのような形を取らせていただきました。


もし感想や批評などありましたら気軽にお願いします^^

コメント(8)

由利の歌で「俺」は歌を好きになったんだ、ってことを思いだしたんですよね?
そういう結論へ持っていく途中経路がとても新鮮で素敵です。
夕方暗くなってから下校して家路につくまでの時間。
それって、大人には経験できない、大切な時間だと思います。
>へくとぱすかるさん
ご感想ありがとうございます!!

ちなみに最後の一文には二重の意味を込めてあります。

これは裏設定なんですが、由利は随分前から勇が歌を公開している事を知り、兄に頼んで勇の歌をプレーヤーに入れて聞いているのです。

んで、由利が歌っていた曲というのは、他でもない勇が一番最初に投稿した歌、という設定になっております。


この時、勇が思い出したのは「歌を好きになった理由」と「由利が歌っていた曲」の両方となる訳です。

その後、勇は文化祭で歌わされるハメになる、など妄想していると凄く楽しいですね!
動画サイトの説明が詳細過ぎて、何故かそこに笑いました。我ながら変な感性だとは思います。


投稿した動画の内容を、おそらくわざとぼかしたのでしょうが、ぼかし過ぎてラストまで『?』ってなります。わかりやすすぎて謎ではないのですが、うーん。主語を省いちゃってる感じですかね。わかるんだけど、わかりにくいっていう。




由利の性格の説明はいらないと思います。この話からはそこまでとろいって印象はないです。いる説明といらない説明って、見分けは難しいですが重要だと思います。


タイトルは歌のタイトルでもあるんですかね。なんとなくそう思いました。


全体としては、綺麗な文章だと思います。重くないし、丁寧に書こうってのがわかるので、好きです。まだまだ練れると思います。また書いたら見せてくださいな。
ああ、なるほど!
裏設定が読みとれませんでした。

そこが微妙ですよね。ラストから2行目がその歌詞だとしたら、
冒頭のPC室シーンのどこかに、その歌詞をあらかじめ書き込んでおく、
という手法を使えばいかがでしょうか?
ほのぼのする内容ですね。個人的には結構好きです。

ちょっと勘違いしてましたが、別に男の子の自作の歌という訳では無いんですね?
短い行数なのでベタに自作でも良かったんじゃないかなあ?と思ってみたり。

後、物凄く細かい事ですが、発音表記的にはトラブルメーカーでは?
>ミルプクティポリン
まずはご感想ありがとうございます!

動画投稿サイトはニコニコ動画を起用してみましたw

シャープに描くならyoutubeの方が良いかとも思ったんですが、この年代なら前者の方が親しみやすいでしょうし。

>動画内容のぼかし
これは自分のミスですね・・・

実は色々と構成を考えて最初は「実は由利にバレていた」という事で書き、その時動画の描写について書こうと思ったんですが、今の形に落ち着いてしまいそこのケアをし忘れてました。


>由利の性格の説明はいらないと思います
実はこの作品はあのコミュの三題噺から生まれた物でして、その中の一つに「トロい」というのがあり使わせていただきました。

仮にトロいとするなら、もうちょいそういう所を見せるシーンを入れるべきでしたね。



タイトルに関してはミルプさんの言う通りです。

しかし、付けた後で驚いたのですが、セレナードは親しい友人や恋人に向けて演奏される音楽を指すのですが、調べてみたら「夕方しばしば屋外」という事がわかりました。

単なる偶然でしょうが、こんな偶然が僕は大好きです!



最後になりますが、綺麗な文章と褒めていただきありがとうございましたw

自分の目指す物にしっかり近づけている気がしてすごく励みになります。

また作りましたら公開させていただきますので、その時は何卒よろしくお願いします!
>テラポンさん
ご感想ありがとうございますっ!

ほのぼの系、かつ青春物は読むのも好きですが、書くのも大好きですw


この歌に関しては自作ではないですね。

自作にするとなると作詞、作曲なども手がけないといけないので主人公が超多趣味な人間になってしまいますのでw

歌う事が好きなので、基本歌えれば何でもおkという事です←

これが自作の歌ならば、動画投稿サイトよりも自分のHPという括りにした方が良さそうですね、色々と。


あと、ご指摘をいただいた「トラブルメイカー」についてですが、これは自分のミスですねorz

トラブルメイカー……、相川七瀬さんの曲が出てくるなぁ。


ご指摘、ありがとうございました!
>へくとぱすかるさん
歌詞の一部となると色々と矛盾が生まれますが、最初に投稿した曲の事を多少仄めかすような描写を入れておけば良かったですね。

あと、裏設定についてはこれは完全に自分の気持ち的な物なのでわからずとも仕方ないと思いますw

でも、これがあるとないとで由利がどれだけ勇の事を見ているかというのが変わりますからね。

そこら辺は読者の想像力におまかせという所ですw

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